お久しぶりです。期末試験とかバイトが忙しくて書いている暇がありませんでした。
かなり駆け足な内容になっていますが、楽しんでいただければ幸いです。
いつもの教室。
皆で仲良くおにぎりを食べた楽しい空気は、いつの間にか風に流されていた。代わりに場を支配していたのは、静かで張り詰めた緊張。
俺たちはこれからアビドス砂漠に向かい、カイザーPMCに攻撃を仕掛ける。
全てを失うか、はたまた取り戻すか――
彼女たちの運命は、この戦いに委ねられていた。
ホシノたちは、約束の時間ギリギリまで何度も装備の確認を繰り返していた。
誰も余計なことは話さない。しかし、それぞれの胸の内には確かな決意が宿っていた。
やがて、出発の時が来る。
俺が「行くぞ」と告げると、彼女たちは顔を上げて互いに目を合わせ、小さく頷き合う。
廊下を歩く彼女たちの背中には、一切の迷いが無かった。
生徒玄関から外に出ると、朝の光に照らされたアビドスの空の下で、ハルトと便利屋の連中が待っていた。
制服の裾を風に揺らしながら、彼らは何も言わず、ただ静かに立っていた。
戦いはもう始まっている。
俺たちはただ、その先へ進むだけだ。
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砂に呑まれた街を抜け、やがて視界に広がる果てのない砂漠。ザクザクと砂を踏む複数の音が響く。
その頃には太陽は斜め上――南中高度よりも少し手前まで昇っており、気温もじわじわと上昇していた。
アヤネが操作するドローンに取り付けられたクーラーボックスの中にあるスポーツドリンクたちは、既に半分が空になっていた。
色んな意味で厳しい戦いになるだろう。しかし、前回と同じ結果を2度も繰り返すわけにはいかない。
その時――アヤネの慌てた声が、通信越しに飛び込んできた。
『た、大変です! 今、カイザーPMCの施設を視認したんですけど……正面に、大勢の兵士と戦車が並んでます!』
一瞬、空気が引き締まる。
俺たちは足を速め、周囲の起伏を利用して施設が見渡せる位置へと移動した。
やがて、見えた。
砂の海に浮かぶ灰色の要塞。
その正面には確かに、完全武装の兵士たちと複数の戦車が列を成して待ち構えていた。
「まさか、私たちが来ることに気づいて…。」
アルが不安げに呟いた。だが、その可能性は限りなく低いと言える。
理由は2つある。
まず1つは、カイザーと手を組んでいた“黒服”が、既にこの戦線から姿を消していること。
仮に奴が今も生きていたなら、俺たちの動きを事前に察知し、理事へ報告していたはずだ。……何としてもホシノを手に入れるために。
そしてもう1つは、戦車の並びだ。
もし本当に奇襲を警戒していたなら、戦車は横一列に広がるように配置され、進路を塞ぐ形で布陣されていたはず。
だが、あの配置はまるで“突撃態勢”だった。縦列を組み、|今にもどこかを踏み潰しに向かわんとするかのように。
兵士たちの様子を見る限り、今すぐ動く気配はない。ならば、奴らが呑気にしている今のうちに――戦車を殲滅しておく方が合理的だ。
戦車の数は十五。
――数秒で終わる。
俺はホシノたちの前に出て、左の腰に鞘ごと収めた長刀に手を添える。
刃はまだ抜かない。それでも、周囲の空気は緊張に包まれていく。
”黄泉先生、お願いします。”
ハルトの言葉に、軽く頷く。
ふと視線を横に向ければ、ホシノたちが真っすぐこちらを見ていた。
迷いも、戸惑いもない。そこにあるのは、信頼だけだった。
「任せろ。」
一言だけを残し、俺は静かに歩き出す。
鞘に収めた刀が、わずかに腰で揺れる。
足音ひとつ立てず、砂を踏みしめながら、俺はまっすぐに戦場へと向かった。
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カイザーPMC司令室。
無数のモニターと端末が並ぶその一室で、理事は硬直したように椅子に座っていた。
その手は机に置かれた端末の操作を止め、じっと一点を見つめている――が、様子は明らかに落ち着かない。足を揺らし、時折机を指で叩く。
