お隣さんのギャルが僕を惚れさせたくて全力すぎる   作:枩葉松

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第4話 マーキング

 

「ここが佐伯の部屋かー」

 

 学校から帰宅後、天城さんは自分の部屋へは寄らず、そのまま僕の部屋にやって来た。

 間取りは変わらないし、うちに特別面白いものなどないのだが、彼女はふむふむと頷きながら部屋を見回す。

 

 ……にしても、男って本当にバカだ。

 

 あれだけ天城さんを突き放そうとしていたのに、自分の部屋に女の子がいるという奇跡に、今は少し感動している。

 

「ちょっと待ってください。今、来客用のクッション出すので――って!?」

 

 ガサゴソとクローゼットを漁りながら彼女へ目をやった瞬間、僕の心臓は大きく跳ね上がった。天城さんが、僕のベッドに寝転がっていたから。

 

「何してるんですか! せめて普通に座ってくださいよ!」

「えー? だって、佐伯と一緒に寝てるみたいになれるじゃーん」

「僕、寝汗とかかいてますし! 変な臭い、ついちゃいますよ!」

「……あたしにマーキングしようとしてる、ってこと?」

「どうしてそうなるんですか!? 勝手に寝てるの、そっちですよね!?」

「見方によってはそうなるね」

「全方位から見たってそうです!!」

 

 ゴロンと寝返りをうって、パタパタと足を動かす。

 そのたびに制服が乱れ、スカートがめくれかけ、ものすごく目のやり場に困る。

 

「あたしもマーキング、しちゃおーっと♡」

 

 と言って、おもむろに枕に手を伸ばし、ぬいぐるみのように抱き締めた。

 妖しく口角を上げて、匂いを染み付けるように身をよじる天城さん。

 

 帰宅して早々、エンジン全開。

 まるで緩むことのない好意剥き出しの仕草に、正直嬉しくもありつつ、しかし先行きが不安で頭痛がする。

 

「も、もうわかったので、勉強しましょうよ! そういう約束ですし!」

「せっかちだなー。もう少しゆっくりしよー?」

「ダメです! 時間がもったいないですし……あ、あと……!」

「パンツとか見えそうで、目のやり場に困るから?」

「わかってるならやめてくださいよ!?」

 

 途端に湿度と粘度の高い笑みを浮かべ、スカートの裾をちょいと持ち上げた。

 僅かに覗く、大人っぽい黒の下着。

 

 

「……わかってるから、やってるんだよ?」

 

 

 見ちゃいけないのに、目が離せなくて、身体が動かない。

 

 硬直する僕に対し、「佐伯ってば見過ぎ~♡」と天城さんはスカートから手を離し大笑いした。その言葉で我に返った僕は、黙って彼女に背を向け、床に座りテーブルに着く。

 

 べ、勉強だっ、勉強っ!

 そのために、天城さんを招いたんだから!

 万が一にでも授業の質が悪ければ、その時点で追い出してやる!

 

「勉強終わったら……えっちなことの続き、する?」

「~~~~~っ!!」

 

 耳元でボソッと囁かれ、そのむず痒さにビンッと背筋が伸びた。

 振り向くと、やはり彼女は笑っている。イタズラ大成功、と言いたげな顔で。

 

「不純なことはダメだって、僕言いましたよね!? 追い出されたいんですか!?」

「うひひひ! ごめんなさーい!」

 

 ほ、本当に、ちょっとでも質が悪ければ、その瞬間に部屋からつまみ出してやる。

 本気だからな、僕は!

 

 

 ◆

 

 

「――ってなわけ。わかった?」

「…………」

「どうしたの、佐伯。まだわからないところある?」

「い、いや……」

「ん?」

「もの凄くわかりやすくて……す、すごいですね、天城さん! いや本当に……あのノートのクオリティーから察してはいましたが、ちょっと予想以上でした……!」

 

 佐伯と勉強を始めて、早二時間が経過した。

 彼は心底感心したように言って、淀みのない尊敬のこもった目であたしを見る。やや前屈みになりながら、あたしだけを真っすぐに見つめる。

 

「そんな褒めなくっても……これくらい、と、当然だしぃー?」

「……何か照れてます?」

「ふぇ!? て、照れてないよ!?」

「いやもう、わかりやすく照れてるじゃないですか。顔赤いし」

 

 指摘され、両手で頬を揉んだ。

 

 熱い……気がする。たぶん。

 そんなあたしの仕草が面白かったのか、佐伯はクスクスと小さく笑う。

 

「わ、笑わないでよ! 勉強のことで褒められるの、慣れてないんだから!」

「あれだけ成績良くて慣れてないは、流石に嘘でしょ」

「……自分で言うのも何だけど、この見た目だし、この性格だし、僻まれたり嫌われたりすることの方が多いよ。何でお前が……みたいな?」

 

