「あれ、バズってたひとじゃない?」
「うわマジだ! しゃ、写真撮る……!?」
「やめときなよ。失礼だって」
文化祭から数日経って。
土曜日の夕方。
駅前のマクドナルド。
ポテトをつつく僕を遠目に見て、大学生っぽい女性二人がひそひそと話す。
「ハハハッ。すっかり有名人じゃないか、真白。よかったね」
「よ、よくないよ……! 学校ではいじられまくるし、今日も知らない中学生に握手求められたし、これいつまで続くの……!?」
「大衆はそこまで暇じゃない。心配しなくても、もうじき治まるさ」
テーブルを挟んで向こう側に座るのは、キャップとサングラスで変装した昴。
彼女はコーヒーをひと口飲んで、ニヤニヤと面白おかしそうに笑う。
『天城さんのことが、好きだからです』
『あ、いや、違うっ……くはない、ですが! 天城さんの前向きなところが好き、という意味で……!』
『とにかく僕は、お母さんと仲直りして欲しいんです! 無理とか仕方ないとか、そんな風に諦めている天城さんを見るのが嫌だから! 全力で好きなことをやって笑っているところを見るのが、大好きだからっ!』
『行きましょう。天城さん一人じゃない! ずっとずっと、僕がそばにいるよ!』
文化祭での一件。
学校の玄関でのやり取り。
あれをどこかの誰かが撮影して、よりにもよってSNSに流し……そして、バズった。
焦ったのか、撮影主は動画を削除。
しかし時すでに遅し、誰かがコピーしていて転載祭り。
昨日はこの件で急遽全校集会が行われ、学校内でのスマホの使用が原則として禁止になった。
……まあ、誰も守らないだろうけど。
「僕は我慢すればいいけど……これ、天城さんの仕事に悪影響出たりしないかなぁ……」
「難しいところだね。下手をすれば、これで予定していた案件が飛ぶかも」
「…………」
「そ、そんなこの世の終わりみたいな顔をしないでおくれよ。心配しなくても、うちの事務所に恋愛禁止なんて決まりはない。アイドルじゃないからね。それに彼女だって、仕事と青春を両立させるリスクは覚悟しているはずさ」
それはそうかもしれないが、だから安心、とはならない。
やったことに後悔はないけど……でも、せめて人目は気にするべきだった。どっか空き教室に入るとか、やりようはあったのに……。
「それより、キミこそ大丈夫なのかい?」
「えっ、僕?」
「あんな動画が出回れば、どうしたってキミの両親も知ることになる。あれが不純異性交遊かどうかは微妙なところだが、もう一人暮らしは終わりだと言われても文句は言えない気がするよ」
「あぁー……うん、それか。よくわからないけど、大丈夫だったよ。付き合ってるわけじゃないって説明したら、何か納得してくれた」
「随分と話がわかるね。一人暮らしの条件自体は、わりと厳しいのに」
「いや、そうなんだよ。ちょっと僕もビックリして……まあ、今の生活を続けられるなら、別に何でもいいんだけど」
両親はSNSを触らないが、うちの兄弟姉妹は違う。
コイツ決まり破っていますよ、と確実に告げ口をする。
もう終わりだと思ったが、結果は現状維持。
これで一人暮らしが終わったら天城さんがへこむだろうし、そういう意味でも本当によかった。
「ところでだけど、今日はどうしたの? 休日に、いきなり私を呼び出して。しかも合流してから、ここで駄弁ってばかりじゃないか」
「それね。もうそろそろ、迎えに来るかな?」
「迎え?」
ゾロゾロと三人の男女――うちのクラスメートが入店。「おつかれー」と僕たちを取り囲み、昴はギョッと目を見張る。
「えっ……真白、これはどういう……?」
「文化祭の打ち上げ、今日でさ。昴にも来てもらいたくて。昔から学校のイベントはいつも仕事で来ないし、打ち上げとかも来たことないでしょ」
「そ、それはそうだけど、参加してもないイベントの打ち上げにだけ顔出すって、みんな嫌がるだろ……!」
クラスメートの一人が、「そんなことないよー」とにこやかに言う。