「黒服め……まさか、私を裏切ったのではあるまいな……。」
苛立ち混じりに呟いた声は、誰に聞かせるでもなく空気に溶けた。
理事がそうするのも無理なかった。
それは昨日のこと――
『……わかりました。明日、必ずや小鳥遊ホシノをこちら側へ引き込んでみせましょう。』
その言葉を信じた理事は、アビドス侵攻のために戦車と兵士を配置し、黒服からの合図を待ち続けていた。
小鳥遊ホシノが退学処分となり、生徒会という楔を失ったアビドスを叩く――それが最も効果的な策だった。
だが、黒服からの報告は来なかった。
そして今や、何の進展もないまま朝を迎えていた。
「……また“死神”に邪魔されたとでも――」
そう呟いた時だった。
「理事、大変です!」
室内に響いたオペレーターの声は、明らかに常の緊張を越えていた。
「なんだ!」
「“死神”です!」
一瞬、時が止まった。
理事が顔を向けるより早く、オペレーターの声が続く。
「突如“死神”が姿を現し、施設前に待機させていた戦車と兵士を襲撃! 現在、施設内部へ侵入中!」
「”死神”だと…!?……他に敵は!?」
「現在確認されているのは、“死神”のみです!」
理事は激しく立ち上がり、端末を睨みつけるように怒鳴った。
「直ちに兵を集結させろ! 北方のデカグラマトン大隊もだ! 絶対に奴を逃がすな!」
「了解!」
室内の端末が一斉に起動音を立て、部下たちが慌ただしく動き出す。
理事は拳を握りしめ、低く唸った。
オペレーターたちが忙しなく動く中、端末の一つが警告音を発した。
「……!? 北方エリアに新たな反応を確認!」
「……なに?」
理事のアイラインが赤く光る。
表示された映像には、3人の少女が映る。
「ゲ……ゲヘナ学園の風紀委員会です!」
「なっ……!?」
その正体は、ヒナ、イオリ、チナツだった。
想定外すぎる人物の登場に、怒りと混乱が爆発する。理事は勢いよく椅子から立ち上がり、机を叩いた。
(なぜだ…!なぜ”死神”が現れたんだ、なぜゲヘナ風紀委員会が我々を攻撃してくるんだ…!)
「今ここで……何が起きているんだッ!!」
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鼓膜を震わせる轟音が、遥か遠くから響いてきた。
その音は一度きりでは終わらず、連鎖するように何度も響き、砂漠の乾いた空気を大きく揺らす。
やがて静寂が戻ったかと思えば、今度は施設内から緊急事態を知らせるサイレンが甲高く鳴り響いた。
『黄泉先生が戦闘を開始しました。』
通信越しにアコの声が届く。
ヒナは小さく頷き、すぐに部下へ指示を飛ばした。
「分かった。2人とも、戦闘準備。」
彼女の手元には、黒く重厚なマシンガン――『終幕:デストロイヤー』が置かれている。
全長は約120cmの機関銃たが、彼女の身長が身長なので、かなり大きく見えてしまう。
一方の指示を受けたイオリとチナツはというと、やや不満げに動こうとしていた。
「どうして私がこんなことを……。」
「なぜ私まで…?」
呟くように漏らす2人を、通信越しのアコが柔らかくたしなめる。
『まぁまぁ、せっかく委員長が“反省文の代わりに”としてくださったのですから、愚痴はそこまでにしましょう。』
「……分かったよ。」
「……はい。」
不満はあれど、彼女たちはすでに腹をくくっていた。
ちょうどその時――
『! みなさん、北方より一個大隊規模の兵士たちが接近しています。』
アコからの新たな報告に、ヒナは表情を引き締める。
「さすがは軍事会社、動きが早いね。」
黄泉が攻撃を仕掛けてから、わずか5分。その素早い対応に、敵ながら一目置くような口調を漏らす。だが、すぐに口元を引き締めて言い放った。
「だけど、先生たちには近づけさせない。みんな、行くよ。」
『「「了解! 」」』
ヒナたちは一斉に駆け出す。
戦火の渦中へ――彼女らだけの正義を携えて。
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ヴィィィィィ―――!!
