お隣さんのギャルが僕を惚れさせたくて全力すぎる   作:枩葉松

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第17話 苦しいくらいに

 

「はぁー……疲れたー……」

 

 自室にて、大きく息をつきながら服を脱ぐ。

 

 昴の家を除けば、人生で初めて女の子の部屋に入った。

 部屋の中は生活感たっぷりで、掃除の過程で下着に触らざるを得ない場面も。当の家主は安心しきった顔で寝ており、それがまた可愛らしい。寝言で僕を呼んだりもする。

 

 こんなのさぁ……いや、無理だって。

 ドキドキしないわけないって!

 

 もう背中は汗でびしょ濡れ。

 下着はずむっと重くなっており、臭いとか思われなかっただろうか、と不安になる。

 

 ……着替えるだけじゃなくて、軽くシャワー浴びて行こうかな。

 いやでも、戻るのが遅くて不安にさせても悪いか。今の天城さんなら、それだけで泣き出しそうだし。

 

「これでよし……っと」

 

 着替えが終わり、天城さんの部屋へ。

 ドアを開けた瞬間――思考が、止まった。

 

 短い廊下の先の居間。整理整頓したのに、床が衣類でぐちゃぐちゃ。

 脱衣所の扉が開いていて、そこからは明かりが。

 

 僅か十分弱の間に何があったのか。

 恐る恐る脱衣所を覗くと、そこには半裸の状態で浴室と脱衣所の中間で倒れ動かない天城さんがいた。

 

「天城さん!? し、しっかりしてください!!」

「……ん? あっ……だ、だめぇ……! あたし、臭いから……!」

「な、何言ってるんですか……?」

 

 意識が朦朧としているのだろう。

 会話にならないし、身体にも力が入っていない。

 

 もしかして、汗が気になって風呂に入ろうとしたのか?

 流石にこの体調でそれは無茶だろ……。

 

「とりあえず、ベッドに戻りますよ!」

 

 上のパジャマはボタンが全て外れていて、ズボンは脱いでしまっている。見るのも触るのもはばかられる状態だが、かといって放置はできない。

 

 これ……ど、どこ触って、どう持ち上げればいいんだ?

 いや、悩んでる暇はない。このままじゃ体調が悪化するし。

 

 意を決して持ち上げ、何とか運ぶことはできた。

 ベッドに座った天城さんは、がっくりとうな垂れピクリとも動かない。しかしブツブツと何かを呟いており、耳を澄ますと「着替えなきゃ」「綺麗にしなきゃ」とひたすらに繰り返している。

 

「あぁもう……っ」

 

 頭をガリガリと掻いて、タオルを一枚取り水で濡らしてからレンジへ。温めている間に、床に散乱した衣類の中から新しいパジャマを抜き取る。

 

「身体、拭かせてもらいます。なので、今日はお風呂諦めてください」

「……ぁぅ……」

 

 声にならない声を漏らす天城さん。

 それは……同意、ってことでいいのか? もうほとんど意識ないな、このひと……。

 

 まず、上半身。パジャマの下は、黒いキャミソール。

 目のやり場に果てしなく困りつつ、首から肩へ、脇から腕を拭いた。そしてキャミソールを軽く捲って、背中とお腹の汗を拭う。

 

「……んっ、ぅう……佐伯ぃ……」

「あ、安心してください。変なところは触らないので……ぜ、絶対に……っ」

「……むね……」

「はい?」

「むねも……あ、汗が……」

「…………」

 

 普段なら自分でやれと突き放すが、いくら何でも今はできない。

 

 大きく深呼吸して、手をキャミソールの内側へ。

 ゆっくりと、じっくりと、躊躇いながら。

 上へ、更に上へと進ませた。

 

「ぅっ……」

 

 ふにっ、と。

 熱くやわらかく湿ったものが、指先に当たった。

 

 それと同時に天城さんは声を漏らし、パチリと僕を見つめて、再びまぶたを下ろす。続けて欲しいと、沈黙が語る。

 

「ご、ごめんなさい……本当に、変な意図はないので……!」

 

