回帰した灰色鼠   作:実った青リンゴ

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灰色の鳥

-人神(ジンシン)とは

 太古の七神の一人で人の世界の神。

六面世界の他種族と技術や知識を交換する会議を提案し信頼を集める。人神とヒトガミは別人であり、六面世界の創造神すら知り得ぬ所でひっそりと生まれた存在がこの人神に成り代わるか取り込むかしたと初代龍神、魔龍王ラプラスは考える。(某考察wikiより)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「運がいいですわ。まさか、わたくしが滞在していた街に、貴方がやってくるなんて」

 

 そう言いながら、エリナリーゼがこちらへ歩み寄ってくる。

 

「ロキシーから聞いていましたけれど、とても目立ちますわね。すぐに見つかりましたわ」

 

 ロキシー……!?

 

 そういえば、あの人はエリナリーゼと一緒に行動していたんだった。

 ……変な影響を受けてなきゃいいけど。

 となると、ロキシーはもうパウロの元へ向かったのかもしれない。

 

「わたくしの名はエリナリーゼ。エリナリーゼ・ドラゴンロード。

 あなたの父――そして母、ゼニスの元パーティーメンバーですわ」

 

 パウロとゼニスが所属していた冒険者パーティ……

 たしか、あまりいい別れ方はしてなかったはずだ。

 まあ、あいつのことだ。どうせまたパウロが悪いんだろう。

 俺はふと遠い目をする。

 ……息子として、なんかすまん。

 

「貴方に朗報がありますの」

 

 エリナリーゼが話を続けた。

 エリナリーゼは自信に満ちた表情で言い放つ。

 

「ゼニスの居場所がわかりましたわ」

 

 ……うん、知ってる。

 

 

---

 

 

 俺とエリナリーゼは、場所を変えて酒場で話すことにした。

 向かい合って席に着き、店員に軽く料理を注文する。

 

「改めまして、ルーデウス・グレイラットです。

 エリナリーゼさん、これまで母の捜索を手伝ってくださってありがとうございます」

「いいんですのよ。パウロならともかく、ゼニスのことは……心配でしたの」

 

 パウロのことは、本気で嫌っているようだ。

 言葉の端々から、雰囲気から、棘がにじんでくる。

 痴情のもつれだろうか、あまり想像したくもない。

 親のそういう話は、聞きたくないもんだ。

 ……パウロの話題は、なるべく避けたほうがよさそうだな。

 

 できれば、また仲直りしてくれればいいんだけど。

 

「母のことですが、実は僕のほうでも情報を得ているんです」

「えっ、そうなんですの?」

「はい。たぶん、僕の方が詳しく把握していると思います」

 

 エリナリーゼが驚いたように目を見開く。

 俺は慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと話し始めた。

 

「それと……情報の出どころについては、聞かないでいただけると助かります。

 どうしても、言えない事情があって……。

 でも、内容は間違いないと、自信を持って言えます」

「……まずは、どんなことを知っているのか聞かせてくださらない?」

 

 俺は静かに頷き、ゼニスのことを語り始めた。

 

 ベガリット大陸の迷宮都市ラパン近くにある“転移の迷宮”。

 その最深部にある魔石の中に、ゼニスが囚われていること。

 そして、もし助け出せたとしても、廃人状態に近いことを。

 

 話し終えると、エリナリーゼは眉間に深い皺を寄せ、厳しい顔で黙り込んだ。

 

「……その話、確かなんですの?」

「はい。間違いありません」

 

 俺たちの間に、しばし沈黙が流れる。

 

 やがて、エリナリーゼが口を開いた。

 

「ゼニスがラパンにいる……それは、わたくしが掴んでいた情報と一致していますわ。

 それ以外の話も、嘘をついているようには見えませんし……信じたくはありませんけれど」

 

 エリナリーゼは再び黙り込み、目の前の料理をじっと見つめる。

 先ほど運ばれてきたばかりの皿には、まだ一口も手がつけられていなかった。

 

「父様には手紙にそのことについての内容を送りました。

 ……僕は、これから父様を助けに行こうと思っています。

 エリナリーゼさんが父様に会いたくない気持ちはわかります。けど……どうか、一緒に来てくれませんか」

 

 俺は真剣な表情で、エリナリーゼに頭を下げた。

 彼女はしばらく目を閉じ、黙ったまま考えていた。

 

 そして、ゆっくりと目を開き、まっすぐに俺を見て言う。

 

「パウロのことは、今でも好きになれませんわ。でも、ゼニスのことは……大切な仲間でしたの。助けることができるのなら、もちろん手を貸しますわ」

「ありがとうございます!

 エリナリーゼさん、これからよろしくお願いしますね」

「ええ。こちらこそ、よろしくお願いしますわね」

 

 俺たちは自然と、顔を見合わせて笑った。

 

 

 そして、俺とエリナリーゼは、少し時間が経って冷めてしまった料理を、ようやく口に運び始めた。

 食べながら、これまでの出来事をぽつぽつと話し合う。

 

 ふと視線を向けると、エリナリーゼの口の端、左側にソースがついているのが見えた。

 

「エリナリーゼさん、ここ……ソースがついてますよ」

 

 俺は自分の口元を指で示す。

 

「あら」

 

 彼女は軽く笑いながら、自分の指で口元を拭い、そのまま舐め取った。

 なんというか、仕草のひとつひとつが妙に艶っぽい。どこか妖しい雰囲気すらある。

 

「……はしたないですよ、エリナリーゼさん。ちゃんとお手ふきで拭いてください」

 

 そう言って、おれはエリナリーゼにお手拭きを差し出した。

 

「ふふっ、まるでゼニスみたいなことを言いますのね。

 やっぱり、そっくりですわ。ゼニスと」

「母様と……ですか?」

 

 俺とゼニスが似てる?

