スターレイル3.4の祈願ラインナップ、なんとかならなかったんですかね?
ファイちゃんと調和3人(トリビー、花火、デーさん)って…。トリビー、花火は持ってるから良いですけど、デーさん…。さらにはトリビーは1凸が強いって言われてますし…。
3.5で来るであろうケリュドラが調和で、もしかするとファイちゃんと相性抜群な可能性もありますし、マジでどうしようかと迷ってます。
「いや〜、やっぱり”師匠”ってばカッコよすぎるよ〜。」
「さすがは我らが“お兄ちゃん”ですね!」
「その呼び方はやめろ…。」
さっきまでの極限状態が嘘みたいに、アビドスの生徒たちは緩みきった表情で、黄泉先生──いや、“師匠”または”お兄ちゃん”を囲んでいた。
その中心に立つ彼は、まるで何もなかったかのように黙って佇んでいる。
けれど、よく見ると、わずかに眉尻が下がっていて――もしかして、困ってる?
「ブラックマーケットじゃないんだ。いつもの呼び方にしてくれ。」
ぽつりとそう呟く声は、少しだけ苦笑混じりだった。
笑いながら盛り上がる小鳥遊さんと十六夜さんの横で、私はじっと黄泉先生を見ていた。
たった一人で、銃弾の雨をくぐってみんなを逃がしてくれたあの背中。
言葉よりも行動で、あの人は“守る”ということを示してくれた。
そして彼が陸八魔さんに伝えた、あの言葉――
「アウトローとは、すべてが“悪”というわけではない。」
それは、私に向けての言葉のようにも聞こえた。
先生とは、正しさを語る者じゃない。誰かの道を照らす者なんだと、教えてくれたような気がした。
きっと彼はそこまで考えていないと思う。でも、私はそう感じ取った。
そして、1つの目標ができた。
私も彼のような“先生”になりたいという目標が。
黄泉先生の全てを模倣するのは、はっきり言って不可能だけど…目指すことはできるはず。
彼のように生徒の夢を尊重し、そのうえで人として正しい道を歩ませられるような、そんな先生に。
私は静かに拳を握る。すると―
「桐山先生?」
振り返ると、黒見さんが不思議そうな顔で立っていた。
「ううん、なんでもないよ。」
そう言って、笑ってみせる。
もうすぐ次の波が来る。
それでも今は、ほんの少しだけ希望を抱いてもいいと思えた。
白い長机の上に置かれた書類たち。
それはブラックマーケットの銀行から奪った、現金の流れを記した集金記録だった。
「ありました。これが、本日分のページですね。」
奥空さんが書類の束から1枚の紙を取り出す。整った明朝体の文字がズラリと並んでいた。
現金輸送の履歴、経路、送金先……1つひとつに番号と印が押されていて、妙にリアルだった。
私も十六夜さんと並んで覗き込む。すると──
”……ここだ。“アビドス高校 788万円”ってある。”
788万円。
それは、アビドス高校が月単位でなんとかやりくりしている“生きるための資金”だ。
その金額が、たった一行の記録として、あっさりと「徴収完了」と書かれている。
それだけでも、胸がざわつくのに――
「……下に、もう一件あるわね。えっと……“任務補助金支給 500万円”…? 受領先………え!?」
「カタカタヘルメット団!?」
それを目にした黒見さんは『バンッ!』と机を叩き、怒りを露わにする。
「ちょ、ちょっと待ってよ……それってつまり……」
「私たちからお金を回収したあとで、ヘルメット団のアジトに直行して――あいつらに補助金500万渡したってことだよね!?」
震える黒見さんの声に、教室内の空気はピシリと凍りついた。
「り…理解できません!学校が破産したら、貸し付けたお金も回収できないでしょうに…!」
十六夜さんもかなり困惑している。
実際、私も理解が追いついていない。黄泉先生も壁に寄りかかったまま、目を伏せて何も喋らない…。
「…この件、間違いなく銀行単独の仕業じゃありません。」
ぽつりと呟いたのは阿慈谷さんだった。
「おそらく、カイザーコーポレーションの本社が裏で動いてると思います。なにか…もっと大きな“意図”があると考えるのが妥当かと…。」
重い。目の前の空気が、目に見えてどす黒くなっていく気がした。
裏にいるのがカイザーコーポレーションだとしたら、なぜそこまでしてアビドス高校にこだわる? 十六夜さんが言ったように、貸し付けたまま廃校にさせれば、貸したお金は返ってこない…。
奴らの目的が全く見えない。
でも、ロクなことじゃないのは目に見えて分かる。
(こんなの、間違っている…!)
