「佐伯、遅いなぁ……」
時刻は午後七時過ぎ。
佐伯はいまだ帰って来ず、連絡も返って来ない。
最後に見たのは学校。
文化祭の出し物を何にするか話し合っている最中だったので、あたしは先に帰宅した。
もしかして、まだやってるの? 流石にそんなわけないよね?
「……ん? あ、帰って来たかな……?」
古いアパートだ。誰かがアパートに近づけば、何となく音でわかる。
階段をのぼる音、そして廊下を歩く音がする。
……ん? 何か、数多くない?
不思議に思いつつ、そっと玄関へ行き扉を開いた。そこには確かに佐伯がいたのだが、
「あっ! 天城さん!」
「こんばんはー! お邪魔してまーす!」
「本当に佐伯君のお隣さんなんだー!」
気まずそうな表情の佐伯。
彼の後ろには数人の女性生徒がいて、ゾロゾロと顔を出してあたしに挨拶する。
そして流れるように、「お邪魔しまーす!」と佐伯の部屋へ。
えっ……あぇ!? な、何で!?
「違います! 違いますよ、天城さん! これ、変な意図はまったくないですからね!」
みんなが入れるよう扉を押さえていた佐伯は、焦った表情でそう言った。
「僕、文化祭の出し物のメニューを考えなくちゃいけなくなって! みんなは意見を出したり、料理の味見をするために来ているだけなので!」
「学校で話してたんだけど、先生にそろそろ帰れって言われちゃってー!」
「だったら、話し合いのついでに佐伯君の料理の腕前を確かめちゃおうってなったんだよねー!」
口々に言って、彼の部屋へ入って行った。
佐伯は苦笑いしつつ、「そ、そういう感じです」と頭を掻く。
「じゃ、じゃあ……今日、勉強はどうするの?」
「試験も終わりましたし、早くメニューを確定させたいので、三日間くらいお休みしたいなと……」
「そっか……あっ! あたしもメニュー決め、手伝っていい!?」
「すみません。何かみんな、他のクラスのひとには内緒にしたいらしくて……」
「…………」
「本当にすみません……」
申し訳なさそうにしながら、佐伯は部屋に引っ込んだ。
あたしも自室に戻り、ベッドに座る。
……仕方ないよね。
わかってるよ。佐伯もクラスの子たちも、変なこと言ってないもん。
せっかくのイベントだから、誰だってはしゃぎたい。
わかってる。わかってるけど……。
「うぅ……うぅ~~~!! あたしの佐伯が!! あたしだけの佐伯なのにぃ!!」
ベッドに寝転がり、ボカボカと枕を殴る。
ってか、何で佐伯が料理できるってみんな知ってるの!? そんなクラスで目立つタイプじゃないのに何で!? あの佐伯が自分から言い出すわけないよね!?
……あっ。
あたしじゃん。犯人、あたしじゃん。
あたしがみんなに佐伯のお手製弁当を自慢しまくってたからじゃん!!
「佐伯君の部屋、めちゃ綺麗じゃない?」
「うわっ! エプロン姿、すごい似合うね!」
「料理男子いいなー! こんな彼氏ほしー!」
等々、隣の部屋から声が漏れ聞こえる。
ふんぎぃいいいいいいいいいい!!
うぎぎぎぎぎ!! いぃいいいいやぁあああああうわぁあああああああああああああああ~~~~~!!!!
あたしの佐伯がぁああああ!!
バレちゃう!!
佐伯が激やばにカッコよくて優しくてすごいって世界にバレちゃうぅうううう!!
嬉しいけど!! 佐伯が褒められるのは嬉しいけど!!
でも、部屋にまで入られたら不安になるじゃん!! あたしに内緒で楽しそうにされたらムズムズするじゃんよー!!
「切るの早っ!? プロみたい!」
「えーっ、なになに! 見せてみせてー!」
「ちょっと真面目に、今度料理教えてよ! お礼するから!」
おれい? おれい、オレイ、OREI……お、お礼?
お礼ってなに!?
何するつもりなのさ!! ナニするつもりなのさぁ!!
あたしの佐伯にナニをするつもりなのさぁあああああ!!
「はぁ、はぁ、はぁ……! ちょ、ちょっと落ち着こ……」
大きく息を吸って、吐いて。吸って、吐いて。
ふぅー、焦り過ぎだぞあたし。
クールにいこう、クールに。昴ちゃんを見習おう。
佐伯が別の女の子と部屋で二人っきりとかならともかく、今は一対多数。しかも、文化祭の準備といういたしかたのない事情。
こんなことでいちいち嫉妬してたら身がもたないし、もし佐伯にバレたら、うわ何だこのめんどくせぇ女って思われちゃうよ。
自己暗示しろー、自己暗示っ! そう、あたしは余裕のある女!
好きな男が別の女の子たちと楽しそうにしてたって何も思わない、落ち着きのある理性的な女! ふふんっ!
「おいしー! すごっ、天才じゃん!」
「うちに佐伯君欲しいなぁ。ってか、もうウチらがここに住んじゃう?」
「じゃあ、今日はお泊りしよっかー!」
……別に平気。
全然まったく、動じたりしない。
佐伯がお泊りとか許すわけないし。クラスの子たちだって、ただ冗談言ってるだけだし。
へーきへーき、何とも思ってない。あははは。
「…………はっ!?」
気づくとあたしは、佐伯の部屋のインターホンを押しかけていた。
……あ、危なかった。あと一歩でやらかすところだった。
ってか、こんな日があと二日も続くの?
あたし、おかしくなっちゃうよ!?
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