しばらくはヒアンシーPVにお世話になりそう。
砂埃の名残がまだ空を曇らせている中、俺は前線に立ち、風紀委員の一団を見据えていた。
「……全部隊に通達。絶対にそれ以上前進しないでください。」
静かだが芯のある声。チナツだ。
無線越しに、指揮系統を止めようと必死なその様子が伝わってくる。
俺は一歩前に出る。
「まさか、ここまで大胆な行動を見せるとはな。」
眼前に立つイオリの肩が小さく揺れている。
それでも食い下がることはなく、視線を俺に向けてくる。
「…すべては便利屋を逮捕するためだ。先生、邪魔をしないでくれ。」
イオリの声が僅かに震えている。
まるで、自分に言い聞かせるようだった。
「…分かっているとは思うが、ここはアビドスの自治区だ。アビドスに事前に報告は入れたのか?」
しばしの沈黙の後、チナツが答える。
「……入れていません。」
思ったとおりの返答に、俺は思わずため息をつく。
アビドスに無許可で砲撃を行っただけでなく、あいつらの拠り所である柴関ラーメンを爆破した。
…紛争を起こすには十分すぎる火種だ。
「……この作戦を立案したのは、誰だ?」
「そ、それは――」
チナツが口を開きかけた、その時。
「黄泉先生ー!」
後方から声が響いた。振り返ると、砂塵の中を走ってくる複数の影。
セリカ、シロコ、ノノミ、そして便利屋の姿だった。その少し後ろに、ハルトと柴関ラーメンの大将も姿を見せる。
「やっと来たか…。」
役者は揃った。あとは、余計な戦闘を起こさずに終わらせるだけだ。
「便利屋……!」
イオリの低く鋭い声が空気を裂く。
彼女の指が銃のトリガーにかかるのが分かった。次の瞬間、風紀委員の生徒たちも一斉に銃を構えた。
その時――
「銃を下ろしてください!」
チナツの声が全てを止めた。
彼女の迫真の声にイオリたちは驚き、視線を彼女に向ける。
「…そうですよね、黄泉先生。」
チナツが俺に答えを求めた。
俺は彼女を見据えたまま、小さく頷く。
「…正解だ、チナツ。この場に暴力は必要ない。」
そしてイオリたちは彼女の指示に従い、銃口を下げた。
俺は少し振り返り、アビドスと便利屋を視界に映す。彼女たちもまた、銃口を風紀委員会に向けていた。
「…お前たちも銃を下ろせ。」
そう告げるとシロコたちはゆっくりと銃を下ろした。だが、セリカだけは銃を下ろせずにいた。
おそらく…瓦礫と化した柴関ラーメンの光景が、彼女の脳裏に焼きついているのだろう。彼女たちの拠り所であり、セリカのバイト先であった店が破壊された以上、そうなるのも無理はない。
だが――。
「言う通りにしろ、セリカ。」
俺は少しだけ声を強めた。
既に風紀委員会が2発の砲弾を落としているが、まだ引き返せる段階だ。店なら風紀委員会に賠償させればいい。いや…賠償させる。
俺の言葉にセリカは唇を噛み、わずかにうつむいてから、ゆっくりと銃を下ろした。
「……はい。」
彼女が小さく返事をする。
それでいい。辛いだろうが、全てはこの街を守るためだ。
俺はインカムを通して、アビドス高校にいるアヤネに伝える。
「…アヤネ、ここからはお前に任せる。」
『は、はい!』
そう言うと、俺の隣にホログラムのアヤネが現れた。
この場は、生徒同士の問題として決着させるべきだ。俺たち”先生”が前に出すぎると、また別のしがらみが発生する。
”先生”という肩書きは便利なようでいて、何かと行動を制限される立場にある。
それはこのキヴォトスという世界において特にそうであり、生徒の自由を守るために立っていながら、その自由に口を出せば出すほど、大人の都合や権力の匂いが染みついてしまう。
