今回はポンポン場面転換します。読みにくいとは思いますがどうかご容赦ください。
そして……本当にごめんなさい!前に投稿した「共鳴する者たち」で編集が反映されていない部分がありました!たぶんすごい違和感があったと思います、本当にごめんなさい!
ミレニアムタワーの49階。
窓の外には、夜の名残を溶かすように朝日が昇り始めていた。淡く橙に染まった空がビルの隙間を照らしている。
「ハルカ、足元に気をつけろ。」
「……あっ。は、はいっ。」
どこかぎこちない返事を背に受けながら先へ進む。通路には大小さまざまなロボットの残骸が散らばっていた。俺はそれらをできるだけ廊下の端に寄せ、歩くための通路を確保していく。
「せ、先生。このまま最上階へ行っちゃいますか?」
「……そうだな。セミナーの目がモモイたちに向いている間に『鏡』を探しに行くとしよう。」
向かうのは当然、最上階へと繋がるエレベーター。おそらく俺たちがここにいることはユウカたちも気づいているだろう。だがあちらは指紋認証システムに阻まれ思うように動けないため、追っ手が来る心配もない。後はこのまま最上階へ向かって『鏡』を入手し、全員でシャーレに帰るのみ。
……と言いたいところだが、それが叶わないことも知っている。二重スパイというのは本当に骨の折れる仕事だと、身を持って実感した。そして次の瞬間――
ダダダダダッ!!!
「ひゃっ!?」
背後から銃声が飛び、俺は刀を鞘ごと抜いてハルカの前に立つ。無数の弾丸が鞘に叩きつけられ、火花が散った。銃声が止み、やがて視線の先に人影が浮かぶ。
「お待ちしておりました、黄泉先生。」
「……来たか。」
ロングスカートのメイド服に身を包んだトキが、静かに姿を現した。
「ユウカさん!トキが現場に到着しました!」
「間に合ったみたいね……!」
セミナーのオペレーションルーム。危うく黄泉先生たちに最上階へ行かれるところだったけど、何とかトキちゃんを向かわせることができた。トキちゃんは1年生だけどリオ会長が信頼してボディーガードを任せるくらいの子だし、黄泉先生も彼女のことは詳しく知らないはず。ごめんトキちゃん、少しだけ耐えてて!
「アスナ、モモイたちがエレベーターに向かってる!アカネ、その壁を壊してでも脱出して! カリン、狙撃の準備を!」
『はーい!』
『了解……!』
『もうできているよ。』
「ノア!ここは任せたわ!」
「うんっ!」
C&Cの3人へ連絡し、私もオペレーションルームを飛び出す。向かうのはアスナがいる49階。黄泉先生とは反対側の場所。
何としてもそこで捕まえる。この戦いを終わらせる。残ったゲーム開発部の3人を捕まえてしまえばこっちの勝ちなんだから。
黄泉先生とシャーレ所属の子が49階に行けた理由はとても単純で、それでいて信じがたいものだった。
それは非常用階段を駆け上がること。1階から49階までは980段ほどあるため、まさか階段を上がることはないだろうと高をくくっていた。
もちろん非常用階段にも監視カメラは設置してある。だけどそのタイミングは録画映像が流されている時だった。
黄泉先生の身体能力を舐めていた。何度も近くで彼の戦いを見たことがあったのにも関わらず……。
悔しいけど、終わったことを考えている暇はない。私は非常用階段へ続くドアを勢いよく開け、49階へと駆け上がった。
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「よーし、49階に到着!」
「わぁ……本当にロボットが1体もいない……。」
廊下の真ん中を悠々と歩くモモイさんとミドリさん。ミレニアムタワーを完全に掌握したとでも言うかのように胸を張って歩いていた。
"2人とも、油断は禁物だよ。"
私はそう声をかけるけど、この姉妹――特に姉は聞かない。黄泉先生がロボットたちを殲滅したこともあって、どこか勝利ムードが漂っていた。
その時だった。
「危ない!!」
ユズがモモイを強く押した。
刹那――ガシャァン!と窓ガラスが砕け散り、モモイの頭上を凄まじい何かが通過。それは ドゴォッ!と壁に突き刺さり、見事に大きな穴ができていた。
「い、いまのって……!」
その何かとは、40mmはある狙撃用の弾丸だった。こんなのが命中すればいくらキヴォトス人とは言え耐えられるはずがない。
「狙撃用の弾丸ってことは――カリン先ぱいぃっ!?」
再び飛来。今度もモモイは何とか回避したが、こちらを確実に狙ってきている。
思わず冷や汗が流れた。次は100%当ててくるという予感があった。
その時、インカムから連絡が入った。その向こうにいる彼女の話を聞いた私は3人に指示をする。
"みんな、全力で走って!!"
