回帰した灰色鼠   作:実った青リンゴ

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激闘

-繝、繝槭ち繝弱が繝ュ繝とは

 譌・譛ャ神話にみえる頭と蟆セが蜈ォ縺、縺壹▽ある巨大な陋。尾を割いて螟ゥ蜿「髮イ蜑」を蠕励◆という。

(某デジタル辞書より)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い魔法陣。

 

 隠し階段を見つけて、俺たちはここまで降りてくることができた。

 目の前には、見覚えのある赤い転移魔法陣がある。

 

 ……うーん。でも、なんだろうな。

 心なしか、以前よりも赤黒く見える気がする。

 俺がこの魔法陣を最後に見たのは、随分と前だったから記憶違いか?

 いや、それとも……俺の気持ちの問題かもしれない。

 緊張で、手のひらにはじっとりと汗がにじんでいた。

 

「ルディ。この先にいるんだよな?」

「はい、おそらく」

 

 先頭にいたパウロが振り向き、俺に尋ねてきた。

 この先にヒュドラがいる。そして、その奥には――囚われているゼニスがいるはずだ。

 

「よっしゃ、突入する前に、宿で話した作戦内容をもう一度確認しておこうぜ」

 

 ギースが切り出し、俺たちは顔を合わせるように輪を作った。

 

「まず、部屋に入ったら最初にやるのはゼニスの状態と守護者の能力確認だ。先輩から聞いた情報を疑うわけじゃねぇが、念には念を、ってな。それからはアレクサンダーがメインでパウロと二人で守護者の首を――」

「それであれを使うんですよね!? ルーデウス君が使っていたあの電撃を!」

 

 ギースの話をアレクが興奮気味に遮った。

 ……まったく、いつも通り元気だな。

 

 パウロが少し不安げに尋ねてくる。

 

「その魔術……本当に守護者に効くのか? 赤竜を倒したってのは聞いたけどよ」

「威力なら僕が保証します。なぜなら、僕が身をもって体験しましたからね! あれは闘気ごと貫通しますよ。ほんとにすごいです!」

 

 アレクは親指で自分を指し、誇らしげな顔をしていた。

 ……いや、お前が自慢することじゃないだろ。

 

「問題ないと思います。全力でヒュドラの傷口の断面に電撃を当てることができれば、感電死も狙えるかもしれません。ただ、もし電撃が通じなかったら、その時はプランBで」

「プランB?」

「ヒュドラは生きてると首を切っても再生しますから、剣で斬って、傷口を炎で焼く方です」

「ああ、それか」

「その時は先生もお願いします」

「はい。お任せください」

 

 プランAは電撃。プランBは炎。

 プランAの場合、ロキシーには回復に専念してもらうことになっている。電撃魔術は俺にしか扱えないからだ。

 俺の治癒魔術は詠唱が必要だが、ロキシーは詠唱を短縮できる。ヒーラー役には適任だ。

 本当は治癒魔術のスクロールでもあればいいんだけど……残念ながら持ち合わせていない。

 

「炎で焼く方法ヒュドラが首を食いちぎって再生する可能性があるんです。なので、通用しそうでしたら電撃を使おうと思います。電撃は表面だけじゃなくて内部も破壊できるので。

 僕が様子を見て判断します。何も指示がなければ、プランA、電撃でお願いします」

「ああ、わかった」

 

 パウロを含め、全員が小さくうなずいた。

 

「よし。もし途中で予想外の事態が起きたら、一旦撤退だ。変に粘ったりするなよ。いいな、パウロ」

「いや、なんで俺だけ名指しなんだよ」

「日頃の行いですわよ」

「どんまいです、父様」

「うっ……」

 

 ……ほんと、考えなしに突っ走ったりするからだよ。

 やれやれだ。

 

 何か異常があって作戦どおりに進まなくても、無理はしない。

 危なければ引けばいい。

 挑戦回数に制限があるわけでもないし、一日に一回しかボスに挑めないゲームじゃないんだから。

 

