死を識る者、日常に佇む   作:ツカッチ

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開拓者ほみなさん、先生のみなさん、こんにちは。
今回はセリカと黄泉先生がショッピングに行く話です。

セリカのツンデレ具合を表現できていればいいのですが…。


揺れる影、揺れる心

ある日の夜。

私は机に向かい、対策委員会のグループチャットを見ながらメモを取っていた。

書いているのは、学校に足りない備品たち。明日はバイトが無いので、私が代表して買いに行くことになった。のだけど……

 

「どうしようかな……。」

 

書き写したメモを見て小さくため息をつく。

雑巾などの比較的小さなものならゴミ箱などの大きなものまで。また、食材の買い出しに行こうかなと思っていたため、少し困っていた。

 

自ら手を挙げたから断りづらいし、かと言って備品を買いに行ってまた買い出しに戻るのは普通にめんどくさい。何かいい方法はないものかなぁ……。

 

その時、私の脳内に電流が走る。

この状況を打破する、ある画期的な方法を思いついた。私は連絡先を開き、迷わず ”彼” の名前をタップした。

 

こんな時間に連絡して大丈夫かなと一瞬不安になったけど、「先生なら絶対大丈夫」という謎の自信があった。

 

さっそく私はメッセージを打ち込む。

 

『先生。ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな。』

 

送信ボタンを押して6分ほど。ようやく既読がつき、先生が返信してくれた。

 

『お願い?』

 

『学校の備品とか、いろいろ買いに行きたいの。一人だと大変だから……付き合ってくれないかな?』

 

再び送信。今度はかなり早くに返信がきた。

 

『分かった。パトロールがてら、そちらに向かおう。』

 

お、やった! やっぱり先生に頼んで正解だったね。

集合時間と場所を伝え、勢いよくベッドに飛び込む。ばふっ!と音を立て、その上でごろんと転がった。

明日は久しぶりの休日だし、荷物持ちは先生に任せていろいろ見て回ろっと!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「もう少しゆっくりでもよかったかも……。」

 

そんなことを呟きながら、スマホで時間を確認する。

 

時刻は10時23分。約束の時間まで7分もある。

特にすることもないので、生徒玄関前前の日陰に腰を下ろして先生の到着を待っていた。

すると――

 

 

ズザァァァ!

 

 

突然、グラウンドから何かが滑る音が聞こえてきた。それと同時に砂ぼこりが高く舞う。一瞬何事かと思ったけど、冷静に考えればすぐに分かった。

 

砂ぼこりの中から、彼は現れる。

 

「悪い、待たせた。」

 

白いコートに長い刀。黄泉先生だ。

それにしても、先生にしては珍しく派手に現れたなぁ。

 

「いや、全然間に合ってるからいいけど……どしたの? 凄い登場の仕方だったけど……。」

 

「いや……ついさっきまでゲヘナの暴動鎮圧に当たっていたから、全力で走って来ただけだ。」

 

『ついさっき』というのは、おそらく何の誇張もされてない。本当に数分前まで戦ってたんだろうな。しかも、ここからゲヘナまでの距離はかなりある。

さすがは先生だなと感心しつつ――やっぱり人間じゃなくて超人だよね、と苦笑いする。

 

でも、そんな状況でも私との約束を考えててくれたんだ。……そう思うと、ちょっと嬉しい。

 

「……さて、今日は買い出しに行くんだったな?」

 

「うん。学校で使う備品とか、いろいろ。」

 

先生と並んで歩きながら、ミレニアムのショッピングモールへ。買い出しというより、ちょっとしたお出かけみたいに感じてしまうのは、私だけかな。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

アビドス駅から電車に乗り、隣のミレニアムに到着した。ここに来るたびに思うけど――やっぱり騒がしいな。

頭上の電光広告は絶え間なく光を放っていて、あちこちから機械音とアナウンスが入り混じった声が響いてる。行き交う生徒たちの笑い声や足音は、まるで街そのものに脈を打たせているようで。

アビドスの静かすぎる道路とは、まるで別世界だ。

 

「いつもここまで買い出しに来てるのか?」

 

ふと、先生が尋ねた。

 

「うん。アビドスの方のお店はほとんど閉まっちゃってるからね。」

 

