回帰した灰色鼠   作:実った青リンゴ

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第二章
再会


-ミリス神聖国とは

 ミリス大陸南西部を支配する世界で2番目の国力と歴史を持つ国。公用語は人間語。肥沃な土地で魔物もアスラ王国に次いで弱い。平原が多く、畑作より放牧をしている農家が多い。静謐を信条とした堅苦しい国柄で白と銀の建物が多く見られる。しかし歴史が長いため内部腐敗が進み、中身は世界で一番汚いと評される。治癒魔術と結界魔術は魔法三大国以上に発展している。(某考察wikiより)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転移魔法陣をくぐり抜けた俺たちは、ミリス神聖国のすぐ近くに到着した。

 そこから首都ミリシオンに向かって歩き始める。

 

 ミリシオンの南部には冒険者ギルドの本部がある。

 周囲には冒険者向けの宿や道具屋が立ち並び、長期滞在にも適したエリアだ。

 パウロたちが滞在しているとすれば、きっとそこだろう。

 

 ようやく……ようやく、パウロたちに会える。

 だというのに、どうにも実感が湧かない。

 

 感覚的には、俺は五十年以上パウロと会っていない。

 この世界には死後の世界がなかった。

 死んだときでさえ、彼らと再会することはできなかったのだ。

 それを思えば、今こうして再び会えるという事実が、夢のように感じられるのも無理はない。

 それでも、胸が少し高鳴る。懐かしい顔ぶれを思い出しながら、自然と歩みに力がこもった。

 

 

 

 ミリスの街へ入ると、白を基調とした清潔な石造りの建物が立ち並ぶ、美しい街並みが目に映る。

 ……街は美しい。それは間違いない。

 だが同時に、ミリスの面倒な宗教制度や政治的な側面も思い出される。

 できることなら、あまり深入りしたくない国ではある。

 

 

 冒険者ギルドにたどり着き、重い扉を開けた。

 ギルド内は、大森林が近いこともあって多種多様な種族の冒険者たちで賑わっていた。

 受付カウンターの奥、冒険者用の休憩スペースへと足を運ぶ。

 

 ――そのとき、騒がしい声が聞こえてきた。

 

「じゃあ、どうしろってんだよ!」

「落ち着かんか。手紙には“待っていてくれ”と書かれておったじゃろ。それなら信じて待つべきじゃ」

「だけどな……! ルディは一回、ラノアに寄るって言ってたんだぞ!? ラノアからここまで、どれだけ時間がかかると思ってるんだ! 待ってられねぇ! ゼニスの居場所はもう分かってるんだぞ!」

「パウロさん、落ち着いてください……。ルディが何も考えずに動いているとは思えません。もしかしたら、すぐに移動する手段を用意しているのかもしれません」

「だけどな、それを信じて来なかったら、時間を無駄にするだけだ! このままじゃ、また何年も……!」

「だから落ち着けと言うておろう。ルーデウスに直接聞かねばならぬこともあるじゃろうが」

 

 間違いない。パウロたちだ。

 俺の到着について、言い争っている。

 

 ……手紙に転移魔術のことは書かない方がいいと思っていた。情報が漏れれば厄介なことになる。

 だが、せめて「すぐに着く」とだけでも伝えておけばよかったかもしれない。

 

 胸の中に申し訳なさと、懐かしさが混ざったような気持ちが広がっていく。

 

 

 そして、パウロの姿を目にした瞬間――俺の足は、自然と駆け出していた。

 

「父様!」

 

 声が喉からあふれ出たとき、パウロがこちらを振り返る。

 

「えっ……ルディ?」

 

 驚いたような声。

 それが聞こえた次の瞬間には、俺はパウロの胸に飛び込んでいた。

 

 パウロは咄嗟に俺を抱きとめてくれた。

 俺の身長はまだ小さくて、頭はちょうどパウロの肩のあたりまでだ。

 その広い胸に顔を押しつけるようにして、俺は両腕を回した。

 

「……会いたかったです、父様」

 

 気がつけば、目の奥が熱くなっていた。

 込み上げてくるものを堪えきれず、涙がにじむ。

 

「お前、ずいぶんと来るのが………」

「父様、久しぶりに再会した息子にかける言葉があるでしょう?」

「あ、ああ…………俺も、俺も会いたかったぞ、ルディ」

 

 パウロの声が少し震えていた。

 彼もまた、俺の背中に腕を回し、しっかりと抱きしめてくれた。

 

 本当に、会えたんだ。

 夢でも幻でもない。

 温もりが、声が、すべてが確かにここにある。

 

 嬉しくて、胸がいっぱいになる。

 俺がようやくパウロを「父」と思えるようになったあの頃、彼はもう――俺の目の前からいなくなっていた。

 俺を庇って、命を落とした。

 

 だからこそ、今こうして――

 もう一度、この腕の中にパウロの存在を感じられることが、たまらなく嬉しかった。

 

「大きくなったな……ルディ……」

 

 その声を聞いた瞬間、堪えていたものが決壊した。

 俺は、思わず泣いてしまった。

 

 

 しばらくの間、何も言わず、ただパウロと抱き合っていた。

 やがて、こみ上げる涙も少しずつ落ち着いていく。

 ふと周囲に目を向けると、周囲の人たちが微笑ましそうにこちらを見ていた。

 ……なんだか、ちょっと恥ずかしい。

 

「ルーデウスは旅の間、ずっとパウロに会いたそうにしてましたわよ? ――まったく、パウロは息子に頼りすぎなんですのよ」

 

 そんな声がして振り返ると、エリナリーゼが腕を組んで不機嫌そうにパウロを睨んでいた。

 

 ……えっ、俺そんなに会いたそうにしてた?

