回帰した灰色鼠   作:実った青リンゴ

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第三章
迷宮都市


-迷宮都市ラパンとは

ベガリット大陸でも指折りの大都市。

大陸東側の内陸に存在する。

元々は小さなオアシスだったが、北神二世が砂漠で暴れまわる大ベヒーモスを退治し、その死骸を食べたアント系の魔物が大量の巣穴を掘ったことで、それらが全て迷宮と化し『迷宮都市』の異名を持つようになり、一攫千金を求める世界中の冒険者と商人が集まるようになった。

町の周りをベヒーモスの肋骨が覆っている。

(某考察wikiより)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やばい。どうしよう。

 ……俺は見てしまった。

 迷宮都市ラパンのすぐ近く、でっかい岩のそばにあった――あの、七大列強を示す石碑を。

 

 冷や汗がじっとり出てくる。

 今、俺は、あの石碑が怖くて見ることができなかった。

 よし、見なかったことにしよう。

 俺は何も見てない。これは夢。錯覚。蜃気楼。岩。たぶんただの小さい岩だ。

 

「あっ、見てください、ルーデウス君。七位の文様が変わってますよ!」

 

 や め て く れ。

 クソっ、気づかなかったことにしようとしてたのに!

 よりにもよって、アレクが無邪気な顔で指差してくる。

 ……お前、それ言っちゃう?

 今俺が、必死になかったことにしようとしてたの、見えてなかった?

 

 俺はじとっとした目でアレクを睨みつけた。

 

「ど、どうかしましたか?」

「……いえ、なんでもないですよ」

 

 仕方なく石碑を見直すと、そこには七つのマークのひとつにミグルド族のお守りの形があった。

 三つの槍が組み合わさったような、あのマークだ。

 俺にとって大事な意味を持つ大切な形だ。

 

 ……でも今は、それどころじゃない。

 

 七位が俺だってバレたら、力試しに来た物好きに殺される未来しか見えない。

「ルーデウス・グレイラット! 貴様の首、いただく! お覚悟ォッ!」とか言われて。

 

 よし、決めたぞ。七位の正体は永遠に謎のままだ。

 誰にも言わない。語らない。正体不明の永久欠番だ。

 もちろん、アレクにも口止めしておこう。

 

「アレク、七位が俺になったこと、絶対に誰にも言わないでくださいね。マジで命に関わるんで」

「……君って、意外と臆病なんですね。北神倒したんですからもっと堂々としてても――」

「いやいやいや、アレクが本気出せば、俺なんて一発で天に召されますて」

 

 本当にそうだ。

 あの時は、アレクが俺を侮ってたのと、それと……うん、運が良かった。超ラッキーだっただけ。

 まともにやったら勝てるわけないし。アレク、バケモンだし。

 

「もし七位の称号が欲しくなったら、ちゃんと正面から言ってくださいね? その時は素直に返すから。だから、寝首をかくとかやめてくださいよ」

「ははっ、大丈夫ですよ。その時は正面から正々堂々と、決闘を申し込みますから」

「……いや、もう、決闘は遠慮したいんだけど……」

 

 それにしても、七大列強の石碑っていったいどういう仕組みなんだろうな。

 単純な力の勝ち負けだけじゃなくて、精神的なものとか、何か別の要素も含まれているんだろうか。

 ……正直、よくわからないな。

 

 

---

 

 

 そして、俺たちはラパンの冒険者ギルドへと足を運んだ。

 パウロたちがいるとしたら、きっとここだろう。

 無事に着いていればいいんだが……。そんなことを考えながら、俺は周囲を見渡す。

 

「――あっ、あちらにいますよ」

 

 アレクが指さした先を見ると、ギルドの隅の方にパウロたちの姿があった。

 少し距離があるせいか、こちらにはまだ気づいていないようだ。

 よく見ると、皆そろって深刻そうな表情をしている。

 

 ……やばい。本気で心配させてしまっていたらしい。

 しかも、あの時いきなり襲いかかってきたアレクが今は俺の隣にいる。

 このまま近づいたら、余計に警戒させてしまうかもしれない。慎重に行かないと。

 

「僕、声をかけてきますね!」

 

 俺が心の中で段取りを組んでいると、アレクがそう言って前に出ようとする。

 おいおい、やっぱり何も考えてないな、こいつ……。

 未来でもそういう無鉄砲なところで、何度も苦労したっけ。

 思わず遠い目になりそうになるが、今はそんな場合じゃない。

 

