白銀の騎士は黄金の姫に呑まれる 作:15巻まだ?٩(๑•ㅂ•)۶
ほんの一瞬目を閉じただけ、そのはずだった。
「ま……眩しい……」
しかし、陰鬱とした空は晴れやかなものへと変わっていた。大気が汚染された今はもはや見ることの出来ない晴れやかな空、そして昔ながらの建物が建ち並ぶ街にモモンガは一人立っていた。
「ここは一体?GMとの連絡もつかないし、コンソール画面も見えない、一体どうなっているんだ?俺の見た目は……」
マジックアイテムで自身の姿を確認すれば、そこには白銀の鎧を身にまとった黒髪の青年が映りこんだ。
「うわぁ、誰これ……どことなく俺に似てるような……」
鈴木悟という人間のポテンシャルを最大限まで引き出した、そんな自身の見た目に少しむず痒くなるのを感じながら次々と確認を進める。
「魔法は……うん……多分使えるな。筋力も戦士として申し分無さそうだ」
今のモモンガは『強欲の種子』の影響で戦士職の肉体能力を持ちながら、魔法使いとして力を行使することが出来る。当然同レベル帯の戦士職肉弾戦になれば、モモンガは圧倒的な敗北を期すだろうが、それでも近接もある程度できるというのは大きな利点だ。
「相手にこちらの能力を悟らせない。pkの基本だよな」
つまり、現状の何が起こるか分からない状態では、純粋な戦士として活動していくのが良いだろう。
深くヘルムを被り、晴れやかな空の元モモンガは歩きだす。
「まずは何よりも情報収集だ。gmとの連絡も何とか取らなくちゃいけないわけだし」
辺りには家はあるものの道行く人はモモンガの格好を見るとスタスタと遠ざかってしまうため、なかなか話を聞くことは叶わない。
「彼らはnpcか?随分動きがリアルだが、実はサプライズでこのままユグドラシル2が始まったとか……?」
道行く人に話しかけられないのならば、より話しかけやすい人へ、モモンガは付近の露天に寄る。
ここは果物を取り扱っている露天のようだ。モモンガは林檎を1つ手に取ると店主に声をかける。
「あの……すみません……」
店主に声をかけると店主は荒っぽい返事しながらこちらに目を向ける。
「一枚だ」
店主の要望に応え、モモンガはインベントリから金貨を取り出し、店主に手渡す。すると店主はかなり慌てた様子でモモンガを窘める。
「ちょ……ちょっと兄ちゃん……貴族のお偉いさんか知らねぇが払いすぎだぜ」
店主の要求は銅貨一枚、それに対してモモンガは何も考えずに金貨を渡した。10銅貨、1銀貨。10銀貨、1金貨なため、実に100倍払ったことになる。
「ええっと……すみません、相場が分からなくて。金貨1枚じゃないんですか?」
ユグドラシルでは通常買い物は全て金貨で行っていた。そのためモモンガは一枚と言われ、当然金貨だと思ったが、店主の反応を見るにここでは高すぎるようだ。
(ユグドラシル2になって……貨幣価値が変わったのか?)
「それにこりゃ、この辺のお金じゃねぇな。悪いけどうちでは使えないよ」
店主には突き返されてしまった。どうやら貨幣自体も全く変わってしまったようだ。モモンガは諦めて店を後にする。
「おい、兄ちゃん」
しかし、即座に店主がモモンガを引止め、林檎をひょいと投げた。
「サービスだ」
店主は腕を組み、気前よくモモンガに林檎をプレゼントした。これはモモンガがどこかの王族か貴族だと見込んだ店主が何かしらの縁を作っておこうとしての事だが、モモンガは知る由もない。
「え……でも、お金は……?」
「サービスだって言ってんだろ?なんか困ってるみたいだし、それでも食って元気だせや」
モモンガはその優しさに少しの感動を覚える。ユグドラシルをみんなが引退してからというもの日々ギルドの維持費を一人で稼ぐため、昼はリアルで働き、夜もユグドラシルで一人働くという日々を送っていた。そんな彼にとっては久しぶりに触れた人の優しさに思えた。
モモンガは林檎を有難く受け取り、スタスタと歩き出す。
モモンガの目に映る街並みは中世の何気ない街並みだが、荒廃した世界しか知らない彼にとっては何もかもが新鮮だ。
(これは本当に、ユグドラシル2なのか?明らかに映像が自然すぎる。それにこの林檎……)
林檎を一口齧れば、口の中には今まで食べたことの無い程の甘みとみずみずしい林檎の果汁が広がる。
(ここまで本格的な味覚は明らかに違法だろうし……)
モモンガの中で疑問が積み重なり、徐々に現状への違和感が蓄積されている。そもそもユグドラシルでは考えられないような表情や味覚、それに嗅覚など様々な感覚が再現されている。
まるでゲームの世界に入り込んでしまったかのように、いやそれこそが真実なのかもしれない。
(とにかく大切なのは情報収集だよな)
ユグドラシルで、モモンガは様々なことを学んだが、その中で最も大切なことはこれだ。
モモンガは未知の世界で一人様々に歩き回るのであった。
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