その声に3人はすぐに反応してくれた。
誰も疑わず、誰も振り返らず。
3人は私を、私はインカムの向こうにいる彼女を信じて走った。
ミレニアムタワーから500mほど離れた位置にあるビル。その屋上に、1人の少女の姿があった。
彼女こそC&Cのコールサイン02 角楯カリン。彼女は表情を1つも変えることなく、黙々とリロードを行った。
「風も少ないし視界も良好。慌てて逃げたってムダ。」
誰に聞こえるわけでもないが、その声にはどこか哀れみの念が混ざっていた。そしてスコープを覗き込み、トリガーに指をかける。
「必ず打ち抜く……!」
彼女はただ静かに、指に力を込めた。しかし――
「ッ!?」
突然目の前を通り過ぎた何かに驚き、スコープから顔を離した。目に入ったのはほんの一瞬だったが、それは間違いなく狙撃用の弾丸だった。
再びスコープを覗くが、既にモモイたちはタワーの奥へと走って行ってしまった。
「さっきのはどこから……!?」
咄嗟にカリンは床にうつ伏せになり、弾丸が飛来したであろう方向へ銃口を向けてスコープを覗く。急いで敵を探し出さなければ次はいつ撃たれるか分からない。その時、彼女が耳に着けていた通信機に連絡が入った。
『おはよう、C&Cのスナイパーさん。』
「……っ! ……私を狙ったのは、君か?」
『そうよ。』
通信機の向こうから聞こえてくるのは知らない女性の声。カリンは警戒を強めたが、女性はすぐに自己紹介をした。
『私はシャーレ所属の陸八魔アル。よろしくね♪』
自己紹介を聞いて、ヴェリタスによって通信機がハッキングされたことを認識する。
一方、彼女のやけに明るい声に、カリンは少し眉をひそめた。思いついた質問をそのままアルにぶつける。
「……どうしてこのようなことをした? 生徒会を襲撃するなんて、立派な犯罪行為だ。」
『私たちはただ困っている人がいたから助けているだけよ。今回の相手が偶然あなたたちだっただけ。』
悪怯れるわけでもない、淡々とした答えが返ってきた。続けてアルは話す。
『分かってると思うけど遠慮なんてしないわ。あなたが私の仲間を撃ったなら、私があなたを撃ち抜く。もちろんあなたの仲間も打ち抜く。それが嫌ならそこでジッとしてなさい。』
その返答に、カリンは思わず口を紡ぐ。
アルの声音は虚勢でも冗談でもなく、本気だった。自分がゲーム開発部、シャーレの誰かを撃てば、自分と仲間を必ず打ち抜くという確かな覚悟があった。
「……随分と物騒だね。シャーレに所属しているから、みんなに優しいのかと思ってた。」
『あら、警告で済ませてるあたり優しい方よ。私からすれば黄泉先生の目の方が物騒だと思うけど。』
「……ははっ、それは言えてる。」
思わず笑ってしまった。同じシャーレの人間でも、彼の視線が怖いのは共通しているらしい。
カリンは「ふぅ」と息を吐き、通信機越しに声をかけた。
「君の位置が分からない以上こちらからは手を出せない。何もしない代わりにだけど、良ければ少しの間話し相手になってくれないかな?」
『それであなたを無力化できるなら、喜んで。』
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「はぁ、はぁ……良かった、逃げ切れた……。」
全力疾走で校舎の奥へと走り、なんとかスナイパーの視界から身を隠すことができたモモイたち。ハルトは「任せて」と言ってくれたアルへ感謝の気持ちを浮かべた。
呼吸をゆっくりと整えて、顔を上げる。廊下の奥には、緋色に塗られたエレベーターのドアがあった。ミレニアムの雰囲気とは真逆の色のそれは、近よりがたいオーラを放っていた。
「あれが、最上階に繋がっているエレベーター……。」
ゴールが見えたことに安堵するのも束の間、ムツキから通信が入る。
『ごめんみんな! 閉じ込めてた子が逃げちゃった!』
「それって、アカネ先輩が脱出したってこと!?」
「は、早く行こう! アカネ先輩が登って来る前に――!」
安心から一転ピンチへと変わる。のんびりしている暇はないと悟り、駆け出したその時!
