アビドス自治区へようこそ、先生   作:くらーげん

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Tips:アビドス生徒会とPMCの関係は良好。死と隣り合わせの環境において、対人関係を悪化させることは自分の寿命を縮めるのと同じことである。

2025/06/23:ご指摘のあった矛盾部分を修正しました。


8話 戦い方を学ぼう

 お昼の約束を取り付けた二人が担当官に連れられてやってきたのは、便利屋たちが武器に慣れるため訓練している広場だった。

 弓矢を手にしていたアルが気づき、振り返って声をかける。

 

「あら、アビドスの……。様子を見に来たの?」

「まあそんなとこよ。どう、戦えそう?」

「え、ええ、当たり前じゃない! 便利屋68に不可能はないわ!」

「えー? アルちゃんさっきまでへっぴり腰で弓引いてたのに?」

 

 傍でアルの動きを見ていたムツキが茶々を入れると、アルは慌てた様子で、

 

「そ、そ、それはその……練習! 練習よ!」

「ん、練習は大事。ということで私たちもサポートする。皆、武器はなに選んだの?」

「社長は弓を練習中。私とムツキがクロスボウのまま、ハルカはスリングショット」

 

 アルが弓矢を掲げ、ハルカと呼ばれた少し距離の遠い少女がパチンコを見せる。

 その横で、ムツキが手にしているクロスボウを弄り回しながらぼやく。

 

「でもどうにもしっくりこないんだよねー」

「うーん……。四人のうちで一番前に出るのは誰?」

「それならハルカね! うちの突撃隊長!」

「じゃあハルカはシロコ先輩がお願い。他は私が見るから」

「わかった。ハルカ、こっち来て」

「は、はいぃっ! よろしくおねがいします……!」

 

 ハルカが緊張した様子でシロコの傍に行く。そのまま離れた場所に移動した。

 一方で、残りの三人はセリカへと視線を向ける。

 三年生と二年生を相手にしても、セリカは物怖じ一つせずに、さて、と呟いて、

 

「じゃあ、まずは三人の動きを見せてくれる? 小型相手なら今のままでも戦えると思うから」

「ふっ、よく見ていなさい。これが私たち便利屋68の実力というものよ……!」

 

 そうして、三人の今の実力が明らかとなった──!

 

「……」

「……どう!?」

「えっと、まずアルさん」

「はい」

 

 真面目な空気を感じ取って、思わずアルも礼儀正しい反応を返す。

 その向こうでは、情けなく十数メートル先の地面に突き刺さった矢がもの悲しく残されている。

 

「弓を引くときに腕だけで引いちゃダメ。全身使って、体で引くの」

「うん……?」

「いい? 見てて……。つがえて、構えて、狙って引く。礼儀作法とかはこの際どうでもいいけど、引くときの体の使い方が違うと威力がガタ落ちするから……で、こう!」

 

 すぅ、と息を吸って引き絞り、狙いを定め撃ち放つまでの動きを、見本となる様にゆっくりと進める。

 数瞬を置いて、タンッ、と百メートル先の的のド真ん中につき立つ矢があった。

 元々中距離からの狙撃や近距離での投石による急所の破壊をメインとしているセリカだ。この程度の精度は出せて当然だった。

 

「……へぇ。社長が撃ってた時と明らかに違うね」

「だって、アルちゃん! できそう?」

「こ、こうかしら? ん、ちょっと違うわね……。構えて……」

 

 セリカの動きを見て感心したように頷くカヨコ。

 その横でアルがムツキに見られながら自分の動きを修正する。

 最初はぎこちない物まねだったものが、瞬く間にセリカのそれに近づいていく。決して完璧ではないが、それでも先ほどまでのへっぴり腰からすれば雲泥の差であった。

 

「……うわ、ちゃんと様になってきてる。アルさんってすごいのね」

「まあ、なんだかんだこなせちゃうからねーアルちゃんって。で、私とカヨコちゃんはどうだった?」

「うーん……。まずムツキさんだけど……。クロスボウ向いてないと思う」

 

 大丈夫そうだと頷き、動きの修正と試射を続けるアルを横目で見つつ、ムツキの話に移った。

 彼女に対してセリカが言うと、ムツキははて、と首を傾げ、

 

