ここ数日で気温下がりすぎ。冬眠したい。
「勇者アリス、参上しました!」
「「アリスちゃん!?」」
勇者の登場に湧き上がるモモイたち。対するユウカはなぜアリスがここにいるのか理解できずにいた。
間違いなく彼女は反省室に運ばせたはず。扉のロックもモニターで確認していた。外に出られるはずがない。
「いったい、どうして――」
"さっきの通信障害だよ、ユウカさん。"
そんなユウカの問いに答えたのは、ハルトだった。
"あれはヴェリタスが意図的にミレニアム校内の電力を遮断させたために起きたんだ。そうすれば反省室のロックも自動的に解除される。太陽の光で校内が明るくなったおかげで、電気が落ちたことに気づけなかったみたいだね。"
「この時間に襲撃したのも、全て作戦の内だったということですか……!」
ギリッと歯を食いしばるユウカ。
これで何度目だろう。頭では冷静を装っても、心は悔しさで煮え立っていた
「アスナ先輩、動けますか?」
「無理ー!全身がすっごいビリビリする!あれ、何これめっちゃ痛くなってきた!頭のてっぺんからつま先まで1ミリも動かしたくない!」
「……とても元気そうではありますが、そういうことにしておきます。」
ボロボロのはずなのに能天気に話すアスナを見て、アカネはため息をついた。そして、アスナとユウカを守るように正面に立つ。その背中には自信が溢れていた。
「ユウカ、アスナ先輩を連れて安全な場所に避難してください。」
「……1人でやるつもりなの?」
「安心してください。複数人の相手は何度もしたことがありますから。」
C&Cの任務は多岐にわたる。爆弾と射撃を使いこなすアカネにとって、広い空間での多対一は得意中の得意。
今、この状況は彼女にとって最高の戦場だった。
ユウカはアスナを抱え、黙ってその場を後にする――のかと思いきや、離れた場所にアスナを寝かせて戻って来た。それを見ていたアカネだけでなく、モモイたちも目を丸くしてしまう。
「やっぱり私も戦うわ。アスナには悪いけど、隅っこで眠っていてもらいましょう。」
「気持ちは嬉しいですけど……鬼ですかあなた。」
「鬼だ!鬼ユウカ!」
「さすがにアスナ先輩が可哀想だよ……。」
「う、うるさいわね!」
アカネだけでなくモモイたちからもツッコミを食らうユウカ。いくらモモイたちを捕まえるためとは言え、怪我人を放ったらかしにするのは間違いなく鬼だ。
しかし、彼女がこのような選択をしたのはこの後を考えてのことだった。
「私だって優秀なエージェントをぞんざいに扱いたくないわよ。だけど……あちらにはまだ仲間が残っているでしょ?」
「!」
そう、モモイたちにはまだムツキとカヨコがいる。2人がどのような戦闘スタイルかは分からないが、警戒しすぎるということに越したことはない。
「戦闘に加わられたらどうなるか分からない。だから、私も――」
ユウカがそう言いかけたその時。
「やっと見つけたーっ!」
「……噂をすれば、来てしまったわね。」
甲高く、弾けた声が広間に響く。流れはユウカの読み通りであったが、まさかこんなに早くにたどり着くとまでは思っていなかった。
「やっほーアカネ先輩!」
「さっきぶりだね。」
ムツキとカヨコが先頭に立ち、ユウカたちと対峙する。戦況はハルトを含めて6対2。戦闘が得意な2人が加わったことでモモイたちは一気に有利になり、その分士気も高くなる。
