回帰した灰色鼠   作:実った青リンゴ

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出会いは唐突に

-転移魔法陣とは

 遠くへ移動するための魔法陣。踏むとその場から消失し転移先に現れる。消失してから現れるまでに時間差がある。この魔術は無の世界を通って移動している。(某考察wikiより)

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスラ王国での復興支援もひと段落し、ようやく出発の時を迎えた。

 アルフォンスや開拓民たちが見送りに集まってくれている。

 

「ルーデウス殿、どうかご武運を。無事をお祈りしております」

「今まで本当にありがとうな。フィットア領の復興は、俺たちに任せとけ」

「坊ちゃんはまだちっこいからな。しっかり食って、でっかくなるんだぞ」

 

 次々に声がかかる。

 ……小さいは余計だ。これから伸びる予定なんだから。

 

「こちらこそ、お世話になりました。

 どうか皆さんも、お元気で――」

 

 そう言い残し、俺はフィットア領を後にした。

 

 ラノア王国に一番近い道のりはおそらく、紛争地帯の北西にある転移の遺跡を利用することだ。

 ここから遺跡までの道筋もそこまで険しくは無い。

 そこまで時間はかからないだろう。

 

 数日かけて山を越え、道を進んだ先に――巨大な森が広がっていた。

 確か、この森のどこかに目印の石碑があって、その前で詠唱呪文を唱えれば、遺跡が姿を現すはずだ。

 迷うことなく、俺は森の中へと足を踏み入れた。

 

 ところが──。

 

 二、三日を森の中を歩き回った結果――

 俺は、完全に迷子になっていた。

 

 ……迷子の迷子のルディちゃん、あなたのおうちはどこですか……。

 

 って、ふざけてる言ってる場合じゃないぞ! どうすんだこれ!?

 まさか、この歳で迷子になるなんて思ってもみなかった!

 

 「迷わず森に入った」とか、何を格好つけてんだよ!

 せめて、目印のひとつでもつけておくべきだった。

 森なんてどこを見ても同じような風景ばっかりじゃないか。

 今じゃ、自分がどこにいるのかさっぱりわからない。

 このまま食料が尽きて、野垂れ死に……なんて最悪の未来が頭をよぎる。

 

 くっ……。せめて、獣並みの勘を持つギレーヌがいてくれたら……。

 ギレーヌなら、その野生の勘だけで目的地まで一直線だったろうに。

 

 そんなことを考えながら焦って走り回っていると、足元が何かに引っかかって――

 盛大に、顔から突っ込んで転んだ。

 

 「いっててて……。一体なんだ、今の……」

 

 地面を見下ろすと、そこには龍神の紋様が刻まれた石碑があった。

 

 ――た、助かった!

 

 このまま永遠に森をさまよう羽目になるところだった。

 ……いや、待てよ?

 

 冷静になって考えれば、魔術で森から簡単に抜け出せたんじゃないか?

 

 …………俺ってこんなにポンコツだったか?

 

 誰にもこの姿を見られていなくて、本当に良かった。

 もし誰かに見られていたら……たぶん一生、笑い話にされていたに違いない。

 

 

---

 

 

「その龍はただ信念にのみ生きる。

 広壮たる(かいな)からは、何者をも逃れる事はできない。

 二番目に死んだ龍。

 最も儚き瞳を持つ、緑銀鱗の龍将。

 聖龍帝シラードの名を借り、その結界を今うち破らん」

 

 呪文を唱えると、石碑に魔力が吸い込まれた。

 直後、足元の地面が歪み――土に覆われていたはずの場所に、石造りの階段が姿を現す。

 

 静かに一段ずつ、階段を下りていく。

 

 ……少し、埃くさいな。

 

 この遺跡、長いこと使われていなかったのだろう。

 壁も床も薄く埃をかぶり、ところどころ崩れている。風化が進んでいるのが見て取れた。

 

 やがて階段の先に、転移魔法陣が描かれた部屋にたどり着く。

 しかし、驚いたことに、部屋の中心に陣取る魔法陣は、すでに光を失い、中央から外側に向かってひび割れていた。

 

 試しに魔力を流し込んでみたが、何の反応もない。

 完全に……機能を失っている。

 

 もしかしてこの魔法陣、ずっと壊れていたのかもしれない。

 他の遺跡よりも埃をかぶっていた理由も、それで納得がいく。

 

 ……仕方がない。ここから直接、ラノア魔法大学を目指すとしよう。

 

 結局、遠回りになってしまった。

 最初からこのことが分かっていれば、無駄足を踏まずに済んだのにな……。

 

 遺跡から出て、土槍を使い木よりも高く上昇する。

 今度はしっかりと方向を確認して進もう。

 

 

 

 ラノアに向かう道中、赤竜山脈のふもとにある人里へとたどり着いた。

 街には小さな砦が築かれ、冒険者ギルドもあるらしい。

 ここしばらく野宿が続いていた俺は、ようやくまともな宿にありつけると胸をなでおろした。

 

 そう思って門をくぐろうとした瞬間、背後から喧騒が響いた。振り返ると、門番たちが血相を変えて騒いでいた。

 

「赤竜が降りてきた! はぐれ竜だ!」

「一直線にこっちへ向かってくるぞ!」

「くそっ、人を呼んでくる! このままじゃ街が焼かれてしまう!」

 

