死を識る者、日常に佇む   作:ツカッチ

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開拓者のみなさん、先生のみなさん、こんにちは。

これにてパヴァーヌ編第一章は完結、次回から第二章書いていくぜ。テンション上がるなぁ〜。

今回はいつもより短めです。


Fin…?

「……これでいいのか?」

 

「はいっ。で、では最後に優しく土を被せてあげてください。」

 

シャーレ居住区の中庭。俺とハルカの2人は手作りの花壇で花植に勤しんでいた。

 

前にハルカと花壇づくりを約束していたが、俺のスケジュールに空きができる頃にはほとんど完成されていたため花植をやることになった。

あまり土をいじる経験はなかったが、やってみると案外楽しい。普段は消極的なハルカが自ら熱心に教えてくれたことも1つの要因かもしれない。

 

「ハルカは教えるのが上手いな。」

 

「えっ、そ、そんなことありませんよ……!えへへ……。」

 

「ふっ……。」

 

ハルカの恥ずかしそうで、嬉しそうな顔を見て思わず俺も頬が緩む。すると――

 

「ハルカちゃん、黄泉先生、お昼ご飯だよ〜!」

 

休憩室の窓からムツキが顔を出し、楽しそうに手を振った。俺はハルカに花植は中断だと声をかけ、服や靴裏についた土を払って休憩室に入る。

今日の昼飯はピザ。当然ながらデリバリーだ。 

 

本当は俺が昼飯を作るはずだったのだが、気づいたら11時を回っていたのでデリバリーにしようという話になった。もちろん、料理をサボった俺の金で。

頼んだピザはマルゲリータ、カラブレーゼ、クアトロ・フォルマッジ。冷凍のピザも美味いが、やはり専門店のピザは匂いから別格だ。

 

「あっ、始まった。」

 

ジュースを運んでいたカヨコが言った。視線の先にはテレビがあり、あるイベント会場の様子が映されていた。その壇上には見知った顔が立っていた。

 

『ただいまより、第57回ミレニアムプライスを開会します! 司会および進行を担当させていただきます、エンジニア部の富見コトリです!』

 

自己紹介と同時に会場からは大きな拍手が起こる。ミレニアム最大のイベントということもあり、観客もとても多い。

 

「モモイちゃんたち、入賞してるといいね!」

 

「入賞してなきゃ終わりだからね……。」

 

背水の陣で挑んだゲーム制作。あの日、俺とハルトを含めた6人で決起した日から彼女たちは寝る間も惜しんでコンピューターと向き合っていた。

やれることはやった。後はその努力が報わることをただ祈るのみだ。

 

俺たちはピザを口にしながらミレニアムプライスの結果を見守る。コトリの挨拶が終わり、受賞作品の発表はと移った。

 

『それでは、第7位の発表です!第7位は――!』

 

『エンジニア部、白石ウタハさんの「光学迷彩下着セット」です! おめでとうございます!』

 

「なんて?」

 

意味不明な受賞作品に、思わずテレビに聞き返してしまうムツキ。その後コトリが説明していたが……要約すると、その下着は他の者からは見えているが自分には見えないというものらしい。コトリが『これで露出症の患者さんも合法的に趣味を楽しめますね!』なんて言うものだから、ピンク髪のバカが頭に浮かんでしまった。

 

「……ミレニアムの人たちって変な人が多いのかな?」

 

"どちらかと言えば審査員が変だと思うけどね……。"

 

「で、ですが、こんなのが7位でしたらモモイさんたちのゲームはもっと上の順位なのでは?」

 

「こんなのって……。まぁそう思うけど。」

 

アルたちも困惑していたが、審査員がそう評価したならそうなんだろうと無理やり納得していた。

 

その後もランキング発表は問題なく進んで行ったが、ゲーム開発部の名前が呼ばれることはなく、あっという間に第1位の発表になってしまった。

 

「え、もしかしてダメだった?」

 

「いや、1位の可能性が微レ存……。」

 

「そこは『絶対に1位』って言ってあげなよ……。」

 

休憩室の空気も少しずつ重くなっていく。そして、ついに第1位の発表……。

 

『さぁ、今回のミレニアムプライスの頂点に選ばれたのは――!!』

 

コトリの声に続き、ドラムロールが鳴る。

俺たちはピザを食べる手を止め、固唾を呑んでテレビを見つめた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『今回のミレニアムプライスの頂点に選ばれたのは――!!』

 

『新素材開発部の』 

 

 

ダダダダダッ!