「この6人なら突破できる!」
「2人とも、さっさと諦めたらどう?」
まさに水を得た魚。先ほどまで泣きそうだったのに、味方が現れるなりこの態度。状況とセリフだけに目を向ければ七光りのヴィラン役でしかない。
「……あれっ?」
ふと、ムツキとカヨコはある事に気づいた。
1人足りない。モモイたちと最初から一緒に行動していたはずのあの子が。
刹那、電気が流れたかのように何かを感じ取った2人は勢いよく振り返った。
「……ハルカちゃん?」
そこには、ハルトの腕の中で静かに眠るハルカがいた。乾いた血の跡が戦いの激しさを静かに物語っている。
"安心して、ハルカさんは気絶しているだけだよ。"
優しい声でハルトが答えた。それに続くようにミドリが口を開ける。
「私たちがエレベーターにたどり着くためにって、頑張ってくれたの。だけど……私たちが弱いせいで……。」
そう話すミドリの声はとても弱々しかった。
ネルがいないC&Cで最も危惧すべきなのはアスナ。そんな彼女に、ハルカたった1人で立ち向かった。本来であればそのタイミングで最上階に向かわなければならなかった。
しかしユウカとアカネに完全に封じ込まれ、進むことはできなかった。ミドリは自らを犠牲にしてでも道を切り開こうとした彼女の思いに応えられなかったことを憂いていたのだ。
「……そっか。頑張ったね、ハルカちゃん。」
ムツキは眠るハルカに労いの言葉をかけ、再びユウカとアカネを見据えた。その目は怒りでも悲しみでもなく、彼女の思いを受け取ったかのような、真っすぐな目をしていた。
「ハルカの思いは私たちが引き継ぐ。代わりに先生、ハルカのことを頼んだよ。」
「ハルカちゃんの代わりに私たちが道を作る。鏡を手に入れて戻ってくるまでに2人を倒してみせるから。」
"……分かった、ここは2人に任せるよ。みんなもそれでいいかい?"
ハルトがモモイたちに尋ねると3人は強く頷いた。足を止めてはならない、エレベーターに向かって走ることだけを考える。
一方のユウカとアカネ。ピンチには変わりないが至って冷静だった。それどころか、ここから勝つ方法を既に見出していた。
「ハッキリ言って私たちだけで6人を止めることは無理ね。」
「ええ。ですが、あちらの作戦は把握しました。攻撃をどちらかに絞れば可能性もゼロではありません。」
「どうやら考えていることは一緒のようね。じゃあ、その方針で行きましょう。」
言葉にする必要もない。見合わせていた顔を正面に向ける。ここを乗り越えれば勝てる確率がグッと上昇する。
だが、スルーできない存在が1人。
「タイムリミットは、黄泉先生が来るまでよ。」
「分かっています。」
黄泉が来れば、勝率は強制的に0に下げられる。トキからの連絡が無いためまだ粘ってくれていると信じているが、時間の問題だろう。いや、もしかすると既にこっちに向かってきているかもしれない。
1秒でも早くに終わらせなければならない。しかし焦ってもいけない。ユウカは深く息を吐き、アカネはメガネを指先で少し持ち上げた。
「行きます!」
先に動いたのはアカネ。隠し持っていた小型の爆弾を正面に投げた。爆音が広間を揺らすも直撃していない。
だが、それでいい。アカネの狙いはダメージではなく煙幕による視界の遮断だった。煙幕が広間全体を覆い、視界を奪う。同時にアカネは気配を殺して駆け出した。
"走って!"