 咄嗟に、俺はアレクの首の襟を両手でガッと掴んだ。全力で。

 

「待った! 今アレクが行ったら、確実に警戒されますって。まずは俺が事情を説明します。アレクは、それから話してください!」

「はっ! たしかに。すみません、おとなしくしてます!」

 

 アレクはぴたっと止まり、俺の後ろで素直に頷いた。

 ……この男、いっそリードでもつけておくべきかもしれない。

 

 

 

 

「父様!」

 

 俺は声を張り上げて、パウロたちに呼びかけた。

 その声に反応して、ギルドの一角にいた面々がこちらを振り向く。

 

 そして、俺の顔を見た瞬間、皆の表情がぱっと緩んだ。

 張り詰めていた空気が、少しだけ和らぐ。

 

「ルディ! 無事だったか!」

「はい、なんとか大丈夫です」

 

 俺は笑顔を作って、できるだけ安心させるように答えた。

 ひとまず自分の無事を伝えたことで、場の空気は落ち着きを取り戻す――かと思ったのも束の間。

 

 すぐに、皆の視線が俺の隣に立つアレクへと移り、表情が一転する。

 露骨に怪訝そうな目つきだ。

 ……まあ、当然か。よりによって、斬りかかってきた張本人が、今は普通に俺の隣に立ってるんだから。

 

「それにしても、なぜ北神三世がここに……?

 どうして一緒にいるんですの?」

 

 代表して口を開いたのはエリナリーゼだった。

 彼女の眉はピクリと動き、その口調には明らかに警戒が滲んでいる。

 

「……それも含めて、ちゃんと説明しますね」

 

 俺はそう答えて、一歩前に出る。

 さあ、ここからが本番だ。

 

「実は――」

 

 

---

 

 

「すみませんでした!」

 

 アレクが深々と頭を下げ、パウロたちに謝罪した。

 俺はその横で、これまでの経緯を丁寧に説明する。

 いろいろとあったが、最終的には説得に成功し、アレクが協力してくれることになった――という話だ。

 

 ひととおりの説明を終えると、アレクが再び一歩前に出て、改めて頭を下げた。

 

「僕の軽率な行動で、ルーデウス君を危険に晒してしまいました。本当に、申し訳なく思っています」

 

 その姿勢は真摯で、言葉にも嘘はなかった。

 最初は険しい顔をしていたパウロたちも、次第に表情を和らげていく。

 

「まあ……ルディがいいって言うんなら、もういいが……」

 

 パウロは少しだけ口ごもりながらも、そう言って溜息をついた。

 どうやら大きな問題にはならなさそうだ。

 

「父様! アレクは母様の救出を手伝ってくれるって言ってるんですよ。つまり、これは強力な戦力が加わったってことなんです! もっと喜んでくださいよ!」

 

 俺は思わず声に力が入った。

 正直、アホなところもあるやつだが、戦力としては申し分ない。

 このメンバーの中でも、アホのアレクの実力は頭ひとつ抜けている。頼れるのは間違いない。

 

「……まあ、うん。そうだな、ルディも無事だったし……本当によかったよ」

 

 パウロが安堵の息をつくように呟いた。

 その言葉に呼応するように、周囲の仲間たちも口を開く。

 

「どうなることかと思ったが、一件落着なようじゃな。強力な助っ人も加わって、これで少しは楽になるわい」

「そうですわね。ひとまず安心ですわ」

「ええ、本当によかったです。すごく心配しました」

 

 ロキシーが柔らかな笑みを浮かべながら、ふと俺の前に歩み寄ってくる。

 そして、手にしていた杖を差し出した。

 

「あの、ルディ。預かっていた杖、ここで返しておきますね」

 

 そういえば、重力操作関係とか、俺の使い方で壊れてしまったら困るからってロキシーに預けていたんだった。

 俺はその杖を丁寧に受け取り、感謝の気持ちを込めて微笑んだ。

 

「ありがとうございます、先生。助かりました」

「……はい。……どういたしまして」

 

 ――あれ?

 ロキシーが少し照れているような……?

 

 いやぁ、照れた顔もまた可愛いな。

 目の保養だし、心の栄養にもなる。

 ああ、癒やしって大事だ。

 

 そんなふうに和やかな空気に浸っていると、不意にギースの声が場を引き締めた。

 

「よしっ! ひとまず問題は片付いたし、迷宮攻略の準備に移ろうぜ。俺は転移の迷宮に関する情報と必要な物資を集めてくる。それまで、しばらくの間は自由行動だな!