だが、こいつらは俺が手を出さずとも自分の考えで動く事ができる。
アビドスと便利屋、どちらも何かを守るために立ち上がった生徒たちだ。
――あとは、こいつらを信じるとしよう。
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風紀委員会、アビドス、便利屋の生徒たち、そしてシャーレの先生たちが黙っている中、私は深呼吸して一歩前へ出た。ホログラム越しとはいえ、胸が高鳴る。
これはアビドスの生徒として、絶対に失敗できない交渉だ。
「アビドス高校所属、奥空アヤネと申します。あなた方はどちらの所属ですか?」
一拍の沈黙。
その時だった。私のすぐ前の空間が淡く光り、青白い光の粒が集まる。
『私から答えさせていただきます。』
姿を現したのは、一人の少女。涼しげな青髪に、無駄のない立ち居振る舞い。明らかに只者ではなかった。
『ゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。』
その言葉とともに、彼女は丁寧に一礼する。その所作に、一瞬、こちらの緊張すら和らぐようだった。
『風紀委員会の行動について、ご不快な思いをさせてしまったのであればお詫び申し上げます。』
その柔らかな口調とは裏腹に、言葉にはしっかりとした芯があった。
それに、彼女の視線は何気なく向けられているようで、こちらの反応を細かく観察している――そんな印象を受けた。
ふと、彼女の視線が斜め後方をかすめる。
『…イオリ。』
その名前を呼ぶ声に、さっきまで淡々としていたイオリさんがわずかに身じろぎしていた。
『反省文のテンプレートがどこにあるか、分かりますね?』
「………。」
ぴしりと空気が張り詰める。
私が「あなたが、風紀委員会のナンバー2…?」と言うと、彼女は小さく微笑んで首を振る。
『実際はそんな大したものではありません。あくまで、風紀委員長を補佐する秘書のようなものでして。』
その謙虚な言い方とは裏腹に、イオリさんを完全に抑える彼女の存在感は、言葉以上に雄弁だった。
――これは…ただ者ではない。ゲヘナ学園が本気で動いている証拠だ。私は自然と背筋を伸ばしていた。
アコさんは続ける。
『ところで…アビドスの生徒会は5人と聞いていましたが、あと一人はどちらに?』
その一言に、私はわずかに眉をひそめた。彼女の口から出た「生徒会」という単語に、引っかかりを覚えたからだ。
「今はおりません。そして…私たちは生徒会ではなく、対策委員会です。」
私がそう返すと、アコさんはまるでそれすらも予想していたかのように、静かに目を伏せた。
『奥空さん……でしたよね?私は生徒会の方と話がしたいのですが。」
その言葉にいち早く反応したのは、私ではなくセリカちゃんだった。
「生徒会はずっと前に解散したの!言いたいことがあるなら私たちに言いなさい!」
セリカちゃんの語気には、明らかな苛立ちが滲んでいた。彼女の背後には、同じように厳しい目を向ける仲間たちが立っている。
『……そのようですね。』
アコさんは一歩も退かず、ただ小さく頭を下げる。だが、その態度は謙虚というより、状況を掌握した者の落ち着きだった。
『先ほどまでの愚行は、私の方から謝罪させていただきます。』
「アコちゃん!? 私は命令通りに動いただけなんだけど!?」
横から声を上げたのはイオリさんだった。だがアコさんはまったく動じず、むしろ優しくたしなめるように言った。
『他の学園自治区の付近なのですから、きちんとその辺りは注意するのが当然でしょう?』
その言葉にイオリさんは口ごもる。
『コホン…失礼しました。』