 それに、今回はアレクもいる。戦力には不安がない。

 他の冒険者にも協力を頼んではみたが、手を貸してくれる者はいなかった。

 ……まあ、仕方ない。危険度が高すぎるんだ。

 普通は及び腰にもなるさ。

 

「エリナリーゼとタルハンドは、守護者の攻撃が邪魔にならないようにうまく逸らしてくれ」

「ええ、わかってますわ」

「おう、任せとけ」

 

 二人は今回、サポート役がメインだ。

 そう、俺の……いや、今の俺にはそれがありがたい。

 体はまだまだ仕上がっていないし、仕方ない。

 重力魔術が使えればいいんだが、ヒュドラの魔術無効がどこまで影響するかわからない以上、無理はできない。

 今の俺じゃ、動きを封じるのは難しいかもしれない。

 

 ……帰ったら、ちゃんと鍛え直さないとな。

 気を抜かずにいこう。油断したらダメだ。

 

 そんなふうに自分に言い聞かせていると、ギースの声が飛んできた。

 

「あと、一人で勝手に突っ込んだりするなよ。誰のことか、言わなくてもわかるよな?」

 

 俺は思わずパウロの方を見た。

 当の本人は目だけでアレクをちらっと見ていたけど……いや、違うだろ。

 アレクも危なっかしいけど、本当に心配なのはパウロの方だ。

 

 ゼニスのことになると、明らかに冷静さを欠く。

 アレクは少なくとも、言われたことはちゃんと聞く子だ……たぶん。

 

「パウロ、お前のことを言ってるんだぞ。ゼニスの姿を見たからって、一人で突っ走るなよ」

「あ、あぁ。わかってるって……」

 

 パウロがちょっと落ち込み気味にうなずくのを横目に、俺は肩に乗っているピー助に話しかけた。

 

「ピー助、お前はギースのそばにいろよ。危ないからな」

「ぴぃ! ぴっぴぃ!」

 

 ピー助は肩の上でぴょんぴょん跳ねながら、元気よく返事した。

 「わかってるってば、ご主人。心配性だな、こんにゃろ〜!」みたいな雰囲気。

 まあ、これは俺なりのアテレコだけど。

 

 ……それにしても、鳥っていいよな。

 ピー助がもう少し大きくなれば、漫画に出てくるような鳥使いみたいなこともできるかもしれない。

 空を飛べて、目も良くて、偵察なんかにもぴったりだ。

 伝書鳩としての素質もあるかもな。ピー助、賢いし。

 俺は軽くピー助の頭を撫でてやった。

 

 

 すると、パウロが俺の方を向いて声をかけてきた。

 

「ルディ、こんな時に言うのも悪いと思うんだがな」

「じゃあ言わないでください。マジで怒りますよ」

「お、おう……すまん……」

 

 俺は険しい顔でピシャリと言い返した。

 パウロはまたしょんぼりした顔になる。

 

 ……まったくもう。パウロは死ぬ可能性が高いっていうのに、そういう死亡フラグみたいなこと言わないでほしい。

 本当に笑えないんだからな、そういうのは。

 

 

「よし、行くぞ。全員、気を引き締めろよ!」

「おうっ!」

 

 パウロの声に、全員がうなずく。

 俺たちは互いに顔を見合わせて、同時に魔法陣へと足を踏み入れた。

 

 

---

 

 

 魔法陣をぬけた先は、荘厳な宮殿が広がっていた。

 部屋の隅には何本もの太い柱が立ち並び、タイルの一つ一つには複雑な文様が刻まれていた。

 

 

 

 ――いや、今はタイルの文様なんてどうでも良かった。

 

 中に入った瞬間、俺は鋭い寒気に襲われた。

 腕にはびっしりと鳥肌が立ち、思わず立ち止まってしまう。

 そして、驚きのあまり目を見開いた。

 

 ……ちがう。

 これは、俺の知っている空間じゃない……!

