白銀の騎士は黄金の姫に呑まれる 作:15巻まだ?٩(๑•ㅂ•)۶
様々な飯屋、宿屋を探索し、大量の情報をモモンガは得ていた。そこから分かることは一つ、ここはユグドラシル2などではなく全く別のなにかであること。そしてここでは言葉は通じるが、文字は全く異なるということだ。
ここが異世界なのか何なのかはこの際どうでもいい、最も致命的なのはここではユグドラシル金貨は使えないということだ。この場所では独自の貨幣が存在し、モモンガはそれを全く持っていない、つまりは見知らぬ土地に無一文ということだ。
(不味い……本当に不味い……)
モモンガはインベントリを見ながら頭を抱える。水はマジックアイテムで無限に出せるためいくらでもある。しかし、食料と宿はどうにもならない。
(魔法で要塞を出すか?あれに食料が内蔵されてる可能性はゼロではない……でもここは街中だし、そんなスペースもない……)
とまぁかなりピンチなモモンガは路地の裏で一人、空腹に耐えかね、座り込む。
そんな彼を見かねてか、一人の少女が彼に近づいた。黄金の髪を靡かせ、深みのある青の瞳はまるでサファイアを連想させる。顔は人形のように整い、表情から何から何までまるで作られたかのように完璧だ。
「あの、すみません。なにかお困り事でしょうか?」
少女は鈴のような声でモモンガに声をかける。空腹で倒れていたモモンガはその声に咄嗟に顔をあげると目の前に現れた創造されたように美しい女性を前に頭をフリーズさせる。
「あ、あ、えーっと……」
リアルでもあまりモテなかったモモンガはこういう時どう返していいのか全く分からない。逆ナンではないだろうし、ただ飢えている男をほっとけない優しい女性だろうか。
しかし、この街はお世辞にも治安がいいとは言えない。モモンガは数時間のうちにそれを感じ取っていた。貧民街と言うべきか、騎士の鎧を着たモモンガはこの街では浮いた存在だ。そしてそれは目の前の少女も同様、少女は見た目から品が漂ってくる。王族と言われても納得だ。
「いきなり声をかけられても驚きますよね。私の名前はラナー。たまたまここを通った時に気になって声をかけてしまったのですが、余計なお世話でしたか?」
少女は微笑みながらそう告げた。端麗な容姿も相まってその姿はまるで女神のようだ。
「その格好、騎士様かと思うのですが、行き倒れていらしたので、良ければ力にならせてください」
確かに騎士の姿でこんなところで行き倒れてはあまりにも不自然だということをモモンガは認識する。
しかし、恐らく一回りは年下の少女に助けられるなど流石に恥というもの。
(それに……無一文なんです!なんて言えないしなぁ……)
モモンガはどうしたものかと頭を抱えそうになるとそれを見てからラナーと名乗る少女は再び喋り出した。
「もしかしてお金を置いてきてしまわれたのですか。それで食べるものが買えずにお困りだとか?」
多少の違いはあれど、モモンガの状況をほぼ完全に言い当てるラナーに少し驚きを覚えるが、その表情は図星であることを伝える。
「ええ……まあ、情けないことですが……そんなところです」
モモンガは白状するとラナーは少し微笑みモモンガの手を掴んだ。こんな美少女に急に手を掴まれた事にモモンガは少しドキッとし、無抵抗でそれを受けいれるとラナーはそのままモモンガを連れて歩き始めた。
向かった先は明らかに高級な食事処。リアルでは高級食材どころかまともな食事すら出来ず、完全栄養食といえば聞こえはいいが、要は命を繋ぐためのみに食べる食事しかしたことないモモンガには縁遠い食事の数々が運ばれる。
こんな食事をして、お金は払えるのだろうか。
「どうぞ遠慮なさらず食べてくださいっ」
ラナーは微笑みながら、そう告げる。そう言われれば、モモンガは運ばれた食事を食べる他ない。いや、正確には初めて見るまともな食事に我慢など等に限界を迎えていると言うべきか。
「お……美味しい……」
モモンガはそれから何も言わず、次々と食事を口に運んだ。人と食べる食事など何年ぶりだろうか。それもこんなに美味しい食事は。
「本当に大変な事があったのですね」
ラナーはそのモモンガの様子から、モモンガの身分を権力闘争に敗れ、逃亡してきた騎士と予想する。
「ええ……まあ、まともな食事など久しぶりなもので……すみません……何も言わずに食べてしまうなど、必ずなにかお礼をさせていただきます」
モモンガは恩人に謝罪し、礼を述べる。それに対し、ラナーはまたしても天使のような笑みでにっこりと微笑む。
「気にしないでください。でもそうですね、お礼なら貴方のお名前と話せる限りで良いので、お話をお聞きしたいです」
ラナーのお礼とはとても言えない要求にモモンガは少女の心の美しさに感動し、身の上を話し始める。
モモンガという名前であること、ここに至る記憶がなく、頼れるものもいないこと、等など様々な事を食事を口にしながら話す。
身の上を当然一部隠蔽してとは言え語りったことで、ここまで冷静に振舞ってきた枷が外れ、危うく少女の前で泣く30代のおっさんという凄まじい絵面になるところだったが何とか堪える。
「そのようなことがあったのですね……」
少女、ラナーはモモンガの話に深く共感し、なんということか涙を流した。モモンガは慣れない女性の涙にあわあわとその場で慌てふためくことしか出来ない。
「すみません。貴方の気持ちを想像したら涙が……さぞお辛かったでしょう」
ラナーはハンカチで涙を拭きながら涙声でそう告げた。
(なんて言う優しい少女なんだ……いやいやいや……ダメだダメだ……この子はどう見ても10代、犯罪だぞ……鈴木悟!)
そんな姿に思わず、心がときめくところだが、残してきた家族……はいないが、社会人としての理性で何とか踏みとどまる。
「ええ……まぁ……ですが、何とか自身の故郷を探してみますよ」
これ以上少女に迷惑をかける訳にはいかない。そう決心し、モモンガは少女に告げる。すると少女、ラナーはテーブルに乗り出し、モモンガの手を握る。
「うぉっ……!」
咄嗟にあまりにも情けない声が漏れるが、ラナーには聞こえていないことを祈る。
「でしたら、私がいつでも力になりますっ」
ラナーは真剣な顔でモモンガに告げる。あまりにも有難い申し出に一瞬騙されているのかと過ぎるがこれが詐欺ならば、騙されても仕方がないとモモンガは結論づける。
「ええ……ありがとうございます……」
モモンガは終始ラナーに、押され、しかし、この世界で最初の協力者を得ることに成功した。それが例え、後に災悪を招きかねないことなどモモンガは知る由もなかった。
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