トリフローラ ~華やかなるギルドの受付嬢たち~   作:裃 左右

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第7話 花を護る者たち

 ブルーベルが「ほう」と解放された緊張から息を吐いた。

 そこを見計らったかのように、ギルドマスターのイエバが現れる。

 

「いやあ、ブルーベルちゃん。あんまり前に出ちゃダメだよ。……君じゃなくても、強面のおじさんならい~っぱい、ここにはいるんだからさ」

 

 いったいいつから見ていたのだろうか。ブルーベルはムッとした。するべきことをしてくれない上に、ただ見ていただけか、と。

 

「私は正しいことを、正しいと言っただけです。するべきことをしました」

 

 ブルーベルはキっと言い返す。が、イエバは髪を書き上げながら、気だるそうに忠告した。

 

「あのね、うちで預かってる『フローラ』ちゃんたちが、大切な()たちなのが間違いないんだけどさぁ。……それ、君自身も当てはまるんだからね」

「……私を半人前扱いですか」

「そうじゃなくって。なにかあったら、心配する人がたくさんいるってこと。あとほら、凄む役目を奪わないでくれよ。それ、君の仕事ってわけじゃないからさぁ」

「役目を、奪う……」

 

 諭されて、ブルーベルは目を向ける。

 警備を担当する元冒険者たちは、皆それぞれ困ったような笑みを浮かべていた。自分より遥かに年上の男たちが向けてくる視線、そこには気遣うような色。

 

「なんでも自分だけでやっちゃわないでよ、ブルーベルちゃん。……おじさんたちの立つ瀬がないからね」

「それは、申し訳、ありませんでした」

「うん。ブルーベルちゃんはさー、そりゃ頼りになるから色々任せたくなるんだけど。……僕たち、同じギルドで働く仲間だからね。やるときはみんなでやろうよ」

「……はい」

 

 確かに、警備からすれば、出しゃばりすぎだったかもしれない。自分がしたことを間違いだとは思わないが、結果的にないがしろにしてしまったのも否定できなかった。

 ブルーベルは反省すると、警備員たちへ頭を下げた。

 

「申し訳ありません、みなさん! 私の考えが足りませんでした!」

 

 ズバッと勢いよく頭を下げる姿に、警備に立つ男たちは苦笑する。

 

「あー、いいって。ただ、もうちょっと俺らのこと頼ってくれよ」

「そうだぜ。そのためにいるんだからさー」

「さすがに自分の娘か孫みたいな子に、頭下げさせたら……なんか、落ち着かねえからよ。頭上げてくれよ」

「はは、お前さん。嫁さんなんて見つからなかったくせに。つか、その顔でブルーベルみてえな娘は無理だろうがよ」

「うっせー! 夢にくらい浸らせろよ! そんな未来もあったかもしれねえじゃねえか!」

 

 警備員らはあえて茶化すように、場を和らげようとした。普段はデリカシーのない連中だが、義理と情に厚いからこそ、長年の貢献への返礼として警備員として起用されている。

 不器用な優しさを向けられたブルーベルは、力を入れていた肩を落とした。

 

「ふふ、ありがとうございます。みなさん」

 

 普段は鉄面皮を決め込んでいるブルーベルが、思わず笑みをこぼす。それはどこか無防備な愛らしさがあった。それを見て、いっそう一同は「わあ」っと盛りあがる。

 「え? え?」と周囲の反応に戸惑うブルーベルに、エピフィラはくすくすと笑った。

 

「ブルーは可愛いんだから、いつも笑ってればいいのにね」

「……うるさいですよ、エピフィラ」

「えー? ブルーにもわたくしをエピって呼んで欲しいのに。むぅ、やっぱりつれないんですの」

 

 暖かな空気が流れたのを確認すると、イエバは口の端を僅かに上げて身を翻す。

 あとは、みんなが上手くやるだろう。ひっそりと場から離れた。地位の高い人間がいつまでも現場に出張るのは、かえってやりづらいものだ。

 イエバは肩をほぐすように伸びをしながら、欠伸をする。そこでようやく咎めるような視線に気づいた。

 

「ん……? なしたの、リコリスちゃん」

 

 先回りして階段の前で待っていたのは、赤毛の麗人リコリスだった。

 

「ふぅ。アンタさ、トラブル起きるのわかってたのに、見逃しただろ」

「人聞きが悪いなあ。素行が悪い連中がいるのは、そりゃわかってたけどさぁ、いつ暴発するかなんてわかるわけないじゃないの」

「嘘だ。不慣れな受付嬢が、奴らの聴取案内をしなければならない状態なのはわかっていたはずだ。それが上手く行くかどうかなんて――」

「まあまあ。よしんばわかってたとしてさ、丸く収まったならいいじゃないの。ね?」

「チッ、アタシはアンタのそのすかした態度が嫌いだ」

「ふふふ、それ、最初に会った頃も言われたねえ。かれこれもう何年前だっけ」

「……そんなの忘れた」

 

 素っ気なく、ぷいっと顔を逸らせるリコリス。

 イエバが、最初にあった頃のリコリスは十代の少女だった。ただ前を向くしか知らない覇気と、絶対に目前の誰かを護るという意志。そして、鮮やかな才能ある輝きに、目を焼かれてしまったものだが。

 ……ただ、触れて欲しくない気持ちもわかるところだったので、イエバはいつもの態度でやんわりとはぐらかした。

 

「まあ、アレさ。ブルーベルちゃんの振る舞いは、周囲にプレッシャーを与えがちではあるからねぇ。かといって多少、人間味があった方が上手く行くって口で言ったってわかんないでしょ?」

「その、教えるやりかたが気に食わないと言っている」

「手厳しいなあ、教え子に対する親心みたいなもんなんだけどね」

「勝手に親面を決め込むな。計画の一部もブルーに話せない癖に。ギルド運営に必要なのは信頼と言った口で、なにをほざくか」

 

 辛辣な指摘に微苦笑を浮かべるイエバ、頭を掻きながら「やれやれ」と首を振った。

 

「そりゃさあ、大事な子だからこそ、言えないこともあるじゃないか。大人ってのは……」

「ふん、言い訳だらけだな。……それで?」

 

 投げかけられた言葉足らずの問いかけ。途端、緩んだ頬をイエバは引き締めた。

 

「ああ、そろそろ動くよ。――今回、揉めた連中が潜りだった」

 

 抑えの利いた声で返答をされて、リコリスはわずかに目を開いたが、「そうか」とだけ告げた。

 互いに別々の方向へと歩き出す二人の間にある、確かに共有された空気感。それは罪人を繋ぐ鎖にも似て、鬱々と。手放される寸前の矢弦にも似た、厳かさがあった。

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