死を識る者、日常に佇む   作:ツカッチ

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前回のカイザーローンのくだり、闇銀行とごっちゃになってました。
カイザーローンが闇銀行なのではなく、カイザーローンと闇銀行が繋がってるってことなんですね。

ホント、にわかですみません。


最悪はいつも唐突に

俺たちは、喧騒の中心へと足を早めていた。

 

突然の銃声に、周囲の客たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。ブラックマーケットの中でも、銃声は日常茶飯事……だが、これは妙に近い。

 

「何が起きてるんだ…?」と誰かが呟くのを聞き流しながら、俺は視線を巡らせた。

 

と、前方から白い制服を着た少女がこちらに駆けてくるのが見えた。その顔には明らかな怯えが浮かび、振り返りながら走る姿は、追われている者そのものだった。

 

「コラ、待て!」

 

「つ、ついて来ないでください!」

 

「そうは行くか!」

 

追手は――女子生徒が二人。だが、態度はまるでチンピラ。腕に装備した短銃を見せつけるようにしながら走ってくる。

 

逃げる少女は、前方不注意のままシロコにぶつかった。

 

「――っ!?」

 

「大丈夫?」

 

シロコがとっさに手を伸ばし、少女の体を受け止める。倒れそうになったところを支え、その場に膝をつかせた。

 

「…大丈夫なわけないか。追いかけられてるんだし。」

 

そう言って、シロコが視線を上げた。冷えた双眸が、ゆっくりと近づいてくる二人のチンピラを睨みつける。

 

「…なんだお前らは。そこをどけ!アタシたちはそこのトリニティの生徒に用がある。」

 

チンピラの言葉に、アヤネが驚いたような声を出す。

 

『…そうだ!思い出しました!その制服は、キヴォトスいちのマンモス校の1つ、トリニティ総合学園です!』

 

「そうだ。そして、キヴォトスで一番金を持っている学園でもある。」

 

「拉致って身代金をたんまりいただこうってわけさ!」

 

そんな気はしていたが…まさか本気でそのようなことをするとは。俺は呆れてため息をついた。

 

だが、このキヴォトスでは生徒が生徒を誘拐し、学校に身代金を要求するという事件はよくあることで、中でもトリニティの生徒は狙われやすい。

理由は、そこの馬鹿共が言った内容の通りだ。

 

「どうだ、お前らもアタシたちと手を組まないか? 金の分け前は――」

 

そう言いかけたところで、シロコとノノミが腹部に重い一撃を食らわせた。チンピラは声を出すこと無くその場に倒れる。

 

「悪人は懲らしめないとです☆」

 

「…えっ?」

 

あまりに突然すぎる騒動の終わりに、少女は困惑を隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……俺が、何を言いたいか。分かるな?」

 

「は、はい…。」

 

少女――阿慈谷ヒフミが落ち着きを取り戻し始めた頃、俺は彼女の前に立った。

声は静かに。しかし、内に冷たい怒気を込めて。

 

ヒフミはぱちぱちと瞬きを繰り返してから、小さな声で続ける。

 

「…むやみに危険な場所に来ちゃダメって、こと……ですよね?」

 

「そうだ。」

 

俺はその言葉を肯定した。

 

「トリニティの制服を着たまま、こんな場所をうろつくのは、"攫ってくれ"と言っているようなものだ。ましてや、仲間もなしに1人で……何を考えていた?」

 

ヒフミはそっと口元に手を当て、うーんと考え込んだ。

 

「うーん……あんまり深くは考えてませんでした。ただ、どうしても探したいものがあって……!」

 

その無防備な言葉に、俺はまた1つ深いため息をつく。

 

それでも、ヒフミの顔から笑みは消えなかった。

どこか達観したような――けれど、芯のない明るさではなく、「自分の意思」でここに来たのだという確信を滲ませる眼差しだった。

 

「……それで、何を探していたんだ?」

 

俺は、それだけの覚悟を持ってここに来た理由を尋ねる。

 

その問いにアビドスの連中が「戦車かな」「違法な火器じゃない?」「化学兵器かもしれません」と物騒な事を言っていた。

 

そんな中、彼女は胸を張ってこう答えた。

 

「”ペロロ様”の限定グッズですっ!」

 

「…は?」

 

初めて聞く謎の単語に、困惑せざるを得ない。それはハルトやホシノたちも同じであった。

 

そんな反応などお構い無しとでも言うように、ヒフミはカバンから白い何かを取り出した。

 

