-無限ループとは
コンピューターのプログラムで、ある処理が無限に繰り返されること。プログラムの欠陥で起こるほか、意図的に設けられ、何らかの操作や入力があった場合にのみループを抜けるようにしたものもある。永久ループ。(某デジタル辞書より)
エリスはあれから先ほどの疲労もあってか、泣き疲れたまま眠ってしまった。
俺はというと、頭が妙に冴えてしまって眠れず、焚き火の番をしながら先ほど考えていたことをひとつひとつ思い返していた。
まず、俺は死んだ。
74歳まで生きて、子や孫に囲まれながら、それなりに満ち足りた人生だったと思う。
最後には家族とも言葉を交わして……、
……ん? でも最後に話したの、オルステッドじゃなかったか?
まあ、いいや、あの人に子供たちもよく懐いていたし、50年以上も一緒にいたんだから、
家族みたいなもんだろ。
それから気がついた時には、俺は真っ白な空間にいた。
いつものモザイク全裸野郎と少し言葉を交わして、意識が薄れてゆく中、俺は歩き始めた。
このあたりのことは覚えている。
でも、その先のことになると途端にぼんやりとしてて、思い出せない。
本来、生命ってのは死ぬと魂は魔力に還元されて、世界に溶ける。
それがまた別の何かに組み直され形を変えて、再びこの世界に現れる。
誰かが言ってた。あと、ヒトガミもそんなことを言ってた気がする。
たぶん、そういう仕組みなんだろう。
だけど、俺は――?
転移者であるナナホシはこの世界の影響を受けなかった。
歳も取らなかった。
じゃあ、俺は?
転移者の魂を持った転生者である俺は、死んだ後、どうなるんだ?
おそらく、異世界の魂を持つ俺はこの世界の法則に従わない。
他の人のように世界には還元されて、世界に溶けることもなかった……はずだ。
ナナホシが立てた仮説によれば、転移者には在り方がある。
成すべきことを果たさなければ、元の世界には戻れない。
転移者には、果たさないといけない役目がある――そう言った話だった。
……はあ。
やっぱり、オルステッドに会わなきゃいけないんだろうな。
……ついさっき、会ったばっかりだけど。
……でも、オルステッドは、俺のことを知らない様子だった。
長年の付き合いなんて、まるでなかったかのように。
つまり――戻ってきたのは、俺だけってことか。
……厄介だな。
次も、殺されかけるかもしれない。
……とはいえ、オルステッドが今どこにいるかなんて分かっちゃいない。
会いに行くなら、まずはナナホシに会う必要があるかもしれない。
今後どう動くか、その判断をするには――もう少し記憶を整理しないと。
どうも、俺の記憶は完全じゃない。
あちこち虫食いみたいに抜け落ちていて、思い出せないことが山ほどある。
……エリスを、故郷に送り届けたあとのことだ。
俺は……その後、何をしていたっけ?
⋯⋯ああ、そうだ。あれは、忘れようにも忘れられない。
あの夜、俺は初めてエリスと心を通わせ、体を重ね――結ばれた。
幸せの絶頂だった。
……なのに、俺は“捨てられた”と思い込んだ。
残されたのは、切られた髪と、「釣り合わない」って書かれた手紙だけ。
俺はてっきり、あれで終わったんだと。
心も体もズタボロで、そのままEDになった。
……まあ、結局は違ったわけだけど。
……あれは、エリスも悪かったと思う。
自分で言うのもなんだけど、俺は昔からドスケベで、エロいことばっかり考えてた。
……けど、前回の人生では美人の嫁が三人もいて、子どももたくさん作って、
それに――子作り“しない”子作りも、まあ、たっぷり楽しんだわけで。
正直、今さらそんなエロい気持ちってあんまり湧いてこないんだよな。
エリスを見ても、なんというか、いやらしい目で見ることはなくなった。
……だからって、彼女に対する“好き”の気持ちがなくなったわけじゃない。
むしろ――もっと大切にしたいって、そんな想いの方が強くなってる気がする。
とにかく――まずは、エリスを故郷に送り届けよう。
……そのあとだ。
それからは――
ゼニス。
……母さんのことだ。