死を識る者、日常に佇む   作:ツカッチ

27 / 79
開拓者のみなさん、先生のみなさん、こんにちは。
遅くなりましたが、今回でアビドス編は最終回。次回からは黄泉先生×生徒の物語を少し書こうと思います。

いつもよりかなり短めです。


砂の中で見つけた光

「黄泉先生!これ食べたい!」

 

そう言ってホシノが見せてきたのは棒状のチョコのお菓子だった。

俺はそれを一瞥し、特に何も言わずカゴにいれるよう促す。するとホシノは「やった」と小さく呟き、笑った。

 

俺たちは今、キヴォトスで最も大きいと言われる商業施設に来ている。目的は、今日の祝勝会で食べる肉や野菜、お菓子とジュースを買うためだ。

 

カイザーPMCとの戦闘から3週間。後始末やカイザーコーポレーションの調査などがあり、今日ようやく全員で集まれた。

 

先にその間のことを話しておこう。

 

借金の話だが、アヤネ曰く3億円の預託金は取り消され、不当に課せられた利子はこれまでよりも低い金額で済むことになったそうだ。元の借金自体を取り消すことはやはりできなかったが、利子が減るだけでもかなり余裕が生まれるだろう。

 

また、廃校対策委員会はアビドス高校の委員会として連邦生徒会に認められた。アヤネ曰く、「困ったことがあればいつでも相談してください」とリンに言われたらしい。彼女からも大きな覚悟が伝わってくる。

 

長年生徒会長が不在だったアビドス高校だが、その枠は今も空席のままとのこと。みんなでホシノに頼んだが、彼女は強く断ったそうだ。

そのことについてアルが「もしかすると、彼女は誰かの前に立つのは疲れたのかもしれないわね」と言っていた。

 

最後に、カイザーコーポレーションの理事だが、彼の判決は終身刑に決まった。裁判では《連邦自治保全法》と《学園区治安維持法》違反だけでなく、不当な利子の強要や闇銀行との関わりも挙げられ、いかなるお咎めもなかった。

このことを一番に喜んだのは、やはりセリカだった。

 

……本当に、よく頑張ったと思う。

どんなに辛くても決して諦めなかったことを、祝勝会をもってしっかり褒めてやりたい。

 

ふと、ポケットの中のスマホが震えた。画面には『ハルト』の名前が表示されている。

 

「黄泉だ。どうした?」

 

『黄泉先生、紙皿やコップなどの買い出しは終わりました。』

 

「そうか。こちらももうすぐ終わる。」

 

『了解です。』

 

そうして通話を切ろうとしたその時――

 

『黄泉先生!私たちの欲しいものは買ってくれた!?』

 

甲高い声が耳を突き抜け、頭の奥にキーンと響いた。

耳鳴りが残り、しばらく消えない。

 

「……心配せずとも先に入れた。」

 

『ありがと、先生!またね!』

 

そこで通話は切れた。……まだ耳鳴りが続いている。

 

若干の苛立ちを覚えつつも、再び視線を前へ戻す。そこにはカートに大量に積まれた肉が山盛りで、下段にはニンジンや玉ねぎ、椎茸が詰められている。

隣を歩くアヤネが押すカートには、お菓子とジュースがぎっしりと入っていた。

 

この会計額はいったいいくらになるのか。まぁ、それでも安い買い物に違いはないがな。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……よし、持っていくものはこれで全部だ。」

 

シャーレ居住区の前。炭の入ったダンボールを正面の出入口まで運び、俺は肩で息をついた。

 

あの後会計を済ませ、ハルトたちと合流したところで「バーベキューセットを取ってくる」と告げて俺は一旦別行動を取った。

 

するとホシノが、「私もついて行ってもいいかな?」と申し出てきたので同行を許可。

ムツキも乗り気だったが、先ほどの耳鳴りの件を持ち出して断ってやった。

 

「えっと……先生。これ、どうやって持って行くの?」

 

ホシノが、少し面倒くさそうな声を出す。

たしかに、バーベキューセット一式から折りたたみ式のテーブルと椅子まで――二人で抱えて行くには無理がある。

 

だが、問題はない。

 

「少し待ってろ。」

 

そう言い残し、俺はシャーレ居住区の地下へ向かった。

 

 

 

「な、なにこれ……。」

 

