もうすぐ冬と考えると憂鬱です。暑いのは良いですけど、寒いのはキライなんです。
「校内に異変は?」
「依然として問題ありません。」
「時間は……午前4時。あの子たちのせいで1日中校内を監視しなくちゃならなくなるなんて。」
そう呟いて私は小さくため息をつく。生徒会の会計としてやらなければな仕事も残っているのに、こうして睡眠時間を削って指揮を執らなきゃならないなんて。
他の役員たちと交代して休んでいるとは言え、疲労は着実に溜まっていく。寝不足は肌に良くないのに……。
「ユウカちゃん、少し休んだら?」
一緒に現場を指揮していたノアが優しく声をかけてくれる。ノアも眠いはずなのに、先に私を気遣ってくれるその優しさがとても身にしみる。
「……大丈夫。もうすぐ朝になるから、それまでの辛抱よ。」
私がそう言うと、ノアは微笑んで頷いた。
太陽が高く昇ってしまえばこっちのものよ。登校してきた生徒にもバレちゃうし、もし戦闘が起これば関係ないのない生徒が巻き込まれてケガをすることも考えられる。でもそれは黄泉先生とハルト先生が止めるはず。……敵を信じるって、なんだか不思議な感じね。
よし、もう少し頑張ろう。頬を叩いて自分に喝を入れてモニターに目を向ける。その時だった。
ピピピッ
「エントランスホールに人影を発見!」
電子音と共にオペレーターの1人が声を大にして報告を入れた。よりによってこの眠たい時に攻めてくるなんて!
「っ! 主モニターに回して!」
私がそう言うと、すぐに画面が切り替わる。そこには大きな武器を背負った女の子がエレベーターの前に立っていた。
(あれは……アリスちゃん? 他の子たちはどこに……?)
カメラに映っていたのはアリスちゃんただ1人。モモイや黄泉先生たちの姿はどこにも見えない。
「エレベーターに乗りました。どうしますか?」
「……1人だけなのは少し変ね。少しだけ様子を見ましょう。」
C&Cに連絡を入れてすぐに捕まえてもらうことはできたけど、私はもう少しアリスちゃんを泳がせる選択をした。それは、アリスちゃん自身が罠の可能性があると考えたから。
彼女の近くには既に黄泉先生がいて、C&Cがアリスちゃんを捕まえに出てきたところを、逆に捕まえる作戦なのかもしれない。
一瞬、直接最上階に向かうのではと考えたけど、それは絶対にない。
なぜなら、最上階にある差押品保管庫に行こうとしたところで、アリスちゃんはあの警備システムを突破できないから。最上階に行くには生徒会役員の指紋が必要で、違う人が指紋認証をすれば、即座に防衛システムが作動する。
そしてそれは黄泉先生も同様。幾らシャーレの先生でもそこまでの権限は持っていない。
『鏡』を取られる心配はどこにもない。それだけは確か。
「対象は37階でエレベーターを降りました。」
再びオペレーターからの報告。その報告に私は違和感を覚えた。
「……37階って」
「この階だね。」
「そうよね……。」
さすがに最上階までは向かわなかった。だけど、どうしてここに……? ……まさか!
私とノアが顔を見合わせた、次の瞬間!
『――光よ!!』
ドカァン!!
突如背後から爆発音が響き、ドアの破片が勢いよく飛んできた。振り返ると、そこに立っていたのは――
「勇者アリス、見 参!」
黒い煙が立ち昇る中から、堂々とした立ち姿でアリスちゃんが現れた。
まさか、ここに来るとは思ってもいなかった。静かだったミレニアムのオペレーションルームが一気に騒がしくなる。
次にアリスちゃんは迷いなく銃口を私たちに向けた。ドアを粉々に破壊したのは間違いなくあの大きな武器。私は一歩前に出てバリアを張ろうと端末を手に取る。だけど――
「警告! 今すぐに『鏡』を渡してください!さもなくば――」
まさかの警告のみ。トリガーに指をかけてはいるけど、撃つ気配は感じられない。
だったら対処は簡単。アリスちゃんには悪いけど、勇者ごっこをしている暇はないの!
「閃光弾、投擲!」
「あっ。」
キィィィン――!