そう答えると、周りの空気がほんの少しだけ重くなった気がした。

 

アビドス市街地の商業施設は全ての店がシャッターを閉めてしまった。利用するお客さんもいないから、それは仕方ない。

申し訳なさそうな顔をする先生に「気にすることないよ」って笑って伝える。先生は「すまない」と律儀に謝った。別に先生が責任を感じることなんてないのにね。

 

やがて、目的地のショッピングモールが見えてきた。

私は先生の方へ振り返る。

 

「さぁ先生!荷物持ちは任せたわよ!」

 

そこで初めて、先生を呼んだ本当の理由を教えた。先生は一瞬驚いたような顔をして、ふっと笑う。

 

「俺を荷物持ちにするとは、随分と偉くなったな。」

 

「へへっ。でも、持ってくれるんでしょ?」

 

「……さぁな。」

 

先生は小さく笑って視線を逸らす。その歩幅は少しだけ早くなっていて、私は慌てて後を追いかけた。

 

 

 

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ショッピングモール内にある100均のお店で、私は頼まれた物を次々とカゴに放り込んでいく。

雑巾を10枚、大きめのゴミ箱を2つ、ゴミ袋を7枚、それから赤と黒のマーカーペンを3本ずつ。

最後にメモを見ながら確認して――うん、これで全部揃った。

 

「……よし、あとはお会計だけだね。」

 

立ち上がったところで、隣から声が飛んできた。

 

「それで買う物は全部か?」

 

振り向けば、腕を組んでこちらを見下ろす先生。私が頷くと、ほんの少し眉を寄せて――

 

「これだけの買い物なら、俺を呼ぶ必要はなかったんじゃないか?」

 

そう言って、不満というより呆れを滲ませる声。

まあ確かに、袋ひとつで済む買い物にわざわざ先生を連れ出すのは大げさかもしれない。

だけど――ここで終わるわけないじゃん?

 

私は先生に一歩近づいて、いたずらっぽく笑ってみせた。

 

「言ったでしょ? 先生は荷物持ちだって。この後は食材の買い出しとか、いろんなお店に行くつもりだからね。」

 

「……そういうことか。」

 

先生は小さく息を吐いた。それは呆れ半分、でもどこか面白がっているようにも見える。

 

「荷物くらい、いくらでも持ってやる。さっさと会計を済ませてこい。」

 

早く行け、と手でシッシと追い払う仕草。

私は「はいはい」と笑いながら、軽い足取りで会計の列に並んだ。

 

 

 

100均のお店を出た私は黄泉先生に買い物袋を渡し、再びモール内を歩く。

人通りも多いことに加えて、黄泉先生はかなり目立つため、通り過ぎる人たちのほとんどがこちらを見てくる。

これが、先生と2人で歩く時の唯一のデメリットなんだよね。……まぁ、それを分かったうえで先生を呼んだから、あんまり強く言えない。

 

「それで……次は何を見るんだ?」

 

ふと、先生が尋ねてきた。

私はハッと我に返り、近くの洋服屋さんを指差す。

 

「あ、あそこの洋服屋さんに行こうかなって。」

 

「分かった。」

 

そうして、私たちは洋服屋に入った。

こんなふうにお店で服を選ぶの、すごく久しぶりだなぁ。最近はバイトが忙しくて、ゆっくりと探す時間を取れなかったから。

畳まれた服を広げたり、ハンガーにかかっている服を取り出したりして、自分に合わせてみる。

 

そんな時、私は不意に後ろを振り返った。

 

「……先生、自分の服を見てきてもいいんだよ?」

 

ただ後ろをついてくるだけの先生に、そう伝える。

こっちはレディース服ばかりで、メンズ服は反対側にあるのに。

 

「……興味がない。」

 

先生はバッサリ言い放った。確かに、先生がおしゃれしている姿は想像できないというか、違和感だらけというか……。

 

「だが、気になる服はあった。」

 

そう言って、近くにあったワンピースに視線を向けた。……この人は何を言ってるの?