「これです!ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ!」

 

取り出したそれは、”ペロロ”と呼ばれるキャラクターであろう白い鳥の口にアイスがぶち込まれている…何とも言えない奇妙なぬいぐるみだった。

 

俺たちが反応に困っている中、それを見て元気に声を上げた者が1人。

 

「わぁ☆ モモフレンズですね!私も大好きです!」

 

「そ、そうなんてすか!?」

 

まさかのノノミだった。

お前もこの変な鳥が好きなのか…。人の好き好みは分からんものだな。

あっという間にヒフミとノノミは俺たちを置いて、2人の世界へと行ってしまう。

 

「はい!私はミスター・ニコライが好きなんです。」

 

「分かります!ニコライさんは哲学的なところがカッコよくて―」

 

即座に意気投合し、きゃっきゃと盛り上がる2人。つい先ほどまでチンピラに追いかけられていたとは思えないほどの空気の変わりようだった。

 

「いやぁ、最近の若者の話にはついていけないね、お兄ちゃん。」

 

ホシノが肩をすくめてこちらを見上げてくる。

俺は一瞬だけ間を置いて、少し眉をひそめながら返した。

 

「話にはついていけないが……俺はまだ若い方だ。」

 

「……そこ!?」

 

セリカがツッコミを入れる。

素なのかわざとなのかは分からないが、前方に倒れ込んだ。

 

「うへへ〜。お兄ちゃんってけっこう年齢気にするタイプ?」

 

「どうだろうな…。これでも俺はまだ8歳だからな。」

 

「……は?」

 

セリカがこちらを見て固まった。ぽかんとした表情で、目を見開いている。

 

「う、うへ…。」

 

ホシノは何か言おうとしたが言葉が出てこない様子。さすがにキャパオーバーな話だったか。

 

「冗談に決まっているだろう。」

 

「き、急にボケないでよ! びっくりしたじゃん!」

 

ようやくセリカがツッコミを入れてくれた。

全身で「しっかりしてくれ!」と言わんばかりの熱量に、俺は少しだけ口元を緩めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

モモフレンズとやらの話題も一段落し、落ち着きを取り戻した頃。「チンピラから助けてあげた」ということでヒフミに道案内をしてもらっていた。

 

ホシノが提案した時は戸惑いを見せていたヒフミだが、最終的には「私で良ければ…」と言って案内役を買って出たのだった。

 

しかし…ヒフミの奴はやたらブラックマーケットに詳しい。事前準備をしっかりしたと言っていたが…何回もここに来ているんじゃないか?

そんな疑いを持ちつつ、彼女たちの後をついて行く。

 

俺たちは彼女に導かれるまま、ブラックマーケットの中心部へと歩みを進める。

人の数が増え、雰囲気も一層騒がしい。呼び込みの声や電子音が飛び交う中、何か…ただならぬ気配を感じた。

 

その方に視線を向けると、見たことのあるビルがそびえ立っていた。

それは、ユミとリサが教えてくれた闇銀行だった。

その前では、何やら武装した集団が車を囲んでいる。いや、あれば護送と言うべきか。

 

奴らは…マーケットガードだ。

マーケットガードとは、このマーケット独自の治安維持組織だ。当然違法の組織であり、警察のようでいて決して正義の味方ではない。

必要とあらば暴力も辞さないことで知られている。

 

その中に、スーツ姿のロボットがいた。何やら書類にサインをしている様子…。

その姿を見るなり、ノノミが呟く。

 

「あの人は…。」

 

どうやら見たことがあるらしい。

続くセリカの声は、少し震えていた。

 

「何で…!?あれは毎月うちに来て、利息を受け取ってる銀行員……!」

 

その言葉を聞いた瞬間、リサの話を思い出した。

 

即座にロボットが乗っていたであろう車に目を見やる。荷台には英語でこう書かれていた。

 

――Kaiser loan

 

「カイザーローン…。」

 

まさかと思っていた繋がりが、今ここで確定する。

俺の中に、確かな警鐘が鳴った。

 

「……最悪の展開だな。」

 

ギリッと奥歯が軋む音がした。

 

アビドスが借金していた相手…それはブラックマーケットに根を張るカイザーローンだった。

さらにはそのカイザーローンは闇銀行と繋がっており、彼女たちは知らぬうちに、ブラックマーケットに犯罪のための資金を渡していた…。

 

