お隣さんのギャルが僕を惚れさせたくて全力すぎる   作:枩葉松

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第20話 ちゅー

 

「写真撮らせて!!」

「は、はい……」

「動画もいい!?」

「どうぞ……」

「うひゃぁ~~~神しゅぎりゅ~~~♡♡♡ こっち見て! 笑ってぇー!」

「……ははっ、あはは……」

「キャ~~~~~~~~♡♡♡」

 

 大喜びだった。

 それはもう、お手本のような、模範解答のような喜びようだった。

 

 ……すごいな、昴って。

 ここまで天城さんを喜ばせられるとか、やっぱり女性たちを虜にしているだけはある。

 

「あれ? この匂い……何か料理してました?」

「あ、うん。佐伯がサプライズしてくれるって聞いたから――じゃなくて、何も知らないけどね!? 全然何にも知らないけど、あたしも頑張ってみようかなって思ったの!」

 

 忘れるって設定、ちゃんと突き通すつもりなのか。

 まったく隠せてないから、もう気にしなくていいのに。

 

「思ったんだけど、ね……あの、そのー……」

「どうしました?」

「オムライスを作ってさ! チキンライスは上手にできたんだけど……た、卵が……」

 

 気まずそうに言いながら、冷蔵庫から一枚の皿を取り出した。

 

 お、おぉ……これは中々……。

 

 チキンライスと卵が混ざり合って、見てくれは炒飯。美味しそうだが、しかしオムライスではない。

 天城さんって勉強も運動もそつなくこなすけど、実は不器用なんだよなぁ。

 

 家事全般、基本的に不得意。

 本人には言わないが、ちょっと嬉しい。

 

 他は完璧以上なのだから、こういうところでバランスを取ってもらわないと親しみを持てない。

 

「じゃあ、これは僕にください。そのお礼として、天城さんの分は僕が作ります」

「えっ? でもこれ、失敗作だよ……?」

「僕のために作ってくれたんですよね? だったら食べたいです。成功とか失敗とか、そんなのどうでもいいので」

「…………」

「な、何で黙るんですか……?」

「いや、ちょっとムカついちゃって」

「えぇ!? 僕、失礼なこと言いました!?」

「不純異性交遊はダメとか言って手出さないクセに、どれだけあたしの佐伯すきすきゲージ溜めれば気が済むわけ? そろそろ本気で襲っちゃうよ?」

「何ですかそのゲージ!? そんなこと言われても困ります!」

「だったら、もうちょっと優しくするのやめて! 厳しくして!」

「き、厳しくって……」

「……でも、あたしに厳しい佐伯は佐伯で、何かゾクゾクして好きになっちゃうかも♡」

「もう逃げ場ないじゃないですか……」

 

 ともあれ、天城さん家のキッチンに立った。

 エプロンは……まあ、いいか。卵調理するだけだし。

 

「硬めのとフワフワの、どっちがいいです?」

「硬め! ……と思わせて、今日はフワフワ!」

「わかりました」

 

 フライパンにオリーブオイルを引いてから火にかけ、温めている間に卵をとく。

 サッと卵液を流し入れて焼いてゆく。

 

「あのー……」

「ん?」

「な、何でそんなにジロジロ見てるんですか……?」

「料理するオシャレ佐伯、推せるなぁーと思って♡」

「……そう、ですか」

 

 喜んでくれてるのは嬉しいけど、僕が買ったプレゼント、渡すタイミングわからなくなっちゃったな。

 

 これ作ったら渡す? いや、タイミングおかしいか。

 ご飯食べたあと……でも、どうやって話を切り出せばいいかわからない。

 

 やばいな。このあたり、昴に聞いとくんだった。

 昴ならどうする?

 

 ……いや、考えたって参考にならない。

 あいつならきっと、もの凄くスマートに渡す。キザな台詞付きで。

 

 そんな技術、僕にはない。

 

 

 ――もういっそ、渡さないとか?

