お隣さんのギャルが僕を惚れさせたくて全力すぎる   作:枩葉松

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第6話 良妻賢母

 

「……よし、こんなもんか」

 

 日曜日の夕方。

 その日、僕は久しぶりに実家に戻っていた。

 

「じゃあ、そろそろ帰るよ。食べ切れなかったら、ちゃんと冷蔵しといてね」

「わぁー、いい匂い! ありがとう、シロ兄ぃ!」

「お礼はいいから、もう天城さんと結託して僕を陥れようとするなよ。ご飯作って欲しいなら、こうやってたまに来るし」

「はーい!」

 

 先日、天城さんに接触して僕を実家に連れ戻そうと画策していた妹の桜蘭。

 僕の手料理が食べたかった、というのが動機らしく、また悪だくみをされても困るため今日は夕飯を作りに来た。

 

「年末年始は帰ってくるよね?」

「ごめん。大晦日までバイトあるから、帰れるのは三が日だけかな」

「そっかー……あっ、天城先輩も連れて来てよ。みんなにちゃんと紹介しよ」

「い、いやそれは――」

 

 ダメに決まってるだろ、と言いかけて。

 あの動画が出回ったせいで、家族は皆、天城さんのことを認知している。彼女ではないと、ちゃんと説明しておく必要があるかもしれない。

 

「……まあ、天城さんが来たいって言ったらな」

「やったー!」

 

 あのひとなら、まず間違いなく嫌とは言わないだろう。

 っていうか、僕が何も言わなくたって来たがるんじゃないかな。外堀を埋めるために。

 

「あ、そうだ。シロ兄ぃ、ちょっと待ってて!」

 

 玄関に着いて靴を履いたところで、桜蘭は踵を返した。

 しばらく経って、分厚い茶封筒を持って戻って来る。。

 

「今朝、近所の鈴木さんに会ってさ。シロ兄ぃに渡してくれって頼まれたの」

「僕に? 何だろ……って、はぁあああ!?」

 

 封筒を傾けると、ドサッと紙の束が出てきた。万札の束が。

 見たところ三十万……いや、五十万はありそうだ。

 鈴木のお爺さんには子どもの頃からお世話になっていて、玩具やお菓子など色々買ってもらって来たが、流石にこんな大金を貢がれる仲ではない。

 

「これ、絶対何かの間違いだって! 僕、今から返してくる!」

「えー? せっかくだし、貰っちゃいなよ」

「バカ言うな!! こんな大金、貰っていいわけないだろ!? そもそも、貰う理由がないし!!」

「理由ならあるよ。鈴木さん、お祝いって言ってたし」

「……お祝い?」

 

 高校入学のお祝いか?

 それにしては遅すぎる気がするけど……まあ、鈴木さんも結構な年だからな。ちょっとボケてきてるのかも。いや、にしたってこの金額はおかしいって!

 

「シロ兄ぃにお嫁さんができたお祝いだってさ。自分は体調的に結婚式に行けるかわからないから、式代の足しにしてくれって言われた!」

「…………」

 

 老人もSNSで動画を見る時代なのか。

 現代ってすごいなぁ……。

 

 

 

 

 

 帰り際、当然僕は鈴木家へお金を返しに行った。

 ついでにお嫁さんではないと説明したのだが、これが中々信じてくれない。

 

 どうやらここら一帯で、僕は天城さんと婚約したことになっているらしい。……やばい、もう埋めるところがないくらい外堀が埋まりまくっている。

 

 ともあれお金は返し、その代わりとばかりにミカンのお裾分けをされ帰路についた。

 正月に天城さんを実家に連れて来るとか言っちゃったけど、本当に大丈夫かな……。

 二人で歩いているところを直に見られたら、いよいよ言い訳のしようがなくなる。天城さんも喜んであることないこと喋るだろうし、僕の逃げ場が完全に断たれる。

 

 ……まあ、でも。

 

 それはそれでいいか、とか……。

 思ってしまっている、自分がいる。

 

「ん?」

 

 アパートの自室の前に到着すると、扉の奥からひとの気配が。

 たぶん、天城さんだろう。少し前から合鍵渡してるし。

 

「ただいま帰りました」

 

 案の定、玄関には天城さんの靴が。

 僕の声を聞いて、リビングの方からタタッと軽やかな足取りで彼女がやって来た。

 派手な金の髪を頭の後ろで一括りにし、露出度の高い部屋着の上から可愛らしいエプロンを装着した状態で。

 

「おかえり、佐伯っ! ささっ、荷物はこっちに!」

「え? あ、あの……天城さん?」

「いいからいいから!」

 

 荷物をぶんどられ、そのまま部屋へ。

 ……何か、ちょっと綺麗になってる。掃除したのかな。

 っていうか……な、何これ? どういうこと?

 

「天城さん……あの、どうして僕の部屋にコタツが?」

「ふっふーん! これはね、佐伯を惚れさせるための新しい作戦だよ!」

「……はい?」

 

 渾身のドヤ顔を炸裂させ、腰に手を当ててドンッと大きな胸を張った。

 

「あたし、今日は佐伯の奥さんになるから!! 良妻賢母の有咲ちゃんだよ!!」

 

 まったくもって意味がわからないが、またアホなことを始めたのだなと、それだけは理解できた。

 

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