「そこまでだよ!」
突然何者かが行く手を阻んだ。
その少女もまた、メイド服の身を包んでいた。
「アスナ先輩!!」
「待ってたよゲーム開発部! シャーレのハルト先生!」
裏表のない満面の笑みを浮かべるのは、C&Cのコールサイン01 一之瀬アスナ。
直感力が異様に発達しており、まるで未来を見ているかのように戦場を駆け回る。リーダーのネルに次ぐ実力の持ち主だ。
アスナの強さを知っているモモイとミドリは、彼女に出会うなり負けムードを漂わせた。
「アスナ先輩はまずい……! ていうか、黄泉先生はどこに――」
「残念だけど、黄泉先生なら来ないわよ。」
ミドリの問いに答えたのはアスナではなく、何度も聞いたことのある鋭い声。視線を向けた先には、ゲーム開発部にとって因縁の相手である『算術使い』が立っていた。
「ユウカ!黄泉先生が来ないってのはどういうこと!?」
「空き教室に隠していたロボットを全て解き放っただけよ。ほら、銃声が聞こえるでしょ?」
「何十台のロボットに加えて、C&Cのエージェントがいる。さすがの黄泉先生も手を焼くでしょうね。」
「黄泉先生のところにもC&C……? ……まさか、ネル先輩が戻ってきたの!?」
モモイが尋ねるがユウカは答えない。
実のところ黄泉が戦っているのはトキなのだが、モモイたちは彼女の存在を知らない。故に、消去法によって「そのエージェントはネルだ」と脳内で確定させてしてしまったのだ。情報と心理を利用したユウカの勝ちである。
もちろんモモイたちは、我らが黄泉先生が負けるなんて全く考えていない。また、ムツキとカヨコが加勢に来てくれればアスナたちに勝てるかもしれない。しかし、状況は限りなく敗北に近かった。
「アカネ、モモイたちを見つけたわ。最上階へのエレベーターの前に……アカネ?」
ユウカがここに向かっているであろうアカネに連絡を入れようとしたが……何かアクシデントだろうか、アカネが全く応答せずにいた。
「……まぁいいわ。私たちだけで十分でしょう。」
何度か通話を試みたがやがて諦め、モモイたちに銃口を突きつけた。隣のアスナも「いつでも動けるよ」と体勢を低くしていた。
「どうしよう……。ユウカはまだしも、アスナ先輩に勝つ未来が見えない……!」
「……言いたいことはあるけど、ここで諦めたほうがいいと思うわよ? 」
「あ……諦めたら今回のことは許してくれる?」
「許すわけないでしょ! 無条件の1週間停学か拘禁よ!」
「そ、そんなぁ! ミレニアムプライスに間に合わないよ!」
モモイが『それだけはやめて』と懇願するが、当然受け入れられるはずもなく。ユウカはため息をつき、冷たい目でモモイとミドリを見つめた。
「……あなたたちに猶予を与えた私が甘かった。ゲーム開発部は問答無用で廃部にさせてもらうから。」
「うっ……!」
過去に見たことのない形相に思わず後退り。モモイたちも今回ばかりはユウカが鬼だと思った。
しかし、彼女だけは違った。
「………ください……。」
ぼそりと誰かが呟いた。それは、モモイたち4人の中で一番後ろにいたユズだった。深く俯き、何かを堪えているのか息が荒くなっている。
「あらユズ、何か言いたいことが……」
そこまで言ってユウカは異変に気づいた。
そこにいるのはユズではない、ユズの服を着た別の生徒だということに。
「邪魔をしないでください……!」
その声音は怒りに溢れていた。今にも爆発しそうなオーラがこの場にいる全員を囲う。そして――
