トリフローラ ~華やかなるギルドの受付嬢たち~   作:裃 左右

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第6話 冒険者ギルドの規律

 ブルーベルは、そっと震える受付嬢の肩に手を添えると、静かに避難させながら「私が対応します」と前に出た。

 動じないブルーベルの態度に、ザックは舌打ちをするとカウンターに置かれた書類を指で叩いた。

 

「じゃあ、なんで俺たちの次の依頼がいつまで経っても来ねえんだ。いいから仕事を紹介しやがれっ!」

「問題の重要性がおわかりにならないようですね」

「なんだと?」

「その『小娘』とやらが、あなた方に警告します」

 

 氷点下にまで冷え込んだブルーベルの糾弾に、むしろ怯んだのは、周りにいた受付嬢だった。

 荒れ狂う大男の振る舞いにも、一切、いつもと変わりがない。

 

「あなたたちの前回の討伐報告は、確かに事実と合致しています。しかし、その任務遂行における素行は許しがたいものです」

「素行だあぁ?」

「ええ。特に新人冒険者への不当介入。これについて、複数の目撃証言が上がっています」

「弱いやつらが、狩場をうろちょろしてたのが悪りんだろうがよ。実力のない奴が出しゃばんなってだけだ」

「この件だけを考慮しても、ギルドが冒険者に課す規約、第一二条『冒険者間の公平な競争』における不当な妨害禁止に明確に抵触しますが」

「はあ、不当妨害と来たか」

 

 冒険者たちが互いをライバルと認識し、ぶつかり合うのはある程度、認められている。だが、ギルドは無法を許しているわけではない。

 

「我々はただ依頼を斡旋するだけの場所ではありません。ギルドの秩序と信頼、冒険者たちの健全な活動を守る義務があります」

「俺のやり方に文句があるってか? この女、命がけで戦ったこともないくせに」

「あなた流に言わせていただければ、我々の縄張りで好き勝手することが許されると思わないでいただきたいですね。正式な聴取と処遇が決まるまでは、仕事の斡旋はありません」

「めんどくせえこといいやがって……。そんな無駄に付き合えってかい」

「今回、新人冒険者たちを傷害、財産を奪おうとした話も上がっていますからね。最低でも依頼凍結、報酬減額の処分。場合によっては等級降格や資格の剝奪もあり得ます」

「はぁあああ!?」

 

 想像以上に重い処遇に、ザックは絶句した。彼の仲間たちも顔を見合わせる。

 

「なっ……なんだとっ!? ふざけるな! 俺たちが何をしたってんだ!」

「おや、以前のギルドでは自由にやれたのですか? では、三級という等級証に値するかすら怪しいですね」

「テメッ、俺の実力にまでケチを……」

「そもそもっ、ギルドで抱える人材はある種の財産です! 彼らを傷つける、それも依頼というギルドの威信(メンツ)のかかった場で行うことの意味、まさか教育されてこなかったのですか? 新人教練からやり直すことを推奨しますっ」

 

 ブルーベルから矢継ぎ早に放たれる正論は、もはや挑発どころか宣戦布告染みていた。依頼遂行中の違反や犯罪行為は、ギルドが最も重く見る案件の一つ。

 

「……っ、この野郎っ!」

 

 ザックは顔を真っ赤にして、なおも詰め寄ろうとした。

 だが、その一歩を踏み出すよりも早く、「カチリ」と金属が鳴る音がギルドホールに響いた。

 それはリコリスが、銀色の義足の『ギア』を引き上げた音だった。いつのまにかカウンターを越えて、すぐ隣に迫っている姿を見て気圧される。

 

「しゃ……灼紅のリコリス」

「これ以上、騒ぐなら実力行使だ。抵抗すれば、容赦なく拘束する。その場合、お前の等級は剥奪だ。二度と冒険者には戻れない」

 

 リコリスの灼紅の暗く燃える瞳が、ザックらを刺した。かつて数多の魔物と対峙し、地獄の淵から舞い戻った元一級冒険者の殺気。

 続くのは、現役を引退したロートル冒険者である警備員だ。

 

「おい、若造。うちの花を傷つけるなら、どうなるかわかってんな?」

「お前達が小便と鼻水たらして遊びまわってる頃から、こちとら命張ってんだよ。てめぇこそ文句あんのか?」

 

 武器に手をかけようとすらしていたザックの仲間たちも、血の気が引いたように青ざめている。警備員の気迫もまた鉛の如き重たさを与えてくる。

 

「ザック、退こうぜ」

「さ、さすがに資格剥奪はやべえよ。移籍も出来なくなる」

 

 ザックは屈辱に顔を歪ませながら、仲間たちを振り返った。

 

「……クソ。覚えとけよ、雌ども」

 

 毒づきながらも、ザックはそれ以上騒ぐことはなかった。仲間たちを伴い、荒々しい足音を立ててギルドホールを後にする。見苦しい一団の背を、職員たちは冷ややかな視線で見送った。

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