 てか、エリナリーゼ、それ言わなくていいから……。

 

「……エリナリーゼ」

 

 二人の間に漂う微妙な空気に、俺は慌てて視線を行き来させる。

 前回では、パウロはちゃんと彼女に謝っていたけど……今回は大丈夫か?

 そんな俺の心配をよそに、パウロが頭を下げた。

 

「あのときは悪かった。

 お前のほうも、俺の家族のことで色々と気を使ってくれているんだよな。本当に感謝してる。

 ……あの時のことは、心から謝る」

 

 エリナリーゼはぷいとそっぽを向いたまま、鼻を鳴らした。

 俺は彼女の様子を不安そうに見つめる。……大丈夫だよな?と心の中で願う。

 すると、エリナリーゼが口を尖らせて、やれやれといった表情で言った。

 

「……あのときの件、わたくしにも非があったと思ってますわ。あなたの息子に免じて、許してあげますことよ」

「おお、ありがとう、エリナリ……ん? ルディに免じてって……お前、まさかっ! 俺の息子に手を出したのか!?」

「出してませんわよっ! 貴方と親子なんて、まっぴらごめんですわ! ……ただ、あまりにもルーデウスが可哀想でしたから」

「ああ……すまん、ルディについて来てくれてありがとな」

「どういたしまして」

 

 おお……なんとか、丸く収まったみたいだ。

 パウロとエリナリーゼの間に微妙な緊張は残っていたけれど、今すぐ修羅場になるような雰囲気ではない。

 よかった。とりあえず一安心。

 

 俺は二人のやり取りからいったん目を逸らし、ロキシーへと向き直った。

 

「お久しぶりです、ロキシー先生」

 

 姿勢を正して、少しだけ緊張気味に声をかける。

 

「久しぶりですね、ルディ。本当に……大きくなりましたね」

 

 変わらぬ口調で、変わらぬ微笑み。

 その声を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなった。

 

「先生は、お変わりないですね」

 

 本当に、まるで時間が止まっているかのようだった。

 魔術師らしいローブをまとい、青い髪を三つ編みにまとめて、眠たげな瞳でこちらを見つめる――

 あの頃と変わらない、俺の大切な師匠だ。

 

 ……未来では、俺が年老いてもロキシーは若い姿のままだった。

 会うたびに、何度も同じことを思った。けれど、やっぱり今も変わらず綺麗だ。

 

「まだ俺のほうが少し背が低いですけど、すぐに追い抜きますよ」

「ふふ、それは……楽しみにしていますね」

 

 ロキシーがふわりと笑う。

 その笑顔に、俺は思わず頬が緩んでしまった。

 

 そんな穏やかな空気の中、ひとりの男がこちらに近づいてきた。

 背は低く、肩幅は広い。がっしりとした体格に、長く立派な髭――炭鉱族の男、タルハンドだ。

 

「お前さんが、噂のルーデウスか」

「あ、はい。はじめまして、ルーデウス・グレイラットです」

「タルハンドだ。……まだ若いのに、しっかりしとる。パウロの息子とは思えんわい」

「ルディは昔から賢かったですからね」

 

 ロキシーが横からさらっと褒めてきた。

 まあ、前世の記憶を持ってたんだし、そりゃそうだよね。

 

 俺はタルハンドに軽く頭を下げ、三人で少し言葉を交わす。

 ――そういえば、思い出したけど、この人……たしか、男が好みだったよな。

 未来では会うたびに俺の尻をじっと見てて、なぜか背筋に寒気が走った記憶がある。

 まあ、何かを奪われるわけじゃないし、害はないんだけど……

 今の俺はまだ年端もいかない子供だし、そういう目では見られてなさそう。……たぶん。

 

 そんなことを考えていると、背後から声がかかった。

 

「ルディ! ここで話すのもなんだし、場所を変えよう。宿を取ってあるんだ。ギースもそっちにいるぞ」

「ギースさんも? 本当ですか」

「おう。実は一年ほど前に西の方でギースと再会してな。その後は一緒にゼニスの手がかりを追ってたんだ。……まあ、詳しいことは宿で話そう」

「はい、わかりました」

 

 

 俺は軽く頷き、みんなと共にギルドを後にした。

 再会の喜び、懐かしい顔ぶれ、そしてこれから向かう宿――そこに、また新たな話が待っている気がした。

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