 

 

 せっかく楽しい感じなのに、場の空気を盛り下げちゃうかもしれないし。

 

 僕のプレゼントがウケる確証はない……っていうか、たぶんウケない。

 少なくとも、昴の上を行くことは絶対にない。

 

 うん……そうしよう。

 天城さんが笑顔なら、それでいい。

 

「もうすぐできますよ」

「やった~!!」

 

 程なくして、オムライスが完成。

 天城さんが作ったくれたのもテーブルに並べ、「いただきます」と夕食を始める。

 

「んまぁ~~~! 佐伯ってばマジ天才すぎー!」

「天城さんのチキンライスが美味しいからです」

「えぇー、そう? へへっ、そうかもねぇー♡」

 

 笑っている。どことなく、普段よりも可愛い気がする。

 きっと、僕が昴のおかげで変身しているから。

 

 別に何の文句もないが……何だろう、この気持ち。

 

 もにょる。

 心が。

 

「デザートにケーキ買ってあるよ! 駅前の美味しいとこのやつ!」

「本当ですか? ありがとうございます」

 

 オムライスを食べて、少し駄弁って、冷蔵庫からケーキを出して。

 今回の試験について質問をしつつ、デザートタイムを楽しんで。

 

 少しテレビを眺めれば、時刻は午後十時。

 

「じゃあ僕、そろそろ帰りま――」

 

 いつもだと、大体これくらいでお開きになる。

 荷物をまとめて帰宅しようとした瞬間、天城さんのスマホが震えた。

 

「あ、ちょっと待って!」

 

 仕事の連絡だろうか。

 いつものハイテンションはどこへやら。とても真面目な顔つきでメールを確認する。

 

 少し経って小さくガッツポーズを作り、僕を見るなりニマーッと嬉しそうに笑う。

 

「お仕事、一個決まった!」

「えっ!? すごいじゃないですか!」

「先方さんが、わざわざあたしのこと指名してくれたんだって! 一応SNSとかも頑張ってるし、ちょっとは効果あったのかな? へへっ、やったー!!」

 

 「おめでとうございます」と祝福して、二人でハイタッチ。

 笑い合うも、すぐに彼女の顔には緊張感が走る。今度こそ失敗できないと、その目は強く語る。

 

『事務所とマネージャーさんにもめーわくかけちゃった! せっかくチャンスくれたのに! 佐伯も仕事も大事にしたいのに、どっちにもひどいことしちゃってる……!』

 

 不意に、数日前の彼女の言葉が脳裏を過ぎった。

 

 ――そうだよ。何を勘違いしているんだ、僕は。

 

 今回プレゼントを贈ろうと思ったのは、単純に彼女を喜ばせたいからじゃない。

 当然喜んでは欲しいけど、そもそもの出発点は僕のエゴ。頑張っている天城さんを応援したいという、ワガママだ。

 

 昴のプレゼントがウケて、自分のと比較して、嫉妬して……渡さない方が彼女のためと言い訳をした。

 僕自身が傷つきたくなくて、応援というそもそもの目的を投げ出した。

 

 しっかりしろっ。

 あの日、泣いてる天城さんを見て思ったことは嘘じゃないだろ。

 

 わざわざ忙しい昴を巻き込んで、何をウジウジやってるんだよ。

 昴のセンスがいいとか当たり前。そもそも勝負になってないんだから、嫉妬する方がバカバカしい。

 

 保身に走るな。

 最初からワガママなのだから、最後までワガママを貫け。

 

「あの!!」

「っ!? び、びっくりしたー……なに、いきなり大きな声出して?」

「そ、その……えっと……!」

 

 鞄の中にしまっていた、小さな紙袋。

 それを取り出して、そっと天城さんに渡す。

 

「僕からのプレゼントですっ。すみません、中々渡せな――」

「よかったぁ~~~!! んもーっ、ずっと待ってたんだよ!? 全然渡してくれる気配ないしさぁ!!」

「……へっ? ま、待ってた?」

 

 予想外のリアクションに、思わず声が裏返ってしまった。

 

「忘れてるってことにしてたから、直接聞くのも下品だしさ! あぁー、安心した」

 

 言いながら、紙袋の中を覗いた。

 そして、キラキラとした目で僕を見る。その意思を汲み取って、「開けてもいいですよ」と躊躇いつつも促す。

 

 今日に至るまで、試験勉強の傍ら、何がいいか必死に調べた。

 何なら喜ばれるか。何なら迷惑にならないか。何なら邪魔にならないか。

 考えて考えて考え抜いて、それでも答えは出なくて、結局ぶっつけ本番。

 

 昴に連れられてあちこちの店を回り、あれがいいかこれがいいかと悩み、手に取って。

 

 ――ようやく、見つけた。

 

「これ……ブレスレット?」

 

 初めてのプレゼントに、恋人同士でもないのに、アクセサリーはどうなのか。

 

