死を識る者、日常に佇む   作:ツカッチ

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開拓者のみなさん、先生のみなさん、こんにちは。

お久しぶりです。投稿に時間がかかったのは、体調不良でぶっ倒れていたからです。
夏が終わり、秋到来。寒暖差の大きな時期ですので、僕みたいに風邪を引かないよう、体調管理はしっかりしましょうね。


密約

「あら先生、お出かけかしら?」

 

昼食を食べ、休憩室で喋っていたハルトたち。ソファに座っていた俺が静かに立ち上がり、刀を手に取ったのを見て、アルが尋ねてきた。

 

昨日の夜、ヒマリに『廃墟での出来事を教えてください』との連絡があり、包み隠さず教えたところ『リオが先生と話がしたいそうです』と言われ、この後会うことになった。

ヒマリが廃墟での出来事を聞くということは、アリスについて何か知っている可能性がある。

 

なぜ俺たちがアリスを連れ帰ってきたことに気づいたのかだが、どうせ校内の監視カメラでもハッキングしたんだろう。

 

「ああ、ミレニアムに用がある。」

 

「ふ〜ん? それってもしかして……」

 

「ムツキ、先に断っておくがデートではない。」

 

「なぁんだ、つまんないの。」

 

どこか面白く無さそうに項垂れるムツキ。目論見が外れたようで何よりだ。

休憩室のドアに手をかけた時、ある事を思い出し、振り返る。

 

「ゲームパーティーが終わる時間になっても俺が帰って来なかった場合、代わりにアリスからコートを返してもらっておいてくれ。」

 

そう頼むと、ハルトたちは揃って「はーい」と返事をした。

 

昨日アリスに着させたコートは、一旦彼女に預けることにした。今日は恐らくモモイかミドリが自分の制服を着させているはず。さすがにコート1枚で来ることはないだろう。

 

「では、行ってくる。」

 

最後にそう伝え、廊下へ足を踏み出す。ハルトの「お気をつけて」という真面目な見送りと、アルたちの「行ってらっしゃい」という明るい声を背に受けながら、ドアを閉めた。

 

 

 

 

そして、場所はミレニアムの会議室。

 

「俺に頼みたいこととはなんだ、リオ。」

 

俺がそう尋ねると、目の前に座る彼女――ミレニアム生徒会長・調月リオは、その赤い瞳をまっすぐにこちらに向けて、答えた。

 

「昨日、ヒマリを通してあなたが何を見たのかを全て教えてもらったわ。廃墟の地下施設のこと、そこに眠っていた謎の少女・アリスのことを。」

 

「結論から言うと、アリスの正体を突き止めるために、私たちに協力してほしいの。」

 

そう言って頭を下げるリオ。それに続くようにヒマリも頭を下げた。

 

「確かにアリスちゃんは可愛いですが、それだけでは片付けられない要素が多すぎます。黄泉先生、どうかお願いします。」

 

話の内容は概ね予想通りのものだった。だが、アリスの正体が何なんなのかまではさすがの2人も分からないらしい。

深く頭を下げる2人を前に、俺は軽く天井を見上げる。アリスをどうするべきか、少しだけ考えた。

 

俺は、わざわざ彼女の正体を探る必要はないと考えていた。理由は彼女が何一つ覚えていないからだ。

もしかすると、彼女が起きていた頃のデータは廃墟に眠っているのかもしれない。だが、当時のアリスと今のアリスは別人だ。「記憶喪失」を「生まれ変わった」と表現していいのかは分からないが、過去を忘れ、ゲーム開発部と共に新たな自分になるのも良いと考えた。

 

しかし、不安要素が大きいのもまた事実だ。

昨日アリスが言っていた「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認」という言葉。裏を返せば元はそれらがあったということだ。

仮にかつてのアリスが殺人鬼だとして、過去の記憶を突然思い出したら、ゲーム開発部の仲間にしようとしているモモイたちはどうなる? 守れる保証は無い。だからこそ、万が一が起きる前に不安はできるだけ削いでおきたい。

