死を識る者、日常に佇む   作:ツカッチ

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開拓者のみなさん、先生のみなさん、こんにちは。

第二章は比較的平和そう(アビドス編がヤバすぎたので)とか思ってたんですけど、いろいろ調べるうちに「なんかやべぇな」と思うようになりました。


廃墟、再び

時刻は午前9時16分。窓から差し込む朝の光が、シャーレ事務室の机を柔らかく照らしていた。

 

(そろそろ出るか。)

 

心の中でそう呟き、刀を手に取った。この後ゲーム開発部と共に再び廃墟に向かう予定が入っている。目的はもちろん、『G.Bible』を手に入れるためだ。

 

ハルトに出発することを伝えるためにシャーレを出て、隣に建つシャーレ居住区の塀を飛び越え、中庭に入る。そこではハルトと便利屋たちが花壇作りに勤しんでいた。

きっかけは『せっかく広い中庭なんだから、色がほしい』とアルが提案したことだった。その話自体は便利屋が引っ越してきた3ヶ月ほど前からあったが、アビドスの件が佳境を迎えていたため、進めることができなかった。今は落ち着いた時間が増えたため、こうしてプロジェクトを進めているというわけだ。

 

「あっ、黄泉先生!」

 

俺に気づいたムツキが手を振る。彼女の頬や体操服には土がついていた。戦闘以外で肉体的な仕事を好まない彼女にしては以外だと、少し驚いた。

 

ムツキの声で他の4人もこちらに顔を向け、手を振った。

 

「作業は順調か?」

 

「ええ。とりあえず1つ目の花壇が完成したわ。」

 

アルはそう言うと、全員がその場を離れて完成した花壇を見せてくれた。広い芝生の端に、レンガで囲われた空間ができている。まだ花は植えられていないが、これだけでも雰囲気がかなり違う。

 

「とても良くできている。」

 

俺がそう答えると、彼女たちは嬉しそうに微笑んだ。ここに花が植えられたら、もっと良いものに進化するだろう。

 

「せ、先生も一緒に……やりませんか……?」

 

ふと、ハルカが細い声で、しかし自分の意思を持って声をかけてきた。彼女が誰かに指示されずにお願いをするのも珍しい。本当なら、このまま彼女たちと一緒に花壇づくりといきたいところだが……。

 

「すまない。これからゲーム開発部との予定があるんだ。」

 

そう答えると、彼女は俯いてしまった。よく見ると、スコップを握る手に力が入っているようにも見える。

彼女がここまで感情を出すのもまた珍しい。戦場ではよく怒りを表しているが、悲しみを表すのは初めて見た。

 

「後日、必ずどこか時間を開けておく。それで許してくれ。」

 

するとハルカは、パッと顔を上げて「はい!」と返事をしてくれた。表情も明るくなっており、なんとか元気を取り戻してくれたようだ。この調子で自分の行動に自信を持ってもらいたい。

 

「ハルト、そろそろ出るぞ。」

 

"分かりました。それじゃあ行ってくるね。"

 

ハルトはスコップを置いて立ち上がり、4人に短く声をかけた。次いで、アルたちの「いってらっしゃい」という明るい声が響く。そんな仲間の声を背に受け、俺とハルトは中庭を後にした。まず向かう場所は、ゲーム開発部の部室だ。

 

 

 

さて、少しだけ仕事の話をしよう。

俺はゲーム開発部からの依頼に加え、ミレニアムの生徒会長であるリオと天才少女のヒマリから、もう1つ仕事を任されている。それは『アリスの監視』だ。

偶然廃墟で発見された謎のロボット――アリス。彼女は謎の多い少女だ。記憶喪失ということもあり、今はゲーム開発部のモモイたちと仲良くしているが、いつ記憶を取り戻すか分からない。キヴォトスに悪影響を及ぼす人物である可能性も捨てきれないため、早急に彼女についてを調べ上げる必要がある。そのため、彼女が日常の中で、特に戦闘で見せる行動を見ておいてほしいと頼まれた。

 