一瞬だけ視線を落とし、気を取り直すようにアコさんが言う。
『私たちゲヘナの風紀委員会はあくまで、そちらの“便利屋”の方々を逮捕するために来ました。』
『どうか、風紀委員会としての活動にご協力いただけませんか?』
その瞳は穏やかで、口調も丁寧。だけどその実、言外にさまざまな圧力を含ませた、官僚らしい完璧な言葉だった。
彼女が言いたいこと、それは――
――便利屋を引き渡せ。
言外の圧力を感じながら、私は言葉を選ぼうと口を閉ざす。その時、ふと背中に視線を感じた。
振り向くと便利屋のみなさんが私を見ていた。
ムツキさんはただ静かに。カヨコさんは腕を組んで。ハルカさんは緊張で手を握りしめながらも、じっと私を見ている。
そしてアルさんは――まっすぐに私の目を見ていた。
次に、私はアビドスの仲間たちに目を向ける。
みんなは何も言わず、ただ小さく頷いた。
考えることはみんな同じ。だったら、やることは決まっている。
「その提案は…拒否します!」
私はアコさんを真っ直ぐ見て、そう答えた。
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アコさんの問いかけに、私はわずかに息を呑んだ。
彼女の声は丁寧で礼儀正しい。けれどその芯には、確かな圧力があった。
けれど、ここで引くわけにはいかない。
私たちは便利屋のみんなと並んで戦うと決めたのだから。
「学校が、他の学園の自治区内で堂々と戦闘行為を行うなんて…! 自治権の観点から見ても、明確な違反です!」
便利屋がどうこうではない。そもそも、この件の根本的な問題は、アビドスを“通過点”のように扱ったことにある。
「便利屋68の処遇は、私たちアビドスの対策委員会が決めます!」
はっきりと言い切った。後ろに立つみんなの存在が、背中を押してくれている気がした。
「…たとえ相手がゲヘナ学園であろうとも、ここは譲れません!」
沈黙が落ちる。
アコさんは目を細め、少し驚いたように私を見つめた。
『これだけ自信に満ちているのは、信頼できる大人の方がそばにいるからでしょうか?』
そう言って、ちらりと視線を向けたのは――黄泉先生と、ハルト先生だった。
「黄泉先生、桐山先生。あなた方も、アビドス側の判断に賛同なさるのですか?』
黄泉先生は何も答えない。
だが、沈黙は拒絶ではなかった。ただ静かに、目を閉じている。
代わりにハルト先生が、短く、それでもはっきりと頷いた。
――その瞬間だった。
『なら……やるしかありませんね?』
アコさんのその言葉に、空気が一変した。
一瞬、心臓が跳ねる。
……この人、本気で戦闘を選ぼうとしているの?
ふと視線をずらすと、チナツさんが俯いていた。
おそらく、彼女も穏便に済ませたかったのだろう。
「アコ…。」
黄泉先生が静かに名を呼んだ。
声に込められた重みが、周囲の空気をさらに緊張させる。
『申し訳ありません、黄泉先生。私たちにも事情というものがあるのです。』
静かな、けれど何かを含んだような声音が、ホログラム越しに届く。
「…言ってみろ。」
黄泉先生の声は低く、短い。
その一言に、アコさんはわずかに頷いた。
『きっかけは、ティーパーティーでした。』
『もちろんご存知ですよね。ゲヘナ学園と長きにわたって敵対関係にある、トリニティ総合学園の生徒会のことです。』
トリニティという単語を聞いて、私はハッとした。その学校は、ヒフミさんの通っている学校だ。
『そのティーパーティーが、シャーレに関する報告書を手にしている…と、うちの情報部から上がってきまして。』
(まさか、ヒフミさんのこと…!?)