「みなさんの邪魔をッ!しないでくださいッ!」
「ハルカちゃん!?」
ユズ……もとい "ユズに変装していたハルカ" は獲物を見つけた肉食獣のように勢いよくアスナに飛びかかった。左手でフォアエンド、右手でグリップを握り、遠慮の欠片もなく発砲する。しかしアスナは弾丸が放たれる直前に "何となく" 右に移動した。直感力というのは本当らしく、いとも容易く避けてみせた。
逆にハルカは隙だらけになる。当然アスナがそれを逃すことはなかった。
素早く照準を彼女の身体に合わせ、トリガーを引く。乾いた音と共に放たれた弾丸は命中した……はずだった。
「許さない許さない許さない許さない!!!!」
「うわっ!?」
ハルカは痛がりもせず、何事も無かったかのようにアスナの顔に銃口を向け、トリガーを引く。アスナは紙一重でそれを避けたが、違和感が残った。
(間違いなく当たった……よね?)
弾丸を直に食らえば痛みで怯み、一度距離をとるのが普通だ。ましてやほぼゼロ距離での被弾だったはずだ。
しかしハルカは違った。あろうことか即座に攻撃に転じたのだ。故にアスナは弾丸を避けられたのかと錯覚した。
否、弾丸は命中していた。だがハルカは痛がることすら無かった。なぜなら目の前にいるのは、仲間たちにとって邪魔な存在だからだ。ゲーム開発部の行く手を阻む敵だからだ。
アルは言った。『私もシャーレの部員なのだから、困っている人を助けるのは当然のこと』だと。ハルカが尊敬してやまない彼女が言ったことは自分が言ったことと同義。ゲーム開発部を助けるために、邪魔は排除しなくてはならない!
「ああああッ!!!」
「あははっ!ユズちゃんやるねぇ!楽しくなってきた!」
「違うわアスナ!その子はユズじゃない!」
ユウカがアスナの間違いを訂正するが、今しがた自分がとんでもないことを言っていることに気づいた。
(じゃあ、本物のユズはどこにいるの……!?)
そう、誰もユズを見ていないのである。
モモイ、ミドリ、アリスが姿を見せている以上、ユズがここにいないワケがない。彼女は臆病で人前にめったに姿を見けないが、ゲーム開発部の部長としてここに来ているはずだ。
(まさか、最上階に行ってたりしないでしょうね……!)
そんな考えが頭を過った、その時――
「すごいですね、彼女の気迫……。」
「きゃあ!?」
背後からいきなり声がしてユウカは思わず叫んだ。
慌てて振り返るとそこには、少し息を乱しているアカネが立っていた。
「アカネ!? いつの間にそこにっ――ていうか、なんで連絡しても応答してくれなかったの!」
「それはこっちのセリフですよ。何回もあなたを呼んだのに返事すらしてくれなかったじゃないですか。」
傍から聞けばただの通信障害によるアクシデント。だが、ハルトはその発言を聞き逃さなかった。
"モモイさん、ミドリさん、よく聞いてほしい。"
ネルの帰還という絶望に襲われ、ハルカの戦闘を見守るだけだった2人は、今にも泣きそうな表情でハルトの方へ顔を向けた。
"さっきユウカさんがアカネさんに連絡を飛ばしていたけど、今の話からしてアカネさんとの通信は遮断されていた。それは恐らくヴェリタスのみんなが作戦通りに動いたからだ。彼女たちは私たちが作戦を成功させてくれると信じてくれている。"
"ここでユウカさんたちと戦って全員でハッピーエンドでを迎えるか、何もせず捕まって全員でバッドエンドを迎えるか。2人はどっちがいいの?"