 今日柳田に怒られたのも、おそらくどこかの誰かが嘘の通報を入れたからだろう。

 ああいうことは、今に始まった話じゃない。

 

 物を隠したり、陰口を叩いたり……悔しいなら勉強に時間を割けばいいのに、そういうことに労力を費やすひとはわりといる。

 

「僕は……」

 

 と、唇を開いて。

 

「僕はむしろ、だからこそ……すごいなって思いますけど」

 

 真面目で真っ直ぐな瞳に、あたしだけを映す。

 

「僻まれたりしてるってわかってるのに、それでも見た目に気をつかって、勉強も頑張ってるわけじゃないですか。僕だったら無理だなぁ……弱いので、たぶん負けちゃいます」

 

 そう綴って、「な、何かすみません」と謎に謝りはにかむ。

 

 その表情に、その言葉に、胸の内側が赤くなって熱をもつ。

 他人を褒めるのは、貶すよりもずっと難しい。面と向かってだと、なおさら。誰にでもできることじゃない。

 

 それを下心もなく平気でやってしまうひとを好きになったあたしは、たぶん今、世界中の誰よりも幸せ者だ。

 

 ――ぐぅううう~~~!

 

 タイミング悪く、あたしの身体が空腹を知らせた。

 

 やば、はっず……!

 佐伯との交渉材料ノート作ってたから、お昼食べ損ねちゃったんだよね。にしたって、二人っきりの時に鳴らなくてもいいでしょ!

 

「ご飯にしましょうか。そろそろ夕食の時間ですし」

「あっ! ご、ごめんね! 何か催促したみたいで!」

「僕もお腹空いてたので助かりました。なに食べますか?」

 

 広げた筆記用具や教科書などを片付け、佐伯は棚から白い布を取り出した。

 それを手早く身に着けて……って、え? それ、エプロン?

 

「佐伯って料理できるの!?」

「えぇ、まあ。実家では料理当番だったので」

 

 言いながらキッチンについて、「あっ」と顔色を悪くする。

 

「もしかして手料理、苦手だったりします? それなら適当に冷凍食品でも――」

「全然だいじょーぶ!! あたし、何でもモリモリ食べちゃうから、佐伯の得意なやつ作って!!」

 

 ふんすと鼻息を荒げると、佐伯は安心したように胸を撫でて冷蔵庫を開けた。

 

 夕方に外の廊下を通ると、いつも換気扇からいい匂いがしてたけど、自分で作ってたのか。

 料理系男子……ふふっ、何かニヤニヤしちゃう。

 

「昨日作った大根のそぼろ煮とナスのおひたしがあるので、あとはメインに豚の生姜焼きを作ります。味噌汁もいりますか?」

「う、うん!」

「じゃあ、それも。ご飯はもう炊いてあるので、十五分くらい待っててください」

 

 テキパキと、手際よく調理を開始した佐伯。

 最初は邪魔しないようベッドの上に座っていたが、堪らず立ち上がり静かに近づく。

 

「何ですか? 包丁持ってますし、火も使ってるので、ふざけたら本気で怒りますよ」

「それくらいわかってるよ~! 佐伯のこと、近くで見たいだけ! 邪魔しないから!」

「……別に面白いことはしてませんけど?」

 

 いや、してるよ!? ちょー面白いよ!?

 自覚ないのかな……包丁捌き、プロのひとみたいじゃん。

 

 手も好き。指が長くて、爪が綺麗で、血管の感じとか、すごくいい。

 

 真剣な横顔も好き。食材と睨めっこしながら、たまに横目にあたしを見て、困ったように眉を寄せる感じが堪らない。

 

 今更だけど、こうして狭い部屋の中だと、佐伯の背の高さが際立つ。

 ……これたぶん、一八〇くらいあるよね?

 

 他人に気遣いできて、勉強も料理もできて、見てくれだっていい方。

 

 根暗っぽいところはあるけど……これで彼女いないって、何ごと?

 この魅力に気づいてないとか、学校の全女子、ちょー損してるよ! いや、あたししか知らなくていいけどさぁ!

 

「な、何でニヤニヤしてるんです……?」

「えー? ふふーん……佐伯、カッコいいなぁと思って♡」

「料理中にそういうこと言うの、やめてもらっていいですか!? 気が散って危ないので! 本当に!」

「ごめんなさーい!」

 

 怪我して欲しくないので、大人しく彼のベッドの上に戻った。

 横になって、ブランケットを抱く。

 

 トントン、ジュージュー。じゅわじゅわ。

 音に合わせるように無駄なく動く姿は本当にカッコよくて、ときめく。エプロンの揺れ動きすら目で追ってしまう。

 

 あたしはいま、たぶん人生で一番だらしない顔をしている。

 これは……ちょっと佐伯には見せられないなぁ。

 

 うへへへ♡

 




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