 

 

「お姉ちゃん!本当にディスプレイ撃ってどうするの」

 

「もう全部持っていかれるんだし関係ない! 今度こそ本当におしまいなんだ!」

 

1位が発表されるやいなやモモイは銃を乱射し、ギャン泣きし始めた。

無理もない。1位がゲーム開発部でなかった以上、廃部は確定してしまったのだから。

 

やがてこの部室は無くなり、モモイ、ミドリ、ユズは寮に戻ることになる。中でもユズはその性格から寮に馴染めず、苦しんでいた。彼女にとってゲーム開発部の部室は唯一無二の居場所だった。

また、アリスは寮に入っていないため自分の居場所がどこにも存在しなくなる。住む家も無く、路頭に迷うことになることが決まってしまった。

 

「結局、こうなっちゃうなんて……。」

 

ユズが小さく呟いた。

自分たちの全力を注ぎ込んで完成した最高傑作、テイルズ・サガ・クロニクル2をもってしても届かなかった。それは確かに悔しかった。

しかし、テイルズ・サガ・クロニクル2に期待してくれている人がいたのも確かだ。多くの否定的なコメントに加え、クソゲーランキング1位というどん底からここまで這い上がることができたのだ。それだけでも十分な成果だった。

 

「そうそう!1つ考えてたことがあるんだ!」

 

ギャン泣きから一転、モモイが勢いよく顔を上げた。その顔は笑顔だが、どこか無理をしているようにも見える。

 

「シャーレの部員になるのはどう!? そうすればみんなでシャーレ居住区に住めるし、ゲーム制作もそこで続けられる! 名案だと思わない!?」

 

それはユズとアリスを想っての言葉であり、自分の悲しみを紛らわすための言葉でもあった。

ユズは帰りたくもない寮に、アリスはシャーレに預けることになる。そんな2人が寂しくないように、そして、自分が寂しくならないようにするために提案したのだ。

しかし――

 

「……ありがとう、モモイ。だけど大丈夫。」

 

ユズは提案を断った。間違いなく賛同してくれると考えていたモモイは思わず目を見開く。

 

「黄泉先生とハルト先生には十分すぎるくらい、たくさん助けられた。これ以上先生たちを頼るのは良くないと思う。」

 

「それに、寮に戻るのはもう怖くないよ。だって……私にはみんながいるから。」

 

「ユズ……!」

 

彼女の強い覚悟を感じたモモイ。ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。ユズはそっとモモイに歩み寄り、静かに、そして優しく抱きしめた。

ハルトたちならシャーレに入部することを喜んで迎えてくれそうだが、ユズは自分と向き合うことを選んだ。

 

「……ごめんね、アリスちゃん。」

 

「ミドリ、謝らないでください。私は大丈夫です。」

 

「……うんっ……!」

 

そうして2人も静かに抱き合った。

 

「ハルト先生に連絡しなくちゃ……。」

 

ミドリはスマホを手に取るが、指が思うように動かない。頭では分かっていても、身体は現実を受け入れていなかった。

 

だが、その時だった。

 

 

バタァン!!

 

 

「みんな!!」

 

突然、勢いよくドアが開き、青髪の少女が現れた。何やら興奮冷めやらぬ状態で、肩で息をしている。

 

「うぇっ!? も、もう来たの!?」

 

「やっぱり鬼ユウカ! 生徒会に人の心は――」

 

結果発表から10分も経たないうちに部室に現れたセミナーのユウカ。まさかもう退去を促しに来たのか――と、思いきや。

 

「おめでとう!!」

 

部屋の空気が一瞬で止まった。モモイたちは互いに顔を見合わせる。

ユウカの笑顔が『廃部おめでとう』の邪悪で人の心が皆無なものではなく、感動したかのような、今にも泣きそうな笑顔だったから。

 

「「「「 え……?」」」」

 

「え、何この反応……。」

 

揃って目を点にするモモイたちに、ユウカは困惑する。

 

「まさか、結果見てなかったの?」

 

「いや、結果は見てたけど――」

 

「やっほーゲーム開発部! 本当におめでとう!」

 

モモイが言いかけたところで、マキが現れた。彼女もユウカと同じように、満面の笑みを浮かべている。

 