「ありゃ、なんで? 結構ちゃんと当たってたよ?」

「なんていうか、普段はもっと重い銃使ってない? あと相手のスキを見つけた時に一瞬動きが止まってたの、投げモノとかも良く使ってると思うんだけど……」

「なんでわかるの、すごーい! そうそう、普段はマシンガンだし、爆弾詰めのバッグとか投げてるの!」

 

 両手で取り回す機関銃に加え、大きなバッグを放り投げる戦闘スタイルに、決して重すぎるとは言えないクロスボウは軽すぎた。

 隙を見つけて投げモノを使っていた感覚も影響している。咄嗟に「今なら投げられる」と体が判断し、しかしそれに使える武器がないことで一瞬動きが遅れていた。

 ムツキの言葉にセリカは少し気恥ずかしそうに頬を掻くと、当座の解決策を提案する。

 

「やっぱり。動きがぎこちなくて目立ったから……。それなら、消耗品になっちゃうけど機械獣のバッテリー使ったスタンボムとか使ってみる? 片手開けるようにスリングもおすすめかも」

「これ? へー、アビドスだとこんなの使うんだー。この手榴弾、貰っちゃっていいの?」

 

 機械獣のバッテリーを流用したスタンボム。ノノミも使用しているそれは、衝撃を与えると周囲に強烈な電気を撒き散らすものだ。

 片手でそれを弄びつつ、同時に渡されたヒモと弾頭用の破片を眺める。

 それはセリカが愛用しているのと同じ武器だ。彼女が教えるのにこれ以上のものもない。

 

「別にいいわよ、使いやすいならPMCからも買い取れるはずだから話してみて」

「オッケー、試してみるね! ありがと♪」

「どういたしまして。それで、カヨコさん」

「うん、どうだった」

 

 最後の一人、カヨコに向き合い、その顔と面と向かうと、セリカは少しだけ背筋がぞわぞわとする感覚に襲われた。

 セリカは知らないことだが、カヨコは外でよく「顔が怖い」と言われることがある。決して恐ろしい顔立ちではないのだが、美人と評される顔とやや厳めしい表情、そして近づきがたい雰囲気が合わさってそう言われてしまうのだろう。

 実際、この中で最も年上の彼女は落ち着き払って穏やかな雰囲気を持った、セリカが今まであったことのないタイプだった。

 

「……めちゃくちゃ丁寧な動きで文句つけるところはないけど……。決め手に掛けるかも」

「それは自分でも思った。一発撃ったらリロードに時間がかかるし、壊れたら対抗策がない。威力の大きいサイドアームみたいなものがあると助かる」

「ちょっと使いづらいけど……投槍器はどう? これなんだけど」

「……一回投げてみてもいい?」

「どうぞ、試してみて」

 

 渡された、手に装着する形の投槍器を自身の手に取り付けると、用意されていた槍を構え、振りかぶって、

 

「ふっ……!」

 

 ぞんっ、と別のレーンの的につき立つ槍があった。中心から外れた位置ではあるものの、五十メートル先の的に突き刺さっている。

 ムツキが湧きたって手を叩いて喜び、突き刺さった槍を驚いた顔で見つめていた。

 

「おおー! カヨコちゃんすごーい! あんなに真っすぐ刺さるものなんだ!」

「いや、普通最初はあんなに綺麗に飛ばないわよ! っていうかまず届かないし……。 で、どう? 使えそう?」

「いいかも。担当官に言ってみるよ。ありがとう、えっと……」

「……あ、ごめんなさい。自己紹介してなかった、アビドス高校生徒会会計、一年の黒見セリカよ。セリカでいいわ」

「わかった、ありがとセリカ」

「私からもありがとね! おかげでいい感じに仕事がこなせそ──」

 

 ずどォン、と重苦しい音が響く。

 次いで僅かに雨を薙ぐ突風が吹き抜け、全員がその音の方を向いた。

 

「……なにいまの?」

「わ、わ、わ! 出来たわ! ねえ見てた今の!? 凄いのが撃てたわ!!」

 

 はしゃぐアル。彼女の立つレーンの先では、練習用の的が大きくへこんでいる。

 そのへこみの中心には、今アルが撃ち放ったと思しき矢が突き刺さっていた。

 冗談のようなその光景に、さすがにムツキも引きつった笑みを浮かべる。カヨコも少し驚いたようで、軽く目を見開いて小さく口を開けていた。

 

