回帰した灰色鼠   作:実った青リンゴ

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目覚め

-回帰とは

 一般にはもとの位置または状態に戻ること、あるいはそれを繰り返すこと。(某デジタル辞書より)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、目が覚めた。

 全身が汗でぐっしょりと濡れていて、ベタつく感覚がやけに不快だ。

 目を開けた時、一番初めに目に入ったのは、不安げな顔で見たくないものを見るような目で俺を見ていたエリスだった。

 俺が目を覚ますと、ほっとした顔になった。

 目が真っ赤だ。

 

「る、ルーデウス……目が覚めたの!?」

 

 エリスが心配そうに俺を覗き込みながら、優しく話しかけている。

 俺は、その顔を見上げる形になっていた。

 柔らかい感触が、後頭部につたわる。

 これは、ひざまくらだ。

 

「……」

 

 あれ?

 俺は一瞬、自分がどこにいるか分からなくて、ぐるりと目線を巡らせた。

 視線を巡らせた先――そこに、横たえられたルイジェルドの姿があった。

 ……そうだ。思い出した。

 今は、オルステッドに全滅させられた直後だった。

 

「う……げはっ!」

 

 何かを喋ろうとして、血が吐き出された。

 

「ルーデウス!」

 

 思わず両手を地につき、吐き気をこらえるように体を曲げる。

 

「ゲホッ……ゲホッ……!」

 

 俺は血を吐き終え、激しくむせた。

 エリスに背中をなでられる。

 

「……大丈夫?」

 

 

 ぐわん――。

 頭が揺れる感覚。

 ざざっ……脳裏を走る、白いノイズ。

 

 痛い。

 頭が、割れそうに痛い。

 

 片手で頭を押さえてうずくまる俺を見て、

 エリスが「ルーデウス?」と、心配そうな声をかけてきた。

 ――その声を、頭の片隅でなんとか認識する。

 

 

『――今まで、ご苦労だった。お前は安らかに眠れ』

 

『はは……まだ、寝るには早い時間ですよ』

 

 柔らかな日差しが窓から差し込む静かな室内。

 傍らには、俺の大切な家族がいた。

 

 

 ぐわん――。

 

 

『俺はお前の事、そんなに嫌いじゃなかったんだと思う』

 

『まあ、俺が言う事じゃないかもしれないけど……』

 

『これから、頑張れよ』

 

『じゃあな』

 

 

 

 ――思い出した。そうだ。

 享年七十四歳。

 俺は――一度、ルーデウス・グレイラットとしての人生を終えていたのだ。

 

「ルーデウス!」

 

 エリスの焦ったような声にハッと我に返った。

 気づけば俺は、地面に両手をつき、四つん這いの格好になっていた。

今にも倒れそうな姿勢で、荒く、ぜいぜいと息をついていた。

 全身は汗でびっしょり濡れ、四肢はひどく冷え切っていた。

 

「ルーデウス、本当に、大丈夫なの?」

 

 エリスが、目に涙をためながら、今にもこぼれ落ちそうな心配そうな顔で、俺の背中を優しく撫でてくれている。

 俺は「大丈夫だ」という意味を込めてエリスに視線を向けた。

 そして、自分の胸にそっと手をあてる。

 俺のローブの胸元には大きな穴が空き、

 その奥に見える地肌には、まるで溶接されたような、妙な跡がある。

 ……そうだ。

 …………オルステッドにハートキャッチ(物理)された直後だった……。

 

 

「さっき、あの女が、何か言ったら、

 あの、オルステッドとかいうのが、治療魔術でルーデウスを治療して……」

「ああ、ナナホシが……」

「知ってたの?」

「まぁ、一応」

 

 ああ、そういえばこの時期のナナホシって、オルステッドの腰巾着をやってたな。

 ラノアに向かってた途中――だったっけ?

 

 にしてもさ、ヒトガミの単語を聞いただけで問答無用で殺しにくるって、

 マジでそういうとこだぞ、オルステッド!

 ……でも、考えてみりゃ、俺も「ヒトガミ知ってます」なんて言われたら即座に身構えるよな。

 うん、そういうもんか……。

 ヒトガミを知ってるやつに、ろくなのいなかったし…………。

 

「ルイジェルドさんは?」

「まだ目が覚めてないわ」

 

 道の端にルイジェルドが寝かされている。

 馬車も道の端へと寄せられ、焚き火がたかれていた。

 全て、エリス一人でやったのか。

 

 エリスの横に腰を下ろし、手を組んでゆっくりと頭を動かす。

 ……まだ、少し頭が痛い気がする。

 今は、ちょっと整理する時間が必要だな。

 俺が死ぬまでのこと。

 そして、死んだ後のこと。

 ……なぜ俺は、今ここにいる?

 なぜ、人生をやり直すなんて現象が起きているんだ?

 

「ルーデウスは……、随分と落ち着いてるわね」

「そう見えます? 実は頭ん中ぐっちゃぐちゃで、もう何が何だか……」

 

 エリスが、不安そうな顔でこちらをじっと見つめていた。

 その様子に気づいて、

 

「エリス、僕はもう大丈夫ですよ。

 まったく痛くないし、身体も平気です。」

 

 そう言って両手を広げると、

 エリスは一瞬の躊躇いもなく身を寄せてきて、俺を強く抱き締めた。

 肩に顔を埋め、じんわりと温もりが伝わってくる。

 

「…………うっ……ぐすっ……」

 

 エリスは泣いていた。

 声もなく、静かに泣いていた。

 

「よかった……」

 

 ぽつりとそのつぶやきの声が、胸の奥に染みる。

 俺は力を抜きながら、そっと彼女の背中をぽんぽんと叩いた。

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