お隣さんのギャルが僕を惚れさせたくて全力すぎる   作:枩葉松

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第23話 旦那じゃん

 

「おいしー! すごっ、天才じゃん!」

「うちに佐伯君欲しいなぁ。ってか、もうウチらがここに住んじゃう?」

「じゃあ、今日はお泊りしよっかー!」

 

 ベッドに三人。

 

「するわけないじゃん。佐伯君が困ってるよ」

「佐伯、ごめんねー?」

 

 床に二人。

 

「全然そんな……だ、大丈夫ですよ……」

 

 僕の六畳間は今、どこを見たって異性しかない。

 天城さんが初めて部屋に来た時は感動したが、こうも多いとそんな感情は湧いてこず、乾いた笑いしか出てこない。

 

「佐伯君が料理上手ってのもわかったし、とりあえず、今まで出た案まとめていこ」

 

 といった具合に、真面目な話し合いがスタートした。

 その話を聞きつつ、僕は洗い物をしてお茶を淹れお菓子を出す。

 

「お金を稼ぐってのがネックだよねー」

「男子たちが言ってるだけだし、別に無視してよくない?」

「ダメだよ。そこ無視したら、メニュー決め任された佐伯君の責任になっちゃう」

「あぁ……確かにそっか……」

「ムズいー! 無理でしょこれー!」

 

 五人は一様にため息をついて、そして事前に練習でもしたかのように、一斉に僕を見た。

 同時に視線を向けられるのは中々に迫力があり、「うわっ」と僕は軽くのけ反る。

 

「ってかさ、佐伯君って今まで一回も案出してなくない?」

「そう、でしたっけ……?」

「ごめんね。ウチら、喋り過ぎちゃったかも!」

「別に謝らなくても……」

「料理名人の佐伯的に、どんなのがいいと思う?」

「名人……ではないですが……」

 

 まずい。

 僕が何も言わなくても五人が決めてくれるだろうと思っていたのに、ここに来て話し合いから逃げていたことがバレた。

 

 本当に慣れてないんだって。こういう重大な責任を負うの。

 だけど、嫌とも言えない。やりたくないと言っておけばそれで全て済んだのに、はいと首を縦に振ったのは他でもないこの僕。

 

 ……一個くらい、何か案出しとくか。

 どうせ通らないだろうけど、何も言わずに非難を浴びるよりずっとマシだ。

 

「揚げパン……とか、どうでしょうか?」

「「「「「揚げパン?」」」」」

 

 気持ちいいくらいに声がハモった。

 

「揚げたコッペパンに、砂糖やきなこ、ココアパウダーや抹茶パウダーなんかをまぶして食べるスイーツです。簡単で美味しいですし、アレンジ方法も豊富で面白いかなって。コッペパンも業務用のならかなり安く買えると思うので、油や味付け用の粉、包装紙とかを買っても、二百円くらいで売れば原価率も三割くらいに抑えられるかなぁ、と……」

 

 彼女たちの話し合いを聞きつつ、何となく考えていた案を並べた。

 

 調理が簡単で、作ってる感があって、その上で利益が出せるもの――この三つの条件をクリアできそうなものが、僕の知識だとこれ以外になかった。

 

 まあ、採用はされないだろう。

 そう思っていたのに、五人は顔を見合わせて頷き合い、そしてまたしても僕を見る。

 

 全員の瞳が、キラキラと輝いている。

 

「よくない!? ちょーよくない!?」

「揚げパン好き! 小学校の給食で出たー!」

「先生とか外から来るお客さんも、懐かしがって買ってくれそうだよね!」

「佐伯君ってば天才じゃん!?」

「もったいぶらずに早く言ってよー!」

 

 ……えっ?

 い、いいの? 揚げパンで……?

 

 どうやらメニューが決定したようで、彼女たちは口々に僕を褒め、そして早くも次の話し合いに進んでいる。

 どんな味がいいかとか、アイスを挟むのはどうかとか、包装紙は可愛いのにしようとか、先ほどのぐだった会議から一転して笑顔が咲く。

 

「よかったー! 今日だけでほぼまとまりそうだね!」

「明日は試作しよ。色々買い込んで」

「佐伯君のおかげだよ。天城さんに好かれるのもわかるなー」

「他の男子たちと違って、ちゃんと色々見れてるっていうか、考えてるもんね」

「天城さんのこと、幸せにしてあげなよ?」

「いやあの、僕たち付き合ってるわけじゃないので……」

 

 一拍置いて、「それと」と続けた。

 これは絶対に、言っておかなければいけないと思った。

 

「僕の勝手な想像ですが……天城さんって、誰かに幸せにしてもらいたいひとじゃない思うんです」

 

 脳裏に彼女の笑顔が、晴れ晴れとした立ち姿が浮かび、つられて僕の口元も緩む。

 

「自分の好きなことにいつだって全力で、その上でやるべきことはちゃんとやって、だからカッコよくて。たぶん僕が幸せを担いで行っても、天城さんは喜びません。それよりも、あっちに行ったら幸せかもって走ってるところを支える方が、あのひとは笑ってくれる気がします」

 

 と言って、何だか急に恥ずかしくなってきた。

 

 やばい……僕、ちょっと語り過ぎたかも。これじゃあ、天城さんのオタクじゃないか。

 キモいって思われてないか? 僕がそう思われるのは最悪いいとして、天城さんの評判が下がるのは嫌だな。

 

「うわぁ……」

「……な、何か」

「……うん……」

「聞いてるこっちが、恥ずかしくなってくるね……」

「……旦那じゃん。もう結婚しなよ……!」

 

 顔を赤く染めて一様にニヤつく五人。

 キモがられなかったのはよかったが、これはこれでどう対応すればいいかわからない。とにかく恥ずかしくて、僕は顔を伏せた。

 

「本当に大事なんだね、天城さんのこと」

 

 と、誰かが言った。

 

 床を見つめながら、何度かまばたきをする。佐伯、と天城さんに名前を呼ばれた気がする。気がするだけなのに、何だかそれが少し嬉しくて、つい頷いてしまう。

 

 ……僕って、相当キモいな。




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