私は自分の拳を握りしめた。
だが、冷たく見える記録の文字は、感情のない“現実”だった。
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夕暮れ時、シャーレの前の道を、黄泉先生と二人で歩いていた。
今日の出来事を思い返しながら、私はある質問を黄泉先生にぶつけた。
”なぜ…ただの生徒たちが、あんなに苦しまなければならないんですか?”
それは、素朴な疑問だった。
生徒は何にも縛られることなく、自由に仲間と思い出を築き、勉学に励むべきだ。
だけど、彼女たちは借金に追われ、挙げ句は企業によって居場所を奪われようとしている。
それがどうしても理解できなかった。
それこそ、大人が担うべき仕事じゃないのかと思った。
少し間が空いて、黄泉先生は静かに答えた。
「…キヴォトスには、“大人”がいないからだ。」
”……え?”
その言葉が、どうも私の胸に引っかかった。
”それは、どういう…?”
そう返すと、黄泉先生はわずかに目を細める。
「お前は、子どもを守ろうとする、子どもに寄り添おうとする大人が、どれだけこの世界にいると思う?」
私は答えられなかった。
アビドスの現状を見ていると、そうする人のほうが少ないような気がしたから。
「もちろん、ゼロというわけではない。あのラーメンの店主のように、生徒を気にかける大人もいる。だが、それは稀な存在だ。」
「多くの大人は…そもそも干渉しないか、子どもを利用することしか考えていない。中でも金のために、立場のために、私欲のために子どもを”使う”…。そういう“クズ”が、この世界にいる。」
その言葉の重みに、思わず歩く足を止めた。
黄泉先生は静かな声で、なおも続ける。
「俺は、そういう連中を山ほど見てきた。現に、アビドスは“企業”によって廃校に追い込まれている。生徒を犠牲にして利益を得ようとする、“大人”の仕業だ。」
振り返った黄泉先生の瞳は、燃えるように静かだった。
「この世界は透き通っているようで真っ黒だ。そんな世界で生徒を守るには…自分の手を汚す覚悟も必要になる。」
その話を聞いて…声が出なかった。
けれど私は、その言葉を正面から受け止めることにした。
彼の背中は、まるで闇を押し返して歩いているように見える。孤独で、傷だらけで、それでもなお――立ち止まらない。
(……黄泉先生は、いったいどんな経験を積んできたんだろうか。)
初めて黄泉先生と出会った日に言われた言葉を思い出す。
目を背けたくなるような現実、守りきれないもの、時には大切な生徒を疑うことも――。
それらは誇張でも何でもないと確信した。
今まさに、目を背けたくなるような現実がある。
そして、なぜ私たちが”先生”と呼ばれているのか、少しだけ分かった気がした。
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翌日、昼過ぎ。
シャーレでの書類作業を終えて、私たちはアビドス高校へ向かっていた。
その道中、黄泉先生が「腹が減ったな」とぼそりと呟いた。時間もいい頃なので、柴関ラーメンへ行こうという話になった。
しばらく歩いて柴関ラーメンに到着。暖簾をくぐると、香ばしいスープの匂いと湯気が迎えてくれた。
その時だった。
「ん? あれ、先生たちじゃん!」
テーブル席に座っていた白髮の少女が、こちらに気づいて手を振った。彼女の他に、3人の少女が座っている。
あの子たちはたしか…便利屋68の子だ。
「ちょうどいいとこ来たね〜!いっしょに食べようよ!」
その声に反応するように、仲間たちもこちらに目を向ける。4人もつい先程来たらしく、ラーメンが運ばれてくるのを待っていた。
「……相席でもいいのか?」
「もちろん!」
黄泉先生が一応確認すると白髮の少女は、にっと笑った。他のみんなも笑って小さく頷く。
店主の柴大将にも許可を取り、私たちは便利屋の少女たちとお昼を共にすることにした。
