突然ですが、チェンソーマンの映画は観ましたか? 予告映像と主題歌に脳をやられて観に行ってきました。
感想を簡単に述べますと、バチクソ面白かったです!
「G.Bible……?」
ヒマリが口にした単語を、英語の発音練習のごとく復唱する。シャーレの先生を約6年勤めているが、初めて耳にする言葉だった。
「結論から説明しますと……そのG.Bibleには『最高のゲームを作る方法』が記されているそうなんです。」
……なるほど、それは確かにゲーム開発部が喉から手が出るほど欲しくなる代物だ。今後のためにもこの話は聞いておくべきだろう。
「もう少し、詳しく聞かせてくれ。」
俺はベンチに座り直し、ヒマリの目を見て伝える。彼女は「もちろん」と言うかのように微笑んだ。
「かつてのミレニアムに、伝説と呼ばれる1人のクリエイターがいました。彼女がミレニアム在学中に作った作品はどれも一線を画していて、他の人には決して真似できなかったと言われています。」
「そしてG.Bibleもまた、彼女が作った数ある作品のうちの1つです。」
つまり、伝説と呼ばれたクリエイターが書いたG.Bibleは、ゲームクリエイターにとっての聖書と言うわけか。
しかし……なぜそれが廃墟に? それほどの人物が書いたものなら、ミレニアムの書庫で大切に保管されていそうな気もするが。
俺はヒマリに意見を求めてみた。
「うーん……。『廃墟』は言い換えれば、キヴォトスから消えて忘れられた物が集まる『時代の下水道』です。調べてみたところ、G.Bibleが作られたのも私が生まれる前のことなので、忘れられてしまうのも仕方がないのかもしれません。」
ヒマリの言うことは一理ある。
クリエイターや芸術家の作品は有名であるほど、人の目がつく舞台に立っている。早い話、G.Bibleはそこに並ぶ事ができなかった。加えて『最高のゲームを作る方法』を必要とする人物はかなり限定的だろう。そう考えれば、確かに「仕方がない」と言える。
「だが、何十年という時が立った今、それを必要としているヤツがいる。G.Bibleも伝説のクリエイターも、心から喜んでいるだろう。」
「そうかもしれませんね。」
そう答えるヒマリの声には、どこか喜びが混じっていた。
「……さて、俺はそろそろ工房に戻るとしよう。ヒマリはどうする?」
「私も一緒に戻ります。工房までの案内、お願いしますね。」
にこりと笑って返すヒマリ。俺は軽く頷き、車椅子のハンドルを握る。
昼下がりの柔らかな光に背を押されるように、二人で静かな中庭を後にするのだった。
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廃墟に足を踏み入れた瞬間、肌にまとわりつくような湿気と、錆びた鉄の匂いが鼻を突いた。崩れたビル、割れた窓、凸凹だらけの道路……。私が知るキヴォトスとら明らかに違っていた。
「……うわ、なんか雰囲気ヤバいね。」
モモイさんが思わず声を漏らす。普段の元気さは影を潜め、肩が僅かに震えていた。
その視線の先――瓦礫の影、崩れた壁の向こうに、奇妙なものが立ち尽くしていた。
人型のシルエット。けれど、肌も温もりもなく、金属の軋む音を立てながらわずかに揺れている。
「ロ、ロボットだ……。」
壁から少しだけ顔を覗かせながら、ミドリさんが息を呑む。『カチャン……カチャン……』と規則正しい音を立てながら歩くロボットは、アサルトライフルを構えていた。
"……2人とも、いつでも戦闘できるように構えておいて。"
私がそう伝えると、2人は少し驚いた表情をした後、覚悟を決めたように強く頷いた。
……はっきり言って異常だ。なぜこんなボロボロの街に、大量の警備ロボが歩いているんだ?