 

AかBか。キヴォトスと生徒を守る身として、間違えるわけにはいかない。

少しの思考のあと、導き出した答えは――

 

「――Cだ。」

 

それは、AとBの両方。キヴォトスもゲーム開発部もアリスも、全て守ってみせよう。誰一人としても悲しませるつもりはない。例えアリスの正体が危険な奴だったとしても、必ず正しい道へと手を引いてやる。

 

「もちろん、お前たちに協力する。」

 

そう言って、2人それぞれに目を合わせる。彼女たちは一瞬驚いた顔をして、リオは即座に真剣な顔になり、ヒマリはニコッと顔を綻ばせた。

 

「ありがとう、先生。」

 

「ふふっ、これで安心して駒を進められそうですね。」

 

先ほどまでの緊迫した空気がどんどん和んでいく。

だがその前に、1つ聞きたいことがあった。それは――

 

「ハルトを呼ばなくてもいいのか?」

 

俺と同じシャーレの先生であるハルトだが、2人はあいつを呼ばなかった。作戦の内容はまだ知らないが、頭の回転が早いハルトはぜひ取っておきたい人物ではなかったのだろうか。

その問いに答えたのは、リオだった。

 

「その必要はないわ。協力をお願いしたのは、黄泉先生がこの作戦を遂行するにあたって――」

 

「邪魔な存在だったからよ。」 

 

瞬間、場の空気が一気に重くなった。予想打にしない言葉に、眉が自然と上がる。しかし――リオの表情、感情から悪意は感じられない。

 

「リオ、その言い方はさすがに無いと思います。」

 

ふと、ヒマリが口を開いた。その表情はどこか怒っているようにも感じられる。

 

「国語力が低い彼女に代わってお答えしますと、この作戦に黄泉先生が本格的に参戦してしまうと、彼女の正体を知る機会を失ってしまうからなんです。」

 

「……して、その作戦の内容は?」

 

「ざっくり言ってしまえば――戦闘です。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……確かに、俺は邪魔と言って差し支えない存在だな。」

 

作戦内容をヒマリから聞いた俺は、そんな結論に至った。

戦闘は俺が最も得意とする分野だ。しかし、2人が考えた作戦ではそれが裏目に出てしまう。まとめると、今回の俺はリオ、ヒマリと共に傍観者になるというわけだ。

 

「納得していただけで良かったです。」

 

ホッと胸を撫で下ろすヒマリ。そして流れるようにリオを睨んだ。先ほどの急な邪魔発言のことについてだろうが、当の本人は完全に無視していた。

 

少し間が空き、リオが静かに口を開く。

 

「……黄泉先生の了承も得ましたので、これで話は終わりにしましょう。では、失礼します。」

 

そう言うやいなや、リオはサッと立ち上がり風のように去っていった。……百歩譲って、俺が帰るのを見送るのが礼儀だと思うのだが。

まぁ、この際どうでもいい。その方が2人にとっても良いことだろうしな。

 

「はぁ、やっといなくなってくれました。」

 

とまぁヒマリからこんな言葉が出てくるくらいに、2人は仲が悪い。普段から顔を合わせないどころか、俺がどちらかと話せば必ず相手の愚痴を言ってくるくらいに。本当に、よく2人だけで作戦を立てられたものだ。

互いの実力は認められるのになぜこうなるのか。いや、実力を認めているからこそ競う、心理的なものが関係しているのか……。

 

「さて黄泉先生。こうしてまた2人になれたので、昨日のお話の続きをしませんか?」

 

先ほどの表情とは明らかに違う、面倒な仕事を終わらせて上機嫌で家に帰る人の顔だ。

 

ポケットからスマホを取り出し、時間を確認する。時刻は13時47分。この後は特に予定はないし、ヒマリに付き合ってやるとするか。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

アリスさんが『テイルズ・サガ・クロニクル』を開始して、だいたい3時間が経過した。ミドリさんが言うにはそんなに長くないゲームという話だったけど――

 

 

『ドカーーン!!』『GAMEOVER』

 