ハルトは決して怒っているわけではない。だがその声は2人の心に強く響いた。諭すようでいて、本来の目的を確かに思い出させた。
ゴールへ続くエレベーターは目の前に見えている。ここで諦める理由など、初めからどこにもないのだ。
モモイとミドリは互いに顔を見合わせ、小さく頷いた。
「……そうだね。 ハッピーエンドは目の前なのに、見ずにゲームをやめられるわけないよね!」
「うん! みんなのためにも、やり遂げてみせる!」
そう言って2人は立ち上がる。先ほどまでの泣きそうな顔は無く、自信と希望に溢れたいい表情をしていた。
「あなたたちまで……! アカネ、終わらせるわよ!」
「コールサイン03 室笠アカネ、お供します♪」
この状況でも止まろうとしないモモイたちに呆れながらも、ユウカは一歩前へ出た。彼女が言うように、ここで終わらせるために。
意地と意地、信念と信念。
双方引けない戦いが、人知れず始まった。
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「……ユウカめ、いきなり現れてロボットをわんさか起動させるとは。」
銃声に溢れていた廊下は静まり返り、黄泉先生の低い声がハッキリと耳に届いた。朝日の白い光を背にして立つ黄泉先生の足元には、サブマシンガンを搭載したロボットだったものが散らばっている。これら全て、非常用階段から現れたユウカが起動させた警備ロボットだった。
(いったい、何が……?)
私は黙って黄泉先生の背中を見つめた。先生が見せた攻撃が、現実なのか幻なのか理解できていなかった。
ロボットたちが黄泉先生を認識し、銃口を向けたその時――彼は静かに姿勢を低くし、刀の柄に指を添えた。刹那、薄紫の雷が弾け、4つの影が駆け抜ける。それは黄泉先生と同じ姿をしていた。しかし、それらは雷が作り出した分身のようで、本物の黄泉先生は元いた場所に立っていた。
やがて4つの影は流れるように合わさり、刀を鞘に納めようとする黄泉先生の下へと還って行く。『カチン』と刀が鞘に納まった瞬間――ロボットたちから斬撃音が迸り、重い音を立てて崩れ落ちた。
間違いなくこの目で見たはずなのに、今も脳が理解拒んでいる。あまりの衝撃に、私は黄泉先生に尋ねた。
「今のは…… "分身" ですか?」
「惜しいな、あれは俺の "残像" だ。」
別に驕っていたわけじゃない。初めから分かっていた。
私が黄泉先生に勝つのは不可能だと。
だけど、戦って分かった。彼は“次元”が違う。
いや……キヴォトスを守る“死神”が、私なんかに負けるわけがない。私より強い生徒なんて、ミレニアム以外にもいくらでもいる。その人たちですら勝てない相手に、私が勝てるはずがない――。
「……先生は、私との戦いで何割の力を出していたのですか?」
思わず、先生に尋ねた。
私の攻撃はすべて受け流され、先生の一撃は辛うじて避けるのが精一杯だった。そして、あの“残像”を見せられた時点で、全力など出していないことは明らかだった。
「――3割だ。」
「サッ……!?」
分かっていたのに、何を言っているのか分からなかった。私は全力で戦ったのに、先生が出した力はたったの3割。納得がいかなかった半面、納得している自分もいた。
残像が残るほどの超スピード。30を超えるロボットたちを一瞬で斬り伏せる剣技。私の攻撃をいとも容易く避ける身のこなし。これらを持ってしても、黄泉先生は表情1つ変えなかった。
――だとしたら。
黄泉先生の“全力”とは、いったいどれほどのものなのだろう。先生からの返事はさらなる疑問を生んだ。
「さて……手合わせはこれくらいにしよう。作戦通りであれば、そろそろ"勇者"が現れる頃だからな。」
「……分かりました。私はここで気絶したフリをしながら、反省会をしています。」
「そうか。では、また会おう。」