確かにモモイさんの話では、元々ここは連邦生徒会が直接管理していたらしく、現在は連邦生徒会の警備ロボが配置されていると聞いた。
だけど、そのロボットの数があまりにも多すぎる。これじゃあまるで、何かを守っているかのようだ。
「……お姉ちゃん、本当にここにG.Bibleがあるの……?」
ミドリさんが目を細めて怪訝な表情を浮かべる。
「あ、あるよ!ヴェリタスが教えてくれた座標に行けば、必ず――」
その時、近くを歩いていたロボットから『ピピッ』という電子音が聞こえた。それとほぼ同時に、ものすごく嫌な予感が私たちを襲った。
「やばい、見つかった!」
〈■■■■■!!!〉
ロボットが何か音を発する。すると、ガチャガチャと騒がしい音を響かせながら、他のロボットたちが集まり始めた。
「わぁぁ、みんなこっち狙ってるよ!」
「ど、どうしよう!?」
非常にまずい状況だ。ここで戦ってたとしても、他のロボットたちがどんどん集まってきてこっちが先に潰れるだろう。どこか、身を隠せる場所へ行かないと……!
"っ!2人とも、あそこだ!"
指さしたのは何やら大きな工場のような場所。ここから少し距離があるけど、そこで身を隠し、ロボットたちを撒く。即席の作戦だけど、それが1番安全だ。
「分かった!」
「先生の判断を信じます!」
"よし、行くよ!"
私の声と同時に全員が駆け出した。
〈■■■……!〉
無機質な電子音。直後、すぐ後ろで弾丸が着弾し地面が弾け飛んだ。
「うわっ!撃ってきた!?」
モモイさんは悲鳴を上げながらもすぐに銃を構えてロボットに向けて乱射する。銃弾はロボットの装甲を弾き、火花を散らしたけど――ほとんど効果がない。
「くっ……! 装甲が厚い!」
モモイさんが悔しそうに唇を噛む。
しかし次の瞬間、別の弾丸が正確にロボットの関節を貫き、ギギギと不自然な動きをさせる。
「ミドリ!ナイス!」
「お姉ちゃん、早く!」
そうして再び走り出すが、潰した数を上回る速さで増援が集まってきている。アロナが表示してくれている地図には、四方八方から敵を示す赤い点が……!
「やばい……!これはマジでやばいやつだよ!」
隣を走るモモイさんが必死に声を張り上げる。
「先生、このままじゃ囲まれちゃいます!」
反対を走るミドリさんの顔も蒼白だ。額に浮かんだ汗が飛び散り、声が震えている。
クソッ、判断を完全に誤った……!
ロボットの赤いセンサーの光が一斉にこちらを狙い定め、無機質な電子音が頭を締め付けるように響いた。
追い打ちをかけるかのようにモモイさんとミドリさんの声が重なり、焦りがさらに胸を締め付ける。
どうする。どうすれば2人を逃がせる? このままじゃ確実に押し潰される。
アロナのバリアは耐久に限界があるし、一度発動すれば動かす事はできない。かと言って建物に逃げ込んでも数で攻められて終わりだ。
もはやなす術なしか――そんな考えが浮かんだ、次の瞬間!
ドォォォンッ!!
廃墟の空に、雷鳴が轟いた。
突如として眩い閃光が地面に突き刺さり、轟音と衝撃波が周囲を飲み込む。砂埃を巻き上げながら、数体のロボットが一瞬で吹き飛んだ。
「なになになに!?」
「か、雷!? 」
"いや、これは……!"
少しずつ晴れていく煙の中から、ゆっくりと一人の影が歩み出る。その姿を見た瞬間、胸を締め付けていた恐怖が別の感情へと塗り替えられていった。
「間一髪……だな。」
"「「 黄泉先生!! 」」"
先生は鞘に収めたままの刀を手にしていた。やっぱり、さっきの雷はあの刀が落としたんだ。
黄泉先生は私たちを一瞥し、すぐにロボットたちに視線を移した。
「……言いたいことは山程あるが、先ずはコイツらを片付ける。そっちは任せた。」
それだけを残して、黄泉先生は姿を消した。
刹那、電気が迸るような凄まじい音が辺りに響く。薄紫の光がロボットを通り過ぎる度に、火花が散り、装甲が焦げて崩れ落ちた。
とにかく今がチャンスだ。私はすぐに、2人に指示を出した。
"2人とも、このまま正面の敵を突破しよう!"
