アビドス自治区へようこそ、先生   作:くらーげん

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Tips:初代ジープをブラックマーケットに置き去りにしていたことに、校正中に気づいたらしい


7話 貧乏人、自治区へ

「シロコちゃんがお説教されてる間に、近くのお店で軽く車の点検してもらってきたよー」

「あ、どうでした先輩。中までダメージ入ってました?」

「ううん、外装だけだったからすぐ直してくれた! 割増料金だったけどね……。それじゃ、これでアビドスに戻ろっか!」

「乗ってきた方も回収しないとですね。……シロコちゃん、もう正座解いていいよ」

「……ホシノ先輩」

「どしたの?」

「足が、痺れて立てない」

 

 シロコが何とか正座の姿勢から立ち上がろうとしているが、痺れた足はどうにも上手く動いてはくれない。仕方なく、ノノミが両手でシロコの脇に手を指し込んで持ち上げた。

 

「うあぁぁぁぁ……」

「我慢して下さーい♣」

「ええと、それじゃあ私はこの辺で失礼しますね! こっそりマーケットから抜けないといけないので……」

「ヒフミちゃん、一人で平気なの? 良かったら私たちが送っていく?」

「あ、いえ! 出入りの痕跡をごにょごにょしておかないといけないので! それでは!」

 

 そういうと、鞄を背負ったままのヒフミがそそくさと駆け抜けていく。その足取りは明らかにブラックマーケットに慣れたもので、どう考えても初めてここを訪れた生徒のそれではなかった。

 その様子を呆然と見つめる一行。

 

”行っちゃった……”

「なんだか不思議な子でしたね……。さあ、私たちもアビドスに帰りましょうか! 皆さん、荷物を積み込みましょう!」

 

 ともあれ、車を一台増やした一行は一路アビドスへ向けて出発する。

 そんな一行がブラックマーケットで大暴れしている頃。アビドスを訪れる四人の生徒たちの姿があった。

 アビドスには珍しく銃を携え、それぞれがコンビニで買えるようなビニール傘を差して歩いている。

 

「ここがアビドス? 凄いところね」

「うえー、ほんとに銃が使えないんだー! ほら見てアルちゃん、引き金引いても弾が出ないよ!」

「ば、爆弾のスイッチ押しても、起爆しません……。これじゃ私は役立たず……能無し……石ころ以下……死んでお詫びを……!」

「ハルカ、その銃も撃てないよ。……社長、ここまで来てなんだけど、今日泊まるところとかあるの?」

「……ふ、ふふ、問題ないわ! なにせこの辺りは空きビルが山ほどあるんだもの!」

「つまり野宿なんだね」

 

 冷静な言葉に、アルはう゛ッ、と声を詰まらせた。

 最近夜逃げもよろしく事務所──大枚はたいて借りたお高いビルの一角を放り出し、オンラインで手続きをして解約したところだったのだ。理由はもちろん母校からの追手である。

 今回の仕事が上手くいかなければ、本格的に貧困野草生活に突入するとあって、アルのやる気は満ち満ちていた。

 

「壁と屋根があるから、まあいいんじゃない? ここの生徒会に何か言われたら、その時はその時ってことで!」

「明日の朝にはその生徒会にも挨拶に行くんだから、騒ぎを起こさないでおとなしくしておきましょう。なにせ、今回はあのカイザーPMCからの依頼なのだから!」

「沼地探査のための敵性体掃討、だっけ。いいの? 銃が使えないって言われたけど」

「最低限の装備は支給してくれるらしいし、結果がどうであれ報酬が出るというのならやらないわけにはいかないわ! それに、情報の少ない依頼を即決で受ける……アウトローとしては見逃せないわよ!」

「(アウトロー……かなー? ま、面白そうだからいっか、くふふ!)」

 

 そして時間は過ぎて翌日の朝。

 ブラックマーケットから帰ってきたユメ達の元に、カイザーPMC理事が訪れていた。

 まだ朝早かったため、ユメとホシノ以外は登校していない時間帯だ。

 