ホシノは俺が持ってきた……もとい、運転してきた白い車を見て、ぽつりとつぶやいた。

流れるようなボディラインに、やや高めの車高。街乗りも砂漠もこなせそうな、無駄のないデザイン。

俺が運転席から降りると、ホシノは目を丸くして固まっていた。まぁ、俺が車を運転する姿なんて想像できなかったのだろう。

 

この車はシャーレ所有の物資輸送用で、普段は地下駐車場で眠っている。

普段はあまり使わない。自分の足で動いたほうが早いからだ。

 

「黄泉先生が車って……なんか似合わないね。」

 

「それは、俺が一番理解している。」

 

即答した俺に、ホシノは「ごめんって」と笑いながら、ぽんぽんと背中を叩いた。

謝られるほど傷ついてはいない。ただ事実を述べただけだ。

 

「別に悲しんではいない。それより、積み込むぞ。」

 

俺の言葉にホシノは「はーい」頷き、出入り口付近に置いてあった荷物を持ち上げる。

二人で荷台いっぱいに物資を詰め込み、俺は運転席へ、ホシノは助手席に乗り込んだ。

カチリとシートベルトの音が響く。

 

「それじゃあ──しゅっぱーつ!」

 

どこか遠足前の子供のような声。

俺はため息をひとつ吐き、静かにアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……黄泉先生。」

 

車を走らせてしばらく経った頃。助手席のホシノが、ぽつりと声を漏らした。

 

「どうした。」

 

「あのね、先生。実は……最初は先生のこと、疑ってたんだ。」

 

「知ってる。」

 

「……うん。それでね……うへ?」

 

ホシノはきょとんとした顔でこちらを見た。

 

「知ってるって……。」

 

「まさか、気づかれてないと思ってたのか? 俺がアビドス高校に足を踏み入れた時から警戒していただろう。」

 

そう言ったところで信号が赤に変わった。ブレーキを踏み、車はゆるやかに停まる。

 

「しかし、ずいぶんと急な話だな。」

 

俺がそう尋ねると、車内は静寂に包まれた。少しして彼女は口を開いた。

 

「……ごめんなさい。」

 

その言葉に、俺はホシノに目を向ける。

彼女は続けた。

 

「『助けて』って手紙を見てわざわざ来てくれたのに警戒されて……嫌だったでしょ?」

 

その声音には、長く胸にしまっていた後悔がにじんでいた。だが――そんなもの、俺に向ける必要はない。

俺はホシノに向き直り、そっと頭に手を置いた。

 

「……謝る暇があるなら、もっと笑え。」

 

「え……?」

 

「お前の笑顔が見られるなら、どんなに疑われても構わない。」

 

それが俺の本心だった。

苦しむ生徒に手を差し伸べて、疑われるなんて何度もあった。それでも向き合い続けて、本当の笑顔を取り戻させてきた――今回も同じことをしたまでだ。

 

視線を戻すと、ホシノは顔を赤くして俯いていた。

声をかけようとした、そのとき――

 

「あ、青信号だよ!」

 

ホシノが話を逸らすかのように信号を指差す。前を見ると、確かに信号は青に変わっていた。

 

俺はハンドルを握り直し、静かにアクセルを踏む。

それからアビドス高校に着くまで、ホシノは窓の外を見たまま、何も話さなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

アビドス高校に到着すると、シロコ、セリカ、ムツキ、ハルカが校門の前で出迎えてくれた。

聞けば倉庫に眠っていたテントを引っ張り出し、すでに設営まで済ませてくれていたらしい。

積み荷を下ろすのを手伝ってもらい、そのままバーベキューの準備に取りかかる。

 

炭に火をつけるために、ムツキにうちわで扇いでもらうよう頼んだはずが――気づけば、いつの間にか俺がうちわを握っていた。

ムツキは横でにやりと笑い、何食わぬ顔で椅子でくつろいでいた。

 

やがて、アヤネたちが切り揃えてくれた色とりどりの食材が、皿に盛られて運ばれてくる。

太陽に照らされ、肉も野菜も瑞々しく輝いて見えた。

 

火も十分強くなったので、さっそく肉を金網の上に並べていく。塩コショウを被せてしばらく待っていると、何ともいい香りが広がってきた。

みんなが肉に夢中になっていると、ホシノがふと声を上げた。その声に自然とみんなの視線が集まる。

 

「お肉ももうすぐ焼けるし、乾杯しよう!」

 