「はい!」
「す、すごい……!黄泉先生って電気属性だったんだ!」
「お姉ちゃん!よそ見してないで早く来て!」
ミドリさんがモモイさんを半ば無理やり引っ張って先へと進む。
黄泉先生が8割のロボットを引き付けてくれていたおかげで、私たちは難なく工場に到達することができたのだった。
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工場のような建物にたどり着き、身を隠す私たち。少し遅れて黄泉先生が普通に歩いて入ってきた。
先生はモモイさんとミドリさんと目を合わせ、向き合う。
「……お前たちが依頼人であるゲーム開発部の――」
「黄泉先生ってすごいね! あの『ギガスラッシュ』を現実で撃てる人がいるなんて思わなかった!」
おそらく黄泉先生は自己紹介を始めようとしたのだろうけど、それはモモイさんによって見事に遮られた。
彼女は目をキラキラさせ、かなり興奮している様子。
「いや、『ギガスラッシュ』よりも『ギガデイン』のほうが正しいのかな? とにかくびっくりした! ちなみに、他にはどんな技が――」
「お、お姉ちゃん!落ち着いて!」
ミドリさんが慌てて袖を引っ張る。
「まずは先生にちゃんと自己紹介しないと!初対面なんだし、失礼だから!」
「えー!? この状況で自己紹介!? ていうか、あんなチート技使える先生に “どうも~モモイでーす” なんて軽く言えるわけないでしょ!」
「どういう理屈!? とにかく、挨拶は基本だよ!」
……これは何かのコントなのかな?
興奮冷めやらぬモモイさんに対して冷静なミドリさん。随分と正反対な双子だなぁ。そんな呑気なことを考えていた、その時――。
ゾクッ…!
冷たい"何か"が背中を撫でるような感覚があった。それは2人も同じなのか、騒ぎ声は一瞬で静寂へと変わる。
その感覚の正体はすぐに分かった。
"……既に知っていると思うが、俺の名は黄泉。ハルトと共にシャーレの先生を務めている。"
何事も無かったかのように自己紹介を始める黄泉先生。……どうやら黄泉先生が少しだけ覇気を解放したらしい。
「え、えっと……私たちはゲーム開発部。私の名前はモモイです。そしてこっちは妹のミドリです。」
「は、はじめまして。私はイラストレーター、お姉ちゃんはシナリオライターを務めています。」
あらら……あんなに騒がしかった2人が完全に縮こまってしまった。モモイさんに至っては敬語を使ってるし。まぁ黄泉先生はあんまり騒がしいのは好きじゃないらしいし、仕方ない……のかな?
「お前たちがここに向かった理由はヒマリから教えてもらった。G.Bibleとやらを探しているらしいな。」
「そ、そうだ……です! えっと……座標によれば、その場所は……」
モモイさんがそう言った時だった。
『人の接近を確認。』
突然、機械音声が響いた。即座に黄泉先生は刀に手をかける。しかし、攻撃されることは無かった。
『対象の身元を確認します。才羽モモイ、資格がありません。』
「えっ、なんで私のことを……?」
『才羽ミドリ、資格がありません。』
「私のことも……!?」
なぜかは分からないが、このシステムはこちらのことを把握しているらしい。
『桐山ハルト先生……。………。資格を確認しました。入室権限を付与します。』
「え、先生はいいの!?」
ずるいとでも言うかのように私に視線を向けてくるモモイさん。いや、私も何が何だか分からなくて、とても喜べる状況じゃないんだけど……。
すると、再び機械音声が聞こえてきた。
『才羽モモイ、才羽ミドリの両名を、先生の「生徒」として認定。同行者である生徒にも資格を与えます。』
「あぁ、そういうこと。」
「よく分かんないけど、やったね!」
入室許可を得られた2人は安心し、喜んだ。そんな中、私はあることが引っかかっていた。
先ほどの身元確認の時……どうして黄泉先生は呼ばれなかったんだろう?
黄泉先生は私がここに来る何年も前から先生を務めているから? 過去に何度かここに来たことがあるから? ……いや、それでも身元確認は必ず行わなければシステム的におかしい。
私は黄泉先生の方をちらりと見やる。本人は特に気にしていないみたいだけど……どうも気になってしまう。
『承認完了。下部の扉を開放します。』
ふと、機械音声がそんなことを言った。
……ん? 下部の扉って言った……?
