魔法少女の隣にいる私   作:しらいうつほ

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16話 モンスターハウス

 

 グツグツとリビングの真ん中の円形のテーブルで煮えたぎる鍋。

 

 綺麗に濾されたお出汁の中で白菜や豚コマが踊っている。

 

 彩には春菊やぶつ切りにされた白ネギが入っており、見るだけで食欲を誘ってくる。

 

 しかし、今この場はかなり空気が重たい。

 

「……」

 

「……」

 

 お互い無表情、無言で下に俯き、正座しているレフィーヤとヒヨリ。

 

 メギと呼ばれた怪人はまだ気絶しているので、奥の方で布団の上で寝ていた。

 

 なんだ、これ……。

 

 すごく空気が重たいぞ……。

 

 せっかく東江さんが作ってくれた美味しい鍋の筈が怪人のゴタゴタに巻き込まれて、お通夜みたいな空気みたいになっている。

 

「さ、さぁ! お鍋が煮えましたよ! 今日は怪人とか人間とか関係ないですからね! 無礼講です!」

 

 東江さんが汗をかきながら無理やり明るい声を出す。

 

「……」

 

「……」

 

 しかし、二人は俯いたままピクリとも動かない。

 

 おおい! もういい加減にしてくれ! こんな状況の中、私お鍋食べたくないよ! 

 

 そんな事を心の中で思いつつも、私は声を上げて抗議することもできない。凹む。

 

 仕方がないので、煮えたお鍋のお肉を私は無言で取り、食べる。

 

 あ、おいしい。

 

「……レフィーヤ様……なぜ……人間と……」

 

「……!」

 

 ヒヨリが切り出し、レフィーヤがビクッと体を揺らす。

 

 汗をダラダラ流しながら、目を泳がせている姿は側見れば滑稽だろう。

 

 ここの当事者じゃなければな! 

 

 それもこれも、家から出るなと言いつけを守らず出歩いたレフィーヤが悪い。

 

 怪人としての振る舞いをもう少し思い出せ。

 

「レフィーヤ様が……人間に味方しているというのは本当だったのですね……」

 

「えっ!? あ〜〜その……我は……」

 

「怪人として……先祖達が人間共に奪われた領土の憎しみ……! 忘れてしまったのですか!!」

 

「……いや……ちゃんと覚えてるわよ……」

 

 ??? 

 

 人間共に奪われた領土? 

 

 何言ってるんだろう、この怪人達……。

 

 怪人が奪っているのは生命力ってものなんだろ? 

 

「……人間に奪われた……とは、一体貴女達は何を話してるのですか?」

 

「……ッ!」

 

 東江さんが私が聞きたかった事を代弁してくれる。

 

 そう聞くと、ヒマリは顔を歪めながら横を向いた。

 

 それを見ていたレフィーヤは、私たちの顔を交互に見てため息を吐いた。

 

「はぁ……人間の前でこの話をするのも……癪だけど……」

 

 そういうとレフィーヤはポツポツと怪人達がなぜ人間から生命力を奪っているのかという話をし始める。

 

「我達は【原初の巫女】が作り上げた王国を取り戻す、1800年前にアンタ達、人間に奪われた王国を……ね」

 

 ここからレフィーヤの話が長かったので少し要約する。

 

 古来日本。

 

 怪人と呼ばれた、女達の正体は【原初の巫女】とやらが作り出した、国と巫女を守護する人型の戦闘兵器だという。

 

 戦闘兵器といえど、元は普通の少女達を霊力により体の内側から改造を施した存在。

 

 この戦闘兵器達は人間と姿形は変わらず、その時代の人達と荒波が立たない生活を送っていたらしい。

 

 人と戦闘兵器として生み出された少女。

 

 その違いは、超常現象を扱える力を持てるか持てないか。

 

 それがヒヨリが使っていた波とか光剣という事だ。

 

 こうして、人と後に怪人と呼ばれる少女達は国を守護し、王である巫女に支えていた生活を送っていた。

 

 しかし、そんな中、急に台頭してきた人間の勢力を率いる別の国の王が戦争を仕掛けてきた。

 

 怪人達は国を守護するために奔走。

 

 数は少ないが、猛攻をその超常現象を扱える能力で凌いでいたらしい。

 

 しかし、そんな中、彼女達は、背後の一突きを喰らうことになる。

 

 それまで共存していた人間達が、命惜しさに裏切った。

 

 人間である自分達は怪人とは違うので、見逃してもらえるとでも思ったらしい。

 

 こうして、怪人と巫女の国は戦争に負け、国は消滅。

 

 原初の巫女は最後の力を使い、霊力を集め、意思も解さぬ怪物になった後、人間達によって封印された。

 

 それが彼女達の言う魔神との事だった。

 

「そして、生き延びた怪人達は日本中に散らばり、人間への復讐を果たす為に何世代にも渡り、着々と力を蓄えていたって訳よ」

 

 レフィーヤがそう言い切り、鍋の白菜を食べる。

 

 そうか……そういうことがあったのか……。

 

 なんも分からん。

 

 急にオカルトみたいな話をし始めたレフィーヤに面を食らっている。

 

 ていうか怪人達にそんなバックボーンがあったの? 