アリスちゃんの情けない声と同時に、眩しい光と鋭い高音が私たちを包み込んだ。
少ししてから目を開け、すぐに被害の確認をする。幸いにもこちらに怪我人は無し。肝心のアリスちゃんは完全にのびていた。
「……とりあえず、この子を反省室へ。」
私が指示を出すと、アリスちゃんはすぐに運ばれて行った。「ふぅ……」と深く息を吐き、ノアに顔を向ける。
「どうやら、アリスちゃんの狙いは始めから"アレ"だったみたい。」
アリスちゃんがこの階に来た時点で何となく予想できていた。ノアが入り口の方へ指をさしていたのを見たタイミングで、予想は確信へと変わった。
「ドアを壊されたのと同時に、エレベーターの『指紋認証システム』が破壊されちゃいました。」
「"ちゃんちゃん"じゃないのよ、ノア……。どう、直せそう?」
「……エレベーターのセキュリティロックをすぐに修理するのは難しいかと。丸ごと取り換えるしか無さそうです。」
システムの確認をしていたオペレーターが答えた。どうやら無策の突撃ってわけではなかったみたい。生徒会襲撃の犯罪者とは言え、勇者ごっこと思ったことは謝らないとね。
「じゃあすぐにお願い。ただし、エンジニア部製以外のもので。」
アリスちゃんの持っていた武器は恐らくエンジニア部が作ったもの。彼女たちがこの襲撃作戦に関与しているとは考えにくいけど、念には念を入れておきましょう。
そして、C&Cから特に連絡が無いということは、黄泉先生はいなかったみたいね。アリスちゃんを泳がせた結果、してやられたけどそれは結果論。
切り替えなさい、ユウカ。ここからが本番よ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……アリスが連れて行かれちゃった。でも、アリスはやってくれたね。」
「うん。後で必ず助けるからね、アリスちゃん。」
モモイさんとミドリさんがホッと息をつく。
アリスさんの捨て身の特攻のおかげでオペレーションルームにあるエレベーターの『指紋認証システム』を破壊することができた。これで第1フェーズの作戦は成功。早速次のフェーズに――と行きたいところだけど、次に駒を進めるにはウタハさんからの連絡が必要だ。と、その時。
『ハルト先生、作戦通り「トロイの木馬」をシステムに侵入させたよ。』
インカム越しにウタハさんから報告が入る。その言葉を待っていた。どうやらあちらも順調に進んでいるようだ。
"それは良かった、報告ありがとう。"
そう言うとウタハさんは小さく「ふふっ」と笑い、通信を切った。さぁ、ここからは私たちの番だ。
"ムツキさん、カヨコさん、作戦通りにね。黄泉先生も移動をお願いします。"
『はーい!』
『分かったよ。』
『了解。』
3人からの返事を聞き、作戦は第2フェーズへと進む――。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「えっと、この辺りだよね?」
「うん。……そろそろ誰かしら来ると思う。」
明かりのついていない廊下を2つの影が横切る。静寂に包まれた廊下に響くのは、2人の声と布が擦れる音だけ。
太陽はまだ昇らない。代わりに月明かりが廊下を少しだけ照らしていた。
2人はいつ誰が来てもいいように銃を構えながら背を低くして歩く。そして、その時はすぐに訪れた。
「噂すれば、来たね。」
「そこにいるんてしょ? 出てきたらどう?」
2人は銃口を廊下の先へと向け、廊下の先へと声をかける。すると、暗闇から1人の少女が姿を現した。
「すごいですね。まさか私に気づくなんて思いませんでした。」
オフホワイトの髪、チャームポイントになりそうなメガネ、そして見事に仕立てられたメイド服。その格好で、彼女の正体はすぐに分かった。
「メイド服ってことは、あんたはC&Cの1人だね。」
「正解です。私はC&Cほコールサイン03。本名は秘密ですので、ぜひ美女メイドとでもお呼びください。」
「分かった、じゃあアカネ先輩って呼ぶね。」
「……知っていましたか。」
「……寧ろ知らない人はいないんじゃない?」
奇妙なくらいの静寂が3人を包む。彼女たちは対峙しているはずなのに、何とも気まずい空気が漂った。
「コホン、自己紹介してもらったし、こっちも自己紹介しなきゃだね。私は――」
「知っていますよ。モモイちゃんとミドリちゃんでしょう?」
メガネをクイッと調整してアカネがそう言うと、2人は口を紡いだ。その沈黙は肯定のようにも、否定のようにも聞こえた。