そうして黄泉先生は小さく手を振り、エレベーターの方へと歩き出す。その背中は遠ざかっていくのに、とても大きく見えた。
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場所は再びエレベーター前の広間。
ハルトの言葉で奮い立ち、ユウカ&アカネと戦うことを決意したモモイとミドリだったが――
「やっぱり、強い……!」
「ゴールは目の前なのに……!」
やはり戦闘力の差は大きかった。
もしかしたら勝てると思っていたユウカでさえも、倒すことは叶わない。
ユウカは冷静に戦況を読み、モモイとミドリが前に出ようとするタイミングでシールドを張って足を止めさせる。
アカネは射撃と爆弾による支援で、2人の行動を完璧に制限していた。
セミナーとC&C――本来なら交わることのない2人の連携は、驚くほど精密だった。そして皮肉にも、それがハルトの作戦が破られた証拠でもあった。
その一方で――
「あれれユズちゃん、もうおしまい?」
「うぅっ……!」
未だにハルカのことをユズと呼んでいることはさておき、アスナはついにハルカを戦闘不能にさせた。
彼女のタフネスにはアスナも目を見開くほどだったが、直感で先を読むアスナの前では、怒りに任せた攻撃は通じない。
「では、4人には大人しくお縄についてもらいましょう。」
「後はユズを捕まえれば私たちの勝ちね。……それで、ハルト先生?」
"な、なに?"
ユウカはすっと目線を流す。その瞳に怒りはないが――鋭い探査のような光が宿っていた。
「ユズはどこにいるんですか?」
"ごめん、知らない。"
「せーんーせーい?」
"いや、ホントに知らないんだって!"
もちろん嘘である。
ユズがどこにも姿を見せないのは作戦通り。黄泉がいる場所にもC&Cのメンバーがいると知った時はハルトも焦ったが、彼からの連絡が無いということは上手くいったということだ。
そもそも、ユウカは気づこうと思えば気づけたはずだった。何せ黄泉と共に行動していた "ハルカに変装したユズ" は確かに監視カメラに映っており、ユウカも観ていたのだから。だが、彼女の頭からはすっぽりと抜けていた。それはユウカがバタバタしていたためか、ユズの影が薄いためか……。
「そうですか。じゃあ……」
チラリと視線をモモイとミドリに移すが、彼女たちは肩を並べてユウカを睨み返した。
「絶対教えない! ていうか私も知らないし!」
「どれだけ殴られても絶対答えない!」
「そんなことするわけ――!」
ユウカが2人にツッコみかけた、その時!
「ユウカ!危ない!!」
「え。」
ドカァァァン!!!
突如、眩い光線が視界を裂いた。
ユウカはそれに反応できず、爆風と共に後方へ吹き飛ばされる。
「ううっ! ……あ、あれっ?」
背中から倒れたユウカはその衝撃に顔を顰めたが、違和感に気づく。背中以外の痛みが走ることはなかった。それよりも、自分の上に誰かが伸し掛かって――
「ユウカ、ケガはない?」
「アスナ!?」
その正体はアスナだった。よほどの衝撃だったのか、鼻と額から血を流している。
彼女はその直感力で即座に動き、ユウカを庇ったのだ。
「いったい何が……っ!?」
レーザーが飛んできたであろう方向に目を向けるとそこには、"ここにいないはずの人物"が立っていた。
彼女は巨大な武器を下ろし、胸を張って宣言した。
「勇者アリス、参上しました!」
つづく
戦いもクライマックス。あと2話くらいで第一章が終わりますかね。この調子で頑張ります。
さて、原神LUNA2がスタートしました。魔神任務は少しだけ進めましたが、いきなりアクセルベタ踏みで驚きました。いいですねいいですね、運営さんのやる気がビンビン伝わってきます。
リシュアと餅武器、すり抜けずに引けました(万歳)。
ネフェルすり抜けました(チクショーメェ!)
次回 第九話 創造の書