左前方からハルトの声が聞こえたが、意外にもこれをスルー。なぜならアカネの目的は初めからムツキ、もしくはカヨコだから。
最上階に行くためには後ろにあるエレベーターを使う他無い。それはつまり、モモイたちがミレニアムから脱出するためにはあのエレベーターを使うしかないということ。万が一『鏡』を取られたとしても、再び現れたモモイたちをここで捕まえれば何も問題はない。
故に、先に倒すべきはムツキとカヨコという選択をしたのだ。
先手必勝。向こうの位置は把握している。この隙にどちらか1人を落として2対1に持ち込めればこちらの勝ち――の、はずだった。
「……え?」
煙幕を抜けたアカネの前には、誰もいなかった。
……いや、違う。誰も「そこに」いなかっただけだ。
刹那、背後から『カチリ』と冷たい音が聞こえた。同時に火災報知器が作動し、スプリンクラーから水が放たれる。それは黒い煙を切り裂くように降り注いだ。
ゆっくりと振り返った先には、こちらに銃口を向けるムツキとカヨコがいた。
アカネは目を見開く。なぜならユウカがカヨコに寄りかかって眠っていたからだ。目立った外傷は無いことから、絞め技を食らったと予想。それでも彼女のぐったりとした寝顔がアカネの焦りを増幅させた。
「この階と最上階を繋ぐエレベーターは一つだけ。逃げる時も結局ここを通らなければいけない。だったら最上階に向かう組じゃなくて残る組を先に潰すのが効率的でしょ?」
「くふふ、気配を殺すのは私たちも得意なんだよね〜♪」
「……お見通しだったということですか。」
2人の説明に、アカネは苦笑いを浮かべた。
爆弾を使わず煙幕を張った時点でアカネが前に出ると予測していた。そのため、煙が広がった瞬間にムツキとカヨコも気配を完全に消した。
そんな中――ユウカだけが、それをできなかった。
ユウカは戦闘能力が低いわけではないが、ムツキたちのように戦闘に特化しているわけでもない。経験による差が勝敗を分けたと言える。
「どうする? 続ける?」
カヨコが目を細める。向かってくるのなら容赦しないと、その目が警告していた。
「当然です、受けた依頼は必ず遂行しなくては――!」
そう言ってアカネが爆弾を取り出した、その時。
「そこまでだ。」
静かで、低い声が聞こえた。
そして次に『ピチャリ』と水を踏む音。
決して大きな声ではなかったが、その声には強い抑止力があり、三人は時が止まったかのように動きを止めた。
その正体は誰か? たった一言で場を支配できるのは、キヴォトス中を探しても彼しかいない。
「黄泉先生……!」
朝日を背に受けて佇む黄泉の姿がそこにあった。
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ミレニアムサイエンススクールの最上階、押収品保管庫。ここには生徒会が禁止した物や危険と判断した物が、数百点ほど保管されている。
技術者を育成する学校ということもあり、それぞれの分野に突出した生徒たちが毎日のように作品を作っているのだが、その中には戦闘兵器やハッキングツールなど、その分野を突き進むが故に危険な作品を作ってしまうなんてこともある。
そんな作品たちが眠っているのが、この押収品保管庫なのである。
「ここで合ってるんだよね?」
"うん。ハレさんから送られてきた座標はここを指してる。"
モモイはハルトに確認を取り、ドアの取っ手をそっと握る。そして――勢いよくドアを開けた。
「ユズ!来たよ!」
薄暗い部屋の中を日光が照らす。ハルトはそっと周りの棚に目を移した。
そこには、一見何の変哲もないような六面体や弾丸が厳重に保管されていた。しかしここに置いてあるということは必ず意味がある。ハルトは「何も見ていない」というかのようにそっと視線を戻した。
すると、一番奥の机の下からモゾモゾと動く影が。
「み、みんな……!ハルト先せ――ッ!?」
「ユズ!?」
ゴツン!と机の角に勢いよく頭をぶつけてしまったユズ。声にならない悲鳴をあげて蹲った。
「もう、何やってるの……。」
「ご、ごめん……。みんなに会えたのが嬉しくて。」
よほど痛かったのか、涙目になるユズ。それでも彼女はニコッと笑った。
黄泉と分かれた後、彼女は1人でここに来た。ハレの案内があったとは言え、静かな校内を1人で歩くのは久しぶりだったために不安と恐怖がじわじわと彼女を襲った。1秒でも早く来てほしいと願い、ようやく来てくれたのだ。
モモイとミドリは『大げさだなぁ』と思いつつもユズの性格をよく知っているので、彼女をそっと抱きしめた。アリスは少し困惑していたが、モモイに「ほら、アリスも」と言われたのでとりあえず抱きついた。
「ところでユズちゃん、『鏡』は見つけた?」
「うん、見つけたよ。ほら。」
ユズは手に持っていたタブレット端末を見せた。その画面には『Optimus Miror System』と表示されている。
どうやら本物の『鏡』のようだ。
「これで後はここから逃げるだけだね。」
「初クエストのクリアが見えてきました!」
「でも……下の2人は大丈夫かな。」
「……2人を信じてないってわけじゃないけど、すぐに戻って加勢した方が――」
4人がこの後の行動について考えていた、その時――
『ハルト。黄泉だ、ブツは手に入ったか。』
"黄泉先生!"