それが本当かは分からない。
だけど、今の言葉はあまりにも具体的で――
『シャーレという存在は黄泉先生を通して知っていましたが…ティーパーティーと繋がりがあると言うのなら、黙って見ているわけにはいきません。』
『念には念を…ということで、”条約”が締結されるまでは、私たち風紀委員会の庇護下に先生たちをお迎えさせていただきたいのです。』
「…つまり、俺たちをゲヘナの下で監視するということか。」
まるで唾を吐くかのように、黄泉先生は低く呟いた。
「ハルトはともかく、俺を捕まえる自信があるようだな。」
『まさか。黄泉先生を捕まえるなんて風紀委員会の全勢力を持ってしても不可能です。そこで…』
アコさんはハルト先生に視線を向ける。
『そちらの桐山先生を人質にと考えました。そこに居合わせた便利屋のついで…といった形で。』
思考が止まる。
私だけじゃない。セリカちゃんたちも、アルさんたちも、みんな言葉を失っている。
「先生を人質に…!?」
誰かが小さく、そう呟いた。
風紀を守る側の人間が、そんなことを言うなんて信じられなかった。
「…この作戦はお前の案だな?ヒナは今どこにいる?」
『委員長なら出張中ですので、しばらくは帰ってきません。そして、先生の仰る通り、この作戦を立案したのは私です。』
私はその言葉に、ゾクリと背筋が凍るような感覚を覚えた。
風紀委員会の“秩序の象徴”がいない。だから、力が暴走していると言っても過言ではない。
『私も黄泉先生との戦闘はできるだけ避けたいのですが…交渉が決裂した以上、武力行使とさせていただきます。』
そう言ってアコさんは手を2回叩く。すると…
ザッザッザッザッザッ…
足音が、全方位から聞こえてくる。
おそらくゲヘナ風紀委員会の全勢力がここに集まろうとしている。
「包囲されてる…!?」
ノノミ先輩がそう言うと、シロコ先輩たちは銃を構えた。それを見た風紀委員会の生徒たちもこちらに銃口を向ける。
どうして、こんなことに…?
黄泉先生は「暴力は必要ない」って言っていたのに…。
『黄泉先生、あなた1人に対して多数で挑めば負ける可能性もありますが、今あなたの背後には生徒がいます。』
淡々とした口調だった。事実だけを述べているようで、底の見えない冷たさがにじむ。
『この軍勢と戦いながら、彼女たちを守ることができますか?』
その言葉に、誰もが息を呑んだ。
アコさんは戦力差ではなく、黄泉先生の「信念と制限」を突いてきたのだ。
まるで――
「あなたは生徒を傷つけることはできないし、彼女たちを守るために、思うように動くこともできない」
そう言っているかのようだった。
でも、その言葉に最初に反応したのは――
「守ってもらう必要なんかない。私たちも戦うから。」
鋭く切り返したのは、シロコ先輩だった。
その瞳に、一寸の迷いもない。確かな覚悟を持っていた。
「私たちの力、あんまりナメないでよね!」
「先生に頼ってばかりではダメなんです!」
セリカちゃんとノノミ先輩も真っすぐにアコさんを見つめる。
気づけば、私の口も動いていた。
「ここは私たちの街です!すぐに撤退してもらいます!」
すると、背後からさらなる声が響く。
「ちょっとちょっと!私たちがいることも忘れてないよね!」
「まぁ、どっちにしろ逃げ道なんかないし、やるしかないね。」
「みなさんの邪魔をするやつらは、絶対に許さない…!」
ムツキさんはいつもの笑顔で、カヨコさんは肩をすくめながら、ハルカさんは確かな怒りを持って立ち上がる。
そして――
「逃げ回るのはもうやめたのよ!アンタたち風紀委員会に、一泡吹かせてやるわ!」
アルさんの叫びで、円は完成した。
私たちは背中を預け合い、ハルト先生と柴大将を囲むように並ぶ。
もう、誰かの背中に隠れる必要なんてない。
黄泉先生はそんな私たちを見渡し、静かに――それでいて、誇らしげに言った。
「…どうやら、俺は何も気にする必要がないらしい。」
その言葉に、アコさんの表情が一瞬だけ崩れた。
歯を食いしばるような顔。計算が外れたとでも言いたげなその顔は――少し、悔しそうだった。
「ハルト先生!戦闘指揮と大将を頼んだわよ!」
セリカちゃんが振り返りもせず叫ぶ。
”ああ、任せてくれ!”
ハルト先生がそう言うと、柴大将も拳を握りしめ、震える声で言った。
「みんな!この街を、アビドスを頼んだ!」
その瞬間――
全身の血が滾るように、体が熱くなる。
誰が敵かは、もうはっきりしている。
逃げる道も、守られる余地も、何もない。
だったら――戦うしかない!
