-眷属とは
「眷属」は、本来、神の使者をいう。多くはその神と関連する動物(想像上の動物を含む)。動物の姿を持つ、又は動物にみえる、超自然的な存在を意味することもある。日本の神道における例としては、蛇や狐、龍など。神に代わって神の意志を伝えるなどする、神使とよばれる。(某デジタル辞書より)
「あら、随分と可愛らしい格好で帰ってきましたわね」
元いた場所に戻ると、昼食を取っていたエリナリーゼがこちらを見て、少しだけ目を見開いた。
彼女の目線は、俺の頭の上――今まさに小さな体で器用にしがみついているヒナに注がれている。
「ぴぃ! ぴー!」
ヒナはまるで返事をするかのように、甲高く鳴いた。
小さい体に似合わぬ元気な声だった。
俺は苦笑しながらエリナリーゼのそばまで歩み寄り、ちょうどいい岩に腰を下ろす。
そしてそっと、ヒナを手のひらへと移す。
「木のそばに、この子が倒れていたんです。巣から落ちたのか、何かに襲われたのか分かりませんが……怪我もしていて、周囲を探しても親鳥の姿も、巣も見つかりませんでした」
手のひらの中で、ヒナは小さく羽を震わせながら鳴いた。
ふわふわの羽毛は全体的に灰色で、まだらに青みがかった羽根を持っており、太陽の光を受けるとまるで宝石のように微かに輝いて見える。
「このまま放っておいたら、捕食者にやられてしまうかもしれないと思って……思わず、連れてきてしまいました」
エリナリーゼは俺の手元に身を乗り出した。
指先を優しく伸ばし、ヒナに触れようとする。
普通の野鳥なら、警戒して逃げるか、威嚇するか――だが、この子は違った。
まるで知っている人に甘えるように、ヒナはそのまま彼女の指に体を預け、甘えるように擦り寄っていった。
「ぴぃっ、ぴぃー……」
その様子に、エリナリーゼも驚いた顔をして、すぐに微笑みを浮かべた。
「随分と人に慣れてますのね」
「そうなんです。俺に会ったときも、治癒魔術をかけたあと、自分から頭の上に乗ってきました。逃げるどころか、こっちを見上げて近寄ってくるんですよ」
そう話しながら、俺はもう一度ヒナを見つめた。
手の中に収まるその小さな命は、どこか頼りなく、それでいて不思議な温かさを持っていた。
「エリナリーゼさん、この子が何の種類の鳥か、ご存知ありませんか?」
「うーん……そうですわね」
彼女はヒナを観察するようにじっと見つめ、少し眉を寄せた。
「羽の生え方や脚の形を見る限り、猛禽類のヒナに近いように思えますけど……それにしては、青い羽根はあまりにも珍しいですわ。あまり聞いたことがありませんし……もしかすると、鳥ではなく、魔物の幼体かもしれませんわね」
「魔物……ですか」
言葉を繰り返すと、自然と視線が手のひらの上へ戻る。
魔物という言葉には、どうしても危険性のイメージがつきまとう。
だがこの子には、少しもそんな気配はない。
鋭い爪も、今はただ小さく丸まり、眠そうに目を細めている。
もし本当に魔物だったとしても――凶暴性の強い種でも、小さい頃から育てれば人に懐くことがある。
むしろ、こうして人間に甘える姿を見るに、人間への警戒心そのものが、生まれつき希薄なのかもしれない。
ヒナは小さくくちばしを開けて欠伸をし、そのまま目を閉じた。
俺の手のひらで、安心しきったように、ゆっくりと寝息を立て始める。
なんという無防備さだ。
普通、野生で生きていたなら、こんなにあっさりと眠るなんてあり得ないだろう。
それともこの子は本当に、生まれたときから野生にいたのか?
「ぴょー……ぴょー……」
夢の中で何かを追いかけるように、ヒナがうっすらと鳴いた。
その声は、小鳥のように可愛らしく、どこか切なさも孕んでいて、俺はそっと、もう片方の手を添えて、体温を守るように包み込んだ。
俺はヒナに「ピー助」と名付けた。
どこかで聞いたことのある名前だと思う人もいるかもしれない。
そう、日本では国民的アニメの主人公が、映画で恐竜につけた名前と同じだが、気にしない。
ちなみに、あの映画のピー助は「恐竜」と呼ばれているが、正確には首長竜、つまり海棲爬虫類だ。
恐竜ですらない。ツッコミどころがあるが、それも含めて愛されている作品だ。
まあ、そんなことは今はどうでもいい。
数日、ピー助と一緒に過ごして分かったことがある。
――こいつ、エサを食わない。
まったく、何も食べないんだ。
木の実をあげてみた。ダメだった。
獣肉を差し出してみた。やはり、顔を背けるだけで食べようともしない。
こんな調子じゃ、そのうち衰弱するんじゃないかと心配になったが……なぜか全然元気だ。
むしろ俺より元気じゃないか?
休憩しているときには、俺の周りを駆け回ったり、木に登って羽ばたこうとしたり……。
いや、羽ばたくっていうか、バタバタ落ちてるだけなんだけどな。
「ぴぃっ! ぴぃっ! ぴー!」
今も俺の頭に乗っかって、嘴で髪をつついてくる。
引っ張るな、痛いって。
「……」
……正直、俺はちょっと思い始めていた。
もしかしたら、とんでもないものを拾ってしまったんじゃないかって。
だってそうだろう。普通、生き物って食べるし、出すだろ。
それが一切ない。まるで霞でも食って生きてるみたいだ。……仙人かよ。
俺はピー助を手のひらに乗せて、改めて観察する。
灰色の羽毛。まん丸の金色の瞳。まるで感情がそのまま表情に現れているようで――。
「ぴぃっ?」
首を傾げた。なんだその小動物的な可愛さは。
可愛い顔して、ごまかそうとしてないか? おい。
「お前さ……何者なんだ? どう考えても、ただの鳥って感じじゃないぞ」
「ぴぃっ?」
俺の問いに、ピー助は分からないとでも言いたげに、また首をかしげる。
……いや、待てよ。こいつ、普通に俺の言うこと、いろいろ理解してなかったか?
「ぴぃー、ぴょっ?」
こいつ……絶対、わざとやってるだろ。
でも、まぁ――悪いヤツじゃない。
俺の言うこともよく聞くし、何より人に危害を加えるような素振りは一切ない。
今のところ、実害はないし、問題もない。
ピー助の正体については、落ち着いてから、ゆっくり調べればいい。
今は目の前の旅が先だ。
――そして、数週間が過ぎた。
俺たちは、ついに目的地、シャリーアの街へとたどり着いた。