お隣さんのギャルが僕を惚れさせたくて全力すぎる   作:枩葉松

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第25話 賢い有咲ちゃんは考えました!

 

「佐伯の部屋なのに、あたし以外の女の匂いがする……」

「し、仕方ないじゃないですか! そんな嫌そうな顔しないでくださいよ!?」

 

 十数分後。

 諸々買い物を済ませてから、天城さんはお泊りセットをまとめて僕の部屋に来た。

 

 そしていの一番に、この難しい表情。ムムムッと唇を噛み、悔しそうに眉を寄せる。

 かと思ったら、今度は深呼吸し始めた。ラジオ体操みたいに。

 

「何をやってるんですか……?」

「この部屋の空気をあたし色に書き換えてるの!」

 

 ……バカなのかな?

 

「放っておけば、勝手に天城さん色になりますよ。それより文化祭の準備、手伝ってください。どこでコッペパンを買うのが一番安いか、ちょっと調べて欲しくて」

「それだけでいいの? 価格設定とか発注量の参考になるかと思って、色々データ持ってきたんだけど」

 

 そう言って、一冊のメモ帳を僕に渡した。

 

 そこに書かれていたのは、過去の文化祭のデータ。

 何年にどこの組が何をして、どれだけお客さんが来て、どれだけ利益が出たのか。準備中や本番でのトラブルはどういうものがあったのか。また、それをどう解決したか。――などなど、こと細かに記されている。

 

「これ、どうやって調べたんですか……?」

「先輩に聞いたんだよ。全クラス回って、お願いしまーすって感じで」

 

 サラッと言っているが、とんでもないコミュ力だ。

 ……まあ、天城さんだしな。それくらいできて当然か。

 

「でも、何で? 文化祭のためにここまでします?」

「やった方が面白いじゃん! 別にたいした手間でもないし!」

 

 たいした手間でもない……わけがないと思うが、僕を惚れさせたいがために自作の参考書を作っちゃうようなひとだ。彼女が言うなら、そうなのだろう。

 

 にしても、本当にチグハグなひとだ。

 見た目も性格もド派手なのに、こういうところは抜け目ないというか何というか。

 

 素直にすごいなと思う。絶対に真似できない。

 

「しっかり文化祭の準備のお手伝いしなくちゃ、不純異性交遊になっちゃうからね! あたしにできることは何でもするよーっ!」

 

 胸の前で小さくガッツポーズを作って、ニッと白い歯を覗かせた。

 心強いなぁ……と思った矢先、急にその笑みは邪な感情剥き出しの表情に豹変する。

 

「ここであたしがいっぱい仕事すれば、あとで佐伯に何しても許されるよね? だって、いっぱい仕事したんだもん……ぐへへっ♡」

「……変なことしたら、マジで追い出しますよ?」

「わかってるよぉ♡ わかってるってぇー♡」

 

 う、うわぁー……。

 すごい、全然わかってない顔してる……。

 

「んじゃ、始めよっか!」

 

 大袈裟に腕まくりをして、作業を開始した天城さん。

 

 途端に顔からおふざけの気配が失せ、両の瞳には真剣な熱が灯る。

 ピッタリと閉じた唇。必要最低限に動く視線。静かな呼吸。

 

 ……僕、好きだな。

 天城さんの、真面目な表情。

 

 

 ◆

 

 

 文化祭の準備の手伝いに脳みその半分を使い、残ったもう半分であることを考えていた。

 

 ――今夜、どうやって佐伯とお風呂に入ろう。

 

 何をバカなことを考えているんだ、と思われるかもしれない。

 でも、これってあたしにとっては大事なことなわけ。

 何でかって? そりゃあ、理由は一個しかないよ。

 

 佐伯と、えっちなことがしたい!!

 

 大事なことだよ。すごぉーく大事なことだよ。

 世の中には色々な好きがあると思うけど、あたしの佐伯に対する気持ちはそういう好きだ。そばにいて、認め合って、心も身体も触れ合いたい……そういう好きだ。

 

 せっかく勝ち取ったお泊り。この絶好の機会を逃す手はない。

 

 一緒にお風呂に入って、おっぱいとか押し付けちゃったりして!

 流石の佐伯も我慢できなくなって……んでんで、もう無理ーって感じで襲い掛かっちゃったりして!

 

 うっひゃぁ~~~♡♡♡ どうしよぉ♡ あたし、大人になっちゃう~~~♡

 

 ……っと、そのために。

 大切なのは流れ。自然に、佐伯が納得する形で、一緒にお風呂に入る流れを作ること。

 

 普通に誘たって、絶対に承諾は得られない。

 最悪、お泊り会そのものが中止になる可能性すらある。それだけは困る。

 

 なので、賢い有咲ちゃんは考えました!

 

 完全無欠究極のアイデア。不純異性交遊まで脇目も振らずまっしぐらな、孔明も驚きの絶対確実スケベルート。

 

 いやぁ、我ながら賢いって罪だなぁ! 佐伯の一人暮らし、今日で終わっちゃうなぁ!

 でも、佐伯のせいだよ?

 佐伯のことが大好きなあたしを、安易に泊まらせちゃうのが悪いんだよ? その危機感のなさが悪いんだからね?