その時、黄泉先生がハルト先生の方へと振り返った。
「ハルト、今すぐに作戦を立てろ。」
静かに、けれど鋭く放たれた黄泉先生の言葉に空気がピリッと張り詰める。
「こ、このタイミングで!?」
思わずセリカちゃんがツッコミを入れた。
それも無理はない。目の前には風紀委員の部隊、周囲には機動兵の音。緊張のピークとも言えるこの状況で、突然の“作戦立案”。
けれど、先生は落ち着いていた。
目を細め、すぐに私の手元のホログラムマップを見て、淡々と指示を始める。
”黄泉先生はそのまま正面の主力部隊をお願いします。”
「了解。」
”十六夜さん、浅黄さん、伊草さんは左を。伊草さんを先頭に道を切り開いて、十六夜さんはガトリング、浅黄さんは爆弾で一気に崩して!”
「了解です!」
「くふっ、派手にやっちゃうよ!」
「はいっ!任せてください!」
”砂狼さん、黒見さん、鬼方さんは右を。砂狼さんを主軸にして、2人は援護する形で!…あと、無理に前進しないでね。”
「……分かった。」
「シロコ先輩!? 突撃する気満々じゃない!」
「けっこうシンプルでいいね。任せて。」
冷静に、それでいて力強く。
指示を出すハルト先生の声には、焦りも不安もなかった。
”陸八魔さんは…できるだけ高いところに行きたいよね。”
「ええ…。」
アルさんがスナイパーライフルを抱えながら、険しい顔で呟いた。風紀委員会の部隊はビルの上にも展開していて、低所からの狙撃はかなりのリスクを伴う。
「…俺に任せろ。」
低く響くその声に、全員が一斉に振り向いた。
「え?」
アルさんが不思議そうに眉を上げた次の瞬間――
「……きゃっ!?」
黄泉先生が、スッと彼女を抱き上げた。
そう、お姫様だっこの体勢で。
「はわ…!」
「えっ……!」
「わぁっ!アルちゃんいいな〜!」
ノノミ先輩、セリカちゃん、ムツキさんがキャーキャー騒ぎながら、まるで恋愛ドラマの1シーンを見たかのように目を輝かせる。カヨコさんも「あの黄泉先生が……」と驚きながら目を丸くしていた。
当の本人であるアルさんはというと、顔を真っ赤にして、口をパクパクさせている。
「ちょ、ちょ、ちょっと黄泉先生!? いいいいきなり何するのよ!!」
「ビルの屋上に運ぶだけだ。何か問題があるか?」
「も、問題しかないわよーっ!!」
アルさんはそう叫ぶけど…案外満更でもなさそうだった。
そんな時だった。
『……何ふざけてるんですかッ!!!』
怒鳴るような、鋭く、感情の乗った声。
アコさんの声が、その場の空気を凍らせた。
彼女のホログラムの顔が強張っていた。歯を噛みしめて、明らかに怒りを堪えている。
『もう許しません!! 総員、攻撃用意!!』
それと同時に、風紀委員たちが一斉に銃を構える。整然と、寸分違わぬ動きで照準をこちらに合わせた。
『攻撃、開始!!』
その声と同時に、銃声が鳴り響いた。
戦いの火蓋は――ついに切って落とされた。
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戦闘が始まった瞬間、私は再びバリアを張り、柴大将と交差点の真ん中で座っていた。
当然、休んでいるわけではない。シッテムの箱と奥空さんのドローンのカメラをつなげ、空から戦闘を見ていた。
眼下では、銃撃音と閃光、砂煙と叫び声が交錯し、戦場の緊張が一気に高まっていく。
『こちらアヤネ、制空権は確保…支援に移ります!』
奥空さんの声が届いた。
私は改めてみんなに声をかける。
”みんな、作戦通りに!絶対に勝つよ!”
「「「「「「「 了解! 」」」」」」」
まずは十六夜さんたちのグループから。
先頭を行く伊草さんのショットガンが火を吹き、正確に敵の装備を潰していく。
「これでも喰らえ〜!」
すると、浅黄さんが突然、伊草さんのいる方向へバッグを放り投げた。次の瞬間―
ドカァァァン!!!