「下って、ただの床じゃ――」
ミドリさんがそう言った瞬間、私たちが立っていた床が消えた! 私たちの身体は重力に従い、落下していく!
「うわぁぁぁっ!?」
「お姉ちゃん! ハルト先生! 黄泉先生!」
みるみる加速していく私たち。このままじゃ、間違いなく床に叩きつけられる!
あまりの恐怖に、私は強く目を瞑った。
その時、何がが私の体を抱えてくれた。ゆっくりと目を開けると……そこには、黄泉先生の顔が見えた。
"黄泉先生……!"
「上に投げるぞ。」
"え? うわぁぁぁぁっ!?"
黄泉先生は落下しながら、私を上へと放り投げた。重力が逆転したかのような浮遊感が得られたのも束の間、再び落下していく。
「もう大丈夫だ。」
気がついたら、再び黄泉先生が私を抱えてくれていた。やがて『ストンッ』という軽い音と共に、黄泉先生は着地した。
「悪かった。あの2人とお前を助けるには、この方法しか無かったんだ。」
黄泉先生が視線を向ける方向を見ると、既にモモイさんとミドリさんは着地していた。どうやら2人を助ける時間を稼ぐために私を上に投げたらしい。
何がともあれ私は無事に着地できた。黄泉先生に感謝の意を伝えると、彼は「ああ」と短く返した。
自分の足で立ち、前に目を向けると、そこには衝撃的な景色があった。
瓦礫に囲まれ、金属床の間からは草が生えているその部屋の中心に、黒く長い髪を持つ少女がいた。機械の椅子に座って眠っている、
そして何より衝撃的だったのは、彼女が服を一切着ていない、いわゆる生まれたままの姿で眠っていたことだ。
「どうして女の子がこんな所に。しかも裸で……。」
「ていうか、あの子は人間なの……?」
疑問はたくさんあるけど、まずは彼女の格好をなんとかしないと。でないと私たちは一生動くことができない……。
「……モモイ、ミドリ。とりあえずこれをあいつに着せてこい。話はそれからだ。」
「了解!/ 分かりました。」
ありがとう黄泉先生! 彼がいつも羽織っているロングコートなら、彼女の体もすっぽり覆えるだろう。
モモイさんの「もう大丈夫だよ〜」の声で、私たちはようやく彼女を目にすることができた。
「モモイ、ミドリ。実際に触れてみた感覚はどうだった?」
「うーん、肌はけっこうしっとりしてたんだよね。それに、プニプニしてた!」
「普通の人間とほとんど変わらないと思います。」
黄泉先生の質問に、2人は各々の感想を述べる。しかし、ミドリさんは最後に「ですが」と付け加えた。
「この子は眠っているというより、『電源が入っていない』ように感じるんです。」
"……ロボットってこと?"
「私も詳しくは分かりませんが……なんとなくそんな気がするんです。」
ミドリさんが言うことは分からないこともない。この眠っている少女はどこか人形のようにも見える。
ふと、黄泉先生が少女の手首を持ち、脈を測り始めた。
「……脈はなしか。」
「ってことは、死んでるってこと!?」
「いや、死体にしては綺麗すぎる。ミドリが考えたロボット説が正しいように思えてきたな。」
さらっととんでもないこと言ったな……。黄泉先生は過去に死体を――いや、そんなことを考えている暇はない。
"今はなんとかして彼女を起こさないと……。"
私がそう言った時だった。
〈ピピ、ピピピッ〉
短い電子音が聞こえた。……それも、目の前の眠っている少女から。
少しして、そのまぶたがゆっくりと持ち上がった。私たちが驚愕している中、少女は椅子から降り、辺りをキョロキョロと見渡す。
「状況把握、難航。説明をお願いできますか。」
「しゃ、喋った……!」
「せ、説明って、こっちも聞きたいことがたくさんあるのに……!」
情報量と聞きたいことでテンパる2人。かく言う私も状況が読み込めずにいた。
しかし、彼だけは違った。
「……はじめまして、俺の名前は黄泉。お前の名前を教えてくれないか?」
なんとも冷静な自己紹介と質問。
少女は目を瞑り、少しして再び目を開けた。
「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。データがありません。」
「ふむ……。……ん?」
何かに気づいた様子の黄泉先生。かと思えば先生は着せていたコートを少し開け、首元に顔を近づけた。