改めて自己紹介を交わした私と便利屋の子たち。
つい先日まで敵対していたのに、同じ席でご飯を食べるのは少し不思議な感覚だった。
でも、悪い気はしない。
大将が素早くラーメンを用意してくれたあと、全員が箸を動かし始める。沈黙ではないが、無駄な会話もない――ラーメン屋らしい静かな時間。
ふと、浅黄さんがぽつりと呟いた。
「あのね、アルちゃんがね、依頼を断ったんだ。」
その言葉が唐突に落とされ、店の空気がほんの少しだけ変わった気がした。
”その依頼って…アビドス襲撃の?”
私は思わず顔を上げる。浅黄さんは表情を崩さず、軽く頷いて「うん」と答えた。
”それはまた…どうして? 便利屋って”何でもやる”が売りじゃないの?”
「…社長。」
「アル様…。」
鬼方さんと伊草さんが陸八魔さんに視線を向ける。
彼女はどこか緊張した面持ちだった。
「…黄泉先生。」
一度深呼吸をした陸八魔さんは箸を止め、黄泉先生へと目を向けた。
「昨日の”師匠”…黄泉先生でしょ?」
黄泉先生は、わずかに間を空けた。
箸をトレーの上に戻し、いつも通りの無表情で首を傾ける。
「……何のことだ?」
「隠そうとしても無駄だよ、先生。私たちが教えたから。」
鬼方さんはそう言ってスープを啜った。
黄泉先生は目を伏せる。
それから小さくため息をついて、ぽつりと言った。
「……そうだ。」
その答えを聞いた陸八魔さんは、ふっと笑った。
「…ありがとう、先生。」
「昨日の言葉、すっごく胸に響いたの。私みたいな生徒をしっかり見ていてくれたんだって、嬉しかった。」
少しだけ照れくさそうに、視線を器の中へ落とす。
「あなたの言葉で、少しだけ変われた気がする。いや、きっと――変わったんだと思う。」
そう言って、彼女は再び顔を上げた。
その表情は雲一つない、いい笑顔だった。
「これからの便利屋は、正義のために戦うわ。困ったことがあったら、いつでも連絡してちょうだい!」
「…そうか。」
陸八魔さんのテンションに対し、黄泉先生はいつも通り。でも、その表情は確かに嬉しそうだった。
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「ごちそうさまでした!」
黄泉先生がラーメン店の暖簾をくぐった途端、便利屋のみんなが声を揃えて頭を下げた。まるで部活帰りの後輩たちのように、元気よく、礼儀正しく。伊草さんなんかは少し腰まで折っていて、妙に律儀だ。
黄泉先生は今日も自ら会計を買って出た。私はまたしても先生に奢ってもらったのだった。
何かしらの形で返さないと…。
「……礼はいい。腹が満ちたなら、さっさと帰れ。」
黄泉先生はいつも通りの無愛想な調子だったが、どこかその背中は、わずかにやわらいで見えた。私には、そんな気がした。
「やっぱり先生は優しいね。 また奢ってもらっちゃった。」
浅黄さんがにへらっと笑いながら振り返る。陸八魔さんたちも満腹そうにお腹をさすっている。
「…金欠の身で何を言うか。」
「くふふっ、お金ならたくさんあるんだよ。だいたい一億くらい。」
「……は?」
黄泉先生の足が止まった。
そのまま振り返ると、眉を寄せ、声を潜めて言った。
「お前たち……強盗でもしたのか?」
「ち、ちがうわよ!!」
陸八魔さんが慌てて両手を振った。完全に動揺している。
「ひ、拾ったの! ブラックマーケットの出口から少し走った場所にぽんと置かれてて…!そしたら、札束がぎっしりで…!!」
ブラックマーケット…? もしかして…。
”覆面水着団の…。”
「そ、そう!あの子たち…いや、アビドス…?と、とにかく、置いてあったの!」
確かに、小鳥遊さんの話で「このお金はおいていこう」という結論になったが…。
まさか、その後で便利屋が拾っていたとは。
「あいつら…書類だけと言っていたのに、金まで盗んだのか。」
”ち、違いますよ!銀行員がパニックになって勝手に入れただけで…!”