 

 視界を埋め尽くしていたのは――どす黒い赤だった。

 まるで血に闇を混ぜたような、不穏な色。

 

「守護者がいましたわよ!」

「その奥にゼニスも確認したぞ! ルーデウスが言っていたとおり、結晶の中じゃ!」

 

 エリナリーゼとタルハンドの声が届き、俺も二人の視線の先に目を向けた。

 宮殿の奥、そこにいたのは、俺の予想どおり――巨大な魔物。

 そしてそのさらに奥、巨大な魔石結晶が鎮座していた。

 けれど、その二つとも……俺の記憶と決定的に違っていた。

 

 あれは、エメラルドグリーンじゃない。

 鱗も、結晶も――まるで腐りかけた血のような赤黒さ。

 澱んでいて、重く、触れるだけで穢れそうな色をしていた。

 

「ゼニス!」

 

 パウロの叫びが宮殿に響いたが、俺は動揺で身体が動かなかった。

 ……なぜだ。

 なんで……俺の知っている記憶と違うんだ……?

 

「ルディ! ロキシー!」

「先輩、立ち止まるな!」

「ルディ、魔術の準備を!」

 

 呼びかけられて俺は、はっとして我に返った。

 そうだ――まず最初に、俺とロキシーで魔術を撃つ予定だったんだ。

 と、とにかく、撃たないと……!

 

 息が上がりそうになるのを抑えながら、俺は杖を構えた。

 

「静かなる氷人の拳、『氷霜撃』!」

「『石砲弾』!」

 

 俺とロキシーの放った魔術がヒュドラに向かって飛ぶ。

 

 ――ヒィィィィン!

 

 着弾の寸前、ガラスを引っかくような耳障りな音が響いた。

 

「魔術の無効化を確認しました!」

 

 ロキシーが叫んだその瞬間、ヒュドラの首の一本が、ぎろりと俺の方を睨んだ。

 ゾクリと背筋が凍る。思わず、身体が震えた。

 

「アレクサンダー!」

「はい、わかってますよ!」

 

 ギースの声が聞こえた瞬間、アレクがすかさず前へ飛び出す。

 ヒュドラはぐにゃりと首を曲げて迎え撃つが、アレクは紙一重でそれをかわす。

 そして――一気に距離を詰め、大剣でヒュドラの首を一刀両断した。

 

 首が宙を舞い、血飛沫が舞った。

 

 パウロも別の首に向かって斬り込んでいた。

 こちらも血飛沫は上がったが、完全には断ち切れていない。

 

 エリナリーゼとタルハンド、そしてロキシーの援護で、ヒュドラの足止めに成功した。

 そして、その間にパウロたちはヒュドラの射程圏内から脱した。

 

 俺たちが動いている間に、ヒュドラの首は――再生していた。

 

「守護者の首が再生しています!」

「事前に聞いていた通りじゃな!」

「よし、ルディ! このまま行くぞ!」

 

 ……いや、ダメだ。

 あれは俺が知っているヒュドラじゃない。

 宮殿にも、なにか異常があるのかもしれない。

 このまま突っ込んだら、危険だ。

 

「待ってください! 一旦、撤退してください!」

 

 俺はパウロたちに向けて叫んだ。

 だが、パウロは前を見たまま、止まろうとしなかった。

 

「はぁっ!? どうしてだ、ルディ! ゼニスはもう目の前なんだぞ!」

「父様!」

 

 パウロは今にも飛び込んでいきそうだった。

 すると、近くにいたエリナリーゼが駆け寄り、パウロの頭を盾でゴンと叩いた。

 

「パウロ! 一回、落ち着きなさい! わたくしも一旦撤退するべきと思いますわ! あと一度、ルーデウスの方を見なさい!」

 

 パウロは俺の方を向いて、驚いた顔をしたかと思うと、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「くそっ……! ……すまん。撤退しよう」

