アビドス自治区へようこそ、先生   作:くらーげん

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Tips:タイトルのような異名がホシノについたことは一度もない。



(メッセージでデイリーランキングの順位を知らせてくださった方、この場を借りてお礼申し上げます。現在は落ちていますが、11位に入っていました。ありがとうございます。今後ともゆるりと続けていきますので、良ければお付き合いください)


6話 アビドスの桃色の風

 不良生徒たちを主に物理の力で黙らせたアヤネとセリカは、拾った武器をその辺りに放り投げて戻ってきた。

 

”二人とも、怪我はない?”

「平気よこれくらい。向こうも、まあしばらく痛むくらいでしょ」

「ありがとうございます、先生。私も平気です!」

「さすが私たちの後輩! つよーい!」

「つよーいじゃないわよユメ先輩! ホシノ先輩も適当な号令掛けないで!」

「うへえ、ごめんごめん。でも石投げ始めた時は立派にアビドス生だなあって感慨深くなっちゃった」

「うちは代々、銃以外の戦闘方法ばっかり上手になりますから~♣」

「アヤネもナイススイングだった。やっぱりアヤネは近接握ってる時が一番輝く」

「あの、私オペレーターなんですけど!」

「あ、ああ、あの! 助けて頂いてありがとうございますあの人たち大丈夫でしょうか!?」

「へーきへーき、あのくらいなら大したことないよ。それより、よかったらなんでこんなところにいるのか事情を聴いてもいいかな?」

”そう言えば、名前も聞いてなかったね。私はシャーレの先生、こっちはアビドス高校の皆だよ”

「あ、助けていただいたのに名前も言っていませんでした! 阿慈谷ヒフミと言います!」

 

 ぺこり、とヒフミが頭を下げ、それからおもむろにぬいぐるみを取り出した。

 ぶさい、きみょ、個性的な鳥のぬいぐるみと目が合ったような気がして、先生は少しだけ身を引く。

 

「これです! この限定品がブラックマーケットに流れたと聞いてですね!」

「……このぬいぐるみ一つのために、ブラックマーケットにねえ……」

「……この子、相当変わってる」

「シロコ先輩には言われたくないと思うわ」

「ええ!? か、可愛いですよねペロロ様!?」

「わかります、わかりますよ~! 私もモモフレンズ大好きです! 私はミスター・ニコライが……」

「わかります!!」

 

 はしっ、とノノミの手を取って強く頷くヒフミ。

 なお、モモフレンズのグッズはアビドス自治区内ではアンテナショップが市街地に一つあるだけであり、その品質管理には非常に気を使っている。

なにせあの湿度だ。うっかりするとすぐさまカビていくので、厳格な管理が必要だった。

 

「わかっちゃう人がこっちにもいたわね……」

「でも、意外と人気らしいですよ?」

「ひぃん、若い子のトレンドはわかんないよぉ……」

「ユメ先輩、実質成人ですもんね」

「ひぃん……っ!!」

 

 泣き出しそうになるユメ。今の自分は実質コスプレなのでは、と制服の存在意義を疑った夜もある彼女にはあまりに鋭い一撃だった。

 なにせ彼女は現在二十歳。身体的にはまだ着られると言っても、精神的には少々気後れするものがあった。

 

「あ、あの、ところで皆さんはどうしてここに? 私と同じで探し物ですか?」

「新しい車を買いに来たんです、前のはそろそろ限界が近づいてまして……」

「はー、車を……。……あの、もしかして新しい車って、あれじゃ……」

「え?」

 

「この車、あいつらのじゃねーか!!」

「ぶっ壊してやろうぜぇ!!」

「ぎゃははははは!!!」

 

 買ったばかりの車に、何人もの不良たちが群がっていた。

 手にはそれぞれの武器が握られ、中にはその辺りのコンクリートの破片を握っている者もいる。

 

「は、はあああああ!? 何してんのあいつら!? っていうかどこから来たのあいつら!?」

「あ、さっきぼこぼこにした不良たちが、スマホで仲間を集めたみたいです! すみません、ドローンカメラを見落としてました!」

「私たちの新車が……。新しい女が……」

「シロコちゃん、その言い方はちょっとどうかと……♠」

「と、とにかく応戦を! 車がまだ修理可能なうちに取り戻さないといけません! 皆さん、戦闘準備を……」

 

「──ホシノちゃん」

 

 今までにない、ユメの声がした。

 全員が一斉にそちらを見ると、

 

「はい」

 

 ホシノがあくまでも冷静に返答する。

 その声の先には、冷徹な瞳で敵を見るアビドスの長の姿があった。

 

