ターニングポイント2.1
―甲龍歴528年 ルーデウス・グレイラットの死後47年―
「……ヒトガミの奴め……まだ策を残していたのか…………」
「……すまない……ルーデウス……⋯⋯」
気づけば、白い場所にいた。
真っ白い空間。
何も無い空間。
いつもなら、ここは俺を嫌な気持ちにさせる。
だけど、今回は何かが違っていた。
……思い出せない……。
それにしても身体が思ったよりも軽い。
いつもならこの空間にくると身体が重く鉛のように感じていたんだが……。
「…………え?」
俺はふと自分の身体を見下ろし、思わず目を見開いた。
俺の姿は、脂肪の塊のような身体…………ではなかった。
よく鍛えられた引き締まった身体に、身長もどうやら現実の俺よりも、前世の俺よりも高いようだ。
髪は一本に束ねられ、腰まで届くほどの長さだ。
……おかしい。俺の身体じゃない。
いや、だけど、驚くほどこの身体に馴染みがある。
断言できる。
これは俺の身体だ。
しかし、なんで前世の姿じゃなくなってるんだ?
それに……オルステッドに……殺された……?
「どういう事だい?」
声を聞いただけで、不機嫌なオーラが伝わってくる。
そこには、いつも通り、ヒトガミが立っていた。
のっぺりとした顔で笑ってはいなかった。
「オルステッドの奴に殺されかけたと思ったら、なんでそんな状態になってるのさ」
そんなこと、俺が聞きたいよ。
「ありえない……君の瀕死の身体に別の不完全な魂がやってきて君の魂と同化した……?同化したと思ったら君の姿が変化してさぁ……。
一体全体として何が起こってるんだい?」
別の魂……?何を言ってるんだ……?
「しかも、君の考えていることが何も分からなくなったんだよ。君はほんとにおかしな運命を持っているよね」
好きでこんなことになってるわけじゃない。
ってことは、俺の心読めなくなったのか。
それはいいな、詐欺師みたいな全身モザイク野郎に心を見透かされて気持ち悪かったんだ。
…………やーい、ハゲ。
「オルステッドに出会って殺されかけたと思ったら魂に異変が起きた……その上、運命力まで以前にも増して強まっている……。
オルステッドがなにかしたのか?……いや、それはない。あの短絡的な馬鹿にこんな芸当ができるとは思えない。奴は何もわかっていないはずだ。くそっ……ただでさえ、オルステッドと出会ってしまったことだけでも大問題なのに……」
何をひとりでブツブツと言ってるんだよ、気味悪いな。
……思い出せない……。
なにか、忘れちゃいけない、大切なことが思い出せない……。
一体、なんなんだ……?
「…………なあ、一つ聞きたいんだけど、いいか?」
「……なんだい?」
「オルステッドってどんなやつなんだ?
お前のことすごく恨んでいるようだけど、何かしたのか?」
「僕は何もしてないよ。奴は悪い龍神だからね、善良な僕を目の敵にしているのさ」
悪い龍神ね……。
そうとは思えないな、何故か分からないけれど……。
オルステッド、やっぱり何か引っかかるな。
「……にしても君、見た目だけじゃなく雰囲気も今までとは違うね。妙に落ち着いているというか、なんというか……。
それに君の姿、見たところ20代ぐらいのように見えるけど、それが君の姿じゃないよね。君まだ10代のはずだったし」
言われ、俺は改めて己の姿を見る。
身長はパウロよりも少し小さいくらいか?
そういえば、パウロはどうしているんだっけ?
…………会いたいな。
「ねぇ、僕の話きいてる? 無視なんかしちゃってさぁ。
まあいいや。
他に、龍神について聞きたいことってあるかい?」
「……いいや、特にないな」
「ふーん。そうかい?ならいいけど。
まあ、奴には会わないようにするんだね。冷酷で残酷な奴だからまた殺されかけるよ。
今回は運が良かったから死んでないけどね」
「……」
「なんだ、何も反応は無しかい?
……つまんないな」
不愉快そうに、ぽつりと言った。
「今後も僕の言う通りに動いた方がいいよ。
それが君のためにもなるからね」
……よく言うよ。
「それじゃあ、またね」
その言葉を聞くと同時に、俺の意識は薄れていった。