「おはよう、アビドス生徒会の諸君」

「おはよう理事さん、朝からどうしたの?」

「オアシス沼までの移動経路の整備だ。今回は外部の者にも依頼をして参加してもらうので、念のため顔合わせをしておこうと思ってな。入ってくれたまえ」

 

 扉の外で待機していたアルが、その声で中に入ってくる。

 自信満々にむふー、と威厳たっぷりに演出しつつ、

 

「──便利屋68、社長の陸八魔アルよ。今回はこちらの業務に参加させていただくわ」

「おおー、ゲヘナの子かな! 私はアビドス生徒会長の梔子ユメだよ! 大変だと思うけど頑張ってね!」

「副会長の小鳥遊ホシノです。何かあればすぐに連絡してください、助けに行きますので」

「概要は説明してもらったけれど……。要は邪魔なものを排除すればいいんでしょう? 大丈夫、任せてちょうだい」

 

 依頼内容を簡潔にまとめる姿に頼もしさを感じる一行。確かに頼もしくないかと言えば嘘になるのだが、特にユメは理事がこの土地に打ちのめされていた時期を知っているため、少々心配だった。

 

「まあ、そういうことだ。問題がなさそうならば継続して依頼する予定ではある」

「服や武器はどうするの? うちから出そっか?」

「いや、そこは全てうちから拠出するので大丈夫だ。君たちに色々とアドバイスをもらったからな、使用に問題はない、はずだ」

「便利屋さん、危ないと思ったらすぐに逃げてね? ワニはともかく、機械獣はすっごく危険だから!」

「御忠告ありがとう、資料は読みこんだからあとは実戦だけよ。この便利屋68に不可能はないわ!」

 

 胸を逸らし、自信をもって言い切るアル。まあそこまで言うのならと、ユメも強く言い募ることはしなかったのだが。

 全員には共有するべき内容であるため、その場にいなかった面々もユメから話を聞くこととなった。

 

「……ってことがあったんだよー」

「雇う方も雇う方だし、雇われる方も雇われる方ですね……。本当に大丈夫でしょうか?」

 

 アヤネが首をかしげる。

 アビドスという土地は良くも悪くも特色が強く、他所から人員を投入しても慣れるまでに時間がかかることが多い。

 それを見越してということならば、現状を打破するために理事も色々と考えがあるということなのだろうとアヤネが考えを巡らせる。

 

「とりあえず、私たちは今日の作業を終わらせちゃお!」

「わかりました。一応ドローンの準備だけはしておきますね」

「ブラックマーケットでおじさんから聞いたこと、本当みたいですねー……♠ 理事さん、大丈夫でしょうか♣」

「何かあれば相談してくれるはずだよー。それより、例の便利屋さんが心配かもねー」

「大丈夫っていうなら大丈夫だとは思うけど。誰か見に行きたい人―?」

 

 ホシノの言葉にセリカがそう聞くと、シロコがしゅぱっ、と手をあげた。あまり見ない面白いことに出くわせそうだという好奇心六割、面白半分三割、心配一割といった表情だ。

 

「ん! 私行きたい」

「言い出しっぺだし、それなら私もね」

「じゃあ、今日の郊外活動は二人に任せるね! あ、一応タオルとか食べ物とか詰めておくから、持っていってね」

「わかった、ありがとうユメ」

「シロコ先輩、かたくなに先輩って言わないわよね……」

「狼は序列にうるさいから」

「ひぃん……」

 

 ややユメが軽んじられ気味になったものの、いつものことである。

 校内作業、勉強に割り当てられているユメ達を置いて、シロコとセリカはガレージの新車に乗り込み郊外活動の巡回に向かった。

 後部座席にはユメが準備してくれた物資が詰まれている。

 