「あなたたちの行動は全て筒抜けです。作戦は失敗したも同然。速やかに投降することをオススメします。」
続く言葉にも返事はない。
すると、静かな廊下に小さく笑い声が響いた。
「……くふっ……くふふっ♪」
「……? 何が可笑しいのです?」
「作戦は失敗……。それは、そっちの方じゃないの?」
その声は驚くほど冷たかった。背中に寒気を覚えたアカネは、無意識にホルスターに手を伸ばす。
状況からして強がっているセリフのはずなのに、その声は自信と余裕しか無かった。それが逆にアカネの不安を煽ったのだ。
「ワケの分からないことを……。さぁモモイちゃん、ミドリちゃん、姿を見せなさい!」
「しょうがないなぁ。じゃあよーく見ててよね。」
暗闇の先にいる2つの影がモゾモゾと動き出す。そして、月明かりのもとにその顔が顕になった。
刹那、アカネは目を見開く。なぜなら、そこにいたのは――
「あ、あなたたちは――!?」
「正解はムツキちゃんとカヨコちゃんでした!」
「作戦を聞いた時は半信半疑だったけど……こんなに上手くいくなんてね。」
ニコニコ笑顔の少女、ムツキと、小さく息を吐く少女、カヨコだった。
アカネは状況が理解できず、何度も瞬きをする。ようやく整理が追いついたのか、すぐにユウカへと通を繋げた。
「ユウカ! 何が起きているんですか!?」
『分からない!こっちの監視カメラでは今も確かにモモイとミドリが映ってる!それにアカネ、あなたの姿が見えない……!』
「私が "見えない"……!?」
いないはずの2人が映り、いるはずのアカネが映っていない。
その謎に答えたのは、ムツキだった。
「私たちが映らないのも当然だよ。なんたって、監視カメラの映像は前もって録画されてたやつだからね!」
『録画ですって……!? じゃあ、本物のモモイとミドリはどこにーー!?』
その頃、ミレニアムサイエンススクール1階のエレベーター前にて。
「そろそろ録画映像ってバレた頃かな?」
"そうだね。ユウカさんたちは今頃慌ててるかも。"
「ふふ、それはいいことですね。」
悪い顔をして笑う本物のミドリ。それほどにまでユウカへのヘイトが溜まっているらしい。
すると――
「うぅ……。」
「はっ……ユズちゃん緊張してるの?」
「す、少しだけ……。」
見れば、彼女の肩がぷるぷると震えている。今回の作戦は少しの遅れが歯車を止めてしまう。そう考えると、緊張するのも無理はない。
それでも止まるわけにはいかない。ハルトは彼女の小さな手を優しく握った。
"大丈夫だよ。私も一緒にいるからね。"
「は、はいっ……!」
ハルトの優しさに触れ、ニコッと笑う。先ほどまで震えていた肩も落ち着きを取り戻していた。
「あっ……!私もハルト先生と手を繋ぎます!」
「じゃあ私はユズちゃんと!」
とても生徒会に宣戦布告した者たちとは思えないやりとりだが、こんなタイミングだからこそなのかもしれない。お互いがそばにいることを心で感じる。イコール安心へと繋がるからだ。
「あ、エレベーターが来たよ!」
『チーン』という音と共に、エレベーターのドアがゆっくりと開く。中は明かりが灯っており、あまりの眩しさに目を細めた。
「よーし!それじゃあ、"本当に" 入るとしよう!」
そうしてモモイたちは元気よくエレベーターに乗り込む。ちょうどその時、侵入者を伝えるサイレンが校内に響き渡った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈侵入者を発見。緊急時のため、セミナー専用の各セクションを閉鎖します。〉
無機質な機械音声が響き、壁がシャッターへと変化する。やがて『ガシャン……』鍵がかかる音が響いた。
結論、廊下で向かい合っていたムツキ&カヨコとアカネは、見事に閉じ込められてしまったのだ。
「くふふ、閉じ込められちゃったね!」
「……いいえ。あなたたちとは違い、私はシステムに指紋登録がされています。」
そう言ってアカネは壁に設置されてある指紋認証カードリーダーの前に立った。
生徒会役員やC&Cの生徒はシステムに指紋の登録を事前にしており、自由にシャッターを開けることができる。このままではアカネが1人脱出してしまう……!
ところが、ムツキたちは至って冷静だった。それどころか「どうぞどうぞ」と言わんばかりに少しも動こうとしない。その様子にアカネも不審がったが、とにかく脱出し、オペレータールームに行くことが優先と考え、人差し指をカードリーダーに翳した。刹那――
ビーッ!!