監視するだけなら他に適任がいると思うが、『先生』という立場にある俺を、あの2人が無視するはずもなく。なんの警戒もされずに彼女たちに近づけるため、この役に選ばれたのだろう。

 

(……面倒なことにならなければいいが。)

 

そう考え、ハルトに気づかれないくらいの小さなため息をつく。俺はアリスが人畜無害のロボット少女であってほしいと切に願うのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

キヴォトスの中心にある駅から電車に乗り、ミレニアムサイエンススクールに到着。ハルトが前にゲーム開発部の部室に行ったことがあるので、今回は彼の背中について行く。

エレベーターに乗り、ズラッとドアが並ぶ階に到着した。ここが各部の部室がある場所なのだろう。しばらく歩いてハルトはドアの前で立ち止まった。

 

"ここが、ゲーム開発部の部室です。"

 

そこには確かに『ゲーム開発部』と書かれている。

俺はドアを3回ノック。すると、部屋の中から「はい」と返事が返ってきたのでドアを開けた。

 

「あら、黄泉先生。それにハルト先生も。」

 

「ユウカ……?」

 

真っ先に目に入ってきたのは、ユウカの姿だった。その奥に見えるのは、アリスとやけに顔の青白いモモイとミドリ……。

 

「あっ、先生!助けうぶ」

 

「すみません。今は取り込み中なので、少し外で待っていていただけますか。」

 

モモイが俺たちに気づくも、すぐにユウカが口に手を当て遮った。ここはユウカの言う通りにするべきだろう。

 

「……分かった。」

 

「え! 待って」

 

ガチャン……

ドアの閉まる音が、無情にも廊下に響き渡った。

 

"取り込み中って……いったい何の話をしてるんですかね。"

 

「……まぁ、モモイが助けを求めるような話なのは確かだ。」

 

ハルトの質問に、俺はそう答えるしかなかった。

その後、ユウカが部室から出てきたのは10分ほど経った頃。俺は彼女に話の内容について尋ねた。

 

「アリスちゃんがゲーム開発部の部員として認めるかの審査をしていたんです。」

 

「審査?」

 

「ゲーム開発部は部活動の規定人数である4人に達していなかったので、人数合わせのためにアリスちゃんが無理やりメンバーにされたかどうかを確かめる必要があったんです。」

 

なるほど、それは確かに重要な審査だ。そしてさらっと言われた規定人数。モモイとミドリの他にもう1人いるというわけか。

いやそんなことより、問題は審査の結果だが……。

 

「アリスちゃんと会話してみた結果、私にはアリスちゃんを部員として認めることにしました。」

 

"……規定の人数に達したってことは、廃部取り消しってこと?"

 

ユウカの説明にハルトが質問する。流れとしては正しいが、そう簡単にセミナーが許してくれるだろうか?

 

「人数も揃ったので、正式な部活として承認されました。……それも今学期までですが。」

 

「やはり結果を残せていない点は無視できないか。」

 

「仰る通りです。まぁ、モモイはミレニアムプライスで結果を出すと宣言しましたので、何の心配もいらないと思います。」

 

その言葉に俺は思わず笑ってしまった。

 

「意地悪な奴だな。」

 

「ゲーム開発部に期待しているだけですよ。」

 

ユウカも口元に手を当て「ふふっ」と笑う。期待しているというのは、どうやら本当のようだ。

 

俺たちはユウカと別れ、改めてゲーム開発部の部室に入る。そこにはガックリと項垂れるモモイとミドリ、ポカンとしているアリス。そしてオロオロしている赤髪の少女がいた。

 

「お前、名前は?」

 

俺がそう尋ねると、赤髪の少女は怯えた様子でこちらを見た。注意深く見ずとも、震えているのが分かる。俺は彼女に目線を合わせるようにしゃがみ、今度はできるだけ声を抑えて、もう一度名前を尋ねた。

 

「名前を聞かせてくれるか?」

 

「………ユ……ユズ、です……。」

 

何ともか細い声が返ってきた。ハルカと似たような雰囲気を感じるが、人見知りのレベルは彼女以上だ。

前にモモイから聞いた話だと、彼女がゲーム開発部の部長か。……いろいろ思うところがあるが、心の奥で留めておく。

 

「俺は黄泉、シャーレで先生を務めている。こちらは同じく先生を務めているハルトだ。」

 

「よろっ……よろしくお願いします……。」

 

ユズはかなり緊張した様子ながらも、ペコリと頭を下げた。

さて、この後の流れだが……

 

"えっと……大丈夫?"