「新車のジープちゃん、ご機嫌ねー。エンジンの音もガタつきもぜんっぜん違うわ」

「さすが、ユメがぶちぎれただけのことはある」

「あれは怖かったわ……。ところで、例の便利屋さんってどこでやってるの?」

「聞いた話だと、今日は戦えるかテストだって言ってた。だからオアシス沼の外周近くだと思う」

「りょーかい、それじゃあそこまで行ってみる。……それにしても、わざわざアビドスまで仕事受けに来るなんて、よっぽど金欠なのかしらね」

「それとも払いがいいか」

「だとしたら理事も相当ぶっこんだのかも……。ま、なんにしても便利屋さんのお手並み拝見ね」

 

 

 

「(近い! でかい! 怖い! なんなのよこの機械獣って奴はぁぁ!! 銃が使えないのにこんなの相手にするの!?)」

 

 ビビり散らかしていた。

 初めてみる機械獣の迫力に、完全に腰が引けている。そこまで大きくはないサイズだったが、人間のサイズと比べれば少し縮尺を間違えているのではと言う程度にはデカい相手だ。

 それを見かねて、PMCの担当官が声をかける。

 

「大丈夫か? 陸八魔アル。体調が思わしくないなら……」

「ええ!? い、いえ、大丈夫よ担当官。それより、これと戦うのね?」

「そうだ。君たちにはまずこれを支給しよう」

「……クロスボウ?」

「威力はそこそこ、連射は効かないが銃と似た感覚で使える。ただし壊れればその場での修復は不可能だと思ってほしい」

「外れたらどーするの?」

「外さないことだ。外れたら退避して仲間の援護を受けながらリロードしたまえ」

 

 担当官の言葉に、思っていた以上に大分過酷そうな仕事だと覚悟した。

 今までは銃をぶっ放して解決できたことも、ここではそうもいかないようだ。

 

「これ以外の装備は?」

「スリング、投槍器。あとは近接用の武器がいくつかだな。言っておくが、機械獣の攻撃はまともに食らえばいくらヘイロー持ちと言えど深手を負う。くれぐれも気を付けてくれ」

「あ、あの、ここでは完全に爆弾や銃は、使えないんですか……?」

 

 普段から爆発物とショットガンを使うハルカが聞くと、担当官は強く頷く。

 

「それがアビドスだからな。さて、では君たちがこれを使ってどれだけ戦えるか、見せてもらうとしよう」

 

「ギャー!! こっちきたわあああ!!」

「アルちゃん頑張れー!」

「社長、応戦して」

「アル様ー!!」

 

 

 そんな姿を遠目に、見ていた担当官の元へ一台のジープがやってくる。

 

「やっほ」

「む、その制服……。アビドス高校の皆さんですね。私はカイザーPMC所属、作戦人事担当官であります。本日はどのようなご用向きで?」

「お宅が雇った便利屋さんのことが気になって。どんな調子?」

「ここの環境に難儀していますが、筋は良い。さすが、ゲヘナで指名手配されているだけはあります」

「指名手配ぃ!? お尋ね者なの!?」

「ああいえ、学校を出て起業しているので、校則違反で……」

「ああ、そういう……」

「起業は校則違反なの?」

 

 シロコが聞いた。ゲヘナの校則についてはあまり詳しくない。アビドスよりもかなり緩いという話は聞いているが。

 

「ゲヘナではそうですね。あの校風ですから、在学中に暴れまわるなら最低限目の届くところで、という意図があるのやもしれません。ほとんど建前になっていますが」

「へー……」

「お二人とも、よろしければ簡単な指導などして頂けたりはしませんか? やはりヘイロー持ちと我々とでは、勝手が違うもので……」

「お昼出してくれるなら」

「シロコ先輩……」

 

 やめなよ、と言わんばかりのセリカの視線。

 その視線になんの痛苦も受けていないようなシロコの表情に、担当官も笑って頷いた。

 

「ええ、もちろん。と言っても大したものは出せませんが、うちの支給食ならいくらでも」

「だって、セリカ」

「なんでそう食いしん坊なのよ、シロコ先輩は……。まあ、私は構わないけど」

「食べられる時に食べる、大事なことだよ」

「ははは、確かに。ではお二人とも、こちらへどうぞ」

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