「ごめん、本当にどういうこと? 私たち入賞できなかったじゃん……。」

 

「何言ってるのよ。いいから中継を見てみなさいよ。」

 

「お姉ちゃんがディスプレイを吹っ飛ばしちゃって……。」

 

「はぁ……?」

 

再び困惑するユウカ。彼女はやれやれと言わんばかりにスマホを取り出し、ミレニアムプライスのライブ配信を見せた。

 

「ちょうど審査員の方が話してるわね。よーく聞いてみなさい。」

 

ゲーム開発部の4人はユウカのスマホを注視し、耳を立てる。そして、審査員の話を聞き終えたモモイたちは強く抱き合い――大泣きした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「みんなぁ!!」

 

「あっ、来た!」

 

シャーレ事務室の外からドタドタと音が聞こえ、ドアがガチャリと開く。するとモモイたちが勢いよくなだれ込んだ。

4人が事務室に入ったところで俺たちは一斉にクラッカーを鳴らし、彼女たちを祝福した。

 

「「「ゲーム開発部、特別賞おめでとう!」」」

 

 

 

遡ること1時間前。ミレニアムプライスの結果発表が行われていた時のこと。

第1位を逃したゲーム開発部はどの順位にも入れなかったため、名実ともに廃部となった。全力を出した分、胸に響く物がある。全力を注ぎ、敗れたあいつらの悔しさは計り知れない。アフターケアが必要だなと考えていた、その時だった。

 

『私から1つ、発表があります。』

 

コトリからマイクを渡された審査員が徐ろに立ち上がった。その審査員は真っすぐにカメラを見て、話し始めた。

 

『長年、ミレニアムプライスは生徒たちの才能、能力で作られた作品に対し、「実用性」を軸に受賞を行ってきました。しかし、今回は全く新しい角度から「実用性」を感じさせてくれた作品があります。あるゲームが懐かしい過去を思い出させ、未来への可能性を感じさせてくれたのです。』

 

『その名は「テイルズ・サガ・クロニクル2」。実際にプレイしたことで、かつてゲームに夢中になっていた頃を鮮明に思い出しました。ランキングには惜しくも入りませんでしたが、先ほど述べたことの評価に加え、この気持ちを多くの人にも体験してもらいたいと思い、異例ではありますが――』

 

『ゲーム開発部の作品「テイルズ・サガ・クロニクル2」に、ミレニアムプライス特別賞を贈ります。』

 

「えっ……?」

 

誰かが小さく声を漏らした。そこから頭を整理するまでに15秒はかかった。

 

「ゲーム開発部が、特別賞……?」

 

「これって……別枠だけど入賞したってことだよね?」

 

「ってことは――!」

 

「「「「 やったぁぁぁぁぁぁ!!! 」」」」

 

アルたちは勢いよく席を立ち、自分のことのように喜んだ。ハルトも強く拳を握り、全身で喜びを表現した。

 

「はぁ……。」

 

長いため息。俺は思わず手で額を押さえる。

申し訳なさが風に流されるように消えた。そこからの俺はもう笑うしかなかった。

 

……やりやがった。あいつらの作品が認められた。

あの審査員が言っていたように、ミレニアムプライスは「実用性」を重視している。つまり、その作品がキヴォトスに何をもたらすかを見ているのだ。作品の大半がロボットや機械だと言うのに、まさかゲームが入賞するとは。

そして何よりも偉業なのは、過去に「特別賞」を貰った作品は無いということだ。審査員たちが "テイルズ・サガ・クロニクル2のためだけ" に贈る、唯一無二の賞。捉え方によってはランキング1位の作品よりも価値がある。それを、あいつらがやって見せた。

 

 

そして今に戻る。

モモイたちはまるでスポーツ大会で優勝したかのように抱き合い、跳びはねて喜び合っていた。

 

「本当に良かったよ〜!」

 

「あっ、お姉ちゃんまた泣いてる!」

 

「ミドリだって泣いてるじゃんかぁ!」

 

紛うことなき嬉し泣き。涙をこぼすモモイたちに感化されたのか、アルまで涙を流し始めた。普段はあまり笑顔を見せないカヨコ、ハルカも今は満面の笑みだ。

 

「黄泉先生!」

 

すると、アリスがこちらに駆け寄ってきた。俺の前に立ち、鼻息をふんふんと荒くしている。

 

「アリスたちはとっても頑張りました!褒めてください!」

 

そう言って俺の右手を取り、自らの頭の上に乗せる。つまり、撫でてほしいということか?