その事実を知ったホシノたちは黙り込んでしまう。

だが、下ろされたその手は、小さく震えていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

視線の先で、小鳥遊さんたちが凍りついていた。

 

阿慈谷さんから伝えられた”闇銀行とカイザーローン”の真実。それが、アビドスの借金相手だったという事実は、彼女たちにはあまりにも重すぎた。

 

その手が、肩が、確かに震えているのが見える。悔しさか、怒りか、それとも…絶望か。

小鳥遊さんたちはおろか、黄泉先生すらも言葉を発せなかった。

 

『で、ですが、まだ証拠が足りません。あの輸送車の動線を把握するまでは…』

 

しばらくして奥空さんが言う。

確かに彼女の言うように、アビドスが払った利息を使われたという証拠は無い。だけど、それは現実逃避としか言いようのない考えだった。

 

その時――

 

「あのっ、1つ提案があります!」

 

声の主は、阿慈谷さんだった。

彼女は、少し緊張した面持ちで手を挙げる。

 

「その、さっき銀行員さんが書類にサインしているのを見て考えたんですけど…。たぶん、あれが証拠になるんじゃないかって思って…!」

 

「証拠?」と小鳥遊さんが問い返す。

 

「はい。アビドスがこれまでに支払ってきた利息…それが正当に使われているのか、不当な扱いを受けていないかは、あの書類を見れば分かるはずです!」

 

一同は顔を見合わせる。一縷の希望が差したかに思えた。

 

しかし。

 

「あ……でも、書類はもう銀行の中ですね…。」

 

阿慈谷さんが申し訳なさそうに続ける。見れば、先程の車とマーケットガードたちは既に姿を消していた。

 

あれだけ厳重な警備を敷いていたんだ。直接頼みに行っても即断られるに違いない…。

その時だった。

 

「…他に方法は無い。」

 

静かだけど、凛とした声がその沈黙を断ち切った。

 

一歩、前に出たのは砂狼さんだった。

彼女は制服の内ポケットから、何かを取り出す。

 

それは覆面だった。

赤、青、緑、ピンク。4色のそれを広げ、仲間たちに見せながら言い放つ。

 

「銀行を襲う。」

 

その言葉に、一同は凍りついた。

 

けれど、彼女の目に迷いはなかった。

決意と責任が、その瞳の奥に宿っていた。

 

ほんの数秒の沈黙のあと――

 

「えっ、襲うの!?いやちょっと待って!?」

 

黒見さんが真っ先に声を上げる。

だけど彼女たちは「やめよう」とは言わなかった。

私も彼女たちを止めることができなかった。

 

みんなが「もう限界だ」と分かっていたから。

 

そしてそれは、アビドスの生徒たちが、自らの手で未来を奪い返すために動き出す瞬間だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『銀行襲撃作戦』の準備が整い、備えている時。少し離れた場所で、小鳥遊さんが黄泉先生に何かを話しかけているのが見えた。

私は邪魔しないよう距離を保ったまま、2人の会話に耳を傾けた。

 

「…ねぇ、“お兄ちゃん”。私たちが銀行を襲ったって“黄泉先生”に知られたら、怒られるかな。」

 

小鳥遊さんの声は、いつになく控えめだった。

彼女があんな顔をするなんて――と、正直、少し驚いた。

 

黄泉先生は少しだけ目を細めて、静かに答えた。

 

「…目的が何であれ、銀行強盗は立派な犯罪だ。人の道を重んじる”彼”に知られれば、怒られるどころか、犯罪者として刃を向けられるのが普通だろう。」

 

その言葉は冷静で厳しい。

でも、そこには非情さはなかった。彼なりの誠実な答えだった。

 

彼の言うように、私たちがこれからしようとしていることは犯罪行為だ。その相手が闇銀行で、どんなに違法な事をしていたとしても、0:10でこちらに非がある。

 

小鳥遊さんは俯き、ほんのわずか、唇を噛んだ。

そんな彼女を見た黄泉先生は、目を細め、こう続けた。

 

「だが…今の”彼”はお前たちと手を組んでいるらしいな。」

 

小鳥遊さんの顔がゆっくりと上がる。

 

「ならば、その時の状況と判断をしっかり話せば、お前たちの取った行動には意味があると分かってくれる…と、俺は思う。」

 

その言葉には、信頼が込められていた。

たとえそれが道を外れた行為であっても、真っ直ぐに向き合ってくれる――

それが“黄泉先生”という人間なのだと。

 

「…そっか、分かったよ。」

 