 

先ほどからこの画面の連続である。いや、ゲーム開始からと言った方が分かりやすいな。

最初は楽しそうにしていたアルさんたちも、今ではスマホでゲームしたり音楽を聞いていている。かく言う私も自分のデスクで書類作業をしていた。

一方のアリスさん、ミドリさん、そしてモモイさんはモニターに齧り付いている。……気づいたらそこに混ざってたんだよねモモイさん。

 

 

『ドカーーン!!』『GAMEOVER』

 

 

あまりゲームをやることが無かった私でも、心で分かってしまった。『ああ、これはクソゲーランキング1位をとるな』……と。

 

 

『ドカーーン!!』『GAMEOVER』

 

 

良く言えば「死んで覚えるゲーム」、 悪く言えば「ただ単に理不尽なゲーム」……かな?

私だって、大切な生徒が頑張って作った作品を貶すようなことはしたくない。それはちゃんとした本音だ。……だけどこれはどう頑張っても擁護できないのもまた本音だ。

 

 

『ドカーーン!!』『GAMEOVER』

 

 

あまりに理不尽な例を挙げると……

 

・画面に表示された武器装備のボタンをそのまま押すと死ぬ

・装備武器でプニプニ(スライム)を攻撃すると、プニプニに銃で撃たれて死ぬ

・街にある宿屋で、安いコースで寝ると死ぬ

・宝箱を開けると死ぬ

 

……うん、どうしてこうなった?

最後に関しては宝箱に化けるモンスターが別ゲームに存在するからなくはないんだけど、他がツッコミどころが多すぎる。

 

 

『パンパカーン!』『こうして、世界は勇者によって救われたのだった!』

 

 

とにかく、ミレニアムプライスで賞を取るには根本から……ってあれ? ゲームの音声が違ったような――

 

「すごいよアリス! 開発者が2人一緒とはいえ、3時間でトゥルーエンドなんて!」

 

ふと顔を上げれば笑顔で喜ぶモモイさんの姿が。どうやらゲームをクリアしたみたいだ。しかしアリスさん床に転がってぐったりしており、最後の力を振り絞るかのように「ころして……」と呟いた。きっと他のゲームをやれば、アリスさんもワクワクを覚えるはずだから……。

 

"アリスさんお疲れ様。お茶だよ。"

 

「ありがとう、ございます……。」

 

何気に「ありがとう」を覚えたアリスさん。会話の様子を作業しながら聞いていたけど、ゲームを通していろんな言葉を覚えたみたい。そのほとんどがゲーム単語だけど。

 

彼女はコップを受け取ると、勢いよく飲み干した。次いでおかわりをお願いしてきたので、私は冷蔵庫へお茶の入ったボトルを取りに行き、アリスさんが持つコップに注いだ。

ごくごくと音を鳴らしながらお茶を飲むアリスさん。何回も熱暴走しかけてたから、当然か……。

 

「あ……終わったの?」

 

その時、ようやくムツキさんが体を起こした。それに合わせてアルさんたちも姿勢を直す。

長時間同じ体勢だったためか、みんなは揃って背伸びをする。ハルカさんに至っては「ふわぁ……」と欠伸をしていた。

いや、本人たちがいる前でそれはマズイって……。

 

「えっと……!さ、早速なんですけど……!」

 

「私たちのゲームを見て、どう思った!?」

 

"(き、気づいてない!?)"

 

アリスさんがプレイしていた画面を誰一人として見ていなかったのに、2人は真剣な顔をしてゲームの評価をお願いした。それは楽観的なのか、はたまた真面目なのか……。

 

一方、2人からの質問に顔を見合わせるアルさんたち。当の本人たちはまさかそんな質問が来るとは思っても見なかった様子だ。

……いや違う。よく見たらムツキさん、カヨコさん、ハルカさんの目がアルさんに向いている。あれは「アルちゃんなんとかして」の目だ……。

 

やがて観念したアルさんが「コホン」と咳払いし、まっすぐ2人に目を向けた。

 

