中東に位置するとある紛争地帯の一角。
五月も始まってそこそこの頃、彼女らは少年の前にいきなり現れた。
スーツにサングラス、黒一色の男女。
「ハウンド・ドッグ………で、間違いはありませんか?」
タブレットを片手に女がソファに腰掛けた少年に問いかける。
男の方は明らかに未成年であるこの少年が本当にそうなのか?、と訝しむ。
「………だとしたら何?俺が殺した誰かの仇討ちかなんか?」
少年が机に置いていたナイフに手をかけると後ろの男が銃を抜き、少年の額に狙いを定める。
手際はいい。ただ、殺気がダダ漏れだ。殺しのプロでは無いことはすぐにわかった。
だとするならば、と少年は口に手を当てて考える。
「どっかの国のエージェント、て所か。髪と肌、後訛りから見てアジア圏の何処か。………いや待て。お前たちからは紛争による荒んだ臭いがしない。さては平和な国から来たな?」
………日本か?
ボソッと呟いたその言葉で男の手に一層の力が入る。
女はそれを静止して目の前に持っていたタブレットを置いた。
「現在の月の現状、ご存じですよね?」
「あぁ。月の七割が消失したあれだろ?」
その質問に俺はタブレットを叩くと、七割ほどが抉れ三日月状になった月の画像がありありと浮かび上がる。
更に次のページに画面を移動させると今度は黄色いタコの様な物の写真が現れた。
……………何これ?エイリアン?
そんな疑問を胸に少年は女に視線を向ける。
「それが、この事態を引き起こした張本人です」
「ふーん。で?」
「一年後、奴は地球を月と同じ様に破壊すると宣言しています」
「そりゃあ怖い。早く殺して欲しい物だな」
ケラケラと笑いながらタブレットを雑にソファに投げ捨て少年は今度は男の方に視線を向ける。
何か言いたい様な複雑な顔付きだ。大方、殺し屋のお前が言うなよ、とでも思っているのだろう。
「………奴は今、椚ヶ丘中学校の三年E組で教鞭を取っています」
「─────なんて?」
教鞭を取る、の意味は分からなかったが会話的にはそのエイリアンは一箇所にとどまっていると言う事なのだろう。
何故?そんな事が頭に浮かぶ。
「期限は残り十一ヶ月。貴方にはその学校の用務員として潜り込み、奴を暗殺していただきたい」
「……………概要は分かった。で、成功報酬は?」
「日本価格、百億円です」
「上等」
少年はタブレットに映るターゲットにナイフを突きつけながら口角を上げるのだった。
◇◆◇◆
「と、言う事でこれから君たちの校舎の管理を任せられる犬走さんだ」
「どうぞ宜しく」
デカデカと黒板に犬走猟と描きながらも戸惑う様子のスーツの決まった男、烏丸の紹介に笑顔で挨拶をする犬走を見ながら、正直生徒の面々も戸惑っていた。
そこに戸惑いながらも手を挙げたのは緑髪の少女、茅野カエデだった。
「質問!犬走さんは何歳ですか?」
(((((ナイスだ茅野!)))))
「歳?そうだな………14、5くらい?」
「俺らとタメ!?」
「マジか………」
それぞれの反応を受けながら猟は入り口の方で見ているターゲットに視線を向ける。
「アンタが地球を滅ぼすって言う超生物さん?」
「はい。生徒の皆さんからは殺せんせーと呼ばれています。どうぞ宜しく」
ぬるぬるの触手を差し出され、猟は意味を考える。
「握手、て事でいいのかな?」
「えぇ。問題ありませんよ」
ニコリ、と猟が手を差し出したと同時に殺せんせーの腕を掴みにかかる。
しかし、その手は何故か空を握っている。
「?」
「ヌルフフフ、犬走君。君は殺気を隠さない。寧ろ全方位の殺気で位置を特定させない殺し屋です。ですが、それではマッハ20の先生は殺せませんよ?」
「………みたいだな」
「後、あまり対先生用ナイフを歯に付けるのはやめましょう。もしバイキンが入ってしまっては大変ですからね」
気付いていたのか、と猟は自分の歯に貼り付けた対先生用ナイフを外して殺せんせーに投げ付ける。
勿論、そんな物は殺せんせーなら簡単に避けるし、何なら手入れまでしてしまう始末だ。
「………て、事で俺は用務員として君たちの暗殺のサポートをします。基本的には校舎の修繕などが主になりますが、暗殺の手が足りない時、大掛かりな仕掛けが必要な時は声を掛けて下さい。費用は全部防衛省が持ってくれるらしいので」
クッ、と言う声が聞こえて来るが、猟は無視して笑顔で教室を出ていくのだった。