「黄泉先生!?」
「しょ、初対面の女の子にそういうのはやめた方が……!」
モモイさんとミドリさんが驚きの声をあげる。一方の黄泉先生は非常に落ち着いた声で少女に尋ねた。
「アリス……いや、AL-1S……? これがお前の名前か?」
「回答不可。名前に関するデータも残されておりません。」
少女は眉毛をハの字にして困ったような表情を見せた。どうやら全ての記憶が消えているというのは本当のことらしい。
「……これ以上の質問は無駄か。」
「はぁ」とため息をつき、立ち上がる黄泉先生。さすがの黄泉先生もお手上げのようだ。彼が諦めたとなると、誰も何もできない。ただの沈黙が私たちを包みこんだ。
少しして、ミドリさんが口を開く。
「……ところで、この子はどうするんですか?」
言われてみれば確かにそうだ。彼女の家はここなのかもしれないけど、今の彼女は記憶喪失だし、何よりこんな危険な場所に置いていくわけにはいかない……。
その時、モモイさんがニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「いいこと思いついちゃった!」
元気に言う彼女を見て、私たちは揃って首を傾げるのだった。
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「か、可愛い〜っ!! 」
廃墟で謎の少女……もとい『アリス』さんに出会った翌日。シャーレの事務室に大きな歓声が上がった。
「よく見たら黄泉先生のコートじゃん! ダボダボで可愛い!」
「……クッキー食べる?」
ムツキさんとアルさんが幼い子供をみるような目で愛でる。アルさんに至っては完全に近所のおばちゃんだ。
「……あの子、本当にロボットなの?」
"うん。実際に見てれば分かると思うよ。"
カヨコさんが少し怪しむようにアリスさんを見つめる。見ていればいいと言うのは――言った通りだ。
「えっと、アリスちゃんだっけ? 私はムツキ!よろしくね!」
「肯定、私はアリスです。こんにちは、ムツキ・ヨロシクネ。」
「あはっ!『よろしくね』は私の名前じゃなくて挨拶だよ〜!」
そんなほんわかするやり取りを見ていたカヨコさんは何か言いたそうだ。彼女は「うーん……」と呟いた。
「まぁ……確かにロボットみたいな話し方だね。知能は低いみたいだけど。」
"アリスさんが言うには、これまでの記憶データが全て無くなったらしいから、仕方ないかな……。"
なかなかストレートな感想だ。本人の前では絶対に言わないであげてね。
すると、隣にいたハルカさんがオドオドしながら口を開いた。
「わ、私もアリスさんと仲良くできるでしょうか……。」
ハルカさんが自分から誰かと仲良くなろうとするのは珍しい。私は少し嬉しくなり、背中を押してあげるためにアドバイスを送る。
"彼女も知らないことだらけで不安だろうし、たくさん話しかけて上げたら自然と仲良くなれると思うよ。"
「はなっ……!? む、無理です無理です、ごめんなさい!」
そう言ってハルカさんは頭を抱えてしゃがみ込んだ。彼女が勇気を出すのは、やっぱり一朝一夕じゃ難しいらしい。
「先生、本当にありがとうございます。」
アリスさんたちの様子を見ていたミドリさんは頭を下げてきた。"気にしないで"と返すと、ミドリさんはニコッと笑ってくれた。
昨日モモイさんが言った「いいこと」とは、アリスさんをゲーム開発部のメンバーにすることだった。というのも今のゲーム開発部は結果だけでなく部員数も足りていないらしく、彼女で補強しようと考えた。もちろん、アリスさんはミレニアムの生徒じゃないからそんな事はできないんだけど――
『私の知り合いがなんとかしてくれるはず!』
と言ったので全部任せることにした。正直止めるべきなんだろうけど、ゲーム開発部を守るためにはそんな事言ってられない。黄泉先生も何も言わなかったし、大丈夫……のはず。
モモイさんが知り合いの所に行っている間、私とミドリさんはアリスさんに言葉を教える役を任されたのだけど、どうすれば良いのか分からなかった。2人一緒に悩んでいた時――
「ゲーム開発部らしく、ゲームで覚えさせたらどうだ。」
黄泉先生がぽつりと口にした言葉で、流れが決まった。
"……よし、できたよ!"