一斉に「いいね!」と頷き、紙コップにジュースを注ぐ。俺とハルトはお茶を注いだ。

全員に飲み物が行き渡ったことを確認し、ホシノがゆっくりと口を開いた。

 

「まずは対策委員会のみんな。ずっと諦めずに戦ってくれてありがとう。みんながいなかったら、間違いなくアビドスはカイザーに支配されていたと思う。ずっとそばにいてくれて、本当にありがとう。」

 

「次に便利屋のみんな。最初は敵同士だったけど、味方になった時はすごく心強かった。一緒に戦ってくれて、本当にありがとう。」

 

「最後に黄泉先生とハルト先生。最初は2人を信じられなかったけど、途中で投げ出したりせず、最後まで手を握っててくれてありがとう。本物の大人である2人に会えて、本当によかった。」

 

そこで、ホシノに向けて大きな拍手が送られる。彼女は照れくさそうに後頭部に手を当てた。

 

「それじゃあ改めて、私たちの完全勝利に――!」

 

「「「「 かんぱーい!! 」」」」

 

みんなの声が重なり、コップが軽やかに触れ合う。

一方、金網の上では肉がじゅうじゅうと音を立て、香ばしい匂いが漂った。

 

ホシノに最初の肉が手渡される。彼女は熱さを確かめながら肉をタレにくぐらせ、ほおばった。

 

「うへへ、美味しい!」

 

満面の笑顔が自然と周囲に伝わり、みんなもまた口元をほころばせた。

 

そして、彼女たちも肉を口に運び――100点の笑顔で喜ぶのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

トングから割り箸に持ち替え、俺も肉を口に運ぶ。

自分で焼いた肉とはいえ、なかなかの出来だ。

塩コショウは強すぎず、肉の旨味をしっかり引き出している。タレをつけてもなお、箸が止まらない。

白飯があれば完璧だな。

 

すると――

 

「おっと!もう始まってたか!?」

 

久しぶりに聞く声が、にぎわう校庭に響いた。

振り向くとそこに立っていたのは、柴犬――柴関ラーメンの店主、柴大将だ。

 

自転車の後ろ荷台には、ロープでしっかりと固定されたクーラーボックス。

大将は短い手でせっせとロープを外し、にこにこと嬉しそうな顔でこちらに運んできた。

 

「差し入れだ! みんなで食べてくれ!」

 

蓋を開けると、見事にまん丸なスイカが鎮座していた。

セリカが軽く叩くと、鈍い音が響く。

 

「食べごろのスイカね!」

 

「おうよ!」

 

柴大将はカラカラと笑う。

「早く食べよう」と盛り上がる様子を見て、アヤネが包丁とまな板を持ってくるが――

 

「黄泉先生なら一瞬で切れるんじゃない?」

 

ムツキがそんなことを言い出した、全員の視線が一斉に俺に向けられるが、静かに首を振った。

 

「俺は肉を焼かねばならん。そんなことをしている暇はない。」

 

そう返したが、そこに割って入ったのはまさかの柴大将だった。

 

「肉なら俺が焼くぜ。暑いのは慣れてるからな。」  

 

そう言いながら彼はコンロの前に立った。

……確かに、いつも熱湯や火を前にして料理をする彼なら慣れたものだろう。

だが、その目は明らかに「切るところを見たい」と言っていた。

 

それでも、断りたかった。

俺の剣技はこいつらを守るためのもので、一発芸のためのものじゃない。

だが――守るべきこいつらの目は、それを求めている。

 

「はぁ」と小さくため息をつき、アヤネから包丁を受け取る。その瞬間、場の空気が張り詰め、全員の視線が俺に集まった。

 

テーブルの上のスイカを見据え、左下から刃を滑らせるように切り上げる。

そのままの流れで、右下へと一閃。

刃先が光を弾き、風が頬をかすめた。

 

「後は任せる。」

 

そう言ってアヤネに包丁を返すが、スイカは何事もなかったかのように微動だにしない。

全員が怪訝そうに固まっている。

 

「……スイカをつついてみろ。」

 

それだけ告げて椅子に腰を下ろす。

恐る恐るシロコが指先で表面をつついた。

 

瞬間、スイカの表面に線が走り、寸分の狂いなく八つに割れて花のように開く。

 

「おお〜〜っ!!」

 

歓声と拍手が同時に湧き上がる。

俺の弱いところだ。こいつらの期待を裏切れない。

どうやら、俺も変わってしまったらしい。

 

