アビドス自治区へようこそ、先生   作:くらーげん

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Tips:機械獣の各部品はアビドス内で様々な用途に使用される。銃が使えない為、流通数は少なく、自治区外ではほとんど目に触れることはないが、非正規のルートでは優秀な素材として高値で取引されることが多い。


4話 歓迎しよう、盛大にな

『さすがノノミ先輩……。クラブ型、クロコダイル型、全て沈黙しました! 周辺に敵影無し、お疲れさまです!』 

「ん、一杯はぎとる、臨時収入。ほくほく」

「先生、大丈夫でしたか~?」

”傷一つないよ。いつもこんなことを?”

「え?まあ、大体いつもそうですねー?」

 

 あっけらかんとそう言いながら機械獣へ歩いていくノノミ達。

 片手で担ぎ上げた巨大な弓は、今まで見たどんな武器よりも異彩を放ち、先生はついそちらを見てしまう。

 そんな姿には目もくれず、三人はワイワイと機械獣をばらし始めた。

 

「さすがに三体全部ジープには積めないわよね……。あ、カニのカッターは持っていきましょ! なんにでも使えるし!」

「今足りないものってなんだっけ……」

「アクチュエーターは色々使うから持っていく。ジープの屋根に括り付ければもう少し乗せられる?」

『タイヤがハマっちゃいますから、ほどほどにお願いしますね?』

「使うものだけ取ったら、一か所にまとめて座標は理事さんに売っちゃいましょうか♡ 資材の足しになるでしょうし」

 

 三人が機能停止確認ついでの解体に精を出す中、先生はドローンによる支援を終えて後ろから走ってきたアヤネと合流した。

 救急鞄を開けててきぱきと手当をするアヤネの手つきは、明らかに昨日今日で学んだものではない慣れを感じさせる。

 先生も最低限の講習は受けているため対応はできるが、アヤネのそれよりかはゆっくりとしたものだった。

 

「ありがとうございます先生、一人だと時間がかかってしまって」

”気にしないで、アヤネは手際がいいね”

「慣れてますから。まあ、色んな意味で……」

「うわああああん!! リーダー! リーダー!」

「あんたたち……。良かった、無事で……」

「リーダーこそ! アタシらを助けるために囮になるなんて、もう勘弁してくださいよぉ!」

 

 揃いのヘルメットを被った生徒たちが、手当てを受けて一息つけた一人に駆け寄る。

 目立った傷こそないものの、掠り傷は多く、アビドスの環境的に放っておけば感染症などの危険に陥る可能性もあるため迅速な対処が必要とされていた。

 消毒し、キズにガーゼを当てて包帯を巻く。絆創膏よりも包帯の方がここでは有用だ。

 

「良かったです、間に合って……。この後体調が悪くなったりしたらすぐ病院に行ってくださいね、命に関わるかもしれませんから」

「ああ、そうするよ。あんた達アビドス生徒会がすぐに動いてくれたおかげだ、ほんっとうにありあとやした!」

「気にしないでよ、こんなとこなんだから持ちつ持たれつよ。それよりほら、これとこれ持っていって」

 

 いつの間にか近くに来ていたセリカが、手で運べるサイズのいくつかのパーツをリーダーの少女に渡す。

 装甲板やフレームの一部だ。アビドスでは珍しくないものだが、彼女たちにとっては貴重な収入源となるだろう。

 リーダーは驚いたように受け取ると、

 

「これ……。あのバケモンのパーツ? いいのか、これ高いんじゃ……」

「うちはそのくらい大したことないから。どうせすぐ回収できるから、足しにして」

「ううう……。ありがとう、ありがとう……! この恩は忘れねえ、バシャバシャヘルメット団の総長が約束するよ……!」

「そういう名前だったんだ……」

「皆さん、今日はもう日も暮れ始めますし、良かったらうちの教室で一晩過ごしませんか? 先生もご一緒にいかがでしょう?」

「い、いいのかい!? 助けてもらって、資材を譲ってもらって、宿まで……。かたじけねえ……!」

「先生も今日は……?♣」

”うん、大丈夫。書類は……まあ何とかなるよ”