そう言って電源を入れると、モニターにホーム画面が映し出される。
「おぉ〜〜っ!」
一斉に声が上がり、事務室が少しだけゲーム開発部の部室みたいに賑やかになった。
「さてアリスちゃん。言葉を覚えられるようにRPGゲームをたくさん持ってきたんだけど……どれからやりたい?」
ミドリさんが渡した袋の中には、たくさんのゲームパッケージが入っていた。RPGゲームをあまりプレイしたことのない私でも、名前は知っているやつがいくつかある。
デーモンクエスト、シロノ・トリガー、ラストファンタジー、創造スターカートなどなど、過去の人気作品から最近の話題作までが揃っていた。
そんな中、アリスさんが手に取ったのは――。
「えっ、それは……!!」
ミドリさんの顔から一気に血の気が引いていく。
なんとそれは、テイルズ・サガ・クロニクルであった。
「何このゲーム。初めて見た。」
便利屋の4人がパッケージを覗き込む。その様子に、ミドリさんは慌ててそれを取り上げ、取られないように抱きしめた。
「えっと……こ、これは私たちが作ったゲームで……。」
ボソボソと小さな声で説明を始めるミドリさん。その話に真っ先に声を上げたのはムツキさんだった。
「えっ、ミドリちゃんすごい! ゲーム作れるんだ!」
「いや、でもこれはすごい酷評されちゃって……く、クソゲーランキング1位になっちゃったし……。」
顔を赤くする彼女の目に、薄っすらと涙が浮かんでいるのが分かった。散々な結果を自ら説明することへの恥ずかしさと悔しさが感じられた。
そんな彼女に手を差し伸べたのは、アルさんだった。
「……でも、ここに入れてたってことは、遊んでもらいたかったんでしょ?」
「それはっ……!」
「アリスさんはそれを選んだのだし、やってみましょう。それにゲームを作るのなら、私たち遊ぶ側の視点からもアドバイスできることがあるかもしれないし。」
さすがはアルさんだ。かつて『社長』と呼ばれていた彼女のカリスマは計り知れない。
それに続くかのように、カヨコさんとハルカさんも口を開いた。
「アルの言う通りだね。やってもないのにクソゲーと決めつけるのは気が引けるし。」
「ぜ、絶対に笑ったりしません!」
「アルさん……!みなさん……!」
みんなから背中を押してもらったミドリさんは、ゴシゴシと涙を拭い、パッケージからゲームディスクを取り出した。
画面にはタイトルロゴが映り、右下で小さな砂時計がぐるぐると回っている。事務室の空気が、ゲームの開始を待つ緊張感に包まれた。
「さぁアリスちゃん、始めよう!」
「はい。アリス、ゲームを開始します。」
そして、アリスさんはスタートボタンを押した。
薄暗い部屋で、俺とヒマリは向かい合っていた。
窓は厚いカーテンで閉ざされ、沈黙だけが支配している。
密会と呼んでも差し支えない状況だが、まだ本題には入っていない。
「……まだ来ないのか?」
俺がそう尋ねると、ヒマリは「もうすぐ来ると思います」と答えた。
既に約束の時間は過ぎている。彼女が多忙なのは理解しているが、時間を指定したのは向こうなのだ。ならば約束は守ってもらいたい。
そう思った矢先――
「失礼します。」
ガチャリと勢いよくドアが開く。
黒いスーツを纏った少女が現れ、長い黒髪を揺らしながら俺の正面に立ち、深く頭を下げた。
「申し訳ありません。諸事情により遅れてしまいました。」
「謝罪はいい。それより……俺に頼みたいこととは何だ、リオ。」
つづく
途中に書いたゲームタイトルの元ネタは大体想像がつくと思います。最後のやつはRPGと言っていいのか分かりませんが。
さて、明日はスターレイルのアップデート! 長夜月は引きます!
次回 第三話 密約