勘違いしている黄泉先生を、私は慌てて止める。
確かに借金に追われているけど、そんなことは絶対にしない子たちですよ…!
黄泉先生は小さくため息をつき、便利屋のみんなに目を向ける。
「…だったら尚更、大事に使え。無駄遣いして一文無しになっても俺は助けんぞ。」
「はーい。」
みんなの返事が静かな街にこだまする。
黄泉先生は「助けない」とか言ってるけど、きっと助けるんだろうな…。
”それじゃあ…先生、そろそろ行きましょうか。”
時刻はもうすぐ13時。みんなを待たせるわけにはいかないと思い、そう言った。
黄泉先生は、腕を組んだまま「ああ」と短く返事をする。
「じゃあな、また会おう。」
「ええ、さようなら。」
「またね、黄泉先生、ハルト先生!」
便利屋のみんなに「さよなら」を伝え、一歩を踏み出ひた――その時だった。
「伏せろッ!」
突然、鋭く切り裂くような声が響いた。
それは黄泉先生の声だった。
黄泉先生がこちらを振り向く間もなく、私は背中を押されるような衝動で地面に倒れ込んだ。
――ドオォォォン!!
耳をつんざく爆発音。
目の前の通りで、建物の一角が破裂したように炎と煙を吹き上げる。
熱気と衝撃波が走り、辺りの空気が一気にひりついた。
「きゃっ!?」
「な、なになになに!?」
「…っ!?」
「……これは…!」
浅黄さんたちが悲鳴を上げ、陸八魔さんは思わず地面に倒れ込む。かく言う私もバランスを崩し、反射的に手をついて尻もちをついた。
鼓膜が軋む。肺に焼けるような匂いが流れ込む。
状況が掴めない。が、それでも目の前で――
”……先生……!?”
黄泉先生が刀を抜いていた。
彼の表情はすでに次の危機に備えている顔だった。
「お、おい!なんだ今の爆発は!? あんたたち大丈夫か!?」
そこに現れたのは、柴大将。
彼は割烹着をつけたまま、外の騒ぎを聞いて飛び出してきたようだった。
「ッ!! 大将――!!」
黄泉先生が叫んだ、その直後だった。
――ドカァァァァン!!
今度は真後ろ。
さっきまで平穏そのものだった柴関ラーメンが、大爆発を起こした。
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「どわぁぁぁぁっ!!?」
爆風に巻き込まれ、柴関ラーメンから吹き飛ばされてきた柴大将が、ゴロゴロと道路を転がってくる。
割烹着をなびかせながら、奇跡的に建物の炎には巻かれなかったようだけど…その様子は見るからに危なっかしかった。
「ハルト!」
すかさず黄泉先生の声が飛ぶ。鋭く、迷いのない指示だった。
「すぐに柴大将を守れ!その後にアヤネに連絡!あいつらをここに呼べ!」
”は、はいっ!”
指示を受け、私は相棒の名を呼ぶ。
”アロナ!”