 

「えっと……それはちょっとドン引きなんだけど……。」

 

「阿呆。俺じゃなくて、セリカに似合うと思っただけだ。」

 

「………へ!?」

 

瞬間、顔が熱くなるのを感じた。頬が焼けるように赤くなり、胸の奥がキュッと締め付けられる。息が少し詰まるような感覚に、思わず手をぎゅっと握った。

 

「わ、私に……!? いや……えっ……!?」

 

先生の言葉の意味は分かるのに、脳がそれを処理してくれず、ずっと頭に響いている。

それだけじゃない。先生の顔を見ることができない。ついさっきまで普通に顔を合わせていたのに。

 

「セリカなら、誰よりも着こなせるだろう。」

 

もう、限界だった。

 

 

バシッ!

 

 

私は先生にパンチを撃った。この感情を落ち着かせるには、これしか思いつかなかった。

 

「セリカ、どうした。」

 

「う、うるさい!」

 

私は無我夢中で先生に向けてパンチを撃った。一方の先生は右手だけで私のパンチをいなしてくる。

その時――

 

「お、お客さま!店内での喧嘩はお止めください!」

 

その声でハッと我に返る。

私は慌てて先生や店員さんたちに謝ったのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

食材の買い出しを終えた私は、黙って黄泉先生に買い物袋を渡した。先生も何も話さず、黙って受け取る。

スーパーの袋を片手で軽々と持つ黄泉先生。その隣を歩きながら、私はずっと心に引っかかっていたことを、どうしても口にしたくなった。

 

「……本当に、あのワンピースが私に似合うって思ったの?」

 

先生の視線の先にあった、淡いクリーム色の生地に、小さな花模様が散りばめられた膝下丈のワンピース。袖は控えめなパフスリーブで、腰に結ばれた細いリボンが柔らかいラインをつくっていた。

 

あの時は恥ずかしさとかで混乱していてあんまり考えなかったけど、こうして冷静さを取り戻したら、気になってしまった。

 

「似合うと思ったから言ったまで。」

 

「お世辞とかじゃなくて?」

 

「お世辞は言うのも言われるのも嫌いだ。」

 

どうやら本当に似合うと思って言ってくれたみたい。

……そんなこと言われたら、もっと気になっちゃうじゃん。

 

「……あのさ。そのワンピース、もう一回見に行ってもいい?」

 

私はちょっとだけ勇気を出した。まるで、先生に似合ってると言われて喜んでるみたいに思われそうだったから。

 

「もちろん。」

 

先生はそう言って、ついてきてくれた。

それまでは先生が前を歩いていたのに、気づけば私が前を歩いていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

店に戻ると、あのワンピースはまだ同じ場所に掛かっていた。

ライトの下で、花模様がふんわりと揺れて見える。

 

「……確かに、かわいい。」

 

さっきはなんとも思わなかったけど、改めて見て、素直にそう思った。

指先に触れた布は、さらさらしていて、夏の風みたいに軽かった。

 

(……ちょっとだけ。)

 

私はワンピースを抱えて、鏡の前に立つ。

制服の上から胸元にあててみると、思ったよりも……似合ってる、かも?

いや、でも、これは自分でそう思ってるだけで――。

 

「試着なさいますか?」

 

ふと、さっきの店員さんが笑顔で話しかけてきた。

 

「は、はい。」

 

自分でも驚くくらい小さな声で言って、試着室に案内してもらった。

制服を脱いでワンピースに袖を通すと、さらさらな布が直接肌をすべる感触がして思わず息を呑んだ。スカートは制服で慣れているはずなのに、ましてやそれよりも丈が長いはずなのに、なぜか緊張してしまう。

 

カーテンの向こうには、先生がいる。

何も言わないのに、その存在を感じるだけで、余計に落ち着かない。

 

着替えを終えてカーテンを少しだけ開けると、先生の視線がこちらに向いた。

その目に嘘も冗談もないことが、すぐわかった。

 

「やはり、とても似合っている。」

 

「っ……!」

 

その一言で胸が一気に熱くなる。

どうしよう。もう、顔を上げられない。

 

恥ずかしすぎて、試着室のカーテンを勢いよく閉める。ワンピースの裾をきゅっと摘みながら、私は迷っていた。

この服、本当に買っていいのかな? 私に、似合ってるのかな? それとも……先生にそう言われたから、欲しくなっただけ?