 

 ただの変態集団だと思ってた。

 

 っていうか……1800年前って……すごいな……。

 

「そんな長い間……人間と共存するという道は選ばなかったのですか……途方もありませんよ」

 

「貴女に私たちの何が分かるって言うのよ魔法少女、共存の道もあったけど、手を振り払ってきたのはいつの時代だって人間だったじゃない」

 

 東江さんが口を開くと、ヒヨリが激昂し顔を歪ませる。

 

 しかし……ここまでの間、怪人達の歴史が途絶えてないのは凄いな。

 

 怪人達が表に出てきたら日本の歴史全部ひっくり返るんじゃないか? 

 

 しかし、まあ話が壮大すぎる。

 

「まあ流石に、300年前、魔神様も復活できてこれから私たちの時代よってなった瞬間、急に訳の分からない強すぎる人間達が出てきて焦ったわよね」

 

「……あれは……思い出したくもないですよ……」

 

「……え? 300年前? それって……私たちの先祖が……怪人と戦い始めた時期……」

 

「ああ、アンタそこの一族の子孫なの、アイツ我たちに向かって戦いはやめよう! とか言ってきたわね」

 

「まるで……見てきたかのような口ぶりですね」

 

「そりゃあ見てきたもの! 我達、怪人は輪廻転生と共に記憶を引き継ぐ術式をかけているのよ!先祖がこの憎しみを忘れない為にね! まあ、最近は効力も薄くなって、何も分からず本能の赴くままに人間を襲う奴も出てきた訳だけど」

 

 レフィーヤはニヤリと笑いながら、頭を指差し、得意げに喋った。

 

 東江さんも、目を見開き怪人達のルーツに驚愕する。

 

 そして私は話についていけないので、食事を終えて部屋の隅っこで体育座りしていた。

 

 いや……その……待って欲しい。

 

 話が難解すぎてついていけない。

 

 勉強は出来る方だけど、なんか都市伝説みたいな話をされると頭がこんがらがってくる。

 

 魔法少女も300年前から存在してたの……? 

 

 やっぱすげーな日本、流石HENNTAIと海外から呼ばれるぐらいだ、進んでいる。

 

 坂本龍馬も日本の夜明けとか言う前に太陽がガンガン出ている。

 

 暑すぎるくらいだ。

 

 え? 何この状況。

 

 改めて考えると訳分からない。

 

 私の家に魔法少女と怪人の歴史が繰り広げられている間、ただの人間である私はこの話を聞いて、どうリアクションとればいいの。

 

 うーむ、なんか場違い感が出てきたな。

 

「魔神様は我達が集めてきた、生命力を捧げ、その地の霊力を吸い上げる事で、復活する、そして我達は国を相手取って、我達の国を奪還する……ハズだったんだけど……ヒヨリ……察するけど……離反した奴らは太古の記憶を持たない奴ら……なのよね?」

 

「はッ、一部筆頭を含め、アルタノギアからほぼ半数以上が離反しています」

 

「……あ〜なんとなく予想ついてたわ……我がなんとか不満を持つ隊員達を、話し合いで抑え込めていたのが決壊したのね……組織が混乱するから真実を話さないのが仇になったか……まっ、我が居ても居なくてもそのうち、そうなるだろうとは思ってたから、ヒヨリや一番隊筆頭には責任は無いわ。元はといえば我のせいだもの」

 

「……レフィーヤ様が……人間に味方したと聞いた時……私は……ショックで……」

 

「うっ……! 悪かったわね……ヒヨリ、よしよし」

 

 ヒヨリが泣き出し、レフィーヤが困ったかのような顔をして頭を撫でる。

 

 しかし……これだけ見てると、彼女達も普通に人間にしか見えない。

 

 横でイビキをかいてる、メギとやらは人間離れしているけど。

 

「十さん……私……これから、怪人達をどう扱えばいいのか分かりません……」

 

 東江さんが私のところに来て暗い顔しながら、呟いた。

 

 おう……なんか落ち込んでる様子だ。

 

 まるで自分の信じてきたものが、崩れ去ったかのような顔をしている。

 

 ふ、ふむ……どうする私。

 

 ここで気の利いた事が言えれば、カッコいいぞ。

 

「……まあ……怪人にも……色々いるみたいだし……様子を見ればいいんじゃないかな……。悪いことする奴が……居たら倒す……東江さんは悩まなくて……いいと思う……よ?」

 

「……! 十さんは……相変わらずですね」

 

 私が吃りながら喋ると、東江さんはふふ、と小さく笑みを溢しながらそんな事を言う。

 

 え? 何が相変わらずなの? もしかして甘すぎる? 

 

 こ、ここは「そんなもん知らねぇ!! 怪人は全員にぶっ倒して磔にしてやる!!」とでも言ったほうが良かったか!? 