 

ハルトはモモイたちに近づいて、優しく声をかけた。

そう尋ねるのも無理はない。モモイとミドリは未だに立ち上がれていないのだから。というか、彼女たちは今も廃部への道を歩いているのだから、そんなことをしている暇はないはずだが……。

すると突然、モモイが起き上がりハルトのシャツを掴んだ。

 

「どうして私たちを見捨てたのさぁ!」

 

はたして彼女は泣いているのか怒っているのか。何やらぎゃんぎゃん言いながらハルトに詰め寄った。……ユウカの話からして、俺たちに非があるとは思えないんだが。

 

"見捨てたわけじゃなくて、あれは黄泉先生が――"

 

俺の名前が出たところでハルトへ視線を向けた。すると彼は「しまった」と言わんばかりに目を見開く。

 

"き、君たちなら自力で何とかするかなって……!"

 

「先生たちのせいだよー! あの時ユウカを説得してくれれば……!」

 

清々しいほどの責任転嫁。その点の反論も先ほどのユウカの説明通りだ。

 

「……いずれにしろ、結果を示さなければならないことに変わりはない。項垂れている暇などないぞ。」

 

「……黄泉先生の言う通りですね。」

 

俺の言葉に反応したのはミドリだった。

 

「一刻も早く『G.Bible』を手に入れて、ミレニアムの……いや、キヴォトスのすべての人を驚かせるようなゲームを作って見せます!」

 

その力強い言葉に、ユズも強く頷いた。

一方のモモイは、強く掴んでいたハルトのシャツからそっと手を離す。

 

「……ごめん、ハルト先生。ちょっとイライラしてた。」

 

開口1番に、モモイは謝罪の言葉を述べた。その雰囲気は先ほどまでとは大きく異なる。

 

「もう文句を言ったりしない。何かに当たったりもしない。全部実力で示す。」

 

「だから黄泉先生、ハルト先生!『G.Bible』を探すのを手伝って!」

 

覚悟を決めたと言っても差し支えない彼女の様子に、俺は少し目を細めた。図らずとも、彼女たちの思いを聞くことができた。

ゲーム開発は彼女たちの仕事。故に俺たちが手伝えるのは、G.Bibleを共に探すことだけ。ここまで言われて背を向けるなど、できるはずもない。

 

「……時間が惜しい。今すぐ廃墟へ行くぞ。」

 

「「「「 !! 」」」」

 

"もちろん、私も最後まで協力するよ!"

 

その瞬間、部室に歓声が響いた。アリスに至っては――

 

「パンパカーン! 先生たちが仲間になりました!」

 

と、ファンファーレをセルフでやっていた。

ここにいる全員が1つになり、全員が同じ目標に向かって進んでいる。そんな中で俺は……。

 

少しの間目を瞑り、ゆっくりと瞼を持ち上げた。どうやら俺は、リオとヒマリに謝らなければならないらしい。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ここが、廃墟……。」

 

ユズが小さな口を開けて呟いた。同じミレニアムに存在する場所とは思えない、明らかに異質な場所。

ここに来るのは2度目。特にこれと言った感想はないが、モモイたちは前回の出来事が軽くトラウマなのか、少し震えていた。

 

「な、なんか……ロボット多くないですか……?」

 

瓦礫の陰に隠れている最中、ミドリが言った。

当時の状況を詳しく知らない俺でも思う。何故かは分からないが、アリスを見つけた建物近くにロボットがかなり集まっている。

 

"私たちが戻ってくることを予測していたのかも……。"

 

「それか、俺が奴らを斬りすぎたことが原因かもな。」

 