 ……どちらかと言えば、パウロに似てるってよく言われてた気がするんだけどな。

 

「ええ。特に、笑ったときの表情がそっくり」

「そうなんですか……。僕、自分では父に似てると思ってたんですが……」

「あんな可愛げのない男とは、まるで似てませんわよ」

 

 エリナリーゼはくすっと笑って、続けた。

 

「確かに、髪や瞳の色はパウロと同じですけれど……顔のつくり、特に目元なんか、ゼニスに瓜二つですわ」

 

 笑ったときの表情が似ている、か……。

 

 ――前世の記憶を持った俺でも、ちゃんと親に似ているんだな。

 周りから見ても、俺たちは親子だってわかるんだ。

 ……なんだか、それだけで少し嬉しくなった。

 

 

 それからしばらくして、俺たちはラノア魔法大学へと向かうことにした。

 

 道中、エリナリーゼに「なぜラノアに?」と尋ねられたので、

 転移の迷宮を攻略するために必要な文献が、あの大学にあることを伝えた。

 彼女はそれ以上は何も聞かず、ただ小さく頷いただけだった。

 

 ――察しが良くて助かる。

 

 ちょうど冒険者ギルドで、ラノアに向かう商隊の護衛依頼が出ていた。

 渡りに船とばかりに、俺たちはその依頼を引き受けた。

 他にも数人の冒険者が参加しており、比較的安全な旅になりそうだった。

 

 夜になると、エリナリーゼはときどき、そっと一人でどこかへ行くことがある。

 最初は気にしていなかったが、何度か続くうちに理由に思い当たった。

 

 ――あれは、きっと“呪い”のせいだ。

 

 本人の性格にも合っているからこそ、表向きは平然としていても……

 それが、本当はどれだけ苦しいことなのか。

 未来でクリフも言っていた。

 その痛みを知っていて、必死に救おうとしていた。

 

 ――早く、二人が出会えるといいな。

 彼女が、誰かに支えられる日が、一日でも早く来ますように――。

 

 

 

 商隊と護衛たちと一緒に昼食をとっていたとき、急にもよおしてきた。

 周りには人が多く、この場ではできない。

 

「エリナリーゼさん、少しお花を摘みに行ってきます」

「ハイハイ、トイレですわね。行ってらっしゃい」

 

 ……もう、せっかく遠回しに言ったのに。

 ちょっとは濁してほしいもんだ。

 そう思いながら、俺は草原の奥へと足を運んだ。

 

 少し離れた茂みの陰で用を済ませたあと、帰ろうとしたときだった。

 近くの林から、か細い鳴き声が聞こえてきた。

 

「ぴーっ、ぴぴっ、ぴょっ……」

 

 気になって音の方へ向かうと、一本の木の根元に、小さなヒナがうずくまっていた。

 どうやら木の上から落ちてしまったらしい。

 羽に土がつき、脚も少し曲がっているように見える。

 

 本当は、野生のヒナには触れない方がいい。

 人の匂いがつくと、親鳥が世話をしなくなることがあるからだ。

 でも――このヒナは、すでに親に見捨てられているのかもしれない。

 周囲を見渡しても、親鳥の気配も、巣も見当たらない。

 

「ぴょー、ぴー……」

 

 か細い声が胸に響いた。

 

「待ってろ、今、治してやるからな」

 

 俺はヒナにそっと手をかざし、治癒魔術を発動した。

 淡い光が包み込み、傷がふさがっていく。

 

 そのヒナは、ヒヨコに似た丸っこい体型で、ふわふわの羽毛に覆われている。

 全体は灰色だが、ところどころに青い羽根が混じっていて、目は澄んだ金色。

 その不思議な色合いは、どこか幻想的な美しさを持っていた。

 

「よし、治ったぞ。もう大丈夫だ」

「ぴょっびょっ! ぴぴっぴ!」

 

 元気な声で鳴くと、ヒナはトテトテと俺に近づいてきた。

 そして――器用に俺の腕をよじ登り、そのまま頭の上にちょこんと乗ってしまった。

 

「お、おい……俺の頭は鳥の巣じゃないんだけど……」

「ぴぴっ! ぴぴっ!」

 

 嬉しそうに何度も鳴き声を上げる。

 ……どうやら、ついてくるつもりらしい。

 

 このまま置いていけば、すぐに肉食動物に襲われるだろう。

 この北方の大地は、そんなに甘くはない。

 このまま、置いていくことはできない。

 

「……よし、お前、俺と一緒に来るか」

 

 その言葉に応えるように、ヒナは小さく羽ばたいて俺の頭に体をうずめる。

 その体温がじんわりと伝わってきた。

 

 ――後で名前をつけてやらないとな。

 そう思いながら、俺は笑みを浮かべてヒナを連れて戻ることにした。

 

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