 

 

どうして私は、この服を着たんだろう?

 

 

……答えは――決まってる。

先生が、私に似合うと言ってくれたことがすごく嬉しかったから。先生が選んでくれた服なら、これからも堂々と着られるかもって思ったから。

 

私は再び制服に着替え、試着室を出て、先生に向き合った。

 

「ごめん、先生。これ持っててくれない?」

 

そう言って先生にワンピースを預ける。

 

「ちょっと、お金下ろしてくる。」

 

値段とか関係ない。先生に言われてじゃなくて、私自身が「着たい」って思ったんだから、いいよね?

そして、モール内のATMに向かおうとした。すると――

 

「その必要はない。」

 

そう言われて、引き留められる。振り向くと、先生は黒色のカードを手にしていた。

 

「このワンピースの話を始めたのは俺だ。だから、金は俺が出そう。」

 

「でも……そんなの、悪いよ。」

 

私は思わず小声で呟いた。

だって、こんないい値段のするワンピースを、先生に買ってもらうなんて――。

 

「こういう時は、素直に従っておけ。」

 

低く、静かな声。だけど、その声には確かな優しさがあった。

 

「……ありがとう。」

 

やっと絞り出したその一言は、自分でも驚くほど小さな声で、顔はもう上げられなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

見慣れた静かな街。夕焼けに染まった家々の影を踏みながら、私たちは並んで歩いていた。

ショッピングモールの喧騒は、もう遠い。代わりに聞こえるのは、乾いた風の音と、私と黄泉先生の足音だけ。

 

先生は両手に大きな袋が、私の手には紙袋がひとつ。中には――先生に買ってもらったワンピースが入っている。

 

私は紙袋をちょっとだけ開いて、中のワンピースを覗き見た。先生に選んでもらったということもあって、不思議ともう愛着が湧いている。

 

「……先生。ワンピース、ありがとね。」

 

顔を上げて、先生にそう伝えた。

 

「俺としても、金の使い所が見つかって良かった。」

 

なんて羨ましい悩み。

私は先生に上目遣いで1つお願いしてみた。

 

「そんなにお金が余ってるなら、ちょっとだけ借金に回してよ。」

 

「断る。借金はお前たちの力で返済するという約束だったはずだ。」

 

「分かってるよ、ただの冗談。」

 

そう言って笑ってみせる。

先生には借金返済よりも大きな仕事をしてもらったんだから、ここからは私たちで頑張らないとね。

 

そんな話をしていると、気がつけばアビドス高校の前に立っていた。見慣れた高校の壁は、夕焼け色に染まっている。

 

私は先生から荷物を受け取った。そして、改めて感謝を伝える。

 

「今日は本当にありがとね、先生。」

 

「ああ。じゃあな。」

 

そう言って先生はくるりと背を向ける。

その時、胸の奥がざわついた。いまここで言わなきゃ、きっと後悔する。

 

「……黄泉先生!」

 

私が先生を呼ぶと、彼は足を止め、こちらへ振り返った。思わず言葉に詰まるけど、手をぎゅっと握り、一歩前に出て思いを伝えた。

 

「次は買い出しじゃなくて、ちゃんとしたお出かけに誘うから!も、もちろん、買ってもらったワンピースを着て……!」

 

言い切って、思わず視線を逸らした。これじゃまるで、最初から先生とお出かけしたかったみたいじゃん。

誂われるかもって思ったけど、次に聞こえた先生の声は、どこまでも優しかった。

 

「ならば、その日を楽しみにしている。」

 

視線を戻すと、穏やかな笑みがそこにあった。そして時間もたたないうちに、先生は再び背を向けた。

……ずるいよ、先生。普段は口数が少ないくせに、私がほしい言葉をそのままくれるなんて。

 

だけど、気づいたときには――恥ずかしさなんて、もうどこにもなかった。ただ、胸を満たしていたのは、嬉しさだけだった。

 

先生の背中を見送り、私も自宅へと進む。

その足取りは、まるで雲のように軽かった。

 

 




最近、原神の刻晴がセリカに見えてきました。元素爆発のボイスに「逃さない!」があるせいかなーと。

どうでもいい話ですいません。
残り2人。次回もお楽しみに。
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