「ゴー」

 

 瞬間、桜色の風が大通りを吹き荒れた。

 誰もがそう見まごうほどの加速が、まず初めにあって。

 ボクサーがめいっぱいサンドバッグを殴りつけた時のような、鈍く突き抜ける音が一度、二度、響く。

 それが開戦の合図になった。

 

「なっ、誰──ッ!!」

「おっそ」

 

 敵は十人以上。初撃、続けざま二発。セミオートショットガンの超至近距離からの射撃によって二人が落ちる。

 振り返りざまに声を上げようとした相手の顎を、持ち替えた愛銃のストックでフルスイングすると、その相手を背に抱えたまま後ろ向きに直進。

 咄嗟に撃とうとした者たちは、意識を失った仲間を盾にされとっさの判断がとれないまま、ホシノの接近を許すことになった。

 

「か、か、かこめぇーー!!!!」

 

 何とか頭を切り替えられた者の一声で、車に攻撃を加えていた仲間たちがホシノの周囲に散らばった。

 それを甘んじて眺めながら、こちらに真っ先に銃を向けた相手へと、『盾』を蹴り飛ばす。

 慌ててそれを受け止めたことで攻撃の手が遅れる。それを契機に、それとは別の相手へ接近、射撃。

 倒れることを確認しないまま、その横の相手の顔面に拳を叩きこみ、ついでストックで側頭部を小突く。

 ぐらついた相手の後ろに回り、射線を切る。また撃とうとした相手が逡巡し、そこ目掛けて遮蔽物にした体の隙間にねじ込んだ銃口が火を噴いた。

 撃つ、殴る、引っ掛けて倒す、蹴り飛ばす、盾にする。

 囲まれた状況だからこそ、決して止まらない小さな体躯は脅威だった。

 撃たなければと銃を向けても、そこにいるのは仲間の体。囲んでいるのは、優位なのは自分たちのはずなのに、瞬く間に数の有利はすり減らされていく。

 普段の銃撃戦ではそう見ることのない、全力の殴打、ぐったりと動かない仲間。それは原始的な恐怖を呼び覚ますのに十分すぎる衝撃だった。

 

「──お前で最後だ」

 

 十人以上はいたはずの仲間たちは、気づけば全員地面に倒れ伏していた。

 こんなはずじゃ。ただ報復に来ただけなのに。助けてください。

 言い訳も命乞いも、ただもごもごと口の中に消えるだけで。

 桃色髪の死神が、ストックを振りかぶる姿をただ見ていることしかできなかった。

 

 

 

「うへー、車は多少へこんだくらいで済んだみたいだけど……。一応、点検してもらわないとダメかも」

 

 不良たちを改めてぼこぼこのぼこにした後。ヒフミに改めてそれぞれ名乗り、一行は車の点検を進めていた。

 

「……わかってたことだけど、ホシノ先輩強すぎじゃない?」

「ん、ホシノ先輩は最強」

「あの、ユメ先輩のゴーサインが出たの初めて見たんですけど……」

「はーい、ユメ先輩もおこから戻ってきてくださいねー♡」

「……ひぃん……。新車が……。ジープちゃんがぁ……」

「いっそ機械獣の装甲板とかゴテゴテにしちゃうのはどう?」

「じゃあいい感じのを狩ってこないとですね♦」

「きかい、じゅう……? あの、皆さん何の話を……。というか不良の皆さんが凄い状態になってるんですが……!」

 

 話の内容についていけていないヒフミがふと気づく。

 視線の先には、ユメがしゃがみこんで何かを描いていた。

 

「……あれ、ユメ先輩? なにしてるの?」

「油性ペンでお仕置き!」

「ああ、額にバナナとりが量産されていく……」

 

 不良たちの額には、バナナの皮をむいた姿のトリのような謎の生き物が描かれていた。

 ユメの力作はそれぞれの額にどんどん増産されていく。

 

「わあ! すっごく可愛いですね! バナナとり? って言うんですか?」

「ヒフミちゃんも書いちゃえ書いちゃえ! ほら、もう一本ペンあるよ!」

「はい! ありがとうございます! ……じゃなくて! ここで騒ぎを大きくすると、マーケットガードが来てしまいます! 一旦車と一緒にどこかに移動した方が……」

「うへー、それはちょっと面倒な相手っぽいね。りょーかい、皆移動しよっか。ほらユメ先輩、落書きしてないで」

「この子で最後、この子で最後だから! ……よし! これから君たちはバナナとり小隊だよ、頑張ってね!」

「ユメ、置いてくよ」

「あ、まってよー!!」

 

 

 