インカムを通してハルトの耳に、低く落ち着いた声が届けられる。その声は1時間ほど前に聞いていたはずなのに、やけに久しぶりに聞いたようだった。
ハルトが黄泉の名を叫んだことで、モモイたちもパッとそちらに顔を向ける。そして黄泉がなんの話をしているのかを教えてほしいと彼を見つめた。
"えっと、『鏡』はユズさんがしっかり手に持っています。"
『そうか。ならば、安心して戻ってくるといい。』
"それはつまり……ユウカさんとアカネさんを倒したってことですか?"
ハルトからの問いに黄泉は『いや……』と言葉を詰まらせる。そこからなんとか言葉を捻り出そうとしたが、やがて諦めた。
『通信機を通して説明するのも面倒だ。とりあえず戻ってきてくれ。』
"わ、分かりました……。"
そうして通信は切れる。疑問がいくつか残るが、ハルトは聞いたことをそのままモモイたちに伝えた。
「ふーん。まぁ黄泉先生がそう言うなら、行ってみようか。」
「エレベーターのドアが開いたらネル先輩が待ち構えているとかナシだよ……?」
「アリス知ってます。今のを"フラグ"って言うんですよね。」
「アリスちゃん余計なこと言わないで!」
ミドリとアリスのやり取りを見てクスッと笑うモモイ、ユズ、ハルト。5人は再びエレベーターに乗り込み、1つ下の49階へ向かった。
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チーンと音が鳴り、エレベーターのドアが開く。『鏡』を手に入れて上機嫌なモモイを先頭にエレベーターを降りた。
モモイが一歩踏み出した瞬間――「べちゃっ!」と水が跳ね、彼女の足にかかった。
「うわっ!? なんか床が濡れてる!」
「何これ……水?」
「あの4人の中に、水の魔法を使える魔法使いが……?」
『どこにも水要素は無かったはずなのに?』と首を傾げていると――
「来たか。」
「おかえり〜♪」
「あっ、ただいま黄泉せ――」
ムツキとカヨコ、そして黄泉の姿が見えたので声をかけようとした瞬間、モモイ、ミドリ、ユズは時が止まったかのように動かなくなった。なぜなら、黄泉の隣には3人が絶対に会いたくなかった人物が立っていたから――。
「「「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!?」」」
「うっせぇ! いきなり叫ぶんじゃねぇ!」
あまりにも大きすぎる悲鳴に少女は叫び返した。
洗朱色の短い髪、メイド服にスカジャンというかなりオラオラした格好の彼女こそ、C&Cのリーダー、コールサイン00 美甘ネルである。
「な、なんでネル先輩がここにいるの!?」
「終わった……。」
「ほ、ほら!アリスちゃんがフラグとかいうから!」
「アリスのせいですか!?」
「……とりあえず話を聞け。」
黄泉がいつもより一段低い声で言うと、ぎゃあぎゃあ騒いでいた4人はスッと静かになった。そしてネルに視線を送ると、彼女は一歩前に出て4人をじっと見つめた。
「お前たちがゲーム開発部か……。こんな奴らのせいでミレニアムが混乱に陥って、アスナがリタイアする羽目になるなんてな。」
そう言ってネルはニヤリと笑う。その鋭い目は、まるで猛鳥類のようだった。
C&Cのリーダーであるネルはトキを除いた仲間たちの実力を完璧に把握している。中でもネルの全力に正面からぶつかることのできるアスナへの信頼は一回り大きい。
しかし今回、そのアスナが敗けたのだ。どんな手を使ったのかはさて置き、その事実にネルは大きな興味を示した。
「い、今からネル先輩と戦うってことですか……?」
「なわけねーだろ……。あたしがここにいるのは、お前らにリオからの伝言を渡すためだ。」
「生徒会長から……!?」
ミドリが肩をぷるぷると震わせながら尋ねるが、ネルはそれを一蹴。彼女たちのビビりにやれやれと呆れつつ、話を始めた。
「今回のゲーム開発部による襲撃は――不問とする、だとよ。」
「ふ、不問!? ってことは、謹慎にはならないってこと!?ラッキー!」
「えっ……?ど、どうして……?」
「知るか。」
ネルはそう吐き捨てる。しかし同時に、彼女なりに理由を考えついていた。
次に彼女は、その『理由』へと視線を向ける。