 

 ようやく、パウロが大人しくなった。

 この状況でも、年長者として抑えてくれるエリナリーゼはやっぱり頼りになる。

 ……ありがたい。

 

「ギース!」

 

 タルハンドの声が飛ぶ。

 次の瞬間、ギースが走ってきて、手にしていたものをヒュドラに向かって投げた。

 ――煙幕弾。

 

 だが、それだけでは範囲が狭すぎる。

 俺は咄嗟に、ヒュドラを中心に濃霧を発生させた。

 

 真っ白な霧が一帯を包み込む。

 

 ――ドシン、ドシン。

 

 それでもヒュドラがこちらへ近づいてくる音は聞こえてくる。

 とはいえ、足はそこまで速くない。

 その間にパウロたちは無事にこちらへと戻ってきた。

 

「ルディ、先に魔法陣に!」

「は、はい!」

 

 俺は先んじて、魔法陣の上に飛び乗った。

 

 

---

 

 

俺が転移してきた直後、他のメンバーも次々と帰還してきた。

 

 けれど俺の頭は、さっきのことでいっぱいだった。

 ――あれは明らかに異質だった。

 俺の知っているヒュドラとはちがう。

 

「ルディ、大丈夫ですか?」

「えっ、あ、はい……大丈夫です」

 

 ロキシーが心配そうに声をかけてくる。

 どうやら全員無事に、あの空間から抜け出せたらしい。

 俺は、皆に向き直り、遺跡で感じた違和感と、持ってきた情報に誤りがあったことを伝えた。

 

「すみません……」

「謝るな、ルディ」

 

 パウロが即座に言った。

 

「守護者を倒すことに変わりはねぇ。お前がいなければ、ゼニスのことも迷宮のことも分からなかったんだ。気に病むな」

「そうだぜ、先輩」

 

 ギースも笑って肩をすくめる。

 

「随分と思い詰めた顔をしちゃいるが、ここまで来れたのは先輩のおかげだ」

 ギースの声をきいて、ふと頭に思い浮かんだ。

 

 ……あれ?

 そういえば前回は、どうしてゼニスがここにいると分かったんだ?

 転移先は結晶の中だったはずだ。

 普通なら情報なんて掴めるはずがないのに……。

 

 頭がずきりと痛む。

 

「少し、よろしいですの?」

「あっ、はい、どうしたんですか、エリナリーゼさん」

「さっきの守護者、首が八本でしたわ。ルーデウスの言っていた“九本”じゃなくて」

「はぁっ?! えっ、どういうことですか。最初から八本だったんですか?」

「ええ」

「……すみません。間違った情報で混乱させて」

「責めてるわけじゃありませんわ。パウロの言う通り、ここまで来られたのは貴方のおかげですもの」

 

 誰も俺を責めなかった。

 だからこそ、余計に胸が痛んだ。

 

 

 ……八本首の魔物?

 ヒュドラは九本だ。

 じゃあ、あれは何なんだ?

 八本首で、巨大で、蛇のような化け物……俺の記憶にあるのは――ヤマタノオロチ。

 

 えっ、日本神話? なんでこんなところに?

 ヒュドラならこの世界の文献にも載っている。

 けど、ヤマタノオロチなんて俺の元いた世界の神話にしか出てこないはずだよな。

 偶然か……? それとも――。

 

「あの、先生。ヤマタノオロチってご存知ですか?」

「ヤマタノオロチ? いえ、聞いたことはありませんね。ヒュドラなら本で読んだことがありますが……」

「……そうですか。すみません、変なことを」

「いえ……」

 

 たしか、神話では、スサノオノミコトがヤマタノオロチに酒を飲ませて、酔ったところを一気に斬った――なんて話がある。

 ……でも無理だな。

 あんな大量の酒、ここまで運べるわけがないし、そもそも本当に酔うのかどうかも怪しい。

 