「アルさんも弓に慣れてきたみたいね……」

「慣れたらあの音出るんだ……」

「弓の方が強い理由の一つがあれなのよ。なんていうか、力が乗りやすいっていうか……。よくわからないけど、クロスボウより弓の方が『強い』のよね」

「不思議なとこだねアビドスって……。さて、ハルカの方はどうなったかな……」

 

 ところ変わって別の広場では、シロコがハルカを相手に今まさに戦い方を享受するところだった。

 

「ハルカ、ちょっと私と組手しよう」

「く、くみて!? なんでですかぁ……!?」

「どれくらい動けるか見ておきたい。大丈夫、沼地で動ける足さばきも教えてあげる」

「うぅ……! が、頑張ります……!」

 

 そう言って始まった二人の組み手は、当然ながら足場の悪さと環境に適応しているシロコの方が優勢に進んでいく。

 そもそも近接戦闘など運動でしかやったことのないハルカに、シロコは動きながら自身の動きで「こう動いた方が効率がいい」という形を教えつつ、彼女の動きや癖を把握する。

 そうして十分ほどの組み手を終えた後、シロコが一つ頷いた。

 

「ん、大体わかった。これ使ってみて」

「はぁ、はぁ……。こ、これ……棍棒ですか……?」

 

 そう言ってシロコが差し出したのは、片手で振り回せる程度の大きさの棍棒だった。

 金属製のガラクタを繋いで押し固めたような乱雑な見た目のそれを受け取ると、ハルカは二、三度それを振って重さを確認する。

 片手でも十分、両手では十二分な重さを持ったそれをもう一本取り出し、

 

「正確には、機械獣の装甲板とか部品を固めたメイス。強度、重量ともに良し。ぶん殴ればだれでもぶっ飛ぶし、大型の機械獣にも狙い次第で通用する」

「つ、つまり、近接戦をするんですか……?」

「見てた限り、便利屋のスタイルで前に出られるのはあなただけ。そして、戦闘スタイルと動きを見ると、直接殴った方が下手な投擲武器を持つよりずっと安全」

「はぁ……」

「とりあえずやってみる。本当は、アヤネが一番近接の組み立て方が上手なんだけど……。私で我慢して」

「いいいえええっ! 滅相もないですぅ!!」

「じゃあ、私も同じものを使うから。まずはゆっくり、動きと重さに慣れて。いくよ」

 

 必要なことだけを淡々と話すシロコに、ハルカもぶんぶんと頭を振って頷く。

 互いにメイスを構え、動きの基礎から伝え始めるシロコによって、ハルカもアビドスでの戦い方をゆっくりと更新していった。

 そして翌日。

 

「──ハルカ、お願い!」

「はいぃ! 死んでください、壊れてくだ、さいッ!」

「ムツキ、左からもう一体」

「オッケー任せて! 電撃いくよ―!」

「よくやったわムツキ! あれは私が落とすから、二人はハルカの援護!」

「了解」

「はーい!」

 

 便利屋の成果を確かめるため、見回りがてら彼女たちの仕事の見学に訪れたシロコとセリカは、想像以上の光景に思わず頬を緩める。

 そしてその成果は、便利屋に同行していた担当官の驚嘆にも表れていた。

 

「……わずか一日で中型二体を相手にできるようになりますか。いやはや、ポテンシャルというのはバカに出来ませんね」

「筋がいいし、戦闘経験も豊富だったからね。これで十分戦力になるんじゃない?」

「ハルカの思い切りの良さは、欲しくても得られるものじゃない。あれは天性の突撃番長」

 

 正しくは暴走タンクと呼ぶべきものだが、思い切りがいいことは事実なのでこの場では誰も訂正しない。

 ここに来てから暴走しても爆発させるものがないゆえに、彼女の実情を知る者がいないのは、良いのか悪いのか。

 

「申請のあった武器のスペアはこちらで用意しておきましょう。あの戦力が手に入るなら、その程度の経費は安いものです。さすが、ゲヘナで目を付けられているだけはある」

「それじゃあ、私たちはそろそろ行くわね。作戦頑張って」

「何かあったら駆けつけるから」

「ありがとうございます、お二人とも。では、道中お気をつけて」

 