まさかの大爆発。爆発の大きさからして、あのバッグにはかなりの量の爆弾が入っていたに違いない。
「えっ…!大丈夫なんですか!?」
「大丈夫!爆発の範囲と爆風は考えてるから!」
煙が晴れると、伊草さんは爆発を気にすることなく、風紀委員の生徒にショットガンの弾丸を浴びせていた。
まさに、伊草さんと浅黄さんの信頼の証だ。
「前に出る!援護よろしく!」
伊草さんたちとは反対方向。前衛を務める砂狼さんがさっそく前に突っ込んでいた。
「ちょっ…!シロコ先輩、前出過ぎ!」
「やれやれ…あんたたちも大変だね。」
黒見さんのアサルトライフルと鬼方さんのハンドガンで援護するけど…ちょっと離れすぎのような気もする。
その時、屋上から砂狼さんを狙うスナイパーの姿が見えた。
”陸八魔さん!2時の方向だ!”
「ええ、任せて!」
彼女のスナイパーライフルが、高所に潜む狙撃手を的確に狙撃していく。その技術はとてもレベルが高く、確実に眉間を狙っていた。
一方、黄泉先生はというと…。
彼は刀を鞘に収めたまま、敵陣の中央に悠然と歩を進めていた。
もちろん、風紀委員の生徒たちは先ほどからゲリラ豪雨のように黄泉先生を目掛けて射撃している。しかし、黄泉先生は…その全てを避けていた。
ただ体を動かして避けるのではなく、弾いた弾丸で跳弾を起こし、弾丸の進む方向を変えている。それらを全て加味したうえで、体を動かしている。
はっきり言って…意味が分からなかった。
すると、今度は打って変わって銃撃が止んだ。
連続で撃てば、当然弾切れを起こす。ここからリロードと考えると数秒隙を与えるのだが…。
さすがは秩序を守る風紀委員会。その弱点を補うために、前後で隊列を組んでいた。
風紀委員は前後の場所を入れ替え、銃口を黄泉先生に向ける。しかし、その入れ替えの時間は、黄泉先生が動くには十分すぎる時間だった。
地面を強く蹴って高く跳躍し、そのまま急降下。
鞘に入れられた刀を構え、地面に叩きつけた。
ドゴォォォン!!!
炸裂した衝撃波が地面を這い、敵をまとめて吹き飛ばした。
私のいる位置でも響く衝撃。黄泉先生が刀を叩きつけたであろう道路には、大きなクレーターができていた。
白い砂埃が舞い、視界を奪う。
黄泉先生が刀を左腰に差し戻した、次の瞬間!
灰色の髪の生徒が飛び出した!
一切の迷いなく、黄泉先生に蹴りを叩き込む!
「アンタに銃撃戦は意味ないよな!!」
あの人はアコさん曰く…イオリさん。
冷静さを装っていた彼女が、ついに動いた。
ダァンッ――!
まさかのスナイパーライフルでゼロ距離射撃。弾速がマッハを超えるとされる銃の一発だが、黄泉先生はそれをかわした。
けど、イオリさんもただの風紀委員じゃない。撃ち終えると同時に距離を詰め、銃を逆手に構え、格闘戦に持ち込んできた。
二人の拳と武器が交錯する。鞘を使った受けと払い。銃による打撃と回し蹴りの応酬。砂が巻き上がり、爆風が吹き抜ける中、戦場の中心は2人の格闘戦で引き裂かれていた。
”い、一騎打ち…!”
私は画面越しにそれを見て、思わず声を漏らした。
そこで私は我に返る。
気づかぬうちに、黄泉先生とイオリさんの戦闘に見とれてしまっていた…!
慌てて私は視点を変える。
周囲ではアビドスと便利屋がそれぞれの戦線で踏ん張り、風紀委員たちは数と装備の優位を活かして反撃してくる。
だが、誰も退かない。誰も、負けるつもりなんかない。
私はその思いに応えるだけだ。
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――うっすらと、まぶたの裏に光が差し込んだ。
喉が焼けるように痛い。耳はまだ、爆発音の余韻でジリジリとうるさい。
(……ここは……?)