小鳥遊さんは小さく笑った。

それは不安を払拭するような、安心したような、どこか子供らしい笑顔だった。

 

あの2人は、やはり少し似ているのかもしれない。

背負っているものも、目指しているものも違うのに――

どこかで通じ合っているように見える。

 

そして私は、そっと目を逸らす。

この後に控えた作戦を前にしても、不思議と胸は静かだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ブラックマーケットの片隅、人気の少ない裏道に集まった私たちは、襲撃の最終確認に入っていた。

ふざけた計画でありながら、その実、誰もが張り詰めた空気を纏っている。

 

私は全員の顔を順に見渡してから、口を開いた。

 

”みんな、準備はいい?”

 

その一言に、ためらいはなかった。

 

「いつでも行けるよ。」

 

小鳥遊さんの言葉に、十六夜さん、砂狼さん、黒見さん、無線の向こうから奥空さんが、それぞれ自分の役割を再確認しながら力強く応えた。

 

視線を少し右に向けると、そこにいるのは――阿慈谷さんだ。

彼女は今回の件には全く関係ないのだが、小鳥遊さんが「乗りかかった船だし、ヒフミちゃんも参加決定で」と強制的に参加させていた。

 

「生徒会の皆さんに合わせる顔がありません…」と肩を落としていたので、本当に申し訳ない事をしたと心の中で謝った。

ちなみに覆面が小鳥遊さんたち4人分しか無かったので、たい焼きの袋で代用した。

 

そして、最後は黄泉先生。

……いや、今は“お兄ちゃん”だ。

 

彼は…もう尋ねる必要もない。銀行を襲撃するというのに、緊張のきの字すら見せず、いつもと変わらない自然体でいる。

 

”監視カメラと内部の様子の把握をお願いします。”

 

私がそう言うと、彼は軽く顎を引いて目を細めた。

 

「……任せておけ。」

 

ほんの一瞬、目が鋭くなった気がした。

本気の時の彼の目。何度か見てきたが――その度に、私は内心で震えていた。

 

彼はフードを深く被りこう言った。

 

「では、また後で会おう。」

 

その言葉は、わざとらしいほど軽かった。

だけど、それがかえって不安を和らげてくれる。

 

――彼なら、きっと大丈夫だ。

 

私たちを残し、黄泉先生は闇銀行の重たい扉をくぐっていった。

 

いよいよだ。

この計画がどんな結末を迎えるのかは、まだ分からない。けれど、誰もが心のどこかに確かな「覚悟」を持っていた。

 

そして私もまた、その一人だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

闇銀行。

その名に似つかわしくないほど、内部は整然としていた。

おしゃれなソファに、整った照明。行員が笑顔で客に対応し、隅ではATMが稼働している。

どこにでもある、ありふれた銀行――外見だけを見れば、だが。

 

俺はその中を歩く。あくまで何食わぬ顔で、客の一人を装って。

 

目的はただ一つ。内部の情報を、外で待つハルトたちに伝えること。

そのためには、まず――監視カメラの位置確認からだ。

 

(…まずは、12時の天井。)

 

レンズは光を鈍く反射していた。最も中央にあるメインカメラだ。

 

(次に、2時方向の壁。5時の出入り口上部。そして、8時の柱の影…。)

 

合計、4台。

角度的に死角はない。カメラが互いの死角をカバーしている。

 

続いて警備の確認だ。

 

(マーケットガード…。)

 

黒い制服の警備員――3名。

全員、制服の下に装着されたボディアーマー。武装はアサルトライフル、型は旧式だが十分に実戦向き。

 

(1時、4時、そして…9時。)

 

客に混じりつつも、位置取りは完璧だった。視線の配り方からして、訓練も積んでいるだろう。

 

(…だが、あれなら対処は可能だ。)

 

近くの木枠ソファに座り、通信機に軽く触れ、口を開いた。

 

「監視カメラ、4台。12時、2時、5時、8時。12時のみ天井から下げられている。他は壁に設置。」

 

「マーケットガードは3名。1時、9時、11時。アサルトライフル装備。入り口からの直線上に人はいない。」

 

再び通信機に触れ、通信を切った…その時だった。

足音が弾むように近づいてきた。かと思えば、俺の視界を両手で遮る。

 

「くふふ、だーれだっ♪」

 

そいつは俺の耳元で囁いた。

その正体は…考えるまでもない。

 

「…ムツキ。」

 

「せいか〜い!」

 

そう言うとムツキは手を離し、嬉しそうに俺の隣に座った。

彼女は便利屋68のメンバー。つい先程、アビドスを襲った張本人である。

 

「こんなところで何してるの…。」

 

半ば呆れたような声が耳に届く。振り返ると、カヨコとハルカがこちらに歩いてきていた。彼女たちもまた、便利屋68のメンバーだ。

 

と言うか…変装の意味がまるで無いな。

ホシノといいこいつらといい、なぜこうも簡単に変装を見破るんだ?