 ぴしっと敬礼した担当官に手を振って、二人は見回りに戻っていく。

 その後ろでは、便利屋たちが順調に業務を遂行する姿があった。

 

 

 

”やあ皆、おはよう”

「うへー、おはよー先生。今日もじめじめだねぇー」

「おはよう先生。今日も図書室?」

「アビドスのこれまでの歴史を詳しく知りたいって、最近ずっとよね?」

”うん、電子データになってないアビドスの情報はここにしかないからね。アビドスの現状の理由もどこかにあるかもしれないし”

「それは、まあ確かにそうですね♠」

 

 本来なら先生が調べることではないのかもしれないが、現状アビドスにいて日々の仕事に追われていないのは先生だけだ。

 そして同時に、読んだ情報はアロナが電子化して専用のデータバンクを構築中である。

 データは多いほどよく、そしてその蓄積が今先生に出来る数少ない手助けだった。

 

「でも私たちも色々調べて、結局よくわからなかったんだよー……。今に対応するので手一杯!」

「あ、そうそう。カイザーPMCの作戦はやっぱり上手くいってないみたい。一応、沼の限界ギリギリまで近づいて、浮島作るとこまでは出来たみたいなんだけど、そこから先は機械獣がわらわら出てきちゃって対応が追い付かないって」

「セリカちゃん、気になるからってあれからちょくちょく顔出してますもんね」

「うぐっ……。だ、だって自分が指導した相手なんだもん! 気になるでしょ!」

「だれも悪いなんて言ってませんよ~♡ セリカちゃんは優しいですねぇ」

「の、ノノミ先輩! もーっ!」

「うんうん、今日も皆仲が良くて大変よろしい!」

 

「──はぁ!?」

 

 びくっ、と、アヤネのガラの悪い声にユメが身をすくめた。

 

「ひぃん……! アヤネちゃん……、先輩、何かダメなこと言っちゃったかな……?」

「あ、いえ違います! ユメ先輩ではなくてですね……」

「なになに、どったのアヤネちゃん。お顔が怖いよー?」

 

 ホシノがのほほんとアヤネを諭すが、その顔はアヤネの差し出したスマホの画面を見て固まった。

 

「実は、今SNSでアビドス市街地で大規模な戦闘が発生したという話が流れているんです。これ見てください」

「……【アビドスの街中で、ゲヘナ同士の小競り合い】? これって……」

「便利屋の人たちじゃない! これ、襲われてるってこと!?」

「攻撃を加えているのはゲヘナの風紀委員と思われます。我々のところには、なんの通達も来ていません!」

 

 ユメがすぐさまスマホを取り出し、外部との連絡に使用しているアドレスの受信箱や、SNSのDMなどを全て確認し、何度か更新を掛けて確認漏れがないかチェックする。

 しかし、そこにはゲヘナや他の学校からのメッセージはない。せいぜいがアリクイがどうの旦那がどうのと言った迷惑メールが数件入っているだけだ。

 それを無言でゴミ箱に放り込みつつ、落ち着き払った声で言う。

 

「……うん、確認したよ。生徒会宛にゲヘナから風紀委員の活動申請は入ってない。皆、いこっか」

「はぁ、人の庭で何してるんだか……。風紀委員長ちゃんの手綱の締め方、緩いんじゃないかな~?」

 

 ユメの言葉に、ホシノの目つきが変わる。口調こそ緩いままだが、その顔つきは明らかに不機嫌なそれだ。

 今までの『アビドスの面倒ごと』とは違う、学校として対処しなければならない事態が起きていた。

 

「好き勝手はさせない、ハルカは私の後輩でもある」

「シロコ先輩、ちょっとずれてる……。先生、悪いけど私たちちょっと行ってくるから!」

”いや、私も行くよ。学校間の争いになったら大変だし……事情があるなら私も手を貸すから”

「先生も一緒に来られるんですか? わかりました、じゃあ準備をお願いします!」

 

 急遽、それぞれが武器を引っ掴んで新しく買ったジープに乗り込んでいく。

 最後に先生を後部座席に乗せ終えると、アヤネが全力でアクセルを踏み込んだ。

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