「じゃ、じゃあ、責任取って黄泉先生が突撃して――って、アリス?」

 

モモイの声に釣られるように、全員がアリスの方へ目を向けた。そこには、いつものアリスとは違い、戦いの目をしている彼女がいた。

 

「勇者は目の前の敵に背を向けたりはしません。どんなに強大な相手でも、逃げずに立ち向かう……。」

 

「我が名は"勇者"アリス! どんなにたくさんのロボットが相手だろうと、絶対に逃げません!」

 

アリスは突然その場で立ち上がり、ロボットに向かって走り出した。

全員が彼女の名を呼ぶが、当然止まるわけもない。そして、巨大でやたらメカメカしい武器を構え――

 

「――光よ!!」

 

必殺技を放つかの如く叫んだ。刹那、光の弾丸が撃ち出され、ロボットの胴体が消し飛んだ。しかし――

 

「……あれっ?」

 

アリスが間抜けな声を発した。武器に何か異常が起きたのだろうか? すると、ミドリが叫んだ。

 

「アリスちゃん! その必殺技を撃つにはチャージが必要って教えてもらったじゃん!」

 

「そ、そうでした! 射撃ボタンを長押ししないと――!」

 

 

(馬鹿野郎ッ!!)

 

 

心の中でそう叫ばざるを得なかった。それと同時に、俺はアリスの元へ向かっていた。

こちらに気づいたロボットは14。既にロボットが手にしている銃はアリスの方を向いている。トリガーが引かれるまで0.4秒。アリスを抱えて逃げる暇は無いと判断した。

 

「アリス! 絶対にそこから動くな!」

 

「!?」

 

俺はアリスの前に立ち、刀を鞘に収めたまま手に取る。次の瞬間、100を超える弾丸が一斉に飛来した。

 

しかし、意外にも俺は落ち着いていた。

刀を体の正面に構え、手首を回転。右手左手と交互に持ち替えて回転させることにより、矛は盾へと変わった。

豪雨のように弾丸が降り注ぎ、次々と刀身に弾かれて火花を散らす。ロボットどもの射撃は苛烈だったが――すべて防ぎ切った。

 

やがて銃声が止み、奴らがリロードに入る気配を察知する。その瞬間、足を踏み込み一気に距離を詰めた。

 

一閃。

空気を断つ音と共に、ロボットの胴体が斜めに裂け、鋼鉄の残骸が地面に崩れ落ちた。

 

「「「 おおー!」」」

 

瓦礫の奥から驚きの声と拍手が聞こえてくる。しかし、もう呑気にしているような時間は俺たちにはない。

 

"みんな! 敵が集まる前に、あの建物に向かうよ!"

 

「「「 は、はいっ! 」」」

 

俺が言うよりも早く、ハルトが指示を出した。

それで良い。あいつも次の一手を読めるようになってきたな。

次に俺はアリスの方へと顔を向けようとした。しかし。

 

「……先生。」

 

アリスが先にこちらに声をかけた。その声は弱く、自信を喪失しているようにも感じられた。

 

「……話は後だ。行くぞ。」

 

優先すべきは安全地帯への移動。一言二言の短い会話を交わし、俺とアリスはハルトたちの後を追った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

例の大きな建物に逃げ込んだ後、俺はアリスを叱った。俺が動かなければ、彼女は大怪我を、最悪の場合死ぬところだった。

自分が扱う武器の操作ミスで死ぬなど、馬鹿が過ぎる。2度とこのような失敗をするなと伝えた。

 

しかし、こうなった責任は俺にもある。あの場合、俺はすぐにアリスを止めるべきだった。

アリスは戦闘経験が皆無だ。良くも悪くもゲーム感覚で戦おうとしている。自分を勇者に例え、怯えず立ち向かう姿勢は評価できるが、武器の性能上、前衛でないことは確かだ。その辺りもしっかり覚えさせなければならない。

 

モモイが端末でG.Bibleの座標を調べていた時――

 

「黄泉先生。」

 