「っ……?」
鋭い視線に当てられたアリスがビクッと体を震わせた。目があちこちに動いており、恐怖しているのがよく分かる。そして額からは冷や汗が噴き出ている。
やがてネルは小さく息を吐いて視線をずらした。
「リオがC&Cに出した依頼を撤回したから、あたしらにはこれ以上お前らと戦う意味はねぇ。今日のところは大人しく引いてやるけど――」
「次また暴れたら、その時は全力で潰しに行くからな。」
最後にしっかりと釘を差し、静かにその場を後にする。背を向けるその姿は、まるで嵐の去った後のようだった。
彼女の足音が聞こえなくなったあたりで、モモイたちは濡れている床に膝をついた。
「し……死ぬかと思った……。」
「初めて経験する感情……。これが『恐怖』……。」
「大袈裟だな。」
「黄泉先生は分かんなくて当然ですよ!」
黄泉のベクトルのズレた発言に、ミドリがツッコむ。キヴォトスで敵無しの彼が怖いものなんてないだろうに。
ネルの登場によって荒くなっていた呼吸を整え、モモイたちは立ち上がる。そして互いの顔を見つめ、表情を緩めた。
「何がともあれ作戦は大成功。『鏡』も無事取り返せたね。」
「うん。後はこれをヴェリタスに届けて、G.Bibleのパスワードを突破してもらうだけ。」
「ストーリークエストももう終盤ですね。」
「よーし、それじゃあ早速ヴェリタスに『鏡』を届けに行こう!そして寝よう!」
朝日に照らされながら、モモイたちが笑顔で盛り上がる。その様子を黄泉たちは静かに見守るのだった。
こうしてモモイたちはヴェリタスの協力でG.Bibleを解析し、ミレニアムプライスで賞を取れるゲームを完成させることができる――はずだった。
「ふへ、ふへへへ、もうダメだおしまいだァ!」
翌日、黄泉とハルトがゲーム開発部の部室に向かうとそこには完全に気が動転したモモイたちが待っていた……。
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"えっと、何があったの……?"
私がそう尋ねても返事はこない。その代わり、アリスさんがタブレット端末を渡してくれた。そこにはたった一文が表示されていた。そこには――
[ゲームを愛しなさい]
本当にたったそれだけ。何回か画面をタップしてみたけど、それ以上もそれ以下も無かった。
"これが、G.Bibleの正体……?"
てっきりゲーム制作の手順が書いてあるものと思っていた私は、そんな言葉を漏らしてしまった。拍子抜けというか、期待外れというか……こちらの予想を大きく避けてきたなと思った。
しかし、黄泉先生は違った。
「そいつの言う通りだな。」
その言葉にモモイさんたちが顔を上げる。何か言いたげな様子だったけど、それより先に黄泉先生が話を続けた。
「お前たちのことだ。『最高のゲームを作る方法』を知った後、そっくりそのまま作ろうとしたのだろう。」
その言葉にモモイさんたちは小さく頷いた。
「仮にゲームが完成したとしたとしよう。だが、そのゲームははたしてお前たちが作ったゲームなのだろうか?」
黄泉先生の言葉に、私はある事を思い出した。
それは、先日配信されていた新作ゲームの紹介動画だ。動画の中に『既存のゲームとの差別化』についての話があった。ゲームディレクターさんが「それ、赤ひげカートでよくない?」という既存の有名ゲームと比べる発言が話題になっていたのをよく覚えている。
「い、良いんだよ! 賞さえ取れれば廃部にはならないんだから!」
「二番煎じが賞を取れるとでも?」
黄泉先生の放った言葉はかなり鋭い言葉だけど、まさにその通りだ。
大事なのは個性だ。そのゲームの土台であり、そのゲームでしか体験できない唯一の個性。それを明確にすれば制作者が何を伝えたいのかがプレイヤーにも伝わり、面白さも倍増するはずだ。
"……みんな、テイルズ・サガ・クロニクルをもっと愛してみよう。"
静まり返った部室に、私の声が落ちる。みんなの視線がこちらに向いたのが分かった。
"やっぱり『クソゲーランキング1位』っていう評価に引っ張られすぎている気がするんだ。あの日、アルさんとアリスさんは「面白い部分は確かにある」って言ってたでしょ?"