『はい!アロナにお任せください!』
瞬間、柴大将と俺を包むように、淡い青のシールドが周囲に展開される。
ガラスのようで、強靭な光壁――これでひとまずの防御は確保できた。
「あいててて…。いったい何が起きたってんだ…?」
大将はよろめきながらも、なんとか意識はあるようだった。その様子を確認した俺は、すぐに端末を開く。
一方で、黄泉先生はすでに次の行動に移っていた。
「便利屋!お前たちはここで待機だ!」
顔を向けた先には、呆然としていた便利屋の面々。
「状況が分かり次第ハルトに連絡を入れる!その指示に従え!いいな!」
その声に、陸八魔たちはハッとして一斉に頷く。
「分かったわ!」
「ラジャー!」
「了解…!」
「…は、はいっ!」
返事を聞いた黄泉先生は、刀を腰に構え、路上に残った砲撃の痕跡へと目を走らせる。
瓦解する建物と瓦礫の散らばり。
それらを一瞥しただけで飛来元を読み取り――
黄泉先生の身体が、宙を裂いた。
”っ……!”
大気を切り裂く風圧。
跳躍と同時にその姿は建物の上空へと舞い上がり、一直線に敵のいる方向へと駆けていく。
”……すごい。”
ただ、その一言しか出てこなかった。
俺は端末を操作しながら、遠ざかっていく背中を見送る。
何が起きているのかも分からない混乱の中で、黄泉先生だけが、一点の迷いもなく戦場へと向かっていた。
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「目標、外れました。」
擲弾兵からの報告が、無線越しに届いた。
それを聞いたイオリは眉ひとつ動かさず、冷静に言葉を返す。
「次弾装填。絶対に逃すな。」
私たちは今――アビドス自治区にいる。
本来、他学園の治安に干渉するのは異例。
それでもここまで来たのは、便利屋68を追ってのことだった。
あくまで目的は便利屋の逮捕。
それなら問題ないというのが、行政官の話だった。
けれど――
「イオリ。アビドスの生徒さんたちは、どうするんですか?」
私は思わず口にしていた。
イオリの瞳が、ほんのわずかに冷たく揺れる。
「関係ない。公務を妨害する者は、すべて敵だ。」
(やっぱり……。)
私は思わずため息をついてしまった。
せめて、攻撃する前に何らかの通達をしてほしかったのだけれど…。
「いる?それ。」
イオリは淡々とそう答えた。
彼女らしいと言えば彼女らしい。だけど…。
「彼女たちを怒らせないといいのですが。」
「…ただの生徒が武装部隊に攻撃を仕掛けると思う?」
「…それが“普通”の生徒なら、ですね。」
私はそう返すしかなかった。
その時、索敵班から通信が入る。
『一般人の姿を確認。映像、送信します。』
画面に映し出されたのは、どこか見覚えのある姿。
「……えっ、ハルト先生!?」
思わず声が出る。
なぜ、こんな危険な場所に? どうして便利屋と行動を共に――?
「なら…その“先生”も対象に含めるべきだな。」
イオリは静かに言った。
「まさか……イオリ、本気ですか?」
「便利屋と一緒にいる時点で怪しい。捕まえるだけなら何も問題ないだろ?」
私はそれ以上、言葉を返せなかった。
そのとき――
『っ!新たな接近物体、確認!』
索敵班の声が跳ね上がる。
『い、異常な速度でこちらに向かってきま『バチィッ!』『ザザ―』』
「!? 応答してください!聞こえますか!?」
突如電気が走るような音がしたかと思えば、何の音もしなくなった。索敵兵の反応もない。
まさか、誰かにやられた…?
ただ…音が消える直前の電気のような音。まるで空気が“斬られた”ような感覚だった。
それは気のせいなんかじゃない。耳に刺さるような静寂と直感が”そう”だと告げていた。
(まさか―!)