カイザーPMCの拠点内に、警報のサイレンが響き渡る。
その音に呼応するように、通路の奥から次々とカイザー兵たちが姿を現した。
「いたぞ! 撃て――ッ!?」
「邪魔だ。」
兵士が引き金を引くよりも早く、俺は地を蹴る。
瞬時に懐へ踏み込み、正面のオートマタを一刀のもとに両断した。
斬られた胴部から火花とオイルが噴き出し、鉄の塊がガシャンと音を立てて崩れ落ちた。
俺は速度を緩めることなく、そのまま前進する。
「待―― 」
何かを叫ぼうとしたオートマタがいたが、すでにその声は届かない。
次の瞬間には、その機体も音なく沈黙していた。
俺が目指すのは拠点中央にそびえる管制塔のような高い建物。あそこならば周囲を気にする必要もないし、邪魔も入らない。
目視で距離を測る。
地面を強く踏みしめ、膝を深く沈めて力を溜める。
次の瞬間――解放。
身体が宙を舞い、風圧を裂いて高く跳躍。
ガラス窓の前に迫ったその一瞬、回し蹴りを放つ。
ガシャァンッ!!
「ぐはっ!?」
強化ガラスを粉砕しながら飛び込んだその蹴りは、正面にいた兵士の顔面に直撃した。
思わぬタイミングでの奇襲に、室内の兵士たちの思考が止まる。それが命取りだった。
即座に刀を振るい、銃のみを斬る。
目の前のオートマタ共を無力化させた後、俺は刀を奴らに向け、静かに口を開く。
「……答えろ。下の兵士共に命令を出しているのはお前たちか?」
「め、命令!? ち、違う!俺たちは監視担当だ!侵入者がいないかを――」
「ならば、その命令を出している奴はどこにいる。」
俺の声に呼応するように、刃が低く唸りながら帯電する。そのままゆっくりと兵士の首元へ近づけると、明らかに怯えていた。
「言えば、生かしておく。言わなければ……分かっているな?」
「ひっ……!」
一瞬の沈黙ののち、震える声が上がる。
「こっ、ここから北に向かった先の砂漠にある白い建物だ!そこに司令室がある! 」
その声を聞いても、俺はすぐには刀を下ろさなかった。
ゆっくりと、ほんのわずかに刀を引いたかと思えば、再び静かに首元へと寄せる。
「……本当か?」
低く、殺気を孕んだ声が室内を満たす。
「ほ、ほんとっ、本当ですッ!」
刀身がバリバリと強く唸りを上げ、薄紫の電気が跳ねる。周りの兵士たちは恐怖に凍りつき、声ひとつ発せずに硬直していた。
しばらく沈黙を置き、俺はようやく刀を下ろした。
眼差しは冷えたまま、兵士たちに背を向ける。
そのままインカムに手を伸ばし、冷ややかに報告を送る。
「ハルト、北の白い建物だ。……ああ、先に行け。」
それだけを伝え、ハルトとの通信を切る。そして迷いなく、割れた窓から外へと身を躍らせた。
「出てきたぞ!」
「バカめ! 空中では動けまい!」
下で構えていたオートマタたちが、一斉に銃口をこちらに向けた。
確かに、言葉だけならば正論だろう。だが、それを対策しないほど俺は愚かではない。
「行くぞ。」
静かに呟くと、手にしていた刀が淡く雷を帯びた。
柄をやり投げのように逆手で握り――真っ直ぐ、オートマタたちの中心へと投擲する。
「な――!?」
次の瞬間、砂煙が爆ぜるように舞い上がった。
刀の着地と同時に地面が抉れ、クレーターの中央には雷光を纏った刀が突き立っていた。
その刀を抜き、砂塵の中へと足を踏み出す。
目の前に現れたオートマタを、背後から静かに――だが容赦なく斬り伏せた。
砂埃に紛れ、誰にも気づかれぬまま、俺は影へと溶ける。
進むべき者たちが、その先へ辿り着けるように。
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インカム越しに聞こえる黄泉先生の声は、いつも通り落ち着いていた。しかし通信が切れた次の瞬間、拠点内から何かが爆発したかのような轟音が響いた。
いったいどんな戦闘をしているんだ…。
不安が頭をよぎるが、彼の声には焦りの色など一切なく、むしろこちらの心を落ち着かせるような不思議な力があった。