〈データ不一致、未登録の指紋です。〉
「えっ……!?」
なぜか、システムはシャッターを開けてくれなかった。それどころか彼女の指紋データそのものが無いと突っぱねた。
〈セカンドシャッター、作動します。〉
壁の奥から『ガシャン……!』と重い音が響いた。あろうことか、アカネは自ら脱出困難な状態に陥ってしまったのだ。
「ユウカ! 今度は一体何が起きているのです!?」
アカネが声を荒らげて尋ねるが、返事は無かった。かろうじて返ってきたのは砂嵐のようなノイズのみ。
「ユウカ……!? 応答してください!」
再び叫ぶも返事はない。通信は完全に断たれていた。
ドクンドクンと拍動の音が大きくなっていく。それはまるで、彼女に“状況の異常さ”を突きつけているかのようだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
警報が鳴り始めてからのオペレーションルームは先ほどとは打って変わり、嵐のように騒がしかった。監視カメラだけでなく、見張りをしている生徒会……もとい、セミナー所属の生徒たちからも次々と報告が入ってくる。
「アカネが閉じ込められたA2ポイントのセカンドシャッターが閉まってしまいました!」
「大変です! 警備に当たっていたセミナーの仲間たちから『シャッターが開かない』との報告が来ています!」
現場を指揮するユウカの頭はパンク寸前だった。
その隣で補佐を務めるノアもまた、なぜこのような事態に陥ったのか、理解に苦しんだ。
本来であればセミナーに所属している生徒は指紋認証システムによってシャッターを開けることができる。どんな非常事態であっても、彼女たちは自由に動ける資格があった。
なのに、この時になっていきなりシステムが正常に作動しなくなったのだ。指紋の登録をしているはずの生徒たちがシャッターに閉じ込められ、各地点で孤立状態になっていた。
ましてやシステムはつい先ほど取り替えたはずのもの。それがいきなり誤作動を起こし始めた。閉じ込められた生徒たちを助けたいが、ここにいる生徒たちではミイラ取りがミイラになるだけだった。
「一体、何が起こってるのよ……!」
寝不足が相まってイライラが溜まっていくユウカ。普段の彼女であれば少しの焦りの後、冷静へと落ち着くはずだが、今回ばかりは無理な話であった。
「アリスちゃんが指紋認証システムを破壊した段階から、作戦は始まっていた……。」
「ノア……?」
「システムがハッキングされたとしか考えられない。あちらは最初から私たちがエンジニア部のシステムに取り換えないことを予測していた。」
「そっ、そんなことできるわけ――」
「そのためのアリスちゃんよ。ユウカちゃんは彼女の武器を見てエンジニア部のシステムは止めておこうと判断した。アリスちゃんが突撃してきた理由は指紋認証システムの破壊だけじゃなくて、エンジニア部という存在をユウカちゃんの頭に入れさせることだったのよ。」
その説明でユウカは納得してしまった。いや、納得せざるを得なかった。アリスの武器を見てエンジニア部が作ったシステムではなく、別のシステムに変えようと判断したのは事実なのだから。
ユウカは「はぁ……」と深いため息をついた。そして黙ってウォーターサーバーの水を紙コップになみなみと注ぎ――勢いよく頭にぶちまけた。
「ユウカちゃん!?」
ざわっ!と空気が震える。ノアは慌ててユウカに駆け寄った。
ポタポタと水が滴る中、ユウカは数秒目を閉じる。自分がすべきこと、ここからの動きを軽く整理し、再び前を向いた。
「……とにかく、今はゲーム開発部を見つけないと。彼女たちさえ捕まえればそれで終わりよ。」
ユウカは冷静さを取り戻していた。現場の指揮を執る者として、生徒会長であるリオにこの場を託された者として、何としてもゲーム開発部を捕まえると決意した。
だが――その決意も再び揺らぐこととなる。
「うそ……。」
オペレーターの1人が小さく呟いた。ユウカが水を被ったことにより静まり返っていたため、その声はオペレーションルーム全員が聞こえていた。
「ユウカさん、大変です……。」
まるで夢幻でも見たかのように細々と話す彼女に視線が集まる。彼女はゆっくりと、しかし簡潔に状況を説明した。
「49階……。最上階へと繋ぐ唯一のエレベーターがある階で警備していたロボットたちが……全て沈黙しているんです。」
「え……?」
「しかもロボットたちは何かに斬られたように、真っ二つになってるんです。こんなことができる人って――あの人しかいませんよね……?」
ここにいる全員が、全く同じ答えに辿り着いていた。ロボットを真っ二つなど、そんなことができるのはこの世に1人しか存在しないからだ。
「どうして……どうしてその階に黄泉先生がいるの……?」
その声は鳴り止まぬ警報に紛れ、誰の耳にも届くことはなかった。
つづく
書いててユウカがぶっ倒れないか心配になってきました。本当にごめんよ……。後でちゃんと謝れよ、黄泉先生!
さて、話は変わりますが今回のガチャ、ヤバないですか?
原神は月開花メインアタッカーのネフェル、ゼンゼロは限定支援のリュシアと氷命破アタッカーのイドリー……。たんたんが配布でよかったですよホント。
それはそれとして僕の貯金が撃破されそうです、ちくしょう。
リュシアとイドリーに関しては引くつもりなかったのに、ストーリーのせいで引かざるを得ない状態……。
なるべく早い段階で光るかつすり抜け無しを祈るばかりです。
次回 第八話 勇者再臨