 

「作業はこれくらいにしましょう。何か温かいものでも飲みますか?」

「うん。あたし、ココアがいい!」

「わかりました」

 

 ノートパソコンを閉じて、腰をあげた佐伯。

 

 牛乳を温めつつ、カップとココアパウダーを出す。

 キッチンに立ってる後ろ姿、相変わらず好きだなぁ……と思いつつ、「ねえ」と作戦を実行に移す。

 

「次、あたしのクラスの手伝いしてもらっていい?」

「天城さんのクラスの? 聞いてませんでしたが、何やるんですか?」

「お化け屋敷だよ。定番でしょ?」

「へえ、いいですね」

 

 言いながら、完成したココアを持ってきた。

 「ありがと!」と受け取って、早速ひと口。うん、美味しい。

 

「あたし、お化け屋敷のギミック制作の責任者になっちゃってさ。参考にってことで、クラスのみんなから色々なホラー映画を教えてもらったの」

「……もしかして、それを今から一緒に観ようって話ですか?」

「そう! だって、一人で観るのって怖いでしょ?」

 

 佐伯はチラリと時計に目をやり、悩む素振りを見せた。

 当然だ。時刻は午後十時前、平日に映画を観始めるには少し遅い。

 

 でも、あたしにはわかる。佐伯は絶対に断らない。

 

「僕のこと手伝ってくれましたし……わかりました、いいですよ」

 

 ほらね。

 恩は返す。筋は通す。それが佐伯のいいところだ。

 

「やったー! んじゃ、早く観よー!」

 

 持ってきたタブレットをつけて、動画配信アプリを起動。

 クラスのひとたちが言っていた、最恐に怖いというホラー映画を再生する。

 

 作戦は単純。

 

 佐伯はこれを観て怖くなり、一人でのお風呂に躊躇する。

 そこであたしが、一緒に入ってあげようかと優しく語りかける。

 怖いから仕方ないし、不純異性交遊じゃないよと背中を押す。

 

 たったそれだけ。

 

 まったく怖がらなかった場合だが……まあ、それはないでしょ。ネットの評価でも、ここ十年で一番怖いとか書いてあったし! 色々な賞も獲ってるみたいだし!

 あたし? あたしは平気だよ? たかがフィクションを怖がったりしないって! まあ、あんまりホラー映画知らないけどね!

 

 しかも、吊り橋効果で佐伯があたしに惚れるかも! あたしってば天才か!? 惚れた状態でお風呂とか、もうそういうことじゃん!!

 

 いやぁ、困っちゃうなぁ! 自分の優秀さが恐ろしいなぁ!

 ガッハッハーッ!!

 

 

 ◆

 

 

「いやぁああああああああああああああ~~~~!!!!」

「ちょ、あの、天城さん……時間を……この時間に大声はまずいですって……!」

「ひやっ! わっ、わわっ! 佐伯ぃいいいい~~~~!!」

「はいはい……僕はここにいますよ……」

 

 最初は余裕の表情だった天城さんだが、一人目の犠牲者が出たあたりで顔色が変わり、以降はずっと僕の腕にしがみついてブルブル。この通り、涙目で絶叫するだけの存在が誕生してしまった。

 

 僕はというと……確かに怖いけど、こうも隣で叫ばれては内容に集中できない。

 あまりにリアクションがいい天城さんの方が面白くて、もう怖いとか怖くないとかどうでもいい。

 

「はぁ……はぁ……!! お、終わった……!? 映画、もうこれで終わり……!?」

「どうでしょう。締めに何か出たり――」

「びゃぁああああああああああ~~~~っ!!」

 

 最後に鮮血が飛び、エンドロールへ。

 疲れたのか、天城さんはぐったりと床に寝転ぶ。

 

 ……全力で夢を追って、全力で僕を惚れさせようとして、ホラー映画まで全力で怖がって。本当に楽しそうに生きてるなぁ、天城さんって。

 

「時間も時間なので、僕、シャワー浴びて来ますね。天城さんも自分の部屋でお風呂入ってきてください」

 

 彼女を残し、着替えを持って浴室へ向かう。

 もうじき日付けが変わる。流石にそろそろ寝る準備をしなくちゃ。

 

「……ん?」

 

 ギュッと、何かに後ろから引っ張られ足が止まった。

 

 振り返ると、そこには涙目の――というか号泣一歩手前の、いましたが殺人鬼に追いかけ回されました、と言った感じの顔の天城さんがいた。

 

「一人にしないでッ!!」

「いやでも、お風呂には入らないと……」

「一緒に入ってぇッ!!」

「…………」

 

 一瞬、何か邪な考えがあるのかと思った。

 僕とお風呂に入りたいがためにホラー映画を視聴。その後、怖いからと理由をつけ、一緒にお風呂に入る算段なのかなと。

 

 でも、ガチだ。

 この顔、ガチで怖がってるし、たぶんこのまま放置して風呂に行ったら泣きながら問答無用で乗り込んでくる。そんな気がする。

 

「……一緒に入るのはダメですが、僕が出るのを脱衣所で待つくらいはいいですよ。僕も天城さんが入っている間、脱衣所にいますから」

「ありがどぉ!! ありがどぉおお!!」

「じゃあ僕、ささっと済ませちゃいます。ちゃんと待っててくださいよ。じゃないと、部屋から追い出しますから」

 

 ブンブンブン、と凄まじい勢いで首肯する。

 いまだかつてないほど、信用に足る目をしている。

 

 そして事実、天城さんは僕がお風呂に入っている間、決して扉を開けようとしなかった。

 

「さ、佐伯、そこにいる!? いるよねぇ!?」

 

 十秒に一回くらい、生存確認されたけど。




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