 胸の下側を拭いて、次いで谷間を拭いた。

 頭が真っ白になりそうなほどの圧倒的な質量を感じつつ、どうにか上半身が終了し新しいパジャマを着せる。

 

「つ、次……下、いきますよ?」

 

 上と同じく、黒のショーツ。

 掃除の際に下着は散々見たが、ただそこにある状態のものと着ている状態のものとでは、そのインパクトに天と地ほどの差がある。

 

 今にも余計なことを考えてしまいそうな脳みそに鞭を打って、太ももにタオルを押し当て内股へ向かって拭きあげた。

 

 天城さんは苦しくも甘ったるいうめき声を漏らし、そのせいでとても悪いことをしているような感覚に陥る。

 

 お、落ち着け。

 これはただの介助。こうしなくちゃ大人しく寝てくれそうにないから、仕方なくやってるだけ。いやらしいことじゃないし、もちろん不純異性交遊でもない。

 

「佐伯……んっ、ぅう……」

「す、すぐに終わります! もうちょっと……あと少しなので……!」

 

 自分でほとんど動かないひとにズボンをはかせるのはかなり手間取ったが、どうにかやり遂げた。

 彼女をベッドに寝かせ、大きく息をつく。

 

 気づけば、せっかく着替えたのに僕の方はまた汗でぐっしょり。

 額も背中も脇も大変なことになっており、何のために一旦部屋へ戻ったのかわからない。

 

「……ぁ……りがと……」

「いいですよ、これくらい。困った時はお互い様ですから」

「…………」

「……ど、どうしました?」

 

 ジッとこちらを見つめる天城さん。

 赤い瞳が小刻みに震え、程なくしてじわりと涙が浮かぶ。それは大粒の涙となって零れ落ち、枕を熱く濡らす。

 

「大丈夫ですか!? どこか痛むとか……?」

 

 弱々しく首を横に振った。

 悲痛なうめき声と共に、ボロボロと涙が溢れる。

 

「あ、あたしっ……だめだめだぁ……!」

 

 悔しそうに歯を食いしばり、鼻をすすった。

 

「佐伯にめーわくかけてばっかで……せっかく片付けしてくれたのに、ぐちゃぐちゃにしちゃって……!」

「そ、そんなの気にしないでください。あとで僕が――」

「今日だって……し、仕事のオーディションあるから、朝から佐伯に元気もらったのに! 結局台無しにしちゃったし!」

 

 今朝のことを思い出す。

 

『……ぎゅって、して』

 

 オーディション……あれは体調不良の前兆ではなく、そういうことだったのか。

 天城さんは優秀だが、こと仕事に関しては順調という話を聞かない。

 

 だからこそ、とても大切なオーディションだったのだろう。

 

「事務所とマネージャーさんにもめーわくかけちゃった! せっかくチャンスくれたのに! 佐伯も仕事も大事にしたいのに、どっちにもひどいことしちゃってる……!」

 

 そう言って、わんわんと子どものように泣き出した。

 

 あまりに悲痛な姿に、見ていられなくて、笑って欲しくて、咄嗟に彼女を抱き締める。

 僕は気にしていないとか、仕事先のひともわかってくれるとか、色々と言葉は浮かぶ。しかし、どれも慰めになる気がしなくて口に出せない。

 

 十分か、二十分か……しばらくして、天城さんは寝息を立て始めた。

 肉体的に限界だったのに、その上で号泣したのだから、体力が切れて当然だろう。

 

「…………」

 

 涙に濡れた顔をティッシュで拭って、布団をかけて、見下ろして。

 

 僕の胸の中に、ある一つの想いが灯った。

 

 我ながら、不思議だなと思う。

 お人好しが過ぎるだろ、と自覚はしている。

 昴あたりが聞いたら、きっと笑うだろう。

 

 でも、それでも。

 

 

 僕は、天城さんのために何ができるのだろうか――と。

 

 

 むしょうに、そう思ってしまう。

 彼女のことを、度し難いほどに、どうしようもないほどに、気にせずにはいられない。

 

 痛いくらいに目が離せなくて。

 苦しいくらいにそばにいたい。

 




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