私は背筋を伸ばし、すぐそばの通信機に手を伸ばした。
すでにノイズまみれだが、それでもまだ――届く先がある。
「こちら中央部隊!至急、作戦中止を要請します!」
「……え?」
イオリがこちらを向く。まったく状況を理解していない目だ。
「何言ってんだチナツ。作戦は始まったばかり―」
「違うんです!」
私は声を荒げた。今だけは、もう命令も立場も関係ない。
「今すぐに撤退の意思を見せないと、私たちは――!」
その瞬間だった。
――ドォン!
鈍い衝撃音。続いて、荒れ狂う風が一帯を包み込んだ。
砂が巻き上がり、煙のように空を覆い尽くしていく。まるで、砂嵐が押し寄せてきたような…。
視界は真っ白になり、何も見えなくなった。
「っ……な、何が……!」
隊員たちが動揺する。
イオリも目を細め、警戒の構えを見せていた。
やがて、風が止み、砂煙がゆっくりと晴れていく――
そしてその中に、1つの影が、音もなく立っていた。
白いコートに、腰に携えた1本の長い刀。狩人のような鋭い目。
その姿がはっきりと視界に現れた瞬間、私は震えを止められなかった。
「全員、動くな。」
低く、静かな声が響く。
ただ、それだけの言葉だった。
けれど――その場にいた誰もが、動きを止めた。
全身を冷たい鎖で縛られたように、誰ひとりとして動けなかった。
この威圧感。視線1つで部隊を制する支配力。
「黄泉、先生…!」
キヴォトスの“死神”であり、生徒たちを守る者。
私たちは息を呑んだまま、言葉を失っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
”ゲヘナ風紀委員会…。”
黄泉先生から送られてきた座標と共に、私たちに向かって砲撃したであろう敵の情報が送られてきた。
「恐らく、私たちを捕まえるために来たんだと思う。」
鬼方さんがそう言う。その表情は少し暗かった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい私たちがいなければこんなことには」
「お、お嬢ちゃん!俺は大丈夫だから…!」
隣では伊草さんが柴大将に向けて高速で頭を下げていた。あまりの勢いに柴大将が困惑してしまっている…。
「先生ーっ!」
すると、黒見さんが先頭を走り、こちらに駆け寄って来た。
その後ろには十六夜さん、砂狼さんの姿。だけど、なぜか小鳥遊さんの姿はなかった。
そのことについて聞こうとしたけど…彼女たちは私の後ろにいる便利屋たちの姿を見て、目を見開いた。
「ア、アンタたち…っ!」
黒見さんが鋭く睨みつける。
「爆発の原因、アンタたちでしょ!? よりによって柴関ラーメンを――」
”ま、待ってくれ黒見さん!”
私は思わず声を張り上げていた。
黒見さんの眉がひそめられる。隣の砂狼さんも険しい顔で状況を探っていた。
「…先生。隠さなくてもいいわ。」
振り向くと、陸八魔さんが真剣な眼差しで私を見つめた。
「この店が爆破されたのは、風紀委員会が私たちを捕まえに来たからよ。私たちがここにいなければ、こうはならなかったでしょうね。」
「っ! やっぱり…あんたたちが!」
黒見さんが銃口を向ける。
だけど、陸八魔さんはとても冷静だった。
「だから、これ以上あなたたちが首を突っ込む必要はない。奴らの目的は私たちなんだから、そこで大人しくしていてちょうだい。」
浅黄さんたちも何も言わず、後ろに立っている。真っ直ぐに、私たちを見つめながら。
あの言葉には、あの目には、逃げの考えはない、“自分たちが盾になる”という覚悟があった。
”…逃げなくてもいいの?”