 

 あ、ごめん……そんなクレイジーキャラじゃなくて本当にごめん……。

 

「ま、ヒヨリ! そんなクヨクヨしてないでお鍋食べちゃいましょうよ!! 冷めちゃうわよ!」

 

「れ、レフィーヤ様……!」

 

「メギもいい加減起きなさい!! ご飯食べるわよ!」

 

「……フガッ!? え!? ここどこだよ……!? ってレフィーヤ様!?」

 

 レフィーヤが盛大にヒヨリの肩を叩き、メギを叩き起こして鍋に誘う。

 

 怪人達が和気藹々としている姿を見て、私はこう思うのだった。

 

 ───ここ、私の家なんだけどなぁ。

 

 ─────

 

 こうしてモンスターハウスと化した私の家で、鍋パーティが開催されて時間が経ち、ヒヨリとメギは帰ろうとしていた。

 

「遅いから泊まって行けばいいのに……」

 

 おい、ここ私の家だぞ。

 

 レフィーヤが我が物顔で、まるで、自宅かのように振る舞っている。

 

 おかしいな、なんか家、怪人に内側から侵略されかけてないか? 

 

「れ、レフィーヤ様も、アルタノギアに帰りませんか? 筆頭も……今の状態だったら許してくれると思いますし」

 

「おお! そうだぜ! なんなら俺からナシつけてやるよ!」

 

 おお! 良いじゃん! 帰ったらいい! これで、私と東江さんと二人きりの共同生活になる! 

 

 ウハウハな! ロリとの生活が私を待っている! 

 

 ……いや待て、東江さんはレフィーヤが悪い事をしないように私の家に泊まり込みをしているんだよな……。

 

 あれ? これ、レフィーヤが帰ったら、そのまま東江さんも帰る事になるのか? 

 

 そうしたら私はこの広い家で、また一人で冷たいご飯を食べる事になる!? 

 

 果ては、私は今、東江さんとレフィーヤに家事頼りっきりだから、前より酷くなる可能性が……! 

 

 前に一人で過ごすのが目標とか言ったけど、今この現状で一人にされたら耐えられない! 

 

「アンタ達……! でも……アルタノギアは……」

 

「レフィーヤ」

 

「十?」

 

 私はレフィーヤの肩に手を置き、真剣な眼差しを向ける。

 

「レフィーヤ……君の道は……まだ半ば……一回修行をしたからには……最後までしてもらう」

 

「……!」

 

「力……をつければ……今……離反している怪人達に対抗できる第三勢力ができる、彼女達は……内部から……レフィーヤは外から……離反している怪人達に……対抗すればいい」

 

 私は、適当言った。

 

 とにかくそれっぽい事言って、レフィーヤに家で居てもらわなければ、東江さんと暮らせなくなるし、何よりこんな広い家、まともに掃除できる気がしない。

 

 だから癪だけど、コイツに居てもらわなければならない! 

 

 私が!! 家事とか!! マトモに!! 出来るまで!! 

 

 あと、金返せ。

 

「え? 急に何……? 我……帰りた……」

 

「……! ま、まさか……最初から……こうなる事を予想して……! 外から反抗勢力を崩す為に……魔法少女を懐柔して戦力に!? それを……一人でこなすつもりだったのですか……!?」

 

「……スゲェぜ! レフィーヤ様!」

 

「え!? そ、そうかしら……ね……?」

 

「分かりました、反抗勢力の外側からの攻撃……レフィーヤ様にお任せ致します! 私達はアルタノギア内部から……! スパイなどを洗い出し……奴らを弱体化させてみせます!」

 

「うん、まあ、ほどほどに……ね? 焦っちゃダメよ、ヒヨリ、メギ。ゆっくりで良いからね……!」

 

「お優しい言葉……! レフィーヤ様が我々を裏切ったなんて……やはりあり得ません! 

 私たち、アルタノギア一番隊! レフィーヤ様の帰還をお待ちしています! ……あと! 魔法少女!」

 

「は、はい!?」

 

 ヒヨリが一息で喋ったあと、東江さんに人差し指を向ける。

 

 そして、少し沈黙したあと、少し顔を赤らめながらこう言った。

 

「お鍋……美味しかったわ……じゃあね!」

 

 ヒヨリはプイッと顔を背けながら、そのまま流れで家を出ていく。

 

「ガハハ! チビッ子! また俺と戦ろうぜ! またな!」

 

 メギは豪快に笑い、東江さんに片手をあげて去っていった。

 

 さて……。

 

 レフィーヤの方をチラリと見ると、顔が真っ青になっていた。

 

 そして、ギギギ……と首をカクつかせながらこちらを見てくる。

 

「……レフィーヤ……懐柔……ってなんの話ですか」

 

「あわわ……! も、十〜! アンタがいらん事言ったせいで! あの子達、勘違いしちゃったじゃないの!! っていうか外からってどうすれば良いのよ〜!!」

 

 レフィーヤは私の胸ぐらを掴んできて、半べそで私の体を揺する。

 

 うん、頑張って上手い事やって欲しい。

 

「修行……頑張ろう?」

 

「い、嫌だッ〜〜〜〜〜!!」

 

 こうして私の家に一人の怪人の魂の叫びが反響した。

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