すぐに頭を切り替え、私はすぐに携帯端末を起動してマップを表示させる。周囲に集まった生徒たちに向き直り、地図を見せながら口を開いた。
”黄泉先生の報告によれば、この拠点のさらに北にある白い建物に司令室があるらしい。”
端末の画面を指しながら、私は続けた。
”ここからは、部隊を二手に分けて進もう。9人全員で動くには道が狭すぎるし、黄泉先生は今ちょうど中央部で戦闘を行っている。敵の注意は、そちらに向いているはずだ。”
誰も反論はしなかった。むしろ全員が強く頷いてくれた。判断の速さと理解の深さは、さすがと言うほかない。
私は通信機のチャンネルを切り替え、アビドス高校にいる奥空さんに呼びかける。
奥空さん、私は便利屋のみんなを案内する。対策委員会のみんなの案内は任せてもいいかい?”
『了解です! 任せてください!』
とても元気で、そして頼もしい声が返ってきた。よし、これなら大丈夫だ。
”黄泉先生と、ゲヘナの風紀委員会が敵を引きつけてくれている。今のうちに先へ進もう。”
私は周囲を見渡し、全員に向けて言葉を続ける。
”敵を見つけたら撃っても構わない。ただし、絶対に無理はしないこと。……いいね?”
「了解!」と声を揃えて返してくれるその姿に、不安は見えなかった。
瞳の奥に宿るのは、覚悟と決意。そして、その先にある希望だ。
”それじゃあ、作戦開始!”
それぞれが武器を手にし、足を一歩前に踏み出す。
火花と硝煙の向こうへ――希望の先へと、進軍が始まった。
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耳を劈くような銃声と、瓦礫が崩れる音が遠くから響く中、私たちは拠点の北へ向かって駆けていた。
黄泉先生と空崎さんたちが敵の視線を一身に集めてくれているおかげで、ここまでは順調に進めている。
「――あっ、黄泉先生だ!」
「ちょっとムツキ!よそ見しないで!」
先を走る浅黄さんと陸八魔さんの声が聞こえてくる。
確かに、壁を伝って走る黄泉先生の姿が、ほんの一瞬だけ視界に映ったような気がした。
ふと、隣を並走していた鬼方さんがぽつりと呟く。
「……それにしても、あの風紀委員長が味方してくれるなんてね。」
”うん。彼女が協力してくれなかったら、もっと苦しい戦いになっていたと思う。”
現在、空崎さんたちは北側に布陣していたオートマタを引きつけてくれている。
話によれば、敵は一個大隊規模の兵力があるらしく、それを抑えることが戦況においてどれほど価値ある行動か、私たちは誰よりも理解していた。
その時――
「!」
先頭を走っていた伊草さんが急に足を止め、私たちにも停止の合図を送ってきた。
私たちはすぐに行動を止め、近くの建物の陰に身を潜める。
何事かと思い、そっと顔を覗かせたその先には、今まさに出撃しようとしているオートマタたちの姿があった。
陸八魔さんがこちらを振り返り、目を向ける。
「どうやらアイツら、黄泉先生のもとへ向かうみたいね。……先生、どうする?」
”できるだけ戦闘は避けたいけど……そうも言っていられない状況だね。”
「ってことは?」
どこか嬉しそうに尋ねる浅黄さん。すでに爆弾の入った鞄を両手で構えていた。
「――ああ、行こう。戦闘開始だ!」
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耳をつんざくような爆発音が遠くから響いた。
施設の中央付近で激しい戦闘が行われていることは、音と地響きからも明らかだった。
その中で、上空から私たちをサポートしていたアヤネちゃんの声がインカム越しに届く。
『この先にオートマタがいます!注意してください!』
「おっけー。みんな、戦闘準備!」
「「「 了解(です)!!」」」
先頭を走っていた私は振り返り、仲間たちにそう告げた。3人の良い返事を聞いた私は再び前を向く。
だが、その瞬間――
ズガァァァンッ!!!