 装甲のへこんだジープを乗り回して数十分。

 ヒフミの助言でマーケットガードの巡回をすり抜けつつ、一行は多くの店が軒を連ねるところに迷い込んでいた。

 

「ふぅ……。とりあえずここまでくれば大丈夫だと思います。ごめんなさい、慌ただしくしてしまって……」

「ううん、困ったときはお互い様だからね! ……ところで、ここどこ?」

「こ、ここはブラックマーケットの商店街の一つっすね……。けほっ」

 

 咳をしたのは、一緒にジープに積み込まれるように乗り込んだ不良だった。

 最初に突っかかってきてボコボコにされ、店の案内をさせられた彼女である。

 先生はそっとのど飴を彼女に手渡し、彼女は小さく会釈するように礼を返した。

 

「あんた達もついてきちゃったのね……。別に、ずっとついてこなくてもいいわよ?」

「い、いえ、きちんと送り出すまではご案内させてもらうっす!! うっす!」

「セリカ、ビビられてる」

「私じゃないでしょ!?」

 

 具体的に誰にビビっているかと言えば全員だ。

 特にアヤネとホシノに対してびくついている。誰だって鉄の棍棒でぶん殴られたり、ぶん殴られて吹き飛ぶ姿を見ていたら怖くもなる。

 強い相手には下手に出る処世術を遺憾なく発揮した不良とともに商店街に立ち入ると、辺りは雑多な賑やかさであふれかえっていた。

 さてどこから見て回ろうかと辺りを見渡していると、彼女たちに話しかけてくる声が一つ。

 

「あれ、アビドスの……?」

「……? あ、カイザーの社員さんじゃないですか!」

「カイザーの? ……ああー! PMCの社員のおじさん!」

 

 向かいからやってきたのは、カイザーPMCのアンドロイドだった。

 肩からライフルを下げてふらふらと歩く姿は、一見すれば辺りを巡回している兵士のように見えなくもない。

 のだが、なんとなく気だるげな雰囲気が周囲からやや浮いているように見せていた。

 

「お、おじさんはやめてくれ……。まだそんなに年食ってないから……。君ら、なんでここに?」

「新しいジープの調達に来たんだよー。まあ、不良にボコボコにされちゃったけど……」

「……その後ろのやつか。随分やられたなあ、やり返したのか?」

「ホシノ先輩がこのジープの十倍くらいぼこぼこにしたわ」

「……oh」

「ん、それでおじさんはどうしてここにいるの?」

「だからおじさんじゃ……まあいいや。休みだからちょっとぶらつきに来ただけだよ。ここなら銃も使えるし……。あ、そちらが例の?」

”どうも、シャーレの先生です。よろしくお願いしますね”

「ああいえいえ、こちらこそ。アビドスの皆さんにはいつもお世話になっております」

 

 どうもどうも、と頭を下げ合う大人たち。

 それからアンドロイドの彼はユメの方へ視線を向け、

 

「そう言えば、資材の提供ありがとうな。おかげでうちも備品の補充とかできて助かったわ」

「気にしないで、持ちつ持たれつだもんね! それにしても、アレに頼らないといけないほど大変なの?」

「まーなぁ……。理事がちょいちょい愚痴るけど、最近は頻度が増えたっていうか……。上から早く成果出せってせっつかれてるっぽいのよ」

「大人は大変なのねー」

「そう、大人は大変なの。まあ君らは気にすんな、ただでさえ毎日大変なんだしな」

「気遣いの出来る大人はモテる」

「え? そう? 俺モテるかな?」

「おじさんとは言ってない」

「……君、結構残酷なこと言うな」

「し、シロコ先輩……!」

「ふふ、まあいいさ。君らも年食ってから思い知るんだ、出会いっていうのは自分から探しに行かなきゃ見つからないもんだってな……!」

 

 シロコの歯に衣着せぬ物言いに、アンドロイドは悲し気な雰囲気を醸し出していた。

 恨めしそうにアイカメラが光るも、シロコの追撃は止まらない。

 

「美少女は引く手あまただよ」

「どーせ俺は十把一絡げの汎用ヘッドパーツだよぉぉぉ!!」

 

 アイカメラからレンズ洗浄液を器用に垂らしつつ、叫びながら走り去っていくアンドロイド。

 彼は悲しみを抱え商店街の闇に消えていった。ちなみに数日中には仕事場でまた出くわすだろう。その程度の距離感である。

 

「あ、走っていった」

「……シロコちゃん、ちょっとお説教ね」

「……!! なんで……!?」

「そこでなんで、って言葉が出ちゃうからお説教なんですよ♠」

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