「先生! 人数分に切って!」

 

ムツキが、さらりと仕事を押し付けてくる。

火をつけるためにうちわで炭を仰いでくれと頼んだのに、気づけばくつろいでいたヤツがよく言う。

 

だから言ってやった。「自分でやれ」と。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

夕陽が傾き始めるころ、炭の火も弱まり、自然と片付けの時間になった。

紙皿や空になった紙コップがゴミ袋に吸い込まれ、テーブルや椅子が畳まれていく。

笑い声は残っているのに、どこか名残惜しい空気が混じっていた。

 

「黄泉先生、ちょっといいかい?」

 

グラウンド近くの水飲み場でコンロを洗っていると、自転車を引く柴大将が声をかけてきた。

 

「俺が言うのも烏滸がましいかもしれねぇが……あの子たちを救ってくれて、本当にありがとよ。」

 

その声音は『感謝』と言うよりも、『謝罪』に近いものだった。

自分は昔からホシノたちを見ていたのに、結局何もしなかったことを自負するような、そんな印象を受けた。

 

……本当に烏滸がましい話だ。

 

「大将、あの日俺が言ったことを忘れたのか?」

 

バーベキューコンロの底に溜まった水を流しながら、そう言った。

 

「本気で申し訳ないと思っているのなら、変に考えずいつも通り行動しろ。変わらない居場所を作ることが、大将の役目じゃないのか?」

 

そう続けて、俺は柴大将を見据える。

すると彼はふっと笑い、空を見上げた。

 

「こんな年寄りに説教するなんてな。先生がキヴォトスで支持される理由がよく分かるぜ。」

 

「……大将を年寄りと呼ぶにはまだ早過ぎる。」

 

そう答えると、大将は『ははは』と笑った。

彼は停めていた自転車に足をかける。

 

「もちろん、あの時の話は忘れてないぜ。これからもそのために頑張るつもりさ。」

 

その言葉に嘘はない。

彼は誠実な大人だ。これからもしっかりと自分に、アビドスに向き合うだろう。

 

「またラーメンを食いに来てくれよ。いつでも歓迎するぜ。」

 

「ああ、必ず行こう。」

 

彼は自転車のペダルを踏み、砂の上をゆっくりと走り出す。夕陽に照らされた背中が、少しずつ小さくなっていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

片付けた荷物を車の荷台に積み込み、シャーレへ帰る準備は整った。

あとは「さよなら」を伝えるだけ――しかし、その言葉は誰の口からも出なかった。

 

太陽はほとんど沈んでしまっており、空には星が散らばっていた。

本当は暗くなる前に出発する予定だった。だが、急かすような真似はしなかった。どんな形であれ、別れは寂しさを伴うものだから。

 

やがて、アルが小さく息を吐き、「……そろそろ、ね」とつぶやく。その声に、他の三人も静かに頷いた。

 

俺が後部座席のドアを開けると、アルたちは無言で乗り込む。閉まるドアの音が、ひとつの時間の終わりを告げるように響いた。

 

「……また顔を見に来る。」

 

「みんな、またね。」

 

車のサイドウィンドウを開け、俺とハルトがそう告げると、ホシノたちは「待ってる」と笑い、手を振ってくれた。

 

サイドブレーキを解除し、シフトレバーをPからDに動かす。ハンドルを握り、アクセルを踏もうとした、その時。

 

「黄泉先生!」

 

呼び止める声に顔を向けると、ホシノがそこに立っていた。沈みかけた夕陽を背に、これまでで一番の笑顔を浮かべて。

 

「またね!」

 

その笑顔を見て、俺も自然と口角が上がった。

……そうだ、俺が見たかったのは、その笑顔だ。

 

「じゃあな。」

 

短く、しかし確かな想いを込めて告げる。

車がゆっくりと動き出し、ホシノたちが、アビドス高校の校舎があっという間に小さくなり、見えなくなった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

時刻は19時。

シャーレ居住区の倉庫にバーベキュー道具を片付け、アルたちと別れた後、俺はハルトを連れてエンジェル24に向かった。

すると、店員のソラが店から出てくる。どうやらバイト終わりだったらしい。そしてやはり俺を警戒しているようで、挨拶もほどほどに、逃げるように去っていった。

……どうしたものか。

 