俺はアリスの目線と同じ高さになるようしゃがみ、「よくやった」と声をかけて彼女の頭を撫でる。アリスは「えへへ」と幸せそうに笑った。

 

しばらく撫でていると、アリスが目をキラキラさせながら口を開いた。

 

「クエストをクリアした勇者には報酬がつきものです!そこで先生にお願いがあるのですが――」

 

「言ってみろ。」

 

「アリスは、先生とお出かけがしたいです!」

 

そんな彼女の屈託のない笑顔を見て、全員の努力が報われたなと思った。

……ただ、俺は同時に胸の奥がざわついたのを感じた。俺は何か――大切なことを忘れている気がする。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「お出かけと入っていたが……花畑に行きたいと言うとは思わなかった。」

 

翌日。俺とアリスはミレニアムにあるラベンダー畑に足を運んでいた。

一面に広がる薄紫の花。俺たちの間を吹き抜ける風がラベンダーの優しい香りをふわりと運んだ。

 

「しかし、なぜラベンダー畑に?」

 

「アリスがプレイしたゲームでエンディングに勇者とお姫様が花畑に行くシーンがあったんです。それがとても良いお話だったので……。ラベンダーを選んだのは、最もオススメされていたからです。」

 

確かに時期的にもラベンダーはピークを迎えているため、検索欄の一番上に来るのは納得できる。

だが、俺が一番驚いたのはアリスがロマンチストだったということだ。ずっとRPGが好きだと思っていたが、案外ロマンチックな物語も好きなのかと意外に思った。

 

「その話の流れだと、俺がお姫様ということになりそうだな。」

 

「確かに!では今回は特別にアリスがお姫様になります。」

 

「いいのか?」

 

「黄泉先生とアリスでは、どちらが勇者かは一目瞭然なので。」

 

アリスの目指す勇者像がどんなものかイマイチ分からないため、謙遜するなとも言えない。まぁ、彼女がまだまだ遠いと考えているのならそうなのだろう。

 

その後はアリスとラベンダー畑を歩いて見て回った。ラベンダーは全て同じものだと思っていたが、品種によっては色が少し異なるのだな。その小さな色合いの差が、絶妙に背景とマッチしていた。

 

しばらく歩くとアリスがソフトクリーム屋を見つけた。いかにも食べたそうにしていたので彼女のためにソフトクリームを買い、近くの日陰のベンチに座った。

やがてなんだか催して来たので、刀をベンチに立てかけてアリスに声をかけた。

 

「手洗いに行ってくる。俺が戻ってくるまでの間、刀を見ておいてくれ。」

 

「触ってみてもいいですか?」

 

「あまりオススメしない。それでも触れたいなら止めはしない。」

 

俺の刀は明確な意志を持っており、俺以外の人物に触れられることを極端に嫌う。万が一触れようとすれば即座に電気を放つくらいには嫌っている。その威力は静電気程度なので害はないが、あまり手を近づけない方がいいだろう。

 

忠告したとは言え、もしアリスが刀に触れて驚きでソフトクリームを零そうものならどうなるか分からない。そう思うとできるだけ時間は掛けたくない。

出すものを出して手を洗い、さっさとその場を後にする。何事もなければいいがと考えていた、その時だった。

 

俺は目を疑った。頬をつねらずにはいられなかった。

なぜならアリスが――俺の刀の柄と鞘を手に取り、一生懸命引き抜こうとしていたから……。

 

俺はできるだけアリスを不安にさせないよう、冷静を装って彼女の前に姿を現した。

 

「あっ、先生お帰りなさい。」

 

「アリス……お前、その刀に触れられるのか?」

 

「? はい。ですが、刀がぜんぜん抜けなくて――」

 

そう言って再び刀の柄と鞘を握って思い切り引っ張る。彼女の手に電気が流れているわけでもないどころか、刀の波長はものすごく落ち着いている。

引き抜くことができないとは言え、この刀に触れられるということはつまり、アリスは……

 

その時、俺は完全に思い出した。俺は……いや、俺たちはまだ、アリスの正体を暴いていないということを。

 

 

バグだらけの夢想譚 完




アリスの正体……彼女はいったい何者なんでしょうね(すっとぼけ)

各生徒と黄泉先生の物語は第二章が終わってから書きます。

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