小さな声で、再びアリスに呼ばれた。その手には俺がアリスに預けていた白いコートがあった。

 

「……もう満足したのか?」

 

そう尋ねるとアリスは少し俯き、考えるような仕草をしてみせた。

 

「黄泉先生が私を守ってくれた時、この装備が暖かくなるのを感じたんです。まるで、アリスを包みこむように……。」

 

「それと同時に、黄泉先生に返すべきだと感じたんです。理由は……うまく説明できません。でも、そうしなければいけない気がして……。」

 

そう言って、コートを差し出した。さらっとコートを『装備』と言われたが、案外適した言葉なのかもしれない。

俺はアリスからコートを受け取る。そして袖に腕を通しながら、彼女に俺の考えが伝わるように言葉を組み合わせて話す。

 

「この装備には、俺のかつての仲間たちの思いが刻まれている。前にお前が『安心する』と言ったのも、その思いを感じ取ったからだろう。……だがアリスの言う通り、これは俺が背負わなければならないものなんだ。」

 

その思いは、ナツキだけのものではない。これまでに出会い、守ってきたすべての生徒たち、そしてキヴォトス市民のものでもある。

 

「仲間たちの思い……。」

 

アリスは小さな声で復唱する。そして彼女は、何かを諦めるように笑った。

 

「……まるで、"本物の"勇者みたいですね。」

 

作り笑顔では隠しきれない、悔しさを噛み締めるような顔。ゲームの勇者に憧れた彼女は、俺と比較してしまったがために落ち込んでいるのだ。

……自分で言うのもなんだが、それは些か無理のある比較だ。

 

「そんな顔をするな。いつかお前にも背負うべきものができる。……お前が憧れる勇者のようにな。」

 

「アリスにも……ですか? でも、さっきのアリスはとても勇者とは……。」

 

まぁ確かに、あの時の行動は勇者とはお世辞にも言えない。ましてや村を守る弓使いでもそんなヘマは犯さないだろう。

しかし、その理論はゲームではあまりにも大きな欠点すぎる。俺はその点について尋ねてみた。

 

「1つ聞くが、お前が知るRPGの勇者は、最初からレベル99でスタートするのか?」

 

「いいえ。どのゲームでも、最初は必ずレベル1からスタートします。……あっ。」

 

点と点が線で結ばれたのか、アリスは目を大きく見開いた。みるみる明るい表情に戻っていく。

 

「その通りだ。今のお前はレベル1の駆け出し勇者だ。しかし、いつまでもレベル1のままではいられない。――そのために何をする?」

 

「レベルアップです!」

 

「正解だ。ならば、やることは分かっているな?」

 

「はい!アリス、戦い方を学んでもっともっと強くなります! 先生に負けないくらい強くなって、先生の装備が似合う勇者になります!」

 

落ち込んでいたアリスは、いつもの天真爛漫なアリスへと戻った。ロボットではあるが、その精神はモモイたちと大差ないように思える。

 

「黄泉先生〜、話は終わった?」

 

すると、前方からモモイの声が聞こえてきた。

 

「ああ。そっちも目標の位置は出せたか?」

 

「とっくに出してるよ! ずっと先生とアリスを待ってたんだから!」

 

「それは悪かった。」

 

「モモイ、おまたせしました!」

 

俺とアリスは待たせたことを軽く謝罪し、彼女たちの背中を追うように歩き出した。

それにしても、俺の装備……この白いコートが似合う勇者か……。まぁ、その時が来たら考えるとしよう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「えっと、ここを左かな……?」

 

「絶対に右だよー!」

 

薄暗い建物内を歩いてしばらく。モモイとミドリが何やら言い合っている。目標の位置は割り出せたが、ルートまでは出せなかった……ということだろうか。

まぁ無理もない。ここの地図など端から存在しないのだから。

 

「……どうやら、迷ったらしいな。」

 

俺がそう言うと、モモイが慌てて首を振った。

 

「ち、違う! ミドリが余計なこと言うから分かんなくなっただけ!」

 

「なっ!? 嘘です、お姉ちゃんが変なことを――!」

 