「準備は手伝ってくれたんだから、むしろ参加して欲しかったし!」
「それに佐伯の揚げパンのおかげで今回の文化祭じゃ一番儲かったから、あいつが誰誘っても文句言うやつとかいねえよ」
「佐伯君が誘ってくれて助かったー! みんなも待ってるよ!」
昴はポカンと口を開け、次いで僅かに緩ませ、それをコーヒーを飲むことで隠す。
仕事のせいでイベントに出られない。
それが昴にとっての当たり前。
でも、それを彼女が本心から飲み込んでいないことを僕は知っていた。
知っていたのに……今まで、何一つしてこなかった。友達なのに、親友なのに。
「騙したのは謝るよ。ただ正直に言ってたら、遠慮して来ないと思ってさ」
「……まあ、うん、そうだね。粋なことをするじゃないか、真白。こういうモテ男みたいなこと、どこの誰に習ったんだい?」
「モテ男って……べ、別にモテたいわけじゃないよ」
もう少し自分勝手でもいいと、最近学習した。
あの真夏を背負って全力疾走している女の子が、僕に教えてくれた。
クラスメートに手を引かれ、昴は歩き出す。
僕はゆっくりと、その見慣れた背中を追う。
十一月も半ば。そろそろ本格的に寒くなる。
すっかり夜色に染まった空を見上げ、ふと思う。
これから楽しい打ち上げなのに、うちのクラスにとまったく関係ないのに、天城さんの顔が脳裏に浮かぶ。いつだって僕の頭の中には彼女がいる。
来月はクリスマス。天城さんならきっと、二人で過ごしたいと言うだろう。
デートするって約束もあるし、それまでにお金貯めとかないと。
「佐伯君、何してるのー?」
「あ、ううん。ごめん、すぐ行く!」
クラスメートたちとの距離を詰めながら、すれ違ったひとに目が向く。
あぁいう服を着たら、天城さん喜ぶかな……とか。
今まではどうでもよかったことが。
見聞きする全てが。
彼女に結び付く。
楽しい。一歩進むことが、右を、左を見ることが。
もしかしたらそこに、彼女の笑顔の種があるかもしれないから。
◆
今日、佐伯は文化祭の打ち上げ。
あたしは一人、部屋でママとメッセージのやり取りをしていた。今度一緒に、久しぶりにご飯を食べに行くために。
これまでについて、そしてこれからについて、お互いが納得するまで膝を突き合わせてじっくり話合わないと。
――ピンポーン。
チャイムが鳴る。
来客の予定はないし、もう外は暗い。出たくないなぁと思いつつ、「どなたですかー」と扉越しに聞く。
「天城さんのお宅で間違いないですか?」
「そ、そうですけど……?」
落ち着いているけど、瑞々しく可愛らしい声。
鍵をあけて扉を開くと、そこにはサイドテールが特徴的な中学生くらいの女の子がいた。
「あの……ど、どちら様?」
「わたし、佐伯
「えっ……? さ、佐伯の妹さん!?」
「ですです。兄がいつもお世話になっています」
ペコリと、礼儀正しく頭を下げた。
言われて見ると、目元が少し似ている。
……ってか、可愛い。可愛すぎない? 佐伯ってば、こんな可愛い妹いたの!? もっと早く紹介してよ!
「お兄さんなら、今日は出かけてるよ。何か用事でもあったの?」
「兄の不在は、昴ちゃんに聞いたので知っています。――だからこそ、天城さんに会いに来ました」
「あたしに? な、何で……?」
わけが分からずに問うと、彼女の黒い瞳が妖しく輝く。
「単刀直入に言います」
ずいっと、半歩前に出た。
あたしを見上げるその顔は佐伯の面影があるのに、彼が絶対にしないような陰のある笑みを浮かべている。
「――わたしに、兄の貞操を奪う手伝いをさせてください」
第一章、完結です。
そして一つ、重要なお知らせがあります。
本作『お隣さんのギャルが僕を惚れさせたくて全力すぎる』、書籍化します!!
やったぜ!!
詳細については、また後ほど……!
しばらくお待ちくださいませ!
それでは、今後ともよろしくです。
評価や感想など、お待ちしております!