私はぼんやりとした視界のなかで、上空を流れるドローンのシルエットを見つけた。戦闘は、まだ終わっていない。いや――終わりかけているように見えた。
周囲では煙が上がり、地面には無数の足跡と砕けたコンクリートの破片。
風紀委員の生徒たちは後衛に下がり、応急処置を受けていた。
(……私、あのとき……イオリさんと……)
黄泉先生が突然高く飛び上がり、次の瞬間にはとんでもない衝撃が私たちを襲った。ヘイローを持つ私たちを銃弾1つ使わずに気絶させるなんて…。
…やっぱり、敵にまわしたのが間違いだった。
少し体を動かしてみる。
骨は折れていないけれど全身が重たい。
「っ……!」
体を起こし、脇に転がっていた通信端末に手を伸ばした。そこから聞こえたのは、聞き慣れた声だった。
『……チナツさん。ご無事でしたか?』
「アコ行政官…。」
隣にホログラムのアコ行政官がいた。彼女の表情は静かだったが、どこか焦っているようにも見えた。
「私はなんとか無事です。ところで、戦況は…?」
『状況は膠着しています。黄泉先生の存在が、予想を遥かに超えていたようで。』
私は無意識に背筋を伸ばす。
その名を聞くだけで、胸の奥に圧力がかかる気がする。
「イオリはどこに…?」
『黄泉先生と接近戦にもつれ込んでいます。…それも、時間の問題でしょうが…。』
アコ行政官の顔が少し渋いものになった。
2人の戦闘の結果は…イオリには申し訳ないが、考えるまでもない。
『……ですが、各生徒の特徴はすべて把握しました。』
アコ行政官が端末越しに言い放つ。その表情には迷いはなかった。
いや――正確には、迷いを押し殺しているように見えた。
『全部隊に通達。作戦Cに移ってください。』
「アコ行政官……まだ、続けるのですか?」
思わず問いかけていた。
黄泉先生の圧倒的な防衛。ハルト先生とアビドス、便利屋たちの連携。
誰がどう見ても、これは"手遅れ"だった。
『……当然です。ここまでしてしまった以上、引き返すことはできません。』
まるで、それが義務であるかのように。
「……あの時、もっと冷静になっていれば…。」
思わず呟いた。
あの時とは、アビドスと便利屋たちが楽しそうに笑っていた、あの瞬間。
アコ行政官が歯を食いしばり、声を荒らげたあの瞬間。
間違いなく、あれが転機だった。
『あ、あれは仕方ないでしょう!?あの人たちの態度は――』
焦ったように返す彼女に、私は何も言い返さなかった。責める気もない。ただ、もう止まってほしかった。
『……とにかく、これで終わりにします。全部隊、攻撃――』
その時だった。
突如、端末の光が色を変える。
割り込みコード。たった1人しか持ちえない、最高権限のアクセス…。
『アコ。』
低く、落ち着いた、しかし凍てつくような声。
アコ行政官の動きが止まる。
続けて、彼女は尋ねた。
『アコ…。今、どこ?』
つづく
誤字脱字があったら、ぜひコメントで教えてください。
では…最近のスターレイル、原神、ゼンゼロに対する感想を簡単に。
ファイノン…あまりにも辛すぎる…。
なんでファイノンのPVでキャストリスとモーディスが刺されてるんですか…?
ちびキャスとちびボリュシアは可愛いかったけど…そんなんじゃ意味ないですよ…。
ティレル…過去1可愛いNPCだったなぁ…。ポーナも可愛かったけど、彼女はレベルが違った…。
旅人(空くん)に顔を赤くするシーンとか「また妻が増えるのか…」とか思ってました。まぁ、蓋を開けてみれば…。
橘福福(チーフーフー)ちゃん…可愛いなぁ…。
虎のシリオンらしいけど、もう茶トラ猫ちゃんでいいんじゃないかな…。