「私が思ったのは……アイデアが渋滞していたんじゃないかなって。」

 

「「 ? 」」

 

上手く伝わらなかったのか、横に首を傾げるモモイさんとミドリさん。アルさんがさらに噛み砕いて説明する。

 

「要するに、テイルズ・サガ・クロニクル本来の面白さをアイデア同士が潰しちゃってたってこと。例えば、スライムみたいな敵がいきなり銃を使ってきた場面。あれは素直に面白いと思ったわ。その対策も考えられてたし。」

 

「でも、その後アリスさんは盾の装備ボタンを押し間違えて爆死しちゃったじゃない? あれは余計だと思ったわね。」

 

「つまり、ギミックを絞れってことですか?」

 

「大正解よ、ミドリさん。」

 

おお……さすがはアルさんだ。ただ単にゲームを評価するだけでなく、悪いと思った点の改善案も提示した。批判ばかりの私とはえらい違いだな……。うう、情けない……。

 

「なるほど……。ちなみに、ハルト先生はどう思った?」

 

"……やっぱり理不尽な死が多すぎることが引っかかったかな。特に宿屋の安いコースを選んで死ぬのはやりすぎだと思う。"

 

なんとか言葉を引っ張り出して答える。するとミドリさんがジト目でモモイさんを見つめた。

 

「ほらねお姉ちゃん、私の言った通りじゃん。」

 

「うぐ……!あ、アリスはどう思った!?」

 

あれはモモイさんの案だったのか……。痛い所を突かれるやいなや、彼女は逃げるようにアリスさんに評価を求めた。

 

「……説明不可。」

 

「な、なんでぇ!?」

 

しかし彼女はそれだけを答え、口を紡いで動かない。実際にプレイしてみて、あまり良い気分ではなかったのだろうか。かと思えば――

 

「ロード中……。」

 

そう呟いた。もしかして、一生懸命言葉をつないでいる? 10秒ほど経って、ついにアリスさんが口を開いた。

 

「……面白さ、それは明確に存在。プレイを進めれば進めるほど、旅をしているような、夢を見ているような、そんな気分。……もう一度――」

 

「……アリス?」

 

そこまで言って、アリスさんはフリーズしてしまった。みんなが続きの言葉に注目していた、その時――

 

 

ポロッ……

 

 

右目から、一滴の涙が零れ落ちた。彼女の突然の涙に駆け寄る者、驚き目を見開く者の2者に分かれた。ちなみに私は後者である。

ロボットであるはずの彼女にも涙腺が備わっているとは思いもよらなかった。

 

アリスさんを慰め、事務室がしんと静まり返った頃。モモイさんが何かを思い出したかのように「あっ!」と叫んだ。自然と目が彼女へと向けられる。

 

「実は私、部室からスマブロ持ってきたんだよね〜。せっかくだし、みんなでやらない?」

 

「やる〜!!」

 

高々にゲームパッケージを掲げるモモイさん。それに真っ先に食いついたのはムツキさんだった。

スマブロ……。たしか、いろんなゲームのキャラクターたちがバトルする大人気ゲームだったっけ。

いや、それよりも……

 

"アリスさんに言葉を覚えさせる話は、どうなったのかな……?"

 

「大丈夫! いっぱい勉強したもんね、アリス!」

 

「汝が同意を求めるのならば、私はそれを肯定しよう。」

 

これはまた……随分とゲーム色に染められてしまったようで。セリフがなんだか女王様みたいだ。

 

「ほらね! それに、せっかく集まってゲームをするのなら、楽しい方がいいじゃん!」

 

そう言って笑顔を見せるモモイさん。私はミドリさんと一度「これでいいのかな?」と顔を見合わせた後、「まぁいいか」と納得するのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ヒマリによって様々な話(7割が愚痴)を聞かされ、ようやく解放された時には既に日が沈み始めていた。俺はずっと聴き手になっていたわけだが、よくもまぁあんなに愚痴が出てくるものだな。もちろんそのほとんどがリオに向けられたものだ。