轟音とともに、どこからか砲弾が降ってきた。着弾地点はまさに、オートマタたちが展開していた場所。土煙が舞い上がり、地面がめくれあがる。
「な、なに!?」
突然の出来事に、思わず私たちは近くの建物に身を隠す。カイザー理事がついに味方ごと殲滅しようとしているのかと思ったその時――
『あれは……L118! トリニティの牽引式榴弾砲です!』
アヤネちゃんの驚いた声が届く。
「トリニティ!? どうしてここに!?」
『あうう……わ、私です……。』
懐かしい声と共に、見覚えのある人形がホログラムとして映し出された。
「あっ!ヒフ」
『ファ、ファウストです! ヒフミなんて名前は知りません!』
その勢いに、思わず苦笑いを浮かべる。そういえば、そんな名前で一緒に銀行強盗をしたっけ。
それはそれとして、自分でヒフミと言ってしまっているのはいいのかな。
少し間が空いて、ノノミちゃんが尋ねた。
「どうしてファウストちゃんがここに?」
『私も詳しいことはわからないんですけど、黄泉先生が「助けてほしい」と仰られていたそうで……。』
その言葉に私たちは驚愕する。まさか、今回の作戦にゲヘナとトリニティを巻き込んでいたなんて。
『で、ですが、今回の作戦にトリニティは関係ありません! 射撃を担当している方にもそう伝えてありますのでっ!』
「そ、そっか……。」
『と、とにかく皆さんの作戦が成功するよう応援しています! 頑張ってください!』
「ありがとう、ファウスト。すごく助かったよ。」
「またね、ファウスト!」
みんなが順番に感謝を伝え、外へと駆け出す。
さっきまで敵がひしめいていた場所には、瓦礫と砕けたオートマタの残骸が散らばっていた。
「みんな、先へ進むよ!」
私は一声かけて走り出す。
それに続いて、みんなの足音が地面を打ち鳴らす。
私たちは、もう止まらない。
この一歩は、自分たちの意思で選んだ未来へと繋がっているから――。
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「ほらほら、どいたどいた〜!」
「どいてくださいどいてくださいどいてくださいどいてください――!」
浅黄さんと伊草さんがそれぞれ爆弾とショットガンで、前方の
取りこぼしたオートマタは、陸八魔のスナイパーライフルと鬼方のハンドガンが正確に撃ち抜いていた。
「いい感じで進めてるわね。」
「……だけど、さすがに多すぎない?」
鬼方の指摘に私も頷く。実際、こちらに向かってくる敵の数が異様に多かった。
――私は、一つ読み違えていた。
黄泉先生が拠点中央で戦闘しているため、敵の目を引きつけてくれていると踏んだ。だからこそ、私たちは外壁寄りの比較的安全なルートを選んだのだ。
だがその先が、まさに黄泉先生を止めるために投入された増援部隊の通り道と重なっていたとは――。
「先生、伏せてッ!」
陸八魔さんの叫び声に反応して、私はとっさに地面へ身を伏せた。次の瞬間、私のすぐ頭上を何かが通過し、続けて背後から大きな爆発音が響いた。
「先生、大丈夫!?」
”私は大丈夫。それよりも今のは……”
そう言って視線を前に向けるとそこには、戦車『クルセイダー』がその砲塔をこちらに向けて待ち構えていた。
しかし、便利屋のみんなは恐れることなく一歩前に出る。
「ほんっと邪魔ね。さっさと終わらせましょう!」
「はい!」
「やるか……。」
「くふふっ!ムツキちゃんの“とっておき”を食ら――」
その時だった。
”何か”が私のすぐ横を、風のように通り抜けた。
瞬きをした次の瞬間、戦車が爆炎に包まれていた。辺りに散らばるオートマタも次々と火花を上げ、力なく崩れ落ちていく。
「……あれっ?」
全員が何が起きたのか理解できず、ポーズを決めていたみんなはそのまま固まった。