 赤竜――山岳に棲む強大な竜だ。

 本来、奴らは群れで行動し縄張りで狩りをする。たまに乱気流に巻き込まれた個体が人里に降りることはあるが、こうも一直線に、迷いなく街を目指して降りてくることなど聞いたことがない。

 

 ……何かが、おかしい。あの赤竜の行動は明らかに異常だった。

 

 だが今は、原因を考えている場合ではない。

 門番の男は応援を呼びに行くと言っていたが、赤竜が降りてくる速度からして、到底間に合わない。

 

「下がっててください! 僕がなんとかしてみます!」

 

 そう叫び、俺は土槍で空中へと跳躍した。

 電撃の余波で周囲を巻き込まないためでもある。

 

 同時に、予見眼を発動する。未来の断片を見つつ、杖に魔力を込める。紫電が杖を包み、閃光となって空を裂いた。

 

 電撃は一直線に赤竜を狙う――が。

 

「……避けた、だと?」

 

 信じられなかった。いくら赤竜が賢く、俊敏だといっても、限度があるだろう!

 雷の速度を見切って避けるなどできるはずもない。

 

 しかもその瞬間、予見眼に映る未来が変化した。

 赤竜は大きく息を吸い込み、喉を膨らませている――ブレスだ!

 

「来るっ!」

 

 俺は咄嗟に水壁を展開し、街を炎から守るべく正面に立ちはだかせた。

 

 次の瞬間、赤竜の口から轟々と火炎が吐き出される。

 凄まじい熱量が水壁にぶつかり、瞬く間に水が蒸発、周囲に湯気が立ちこめた。

 

 だが――今がチャンスだ。

 ブレスを吐いた直後の赤竜は、一瞬動きが鈍る。

 

「……今だ!」

 

 俺は水壁を解除し、視界を確保する。

 次の一撃、絶対に外せない。

 

 電撃を放つ。今度は確かに赤竜に命中した。

 巨体が痙攣し、地面に叩きつけられる。

 

 しかし、まだ終わりではない。念のため――

 

「これでとどめだ」

 

 俺は赤竜の頭上に岩塊を作り出し、容赦なく叩き落とす。

 轟音と共に地が揺れ、岩は竜の頭部を押し潰した。

 

 ……これでもう、動くことはないはずだ。

 

 土槍を解除し、地上へと降り立つ。

 すぐさま、先ほどの門番の男が駆け寄ってきた。

 

 両肩をがしっと掴まれ、その顔が目の前に迫る。

 

「おい、坊主! お前、自分が何をやったのか分かってんのか!?」

 

 その声には、驚きと興奮、そして信じられないという感情が入り混じっていた。

 

「赤竜だぞ!? しかも単騎で、あんな一瞬で仕留めやがって……普通なら冒険者パーティを組んで、罠を仕掛けて、やっと倒せる相手なんだ。それをお前は……見たこともねぇ魔術でぶっ倒しやがった……!」

 

 勢いそのままに顔がぐいぐい近づいてくる。

 近い、近すぎる。ついでに唾も飛んでくる。いや、ほんと近すぎる。

 

 その後は、まるで祭りのようだった。

 

 人を呼びに行ったもう一人の門番が戻ってきたと思えば、あっという間に冒険者たちに囲まれ、質問攻めにされた。

 誰もが俺の話を半信半疑で聞いていたが、俺が名乗ると空気が一変した。

 

「ああ……坊主が、あのうわさの……」

「見たこともない雷の魔術を使う魔術師だって?」

「枯れ地を蘇らせた、奇跡の子!」

「まさか本当に会えるとはな……雷鳴のルーデウス……!」

 

 どうやら、俺の名前は思っていた以上に広まっていたらしい。

 “雷鳴”――なんだか照れくさいけど、まあ、悪くない呼び名だ。

 個人的には“泥沼”の二つ名も気に入ってたんだけどな。

 

 その後、街の人たちと一緒に赤竜の解体作業に取りかかった。

 電撃で焼け焦げて使えない部位もあったが、それでも有用な素材の方が遥かに多い。

 

「雷鳴さん! 本当にいいのか? こんなにたくさん、この街に譲ってもらって……」

「ええ、大丈夫です。僕はこんなに沢山いりませんし、必要な分だけあれば充分ですから」

「……お前、本当にいい奴だな。街を救ってくれた上に、素材まで分けてくれるなんて……感謝してもしきれねぇよ……!」

 

 受け取った素材だけでも、しばらく遊んで暮らせるくらいの資金にはなる。

 欲張っても荷物になるだけだし、これくらいで充分だ。

 

 換金のために冒険者ギルドを訪れ、受付の職員と素材の引き渡しについて話していると――

 

 ――ドアが、バン!と、派手な音を立てて開かれた。

 

 その音に驚き、振り返る。

 

 そこに立っていたのは、金髪を優雅に巻き上げた、どこか舞台衣装のような服装の女性。

 整った美貌と、長く尖った耳――長耳族。しかも、その立ち姿には尋常ならざる気品が漂っている。

 

 彼女は俺を指さして、凛とした声で言い放った。

 

「さっそく見つけましたわ、ルーデウス・グレイラット!」

 

 輝くような金髪を優雅に巻きあげたたお嬢様然とした長耳族の女性。

 ――エリナリーゼだ。

 

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