お隣さんのギャルが僕を惚れさせたくて全力すぎる   作:枩葉松

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第20話 雪

 

 

「ごめんなさい……」

「も、もういいですよ。気にしないでください」

「ごめんなさい……本当にごめん、ごめんねぇ……!」

「大丈夫ですって。天城さんが謝ることじゃありませんし」

 

 その後。

 

 どうにか何事もなくラブホテルをあとにしたが、天城さんの顔色はこれ以上ないってくらい悪かった。

 まあ、落ち込むのも無理はない。自分が誘ったサウナで、二人とも死にかけたのだから。

 

 しかしこれに関しては、彼女が全面的に悪いわけではない。

 サウナを了承したのは僕だし、彼女の誘惑に負けて時間を忘れていたのも僕だ。もう少ししっかりとしていれば、こんな事態は防げただろう。

 

「あの、サウナ……また来ましょう」

「……えっ?」

「今度はちゃんと、お互いに水着を持って。あと、ラブホテルじゃなくても、二人で入れるところありますよね? そういうところ探して……また、行きましょう。整うっていう感覚、結局味わえなかったので」

 

 どう言葉を並べれば天城さんが笑ってくれるか考えて、導き出した結論を紡いだ。

 彼女は僕を見上げて、目を見開いて、少し涙目になって。

 

 朱色の唇が、僕の好きな形にたわむ。

 

「このあと、時間あります?」

「あるけど、もう十時過ぎてるよ? 今からどっか行くの?」

「いえ……実は僕、クリスマスケーキ作ってて……」

「はぁ!? えっ、佐伯の手作り!?」

「はい。前にクラスのひとたちにケーキの作り方を教えたんですけど、これがもしも天城さんに知られたら、絶対に羨ましがるだろうなと思って……念のため、作っておきました」

 

 食べますかと尋ねるよりも早く、「食べたい!!」と手を挙げた。

 犬だったら尻尾をバタバタさせてるんだろうなぁと、容易に想像できてしまう顔をしている。可愛くて、こちらも口角が上がる。

 

「帰ったら、クリスマスパーティーだね! せっかくだし、チキンとか買って帰ろっか!」

「今からチキンですか? この時間にやってるスーパー、帰り道にあったかな……」

「ちゃんとしたやついる? ファミチキでよくない?」

「いいですね、ファミチキ。結構寒くなってきましたし、早いとこファミマよって帰りましょう」

「あっ! ちょ、ちょっと待って!」

 

 と言って、僕の腕を引いた天城さん。

 バッグに手を突っ込み、ゆっくりと紙袋を取り出す。渡されて、中を見て、小さな感嘆の声が漏れる。

 

「これ、手袋……! 僕へのクリスマスプレゼントですか!?」

「う、うんっ! 本当はレストランで渡す予定だったんだけど、無理になっちゃったでしょ? だからラブホで渡そうと思ってたんだけど、色々あって忘れてて……」

「あぁ……まあ、仕方ないですよ」

「いきなりで変な感じだけど、今、受け取ってくれる? ちょうど寒いし……使ってくれたら嬉しいなぁとか、思ったり……」

 

 もじもじと、僕の機嫌をうかがう。

 言われるまでもない。僕はその黒い手袋に左手を入れて、次いで右手を――と思ったところで、ふと彼女を見た。

 

「どうしたの、佐伯?」

「……いや、その……」

「もしかして、手袋いらなかった……?」

「ち、違いますよ! ただ、今は片方だけでいいなと思って……!」

「どゆこと!?」

 

 右手用の手袋を紙袋に戻し、フッと天城さんを見た。

 静かに手を差し出す。彼女は意図を察したようで、朱色の感情が混じった息をこぼす。

 

「あたしと手……繋ぎたかったの?」

「ダメですか?」

「べ、別にぃ? ダメじゃないけどぉ?」

「照れてます?」

「照れてないし!」

「わかりやすいですよね、天城さんって」

「ぐぬぬぬぅ! 佐伯のくせにぃー!」

 

 悔しそうにする天城さんだが、僕がその手を取ると、一転して頬を緩ませた。

 

 指を絡めて、硬く結んで、笑い合う。

 今日、初めて手を繋いだみたいに感動し合う。

 

「行こっ!」

 

 ホテル街から離れた、活気のない帰路。

 イルミネーションも、誰かの楽しそうな声もない。夜色のアスファルトが、ずっと先まで続くだけ。

 

 でも、楽しい。少し前を天城さんが歩いていて、僕の手を引いていて、それだけで他に何もいらないと思ってしまう。

 

 ふと、空を見た。

 同じタイミングで彼女も見上げて、「わぁー!!」と声をあげた。

 

 しんしんと降り始めた、今年最初の雪。

 結晶の一つが、上を向く彼女の鼻の先端を選ぶ。すぐに溶けて消えたそれを僕に見せつけ、ニシシと無邪気に笑った。

 

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