 

もしや、あの時誰も俺に近づかなかったのは、正体がバレていたからなのか…?

 

「ねぇねぇ黄m「待て。」」

 

俺はすかさず手を伸ばし、ムツキの口を塞ぐ。

 

「今は…その名前で呼ぶな。」

 

そう伝えるとムツキは眉毛をハの字にして、露骨に嫌そうな顔をした。

 

「まぁ、先生がここにいるってバレたら大騒ぎになるだろうし…。」

 

視野の広いカヨコはすぐに納得してくれた。

…まったく、油断も隙もない。

 

「…ところで、アルはいないのか?」

 

「アルちゃんならあそこにいるよ。」

 

ムツキが指差す方へと視線を向けると、深い赤のコートが見えた。どうやら銀行員と話しているらしい。

 

すると、ハルカがカヨコの背後に隠れながら、小さな声で尋ねた。

 

「その…今日は、わ、私たちを……捕まえに来たんですか……?」

 

隠れてはいるが、しっかりとショットガンのトリガーに指をかけている。

 

「……いや、全く別の目的がある。」

 

その時だった。

 

突然、視界が暗闇に包まれた。銀行員や他の客たちが何事かとざわめく。

だが俺は、すかさずムツキたちを抱えて床に伏せた。

 

そして、次の瞬間―

 

ダダダダダッ!  ダダダダダダダッ!!

 

「じゅ、銃声!?」

 

「パリン」と何かが割れる音と共に、「ギャア」という短い叫び声。

声の数は4と3。間違って一般人に当たっていないことを祈る…。

 

ようやく銀行に明かりが戻る。

そして、そこにいたのは…

 

「全員、その場に伏せなさい!持っている武器は捨てて!」

 

色とりどりの覆面を被ったアビドスの生徒たちとヒフミだった。ヒフミに至ってはたい焼きの袋だが…。

 

「……あれ、あいつらって……」

 

「アビドス……? 知らない人がいるし、覆面をかぶってるけど…間違いないね。」

 

地面に仰向けになっているムツキとカヨコが、木枠ソファの下から現状の把握に努めていた。

 

(…やはりバレるか。)

 

俺は自嘲するように小さく息を吐く。俺たちはそんなに変装が下手なのかと、頭の片隅で余計なことを考えてしまっていた。

 

「ねっ、狙いは私たちでしょうか!?」

 

同じように仰向けになったハルカが声を震わせる。地面に寝転んでいても、ショットガンは離さない。

 

「落ち着け。あれは…銀行強盗だ。」

 

そう言うと、便利屋の3人は目を見開いた。俺が強盗を前にしても動かないことに驚いたようだったが…

 

「そういえば、手を組んでるんだったね…。」

 

カヨコが困ったかのように、小さく笑った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

アビドスの連中は銀行に侵入するなり、あっという間に現場を支配した。マーケットガードは既に気絶、外部への連絡手段も遮断したらしく、銀行員たちはなす術が無かった。

 

一方のアビドスは、シロコが銀行員に集金記録をバッグに入れるよう指示していた。

 

「……先生。」

 

ふと、静かな声が耳に入る。カヨコだ。

 

「そろそろ…どいてほしい。」

 

何が「どいて」なのか分からず、視線を動かすと、ムツキが頬杖をつくように寝転びながら、

 

「私はもう少しこのままがいいなぁ。」

 

と、目を細めてふにゃふにゃ言っていた。

 

隣のハルカは俺と視線が合うと、ピクリと肩を震わせ、真っ赤になった顔を隠すように、カヨコにくっついた。

 

(……なるほど。)

 

こいつらがどうかは定かではないが、年頃の少女を3人同時に押し倒しているようなこの状況は、俺にとっては良いものではない。

 

なんとなく察した俺は、無言で身体をずらす。

「そのまま伏せていろ」とだけ言い残して、静かに距離を取った。

ムツキがまたもや露骨に不満そうな顔をしているのが視界の端に映る。

 

俺は再び窓口へと視線を戻す。

そこには便利屋のリーダー、アルの姿が。

 

(……何をしている?)