 食うなり、寝るなり、ヤるなり、好きにしろ!」

 

 こういう時に頼れる男・ギースの快活な声に、パウロが頷いた。

 

「じゃあ、頼んだぞ。ギース」

「あぁ! 任せとけって!」

 

 こうして、俺たちは一旦それぞれの行動に移ることになった。

 次なる戦いに備えて――束の間の休息の時間だ。

 

 

---

 

 

 そして、アレクの自己紹介も無事に終わり、俺たちはそれぞれ自由行動に移った。

 

 アレクは、使っていた大剣が壊れたことで、新しい剣を鍛えてもらうために鍛冶屋へ向かった。

「そんなすぐに作った剣で大丈夫かよ……」と心の中で思ったが、アレク本人は「ある程度丈夫ならいい」と気にもしていない様子だった。

 ついでに、例の“王竜剣カジャクト”の残骸は捨てるわけにも、売るわけにもいかない代物なので、アレクはそれを紐でぐるぐるに縛って、背中に背負い続けている。

 まるで不燃ゴミだ。

 

 

 エリナリーゼとタルハンドも、それぞれ用事があるらしく、軽く挨拶を交わしてから別行動に。

 ロキシーは「魔術関連の本を見に行きたい」と言って、そっち方向へ向かった。

 

 ――そして俺はというと、パウロと一緒に武器屋をぶらついていた。

 なんとなく、パウロが全体的に落ち込んでいるような雰囲気をしていたから、ついてきたんだ。

 いわゆる、家族サービスってやつだな。

 

 けど、当の本人はというと――やけに無言で、どこか心ここにあらずって感じだ。

 そして、俺の顔を見つめたかと思うと、ふいに手を伸ばして俺の頭の上にぽんと置いた。

 まるで、身長を測ってるかのように。

 

 ……え、なに? どうしたんだ?

 はっ! まさか……俺の身長が小さいこと、気にしてるのか?!

 

 確かに、13歳の半ばってまだそんなに伸びなかったんだよな。

 だけど、少し経てば急にグンと伸びる時期がくるから、そこは安心してくれ。

 とーちゃん!

 オラ! でっかくなる!

 ……なんちゃって。

 

「父様」

「ん?」

「どうかしましたか?」

「いや……なんでもないんだ」

 

 そうは見えないけどな。

 ……まさか、ついにボケが始まったのか?

 この年で親二人の介護スタートとか、さすがに人生ハードモードだぞ。

 

「剣、見に行きましょう。

 新しいのが欲しかったんですよね?」

 

 そう促すと、パウロはようやく我に返ったように小さく頷いた。

 

「……ああ、そうだな。行こうか」

 

 

---

 

 

「あれ? この剣だけ扱いが雑だな。なんかあるのか?」

「ああ、その短剣か。そいつは干し肉すら切れねぇナマクラだよ。迷宮から出てきた出土品だが、数年前からずっと売れ残っててな。良かったら、安くしておくぜ」

 

 あの剣……。

 たしか、相手が硬ければ硬いほど切れ味が増す魔力付与品じゃなかったか。かなり珍しいレアな物のはずだ。

 パウロは、ここでそれを見つけたんだな。

 

 パウロの方を見れば、頭の上に電球が浮かびそうな顔をして、手に取り、その剣を買った。

 

 そして店から離れてから得意げに俺の方へ向き直り、自慢げに話しはじめた。

 

「見ろよルディ、この剣、一見なんの役にも立たなそうに見えるが――俺の目はごまかせない。これはすごい代物だ!」

 

 うん、まあ、知ってるぞパウロ。

 「いかにも俺の慧眼がこの剣の真価を見抜いた」って顔してるけど、どうせペルギウスの伝説からヒントを得たんだろ。

 俺は苦笑いしながら答えた。

 

「そうなんですね。それは良かったです」

 

 パウロは嬉しそうにしてから、剣を大事そうにしまい、そして、次の瞬間、俺の肩をバシッと組んできた。

 

「なあルディ、せっかくなんだし明日はロキシーと一緒に露店でも回ってみたらどうだ? ここは迷宮都市だから、けっこう面白いモンが売ってたりするぞ」

 

 ロキシーと? そういえば、再会してからあまりゆっくり話せてなかった気がするな。

 俺としたことが、うっかりしてた。

 せっかく時間もあるんだし、そうしてみるのも悪くない。

 

「そうですね。今日、宿に戻ったら先生に聞いてみます」

 

 明日はもしかしたら、ロキシーとデートできるかもしれないんだ――楽しみだな。

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