 

話を聞き続けるにつれて、俺はいつしか『もはやこいつはリオのことが好きなのではないか?』と思うようになってきた。恋愛ではなく友情の方の『好き』だ。そうでなければあれだけの愚痴は出てこないはずだ。

 

そんな振り返りをしているうちに、シャーレの前に到着した。

もうこんな時間だ。シャーレに遊びに行くと言っていたミドリたちも帰っただろう。コートをアリスから返してもらってくれているといいんだが。

 

「遅くなった。俺のコートは――」

 

そう言いながら事務室に入る。その先から聞こえてきたのは――

 

「くらえっ、横スマ!」

 

「あ、あぶなっ!」

 

「あ〜、モモイさん惜しい!」

 

「ちょっと! アルちゃんは私を応援してよ!」

 

「ムツキ、集中。」

 

「がんばれムツキ様!」

 

「お姉ちゃん負けないで!」

 

モニターの前で何やらすごい盛り上がっている生徒たち。すると、こちらに気づいたハルトが椅子から立ち上がり、駆け寄ってきた。

 

"お帰りなさい、黄泉先生。"

 

「……ああ。で、アレは?」

 

"スマブロです。決勝戦の最中でして。"

 

ハルト曰く、今は『シャーレ&ゲーム開発部 スマブロ大会』が開かれており、ムツキとモモイが王座をかけて争っているらしい。その戦いにはハルトも参加したが、ハルカに惨敗したとのこと。

 

"いやぁ、最近のゲームは難しいですね。"

 

苦笑いをしながらハルトはそう言った。

その時、事務室内にワッと歓声が上がった。

 

「お姉ちゃんが捕まえて、舞台端!」

 

「やばい、戻れるかな……!?」

 

ロボット(ムツキの操作するキャラ)が舞台から放り出された。なんとか上に飛び、崖に掴まる。その真上で待っていた赤いヒゲ(モモイの操作するキャラ)を躱し、その背後に立った。しかし――

 

「読んでるよ!」

 

赤いヒゲが即座に後ろへ攻撃。勢いよく吹っ飛んだロボットは崖下に落ちていく。しかし、それだけでは終わらなかった。

 

「モ、モモイさんが近づいて――!!」

 

「これで終わりッ!!」

 

赤いヒゲが舞台に戻ろうとするロボットを殴りつけた。刹那、赤い画面に黒い稲妻が迸り、『カキィーン!!』という気持ちのいい音と共に画面外へ勢いよく落ちていった。

 

「お姉ちゃんが決めたーッ!!」

 

ミドリはそう叫ぶやいなや、モモイに抱きついた。抱きつかれたモモイは「アタシが負けるわけないじゃん!」と胸を張った。

一方、惜しくも負けてしまったムツキは悔しそうで、どこが清々しいようにも見えた。あれだけ綺麗に撃墜されたら、負けた側でも気持ちよく感じるだろう。

 

「優勝はモモイさん!おめでとう!」

 

「お、おめでとうございます!」

 

「えへへっ!ありがとう!」

 

事務室内はモモイを称える暖かい拍手で包まれる。

そして彼女は、ソファに座っていたアリスと向かい合った。

 

「アリス見てた? 私が勝ったんだよ!」

 

「はい。モモイ、とっても強いですね。」

 

「ふふん、そうでしょ〜♪」

 

アリスに褒められたモモイは上機嫌に。

というか、アリスはそれなりに言葉を覚えられたのか。若干カタコト感があるが、払拭されるのは時間の問題だな。

 

「……お前たち、そろそろ帰る時間だ。」

 

時計を見やると、既に17時を過ぎていた。空が暗くなる前にモモイたちを返さなければ。

 

「あれっ、黄泉先生いつからいたの?」

 

「お前がバトルに勝利する少し前から……だな。そんなことより、アリス。」

 

「?」

 

俺がアリスを呼ぶと、彼女はこちらに顔を向けた。

 

「そのコート、返してくれないか。」

 