 

目をキラキラと輝かせて、まるで憧れの人に会えたかのような顔。

その視線の先にはホシノたちがいた。

 

「アルちゃん、全然気づいてないみたいだねー。」

 

「はぁ…。」

 

ムツキはくすくすと笑い、カヨコは小さくため息をついた。

 

「それじゃあ逃げるよー!全員撤収!」

 

「終わったか…。」

 

ホシノの声が銀行に響く。どうやら目的の品は手に入ったらしい。

俺はフードを深く被り、静かに腰を上げる。

 

「…じゃあな。」

 

それだけを言い残し、音もなく銀行を後にした。

足音すら響かせず、誰の目にも止まらぬように。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

闇銀行から脱出した俺たちは、細い通路を縫うようにして市街地の外縁へと走っていた。

ブラックマーケットは雑踏に満ちており、逃走経路に選んだ裏道は案外静かだったが、それも長くは続かない。

 

『マズイです…!マーケットガードがこちらを囲むように動いています!』

 

アヤネの声が響く。

 

マーケットガードの追撃は想定よりも早かった。連中は2つの部隊に分かれ、俺たちの進路を完全に囲みにきている。

 

(…ここで全員まとめて撃ち合えば、逃げられはしない。)

 

混乱のなか、アビドスの生徒たちは走り抜けていく。

その後ろ姿を確認してから、俺は一歩、道の真ん中へ踏み出した。

 

それに気づいたハルトが振り返り、目を見開いた。

 

「黄泉先生、一緒に――!」

 

「止まるな!」

 

俺は短く一喝した。

立ち止まったら、巻き込まれる。だからこそ、ここで俺が時間を稼ぐ。

 

「アヤネ!お前はドローンを使って索敵しつつ、あいつらをここから逃がせ!」

 

『っ!了解です!』

 

そう言い残し、俺はゆっくりと内ポケットに手を伸ばした。

 

――刃が必要なわけじゃない。

だが、俺が“戦う気がある”ように見せるには、十分な演出だ。

 

マーケットガードの気配が迫る。

銃口を向けられてもおかしくない距離だ。だが、俺は構わずその場に立ち、視線だけを奴らに向ける。

 

…これでいい。

あいつらが、無事でいれば――それで。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「いたぞ!撃て!」

 

鋭い声とともに、マーケットガードたちの銃口がこちらを向いた。

次の瞬間、街に銃声が響き、空気が引き裂かれる。

 

――来る。

 

俺は息を止め、わずかに膝を落とす。

 

初弾を側転で回避。

着地と同時に地面を蹴り、次の銃撃を滑るようにかわす。時にはナイフを使い、弾丸を弾く。

 

背後の壁が弾痕で砕ける音が聞こえた。ほんの数秒のあいだに、100発ほどの弾丸が俺をなぞるように殺到していた。

 

「なぜ一発も当たらない!?」

 

マーケットガードから驚きのような、焦りのような声が聞こえた。この程度で驚いているなら、幸運だな。

 

俺はあえて狭い路地の中を選び、影の中へと姿を滑り込ませる。そこなら、照準を合わせる時間も、角度も奪える。

 

戦うつもりはない。だが、逃げるつもりもない。

“引きつける”。それが今の俺の戦場だ。

 

奴らの前に姿を表しては、身を隠す。それを何度も繰り返して撹乱させたことにより、1部隊は全く前進できずにいた。

 

戦闘開始から十数分。アヤネから通信が入る。

 

『こちらアヤネ! 全員、ブラックマーケットを脱出しました!』

 

「了解。」

 

通信越しの声を聞いて、俺は静かにその場を後にした。

 

風が吹く。

敵の気配が一瞬、俺の姿を探して彷徨うが、もうそこには誰もいない。

 

「…撤退する。」

 

もう力を隠す必要もない。自分の出せる最高速度でブラックマーケットの出口へと向かう。

 

こうして俺たちの銀行強盗は、無事成功に終わったのだった。

 

 

つづく




スターレイルより、ファイちゃんの情報が出ましたね。「もうあの人1人でよくないですか…?」みたいな性能しやがって…。絶対にお迎えしたるからな!

セイレンスとケリュドラの立ち絵も出ましたね。
どっちも可愛いキャラにしやがって…。
私は…!引ぎだいっ!!
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