 当然、悩んだ。

 でも、これ以外に思いつかなかった。

 

 見つけた時に、きっと天城さんにすごく似合うと確信してしまったから。

 

「昴と違って、あまりお金ないので……ぶっちゃけ安物ですが、ぼ、僕なりに……これがいいかなって思って、その……」

「……ぅっ」

「え?」

「ぅう……ううっ、ぐすっ……」

「ちょ、ちょっと!? 何で泣くんですか!?」

 

 ブレスレットが入った箱を持って、ボロボロと涙を流す天城さん。

 

 喜ばれるか、ガッカリされるか。

 その二択だと思っていたのに、まさか第三のリアクション。

 

 予想外の事態に、僕はただわけがわからなくて焦る。

 

「だって……う、嬉しくてっ♡ へへっ、えへへ……好きな人からのプレゼント、マジやばすぎー……♡ 涙止まんなくてウケるんだけど……♡」

 

 涙を拭いながらも、その口元には笑みが咲く。

 

 僕と対面した時のような、わかりやすい喜び方ではない。

 声も弾んでいないし、荒ぶった仕草をするわけでもない。

 

 だけど、その涙には果てしない価値があるような気がした。

 贈ってよかったと、心の底から思った。

 

「ねえ佐伯……これ、着けてもらってもいい?」

「は、はい」

 

 上品なハートのチャームが特徴的な、銀色のブレスレット。

 

 手首に巻かれたそれを見て、天城さんは笑う。

 白い歯を覗かせて、爛漫に。

 

 よく晴れた夏の朝みたいに。

 

「……似合う?」

「似合います」

「じゃあ、かわ――」

「可愛いです。すごく、すごく……可愛いですっ」

 

 堪らず、彼女の問いかけよりも先に声が出た。

 

 だって、似合うから。

 可愛いから、仕方がない。

 

 ほろりと、天城さんの頬を大粒の涙が伝う。

 僕が咄嗟にそれを指で拭って、ふと目が合う。

 

「え、えっと……頑張ってください。今度のお仕事も、これからも、僕なりに応援していますからっ」

「……うん、ありがと」

 

 小さく頷いて、彼女は僕の手を取った。

 

 指をいじって、感触を確かめて、繋ぐ。

 手汗が混じり合うことも気にせず、硬く。

 

「ねえ佐伯」

「何ですか?」

「……好き、大好きだよ。ずっとずっと、好きだからね」

 

 僕を、僕だけを見つめる、大きな二つの瞳。

 誰にも渡したくないくらいに美しくて、時間も忘れて見惚れてしまう。

 

 ぐいっと、向こうの手が僕を軽く引っ張った。

 たいした力じゃないのに、重力がないみたいに身体が吸い寄せられてゆく。

 

 抗いようがないほど、どうしようもないほどに、今はただ天城さんが可愛い。

 

 彼女がつま先立ちをしたことで、より距離が縮まった。

 いい匂いがする。甘くて、涼しい感じがする、そういう匂い。

 呼吸の音、そして熱。

 

 睫毛が長い。あとやっぱり、目が綺麗だ。

 

 近い。

 顔が。

 唇が。

 

 もう。

 後戻りできないくらいに。

 

 ――ゴッ。

 

 すんでのところで、僕のメガネが天城さんに当たって、お互いに動きが止まった。

 パチパチと数秒見つめ合い、僕は勢いよく距離を取る。

 

「ごごっ、ごめんなさい! 何か空気に飲まれたっていうか……あ、危なかった……!」

「ちゅーできると思ったのに……そのオシャレメガネさえなければなぁ……」

 

 悔しそうに唇を尖らせる天城さん。

 度の入っていないメガネとか何の意味があるのかと思ったが、まさかこんな形で役に立つとは思わなかった。

 

 ありがとう、昴。

 こいつのおかげで、今日も僕の一人暮らしは守られた。

 

「じゃ、じゃあ僕、そろそろ帰りますね」

「うん、今日は本当にありがと! いつもの佐伯もいいけど、オシャレ佐伯も好きだから、今度あたしとも服とか買いに行こ? てか、デートしたい♡」

「デートって……わ、わかりました。もうちょっとお金に余裕ができてからでよければ、どこへでも付き合いますよ」

「やったぁー♡」

 

 バイバイと手を振り合って、部屋をあとにした。

 夜空を見ると、清々しいくらいに丸い月がのぼっていた。

 




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