「あのっ、ルディ!」

 

 ロキシーが真剣な目で見つめてきた。

 小さな身体を精一杯に張って。

 

「一人で悩まないでください。ここまで無事に来れたのはルディのおかげです。私は頼りないかもしれませんけど……もっと周りを頼ってほしいです」

 

 その姿が、少し可愛らしく見えた。

 それで、少しだけ胸が軽くなった。

 

「……はい。ありがとうございます」

 

 

 

 みんなで話し合っている時にアレクがそっと近づいてきて囁いた。

 

「ヒトガミの仕業……なんでしょうか?」

「……わかりません」

 

 ヒトガミがやったのか? 

 いや、まだ断定はできない。

 でも、あいつしか考えられない。

 やったとしても、どうやって?

 

 不安を抱えつつ、俺はもう一度仲間たちに声をかけた。

 

「もしかしたら、僕の想定していたよりも強いかもしれません」

「安心してください、ルーデウス君。僕がいるじゃありませんか」

 

 アレクは胸に手を当てて言った。

 

「僕は頭は悪いですが、力には自信があります。これでも北神ですからね」

 

 ……そうだ。

 前回にはいなかったはずのアレクが、今は仲間として隣にいる。

 俺だって以前より魔術を使える。

 戦力は当初の予定以上だ。

 

 ゼニスも、パウロも――必ず助ける。

 弱気になっている場合じゃない。

 

 

 一回地上に戻るべきか?

 いや、戻ったところで何もできない。

 体調も準備も万全だ。

 戦力も十分。

 敵が未知数だからって、ここで立ち止まるわけにはいかない。

 

「……このまま行きましょう」

 

 

---

 

 

 戦いが始まった。

 

 大きな部屋にどしりと守護者(ヤマタノオロチもどき)が構えていた。

 その奥には魔力結晶、中にはゼニスが閉じ込められていた。

 両方とも、不安になるような、まるで警告しているような、どす黒い赤色をしていた。

 

 オロチもどきは俺たちの姿を見かけると、ゆっくり身体を起こした。

 その目は冷たく光り、まるでこちらの動きを読んでいるかのようだった

 

「では、まず僕が行きますね」

「頼むぞ、アレクサンダー」

「お願いします」

「はい!」

 

 アレクが飛び出して守護者の首を一本切り落とした。

 鮮やかな手口だった。

 

 そして、結果はわかっているが、確認として俺は離れたところから電撃を放った。

 思った通り、電撃も他の魔術と同じく、ガラスを引っ掻くような音を立てて消えた。

 

 その間にもオロチもどきは首を再生させていた。

 ……思ったよりも再生が早いか?

 

 一本でも電撃を当てれば、もしかしたら身体全部が動かなくなるかもしれない。

 そうすれば、かなり楽に倒せるんだけど。

 上手くいけばいいんだが……。

 

 そうしている間にも、アレクがもう一本の首を切り落とした。

 エリナリーゼとタルハンドは、俺に襲いかかってくる間合いまで迫ってきた首を受け流していた。

 

「よし、行け!」

「はい!」

 

 首を切られてのたうち回る首に狙いを定めて電撃を放つ。

 できるだけの魔力を込めた電撃が光の一線となって伸び、首の断面に突き刺さる。

 激しい音とともに首は痙攣し、やがて完全に動かなくなった。

 

「どうだ?」

 

 電撃によって首がピクピクと痙攣したかと思うと、全く動かなくなった。

 そう、その首だけが。

 

 他の部分はピンピンしていた。

 ……なんでだよ!

 首の根元に絶縁体でもあるのか?!