それはさておき、俺たちは入店してすぐに飲み物コーナーへと向かう。冷蔵庫の中にはジュース、コーヒー、そしてアルコールが入っている。

それらを一瞥し、隣に立つハルトに尋ねる。

 

「ハルト、お前は酒は飲むのか?」

 

「す、すみません。お酒は苦手で……。」

 

彼はそう言って苦笑いを浮かべた。

だが、それが聞けてよかった。俺は小さくと笑いリーチインケースの取手を握る。

 

「奇遇だな、俺もだ。」

 

そして俺は扉を開け、コーラを2本手に取った。

 

 

 

「ありがとうございました〜!」

 

店員の声を背中に受けながら、俺たちは店を出る。買ったコーラを1本ハルトに渡し、俺はキャップを回した。

炭酸が弾ける音が夜気に小さく響く。口をつけた瞬間、細かな泡が舌を弾き、喉を突き抜けるような刺激が走った。

冷たさと甘さが、疲れた身体にじんわりと染みていく。

 

「……悪くないな。」

 

”はい。シュワッとするこの感覚は、ずいぶん久しぶりです。”

 

隣に立つハルトは少年のように笑った。

やがてその笑顔は消え、疑問へと変わる。

 

”ところで、私を呼んだ理由は……。”

 

「ここで話しても良いが……とりあえずついて来い。」

 

そう言って、歩みだす。ハルトは首を傾げながらも、俺についてきた。

 

 

 

向かったのはシャーレの屋上。見上げれば空には星が散らばっており、見下ろせばビルの光が街を彩っていた。

屋上へ来たのには、特別大きな理由はない。言ってしまえば、俺のエゴだ。

 

夜景を映しながらコーラを1口喉に流す。そして、静かにハルトに向き合った。

 

「……お疲れ様だったな。」

 

開口一番に、労いの言葉をかける。

目を丸くするハルトだが、俺は構わず続ける。

 

「シャーレとして始めての仕事だったが、『先生』として、また『大人』として、お前はしっかりやって見せた。」

 

「自分の判断に悩む様子も見られたが、それは当然出てくる疑問だ。こればかりは場数を踏むしかない。変に考えすぎるなよ。」

 

”はい!”

 

ハルトははっきりとした声で応えた。

彼はまだまだ強くなる。そんな確信があった。

 

少し間を開けて、話を続ける。

ここからが重要な話だった。

 

「今回アビドスを助けた件はあっという間にキヴォトス中に知れ渡った。今後は様々なSOSがシャーレに届くだろう。」

 

「もし、アビドスのような闇の深い話が生徒たちを飲み込もうとしていた時――」

 

自らその先頭に立ち、生徒を守るという覚悟があるのか?

 

彼の心に直接問いかけるような、低く冷たい声。

その声にハルトは目を見開いた。どこか怯えるような、そんな様子だった。

しかし、彼は逃げること無く真っ直ぐに俺を見据え――

 

”もちろん、あります!”

 

そう、言い切った。

その目に、声に、立ち姿に裏はない。どんな困難にも立ち向かおうとする、強い意思があった。

 

「……それでいい。」

 

目を細め、微笑む。当時の俺を見ているようで、なんだか不思議な感覚だった。

 

「話は終わりだ。ここで解散しよう。」

 

”分かりました。では、おやすみなさい。”

 

「ああ、しっかり休め。」

 

そうしてハルトは屋上を後にした。

静かな屋上。俺は黙って刀を鞘から抜き、空に向かって高く掲げる。

 

「……聞こえているか、ナツキ。」

 

かつての相棒の名を呼んだ。

 

「シャーレは再び歩み始めた。これからの俺たちを、そこから見ていてくれ。」

 

その時、刀身から小さく稲妻が走るのが見えた。それはまるで、『頑張れ』と励ましているように受け取れた。

だが……

 

「お前が言うのか。」

 

そんなツッコミが思わず口から零れる。

低く笑みを含んだ声が、風に溶けていった。

 

 

砂に埋もれた希望 完




話に出てきた車は、ハリアーをイメージしてます(あんまりツッコまないでね、雑に考えたから)。
みんなからはヒドい言われようだったけど、スターレイルでは刃ちゃんが運転してたし、問題ないよ先生!

冒頭でも言いましたが、次回からは黄泉先生×生徒の話を書いていきます。さてさて、誰から、何から書きましょうかね。
お楽しみに〜。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。