"賞を取れる可能性も間違いなくある。後はみんな次第なんだ。みんなの作ったゲームでしか体験できない、オリジナリティに溢れたテイルズ・サガ・クロニクル2を作ろうよ!"
ゲーム開発部はもっと面白いゲームを作れるってことを証明してほしい。初めてテイルズ・サガ・クロニクルをプレイする様子を観た頃は何だったのか、私は彼女たちに期待せずにはいられなかった。
「……作ろう。私たちにか作れない、最高のゲームを。」
ふと、ユズさんが静かに立ち上がった。それはいつものオドオドしているユズさんではなく、強い覚悟を持ち、決意に燃えるユズさんだった。
「何かのゲームを模倣したってそれは二番煎じでしかない。それはつまり、テイルズ・サガ・クロニクルの続編を出せるのは私たちしかいないってこと。」
「言われっぱなしはもうイヤだ。テイルズ・サガ・クロニクルだけど、前作とは違うってことをたくさんの人に見せてやりたい!」
「それに、私はこれからもみんなとゲームを遊んで、作りたいから――!」
「だから、やろうよみんな!」
普段の彼女からは考えられないほど強く、勢いのある声。その思いからは『バカにしてきた人たちを見返したい』という気持ちと『みんなとずっと一緒にいたい』という気持ちがよく伝わってきた。
「……ここまで言われてるのに動かないのは、同じゲーム開発部の仲間として失格だね。」
「だね!よーし、やってやろう!」
ユズさんの思いを受け取ったモモイさんとミドリさんが立ち上がる。そしてモモイさんは右手を前に出すと、その上にミドリさんが右手を乗せた。
「アリスも全力でお手伝いします!」
そうしてアリスさんも元気よく立ち上がり、手を重ねる。その上にユズさんが手を重ねたところでモモイさんが私たちの方へ顔を向けた。
「ほら、先生たちも!」
"もちろん!"
「……俺もか?」
ゲーム開発部の4人に加えて私と黄泉先生がさらに手を重ねる。モモイさんが一度全体を見回し、叫んだ。
「それじゃあ、テイルズ・サガ・クロニクル2の制作を開始しよう!」
「「「" おおーっ!!"」」」 「応。」
全員で声を出して指先を天井に向けるが、何やら不満そうなゲーム開発部メンバーたち。
「黄泉先生、声が小さいですよ!」
「もっと声を出して!ほらもう1回!」
黄泉先生は「別にいいだろう……」と顔を渋っていたけど、モモイさんたちがすぐ手を重ね始めたので逃げられなかった。そして――
「それじゃあ、テイルズ・サガ・クロニクル2の制作を開始しよう!」
「「「「" おおーっ!!"」」」」
なんだかんだで黄泉先生も声を出してくれた。
こうして今度こそ、全員の心が1つになったのだった。
つづく
ゲームに関係する章なので、いま話題のあの人のネタ(?)を入れてみました。
カービィのエアライダー、めっちゃ面白そう。
さて、遂にキュレネが来ますね! 性能、ガチャ、ストーリーのどれをとってもヤバすぎる!
ていうか、列車組がオンパロスを選んでなかったらいろいろ詰んでた話、エグすぎる。ヘルタのシーンとか吐きそうになりましたよ……。
次回 最終話 Fin…?