 

 そんなことを考えていると、別の首が俺を狙って振り回されてきた。

 だが、アレクが片手で俺を抱え、後ろに飛ぶように下がった。

 

「おっと」

 

 うおぉぉ。

 アレクに抱えられていると、景色が目まぐるしく変わる。

 激しく動かれると、少し気持ち悪くなりそうだ。

 

「ふむ、ルーデウス君。抱えられたまま魔術を放つことはできませんか?」

「いや、流石に狙いが定まらないです」

「そうですか、それは残念です。それが一番安全だと思ったんですけど」

 

 流石にこれがずっと続くのは身体がもたないぞ。

 

 電撃も火魔術と変わらない効果かとも思ったが、多分電撃の方がいい。

 電撃だと頭を失った首も動かなくなるようだ。

 これなら頭の失った首を鞭のように振り回される心配はないはずだ。

 本当に残念なことだが、電撃を使っても他の頭と身体はピンピンしている。

 

「おっ、パウロさんの方でも切り落としたようです。ちょうどいいのでこのまま運んでいきますね」

「運んで貰って申し訳ないんだけど、できるだけ揺らさないでください」

「了解です! 善処しますね!」

 

 アレクはそのままパウロの方まで運んでくれた。

 パウロも苦戦していたようだが、首を一本切り落としていたようだ。

 

「ルディ! 問題無さそうだな! 次も頼んだぞ!」

「はい!」

 

 切り落とした首のそばに下ろされて同じように狙いを定め、電撃を放つ。

 周りでは首を使った鞭のような攻撃をエリナリーゼたちが受け流していた。

 俺は電撃を放った直後にエリナリーゼたちと速やかに後ろに下がった。

 

 後方で待機していたロキシーが詠唱をしながらエリナリーゼの傍に駆け寄ってくる。

 エリナリーゼの肩からはヒュドラの鱗が削り取られていた。

 

「神なる力は芳醇なる糧――『ヒーリング』!」

「大丈夫ですか?」

「ええ、ヤスリのような鱗ですわね」

「電撃で首一本を完全に無効化できそうなので電撃で進めようと思います。先生はそのまま治癒をお願いします」

「はい、わかりました」

 

 次々とオロチもどきの首は断ち切れていった。

 でも、苦戦はする。

 首が五本同時にアレクを襲うこともあったし、俺を目掛けて飛んでくることもあったが、何とかなった。

 

 そして首が残り三本という時、オロチもどきは見覚えのある動きをしていた。

 赤竜やヒュドラがしていたブレスだ。

 体を直立させ、大きく息を吸い込むその姿を。

 

「ブレスがきます! 俺の近くに寄ってください!」

「おう!」

 

 アレクとパウロが大きくバックステップを踏み、俺の目の前まで来る。

 エリナリーゼとタルハンドが、転がるように俺の足元まで走りこむ。

 ロキシーが抱きつくように飛びこんでくる。

 

 俺は水を創りだした。

 分厚い、水の壁を。

 

 それと同時に炎を吐かれた。

 

 三つの首から、凄まじい量の火炎ブレスが降り注ぎ、水壁にぶち当たる。

 水の壁越しに見た炎は黒色をしていた。

 

「……!」

 

 漆黒の炎だ。

 黒い炎なんてはじめて見たぞ。

 厨二病患者が泣いて喜ぶやつじゃないか。

 炎なのに全体的に毒々しいな。

 威力も強かったが、俺の魔力で作りだした水壁にはかなわなかった。

 

 ブレスを吐いた直後、わずかな隙が生まれる。

 今だ、チャンスだ!

 

「父様! アレク!」

「おう!」

「はい!」

 

 切り落とした首の断面に、俺は即座に電撃を叩き込む。

 

 残り、二本。

 

 やけに順調すぎる気がした。

 俺の知る守護者とは違う存在だというのに、ここまで問題なく戦えている。

 確かに苦戦はしたが、それでも何とかなった。

 

 残る二つの首はタルハンドとエリナリーゼが引き受けていた。

 数が減ったことで、戦況はぐっと楽になっている。

 

「だぁらぁぁぁ!」

 

 パウロが渾身の力で首を斬り落とす。

 俺は間髪入れずに電撃を流し込む。

 

 ……しかし、不安は消えなかった。

 まるで何かに誘導されているような感覚。

 ――いや、気のせいだ。

 

 いける。

 残り一本。

 勝利は目前だ。

 ここまでくれば、もう再生の隙は与えない。

 仮に最後の首が不死身だったとしても、一本だけならどうとでもなる。

 

 ――だが、胸騒ぎがした。

 

 いや、大丈夫だ。

 切り落とされた首だって電撃で動きを封じた。

 もはや奴には手段は残っていないはずだ。

 このまま押し切れば勝てる……!