「分かった分かった。」

 

突然互いに責任をなすりつけ始めた2人を落ち着かせる。

まったく、この姉妹は仲がいいんだか悪いんだか。いや、悪いはずがないか。でなければ仲良く隣を歩くはずがない。

それはそれとして、ここからどうするべきか。下手に動き回って入り口すら見つけられなくなるのが1番マズい。壁を切断して行くという案が頭をよぎったが、無理だ。長年誰も訪れなかったこともあり、老朽化している部分が多く見られる。強い衝撃を与えれば崩壊しかねない。

 

何か良い手はないものか。そう考えていた時――

 

「……アリス、1人で動くな。」

 

ふと、アリスがトコトコと歩き始めたので、引き留めようと肩に手を置く。しかし、彼女はこちらに振り向くことはなく、真っすぐに通路の先を見ている。

 

「……こっちです。」

 

その声は、まるで誰かの囁きをそのまま口にしたように、静かで確信に満ちていた。

 

「そ、そっちは来た道と同じ方向に向いてるけど……。」

 

「アリス、もしかして道が分かるの!?」

 

「分かりません。」

 

「どっち!?」

 

モモイがアリスに駆け寄るが、否定の返答にずっこけた。だが、先程のアリスの声に加え、彼女の目は冗談を言っているようには見えない……。

俺はその場で振り返り、ハルトに視線を送る。

 

「ハルト、どう思う?」

 

"私はアリスさんを信じたいと思います。"

 

ハルトは迷うことなく即答した。まぁ、この状況ならアリスの確信を頼るしか無さそうだ。

そう考えつつ、モモイたちにも尋ねてみる。

 

「アリスを信じるよ! 仲間だもん!」

 

「私も、信じる……!」

 

「頼んだよ、アリス!」

 

どうやら全員が同じ意見らしい。

そうして俺たちはアリスを信じ、指を指した道へと歩を進めた。

 

 

アリスに導かれる俺たち。やがてたどり着いたのは、アリスを発見した時のように広い空間だった。

しかしアリスが眠っていた場所のように明るくはなく、視界は良好とは言えなかった。そんな中――

 

「あれって、コンピューター……?」

 

ミドリが呟いた。彼女が見つめる先には確かにコンピューターのようなものが。さらにそれは……電源が付いていた。

 

[Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください。]

 

コンピューターに近づくと、あちらは俺たちを認識したのか、無機質な電子音が響いた。

 

「モモイ、座標は。」

 

「うん。ちょうどここを指してる。」

 

つまり、こいつがG.Bibleを持っているということだろうか。ならば話は早い。

 

「じゃあ早速、G.Bibleについて検索してみよっか。」

 

「はい。『G.Bible』検索します。」

 

アリスがコンピューターのキーボードでスペルを打っていく。ポツンと置かれていたコイツには気になる点もあるが、今はG.Bibleが最優先事項だ。

そして、Divi:Sion System……。その名を覚えておこう。

 

「あっ、何か出たよ!」

 

モモイが言う。その画面には、確かに"何か"が出ていた。

 

[蜷阪b縺ェ縺咲・槭???邇句・ウ縺ョ蟶ー驍]

 

完全に文字が崩れ、意味を成さない記号が画面を埋め尽くす。それはまるで、誰かの“声”が途中で千切れたようだった。

 

「……な、何これ。」

 

「アリス、壊したの!?」

 

「い、いえ、まだエンターは押していませんが……。」

 

いきなりエラーを起こしたコンピューターを見て焦る3人。かと思えば文字化けの文は消え、新たな文字が浮かび上がる。

そこに書かれていたのは――

 

 

 

[あなたはAL-1Sですか?]

 

 

 

誰も、すぐには言葉を発せなかった。

 

 

つづく




素通りしそうな言葉にも、とんでもない秘密があるんですねぇ。果たして俺はあの時、何を思ってプレイしていたのでしょうか。

話は変わりますが、長夜月餅が20連で引けました。
もしや、元気になったご褒美ですかね?

     次回 第五話 共鳴する者たち
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