「無事か?」
背後から落ち着いた声が耳に届く。瞬時に振り向いた私たちは、すぐに声を上げた。
「「「 黄泉先生!」」」
そこにいたのは、やはり彼だった。
黄泉先生は軽く頷くと、刀に付いたオイルを白い紙で静かに拭き取っていた。
その姿に、鬼方さんがぽつりと尋ねる。
「……先生、どうしてここに?」
「お前たちが銃声を響かせていたからな。音を頼りに飛んできただけだ。」
「他のオートマタたちは……」
「すべて片付けた。」
迷いも誇張もない、その一言が何より雄弁だった。
あの激しい銃声から察するに、相当数の敵がいたはずなのに――。
この人が“先生”で本当に良かったと、改めて思った。
「そんなことよりもお前たち。止まっている暇はないぞ、ホシノたちはすでに前へ進んでいる。」
「本当!? じゃあ急がなきゃ!」
そうして再び北へと向かおうとした、その時だった。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
新たな警報音が拠点中に響き渡った。 これまでのものとは違う、まるで“何か”を解き放つかのような、低く、そして不気味な音。
そして同時に地面が揺れる。
5秒ほどの揺れの後、拠点中央部から、眩い閃光と共に何かが飛び出した。
オートマタのように見えるそれは、足元からロケットのように噴射炎を吹き上げ、空中でピタリと停止する。
両腕にはアサルトライフルが、肩にはスナイパーライフルが装着されていた。
「な、何あれ……」
陸八魔さんがぽかんと口を開けて呟いた。 けれど、それは彼女だけではない。ここにいる全員が言葉を失っていた。
そんな中、黄泉先生は静かに前へと一歩進み出る。
「……お前たち、すぐに司令室に向かえ。」
”黄泉先生は……?”
「――奴の相手をする。」
その言葉に“1人で?”と疑問が浮かぶ。けれど、口にはしなかった。
私が迷ってしまえば他の生徒たちも迷ってしまう。私は先生だ。それだけは絶対にしてはならない。
”……みんな、進もう!”
振り切るように声をかけると、皆は一瞬だけ立ち止まったが、やがて静かに頷き、それぞれ足を動かし始めた。
「先生、負けないでよね!」
「もし負けたら許さないから!」
「せ、先生を信じてます!」
「……絶対に勝ってよね。」
――そうして、私たちは先生をその場に残し、再び北を目指して走り出したのだった。
私たちは再び北を目指して進み、やがて対策委員会のメンバーたちと合流した。
こちらに気づいた小鳥遊さんたちがすぐに駆け寄ってくる。
「みんな! さっきの警報はなんなの!?」
「黄泉先生は一緒に来なかったの?」
焦燥を隠せない声。黒見さんも砂狼さんも、全員が不安げに私を見つめていた。
私は小さく息を吸い、落ち着いた声で状況を説明する。
”言葉で説明するのは難しいけど……オートマタのようなものが拠点から飛び立つようにして現れた。両腕が銃になっていて、空を飛んでいたんだ。”
”あれは自然発生するような存在じゃない。カイザーPMCが対黄泉先生を意識して作り、送り込んだ兵器だと思う。”
私の言葉に、みんなが息を詰まらせるのを感じた。
しかし、小鳥遊さんがいつものように明るく声をかける。
「で、でも、黄泉先生なら大丈夫だよ。だってあの人はキヴォトス最強でしょ?」
”そう言いたいけど……分からない。”
できれば小鳥遊さんの意見を肯定したかった。
なにせ黄泉先生が機械なんかに負ける姿は1ミリも予想できないから。しかし、負け筋になるであろう大きな問題が1つあった。それは――
”さっきも言ったけど、あの兵器は空を飛んでいるんだ。近接戦闘を主とする黄泉先生にとっては、あまりにも不利な状況と言える…。”
「だったら、早く戻って助けないと…!」
”…!違うんだ、砂狼さん!”