 

「これで最後の首です! 僕が斬ります! その後にルーデウス君、トドメを!」

「はい! わかりました!」

 

 アレクが渾身の一撃で最後の首を落とす。

 そして俺が、雷で留めを刺した。

 

 ヒュドラの巨体が轟音を立てて、地に崩れ落ちる。

 土煙を巻き上げ、首を失った死骸が痙攣しながら横たわった。

 その身から、確かに生命が消えていくのが感じられる。

 再生はない。

 最後の首は不死身ではなかったのだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 ――倒した。

 本当に、倒したのだ。

 

「やった……」

 

 安堵の吐息を漏らした、その瞬間。

 背後に、異様な気配を感じ取ることができなかった。

 

「ルディ!」

 

 鋭い声に振り向く。

 そこには、最初に斬り落とされたはずの守護者の頭が転がっていた。

 アレクが一番最初に落とした頭だ。

 他の頭よりも一回り大きく見えた。

 

 

 そして――閉じていたはずの眼が、カッと見開かれ、俺を睨みつけていた。

 

 そこには眼があった。

 切羽詰まった時の眼じゃなくて、

 そこには、こちらを確実に殺そうとする殺気が宿っていた。

 ――その瞬間、守護者が口から何かを吐き出そうとしたのがわかった。

 

 だけど、俺の身体は――。

 

「くっ……!」

 

 硬直して、まるで石のように、蛇に睨まれた鼠のように動けなかった。

 

「ルディィ!」

 

 パウロの怒声が飛んできたと同時に、俺は地面を転がるように倒れ込む。

 

 そして、身体が止まったところでようやく声が出た。

 

「はぁっ!」

 

 急いで立ち上がる。

 

「はぁ……はあっ……そ、そんな……」

 

 息苦しい。呼吸が速くて浅い。

 肺が思うように空気を取り込んでくれない。

 

 さっきの光景が頭をよぎった。

 まさか、あの時と同じように……パウロが俺の代わりに攻撃を受けたんじゃないか?

 嘘だろう。嘘だよな。

 

 ブレスか?

 いや……ブレスなら大きく息を吸い込み、体内の器官で分泌された物質を混ぜて吐き出すはず。

 頭だけになった状態じゃ、できるわけがない。

 

 ――じゃあ、いったい何を放とうとしたんだ。

 

 身体が震えて、思うように動かせない。

 確認しなきゃ……パウロは……。

 ぢがう、生きてる。

 そうに決まってる。そうじゃなきゃ困る。

 

 だって――せっかく戻ってきたのに。

 今度こそ助けられると思ったのに。

 

 瞬きひとつが、何分にも感じられた。

 周りがやけに静かだった。

 俺は、ゆっくりと、少しずつ。

 さっきまで自分が立っていた場所へ、顔を向けた。

 

 

 ……パウロは、そこに倒れていた。

 まるで糸が切れた人形みたいに、身体を動かすことなく。

 よく見れば、身体の半分近くが黒くただれている

 

 呼びかけても――返事はなかった。

 

 

「えっ……あ、なんで?」

 

 声が勝手に震える。

 あれ? え? な……なんで……どうして、こんな……。

 

 視界が急に狭まって、黒く染まっていく。

 足元がふらついて、もう立っていられなかった。

 世界そのものが崩れ落ちていくような音が、耳の奥で鳴り響いた。

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