 きっと明日の自分がどうにかするだろう。そんな願望を胸に先生が頷く。

「はーい♡ それじゃあ、突発パジャマパーティーの買い出し、ホシノ先輩とユメ先輩にお願いできないか、連絡してみます♣」

 

 ノノミがスマホを片手に連絡を始めたそばで、先生はふと思い出したようにアヤネを呼んだ。

 

”アヤネ、ちょっといいかな”

「はい? 何かありました、先生?」

”その、とりあえずこの機械獣? について教えてほしいんだけど……”

「……言ってませんでした?」

”うん、とても驚いた”

 

 ああ、とアヤネが唸った。

 

「すみませんでした、先生。私たちにとっては当たり前だったので説明を忘れてました……。アビドスにとっての大きな問題、というわけではなかったので……」

”問題じゃない?”

「やろうと思えば倒せますし、PMCの皆さんとも連携できるので、飛び切りの脅威というわけではないんです。どちらかと言うと沼の拡張の方が問題なので……」

”ああ、そういう……”

「もちろん、決して放置していい問題ではないのですが……。あの機械獣はオアシス沼に生息する正体不明の機械たちです。便宜上機械獣と呼んでます」

”倒すところは見せてもらったけど、あれがいるのは当たり前なのかな”

「はい、私達が生まれる前からいますから。それに、沼に近づかなければ襲ってこないので普通に生活する分にはそんなに困らないんです」

”なるほど……。わかったよ、聞かせてくれてありがとう”

「いえいえ、お伝えするのをすっかり忘れててごめんなさい」

 

 ぺこりと謝るアヤネに、先生も頭を振って理解を示す。

 正直なところまだ心臓がバクバクしている先生だったが、それを表に出さない程度には取り繕う度胸があった。というか生徒に危険がなければ目を輝かせていた。

 

 

 

『……ということで、できれば買い出しをお願いしたいんですが、大丈夫ですか?♦』

「りょーかい~。いろいろ買っていくねー。皆お疲れさまー」

「うへー、買い出しですってユメ先輩」

 

 ノノミからの連絡に返答したホシノがスマホをしまいながらぼやく。

 合羽姿でスリングと盾を持って歩く二人の姿は、知らぬ相手からは異様に見えるだろう。

 しかしアビドスに住まう者にとっては慣れ親しんだ姿であり、ほっとするような光景でもあった。

 

「先輩遣いの荒い後輩ちゃんたちだぁ……。まあいっか、商店街で買って帰ろー。何がいいかな、ワニ肉?」

「ワニ肉から離れましょう、もう少し良いものにしましょうよ……。お客さんもいるらしいですし、牛はどうですか」

「あっはっはっは! ホシノちゃんったら冗談が上手だなあ! 私のお財布がそんなに詰まってるわけないでしょ」

 

 牛は高い。

 アビドスで育てるには環境が悪く、限られた企業がコストをかけて育てているのは高級品となる。

 かと言って輸入するのもコストがかさむ。結果として牛は高級肉として扱われる風潮が出来上がっていた。

 

「ですよね。……じゃあワニ肉にしましょうか。ただし狩猟の方で」

「……え、ホシノちゃん本気? 私たち道路の点検と家屋の補修を一日中こなしてきた後なんだよ?」

「……?」

「あっだめだ。この顔は本気で分かってない顔だ。ホシノちゃん、私そんなに体力ないんだよ!?」

「いえ、先輩は狩った獲物を捌いてもらえれば。得意ですよね」

 

 何を言っているんだろうというような顔のホシノに、年上の同級生は悔しそうな顔をしながら、

 