ふいに、私はそう尋ねた。
せっかく自分の本当の道を見つけられたのに、わざわざ危険な場所に行くなんて。
もちろん、風紀委員会はそんなこと知る由もないが、捕まれば…。
「…真のアウトローは、敵を前に逃げたりしないわ。」
真剣な表情の中で、彼女は微かに笑った。
「むしろ、逃げるのはアビドスの方。風紀委員会は私たちを捕まえるために来たんだから。」
彼女の声はどこまでも落ち着いていた。まるで、運命すらも受け入れているかのように。
そして踵を返し、黄泉先生がいる戦場へと向かう。
「さぁみんな、仕事の時間よ。」
「よーし!派手に暴れてやろう!」
「まぁ、こっちには黄泉先生もいるし…。」
「が、頑張ります…!」
彼女たちは――本気だ。
誰一人、逃げる素振りなんてない。
その時、鋭い声が空気を裂いた。
「…ふざけないで!」
黒見さんが叫んだ。
怒りとも涙ともつかない強い感情が宿っている。
「学校を襲って、柴大将の店をめちゃくちゃにして…!今度は何!?ヒーローのつもり!?」
「ここはアビドス自治区!あんたたちみたいなゴロツキに守ってもらう筋合いはない!」
その叫びは、誰の言葉よりもまっすぐで、鋭かった。
浅黄さんの笑みが一瞬ひきつり、鬼方さんも目を伏せる。伊草さんも何も言えず、俯いていた。
「風紀委員会!? そいつらがどんな奴かは知らないけど、私たちの街を傷つけた罪はしっかりと償ってもらうわ!」
そう言って黒見さんは陸八魔さんの隣に並んだ。
「…出た。セリカのツンデレ。」
ぽつりと、砂狼さんがつぶやく。
「素直じゃないですね☆」
『でも、セリカちゃんらしいです。』
十六夜さんと奥空さんが冗談めかして言うが、その口調に緊張を和らげようとする優しさが滲んでいた。
「あなた…。」
陸八魔さんがぽつりとつぶやく。
驚いたような、けれどどこか嬉しそうな顔をしていた。
「…言っとくけど、あんたたちを認めたわけじゃないから! 偶然敵が同じだっただけ!」
そう言って、黒見さんは顔を背けたが、その頬は薄赤く染まっていた。
便利屋とアビドス。過去の確執はまだ残っている。
それでも――この瞬間、彼女たちは並んで同じ敵を見つめていた。
私はほんの一瞬、目の前の出来事に呑まれて立ち尽くしてしまった。気を抜いていたわけじゃない。ただ、肩を並べて立つ彼女たちが、あまりにカッコよく映っていた。
その時――
「ちょっと!なにボケッとしてるのよ先生!」
黒見さんの声が鼓膜を叩いた。
”えっ……ああ、ごめん!”
私は慌てて返す。彼女は呆れたように肩をすくめたが、その顔はどこか頼もしい。
その横で、柴大将が不安げに空を見上げているのが目に入った。
彼は一般人だ。このまま巻き込まれたら、命の危険すらある。
”…柴大将、あなたも一緒に来てください。”
私はしっかりと彼に向き直る。
”今のアビドスで一番安全な行動は、彼女たちと動くことです。”
「わ、分かった!」
柴大将がうなずくのと同時に、私は皆に声をかける。
”みんな、黄泉先生のもとへ急ぐよ!”
「「「「「「「 了解! 」」」」」」」
アビドスの面々が走り出し、その後ろに便利屋が続く。
砂埃を巻き上げながら、私たちはそれぞれの想いを胸に、戦場へと向かった。
つづく
アロナ「私の出番をもっとください!」
僕「だって君…ハルト先生以外に視認できないじゃん。」
アロナ「ハルト先生の視点でも全然書いてくれないじゃないですか!」
僕「この辺りは原作でもそんな出てないじゃん。」
…そんな事を言おうものならアロナを泣かせてしまうのでやめておきます。
「僕が悪いんだよ。お前(アロナ)の出番が少ないのは、僕のせいだ!」
こうして土下座したらたぶん秒で許してくれる。