俺はアリスが肩からかけているコートを指さす。彼女は一瞬疑問符を浮かべたが、すぐにハッとしてコートを摘んだ。

 

「コート……。これのことでしょうか?」

 

「そうだ。」

 

俺はコートを返すよう掌を彼女に見せて催促する。しかし――

 

「……返したくありません。」

 

彼女が俺に渡したのはコートではなく、拒否の言葉だった。アリスの反応に驚きが走るが、俺は声音をそのままにその理由について尋ねてみる。

 

「それは、なぜ?」

 

「……説明不可。しかし、私はこれは返したくありません。」

 

理由は無い、ということだろうか? するとアリスは目を瞑り、何か考え事を始めた。

 

「類似するワードを検索……。 暖かい、優しい、安心……。最も近い感情は『安心』です。」

 

つまり、アリスはそのコートに "安らぎ" を感じたということか。過去にホシノがコートに "重み" を感じていたが、彼女は少し違うらしい。

 

「ならば、しばらくはお前に預けておこう。あまり汚してくれるなよ。」

 

「肯定。アリスは服を汚しません。」

 

そう言うと、アリスはとても嬉しそうに笑った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

モモイたちゲーム開発部メンバーの背中を見送り、シャーレ事務室へと戻る。ここからはポテトチップスの袋やジュースの缶などを片付ける時間だ。

ソファを持ち上げて移動させていた時、アルが尋ねてきた。

 

「……黄泉先生、コート返してもらわなくて良かったの?」

 

「本当は返してもらいたかったが……アリスがしっかりと会話できるようになった頃に返してもらうさ。」

 

部屋の壁側、いつもの場所にソファを下ろしながら俺は答える。するとどこからともなくムツキが現れ、勢いよくソファに座った。

 

「アリスちゃん、先生のコートを着て『暖かい』とか『安心する』とか言ってたよね。何か特別なコートなの?」

 

「いや、至って普通のコートだ。」

 

「もし私たちが着たら、どう感じるのかしらね。」

 

そんなアルの言葉を皮切りに、全員がコートを着た時の状況を考え始めた。いや、それよりも片付けをしてほしいんだが。

小さくため息を吐いた、その時――

 

「あれ? カヨコちゃん、なんか顔赤くない?」

 

ムツキの何気ない一言に、全員の視線がカヨコへと向けられる。その頬は、確かにほんのりと赤かった。

 

「は、はぁ!? 赤くないから!」

 

「やっぱり赤い! くふふ、なに想像してたの?」

 

「な、何も考えてない!」

 

ニヤニヤ顔のムツキと、逃げるように顔を背けるカヨコ。それに追い打ちをかけたのは――ハルカだった。

 

「だ、大丈夫です! か、顔の赤いカヨコ様も素敵です!」

 

「ハルッ……! それ……なんのフォローにもなってないから……!」

 

「えっ!? ご、ごごごめんなさいごめんなさい!調子に乗ってごめんなさい!」

 

ニヤケるムツキ、絡まれるカヨコ、高速で謝り倒すハルカ。その周りで微笑んでいるアルとハルト。俺が留守中のシャーレはいつもこんな状態なのだろうか。

 

「そんなに騒ぐ元気があるのなら、片付けを手伝え。 動かしたのはお前たちだろう。」

 

「はーい!/ は、はいっ!」

 

ムツキとハルカがすぐに返事をし、椅子の片付けや菓子くずの掃除を始めた。カヨコも片付けに参加してくれたが、この日は俺と顔を合わせてくれなかった。

 

 

つづく




流れが早足すぎて雑だったなと反省しております。

さて、話は変わりますが、最近のガチャ結果(原神、スターレイル、ゼンゼロ)を報告します。

フリンズ引けました!(天井すり抜け+天井)
長夜月引けました!(天井すり抜け+天井)
オルペウス引けました!(天井すり抜け+40連)

ガチで運が悪すぎる。先月のバイト代が吹っ飛びました。
体調不良の波はこんなところにまで現れるのだと、身を持って感じました。


      次回 第四話 廃墟再び
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