そう言って来た道を戻ろうとする砂狼さんの手首を慌てて掴んだ。
彼女の気持ちも分かるが、今すべき行動はそれじゃない。
“いま私たちがやるべきは司令室を一秒でも早く制圧することだ。あれが誰かに操られているのなら、その手綱を断ち切れさえすればこっちの勝ちなんだ!”
その言葉に、対策委員会のみんなはハッと顔を上げた。自分たちが何をすべきか、心で理解できたような表情をしている。
次に声を上げたのは陸八魔さんだった。
「つまり、立ち止まっている暇なんてないってこと!すぐに司令室に行かないと本当に間に合わなくなるわよ!」
「……そうですね!みんなで一気に駆け抜けちゃいましょう!」
十六夜さんの返事に、みんなは強く頷いた。
再び全員が掲げる目標が1つになる。
”目標はこの先の司令室! すべてを終わらせて、黄泉先生を助けに行こう!”
「「「「 了解!!」」」」
全員の視線が北の司令室に向けられる。
その足取りに、もう迷いはなかった。
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司令室の大型モニターに、長いコードの文字列が次々と表示されていく。
オペレーターたちは素早くキーボードを叩き、リミッターの解除を完了させていった。
「全ユニット、エネルギーフレーム正常! 推進システム、異常なし!」
「制御中枢の伝達回路および識別信号、オールグリーン!」
次々と上がる報告に、理事は椅子にふんぞり返ったまま、満足げに笑みを浮かべた。
先ほどまでの怒りと焦燥はどこへやら――今の彼には、支配者としての余裕しかなかった。
それが静かに吹き出すと、次第に声になり、やがて爆発する。
「フ……ハハハ……フハハハハハハハッ!!」
高らかな笑いが、司令室に響き渡る。
「“死神”とゲヘナ風紀委員会が現れたときは焦った…。だが――VALIANCEが起動した以上、勝利は我々のものだ!」
理事の机上モニターには、拠点の上空に佇む機影が映し出されていた。
宙に浮かぶ銀色の兵器。個体名――〈
カイザーPMCが“死神”の脅威に対抗すべく設計した、殲滅兵器だ。
両腕に一体化されたマシンガンが火を噴き、両肩の長銃が正確に標的を撃ち抜いていく。
推進機関は常時稼働し、空中でのホバリングと高速移動を実現。さらにAIによる完全自律制御により、一度ターゲットを補足すれば、仕留めるまで離すことはない。
それに加え、VALIANCEのAIには”黒服”から渡された『死神の戦闘データ』がインプットされており、その情報をベースにAIが最適戦術を構築している。
「敵勢力、第三陣と交戦開始!」
すると、別のオペレーターが声を上げる。そのモニターには、銃を撃ち、前進を続けるホシノたちの姿が映っていた。
「進行ルートからして、ここに向かってくると推察されます!」
「……そうか。」
理事は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、部下に向かって告げる。
「――”ゴリアテ”を用意しろ。」
「了解!」
そして、理事は司令室を出て暗い廊下を進む。
「”死神”が終わるのも時間の問題…。その間に、私自らの手でアビドスの歴史に終止符を打つとしよう。」
4本の赤いアイラインが暗闇の中に、妖しくきらめいていた。
つづく
改めてお久しぶりです。
さて、オリジナル個体のVALIANCEですが、チェン〇ーマンの「銃の悪魔」とメガニケの「モダニア」を参考にイメージしました。両腕のライフルはそれぞれ一丁ずつです。
「モダニアって誰だ?」と思った方はぜひ調べてみてください。くっそ可愛いキャラなので(僕の最推し)。
アビドス廃校対策委員会編も、あと2、3話くらいで終わりです。雑な部分はたくさんありますが、最後まで頑張ります。