「……えーい、それならやってやろーじゃないか! 何処で獲るの!」

「いつもワニが溜まってるところがあるのでそこにしましょう。やっぱり鍋ですかね」

「えー鍋ー? それなら屋上で防水シート張ってバーベキューしようよ! 前やったみたいに!」

「あれ準備が面倒くさいんですけど……。あ、でも人手はいるのか……」

「そうそう! それならちょっとくらい牛でもいいよ! 私バーベキューしたい!」

「うーん……わかりました。じゃあ牛と、野菜も買っていきましょう。レンコンとかは家で作ってるやつがありましたよね」

「野菜、普通の奴は自治区外からの輸入だから高いんだよねー。まあでもたまの贅沢ってことで! よーし、ワニを沢山獲って、バーベキューするぞー! おー!」

「……」

 

 ユメがむっとした。乗ってこない年下の同級生に、許してなるものかと決意を新たに声を張り上げる。

 

「おおー!!!」

「…………?」

「お・お・おーーー!!!!」

「お、おー……」

 

 で。

 

「ただいま皆―、お肉獲ってきたよ~」

「しばらく解体はこりごりだよぉ、とほほー……」

 

 生徒会室に帰ってきた二人の両手には、装備のほかにビニール袋が五つほどぶら下がっていた。

 さぞ重いだろうそれをどさっとテーブルに置くと、ユメがこれ見よがしに首を回してくたびれた様子をして見せる。

 

「お帰りなさい先輩! ……とってきた?」

「この独特の生臭さ……。ワニ、それも生」

「ちょっと待ってよ先輩、そのビニールの中全部ワニ肉!? どんだけとってきたの!?」

 

 おっしゃる通りワニ肉である。

 一応底の方にちょこっとパックの牛肉もあるが、ほとんどは市街地に迷い込んできたワニの末路だった。アビドスの食物連鎖上、ワニは被捕食者となりがちである。

 

「私に言わないでよセリカちゃーん……! ホシノちゃんが「まだいけますね……」とか言いながらガンガン獲るんだもん!」

「皆たくさん食べるでしょー? 今日はお客さんもいるしね~」

「会場の設営と野菜の下準備は出来てます。時間もいい具合ですし始めちゃいましょうか」

「ば、バーベキュー……! いいのか、あたしたち、助けてもらった上に、こんな贅沢……!」

”私もご相伴に預かっちゃっていいのかな”

「いいのいいの! ほらほら、移動するよー」

 

 ユメの誘導でぞろぞろと屋上に上がっていくと、天幕のように防水シートが張られ、その下にはバーベキューコンロと人数分の椅子、大きなテーブルが準備されていた。

 テーブルの上には下準備を済ませた野菜類が鎮座し、宴の開催を今か今かと待ちわびている。

 

「皆、飲み物はいきわたりましたかー?♡」

「よーし、それじゃあこの出会いと、アビドスの止まない雨に!」

 

──かんぱーい!

 

 

 

 

『──お疲れ様です、先生! アビドス高校の生徒さんたちはどうでしたか?』

”みんないい子たちだよ。というか、凄くたくましかった”

『そうですよね……! ワニ肉、私も食べて見たかったなあ』

”いつか、アロナも一緒に食べられると良いね”

『はい! それで先生、やっぱりここにしばらく掛かりきりになりそうですか?』

”そうだね。せめて、今の状況が改善できるのか、色々調べたいな”

『わかりました! 私にできることがあれば、何でも言ってくださいね! なんたって私は、スーパーAIアロナちゃんですから!』

 

 

「……先生、なんか一人で喋ってない?」

「先生もお疲れなんだよ。そっとしておいてあげよう、セリカちゃん」

「でもなんか……気味悪いわよ」

「失礼ですよー、セリカちゃん♦」




掲示板の方とは一部会話を弄っていたり、設定の整合性のために改変が加えられたりしています。
改めて確認するとこのキャラはどこにいるのか、何をしているのかがわからない、わかり辛いという状況が散見されたためです。
大筋での変更はありませんのでご安心ください。
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