死を識る者、日常に佇む   作:ツカッチ

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開拓者のみなさん、先生のみなさん、こんにちは。
今回からパヴァーヌ編の第二章書いていきます。

ヴェリタスの拠点ですが、原作ではミレニアムタワー内(部室)だったのを街中に変更しています。

全く関係ないですけど、ドジャース優勝おめでとう。


再起動するセカイ
AL-1S


「待っていたわ、先生。」

 

「黄泉先生、お久しぶりです。」

 

ゲーム開発部がミレニアムプライスで見事受賞し、廃部を免れたことが少し前の出来事に感じられるようになった頃、俺とリオ、ヒマリはカーテンが閉め切られた会議室にて三度顔を合わせていた。

目的は当然、アリスの正体を暴くことである。

 

アリスが俺の刀に触れた時、彼女がただのロボットではないと思った。同じロボットでもキヴォトスにいる人型ロボットが触れた際にはしっかりと電気を放っていたからだ。

刀に認められた者ではないとは言え、触れることができたのは俺を除いてアリスだけだ。その理由を確かめるには、やはり彼女の正体を暴く他ない。

 

「あれから時間が経った。こうして俺を呼んだということは、だいたいの目星はついたと考えていいんだな?」

 

「ええ。/ はい。」

 

リオとヒマリは強く頷いた。

少しの間が空き、リオが口を開く。

 

「早速だけど結論を言うわ。アリスの正体は――無名の司祭が崇拝する『オーパーツ』であり、はるか昔の記録に存在する『名もなき神々の王女』よ。」

 

リオは淡々と告げる。

アリスの正体はただのロボットではなくオーパーツだった。それだけでも十分驚くことなのだが、俺の意識は別の言葉に向けられていた。

 

無名の司祭。

いつだったか、その名を黒服が教えてくれた。キヴォトスに散らばっているとされるオーパーツを作った張本人であり、"忘れられた神々" を消滅させるために動いていたとされる者たち。

今では完全に淘汰され、過去の人物になったそうだが……このような形でまた名前を聞くことになるとはな。

 

「つまり俺の刀にアリスが触れられたのは、彼女自身がオーパーツだったからということか。」

 

「それで合っていると思います。」

 

ヒマリの返答を聞き、俺は机に立てかけてある刀に目を落とす。こいつもまたオーパーツであり、制作者はやはり無名の司祭である。

アリスが刀に触れた時について聞いてみたところ、『気付かなかった』とだけ言っていたので何となく予想はしていたが……。

 

「……それらを踏まえて、お前たちはアリスをどう見る?」

 

アリスの正体が分かった以上、ここからの問題は今後アリスをどう扱うかだ。アリスはオーパーツであり、今後キヴォトスに牙を剥く可能性が考えられる。手を打てるなら先に打っておきたいが、暴走するような様子は一度も見ていない。俺の答えは初めから1つしかないが、果たして2人はどう見るか。

 

「……アリス、彼女の本質は――」

 

 

「世界を終焉に導く兵器よ。」

「可愛い後輩ですね♪」

 

 

「……?」

 

「あらっ?」

 

見事に意見が真っ二つに割れた。2人は互いに驚いた表情を浮かべる。

刹那、会議室の空気が急速に冷えていくのを感じた。

 

「……あなたは一体何を言っているの?」

 

「リオこそ、何を言っているのですか?」

 

「「 ………。」」

 

「お前ら……」

 

互いに一歩も譲らない。アリスをどうするかで意見が別れる理由も分かるが……なぜこいつらはすぐに対立し始めるのかが分からない。せめて互いに理由を話してからにしてほしい。と、その時。

 

ピロン♪――モモトークの着信音が鳴り、一瞬だけ空気が緩んだ。着信があったのは俺のスマホ。内ポケットからそれを取り出してモモトークを開く。

差出人はハルトからだった。

 

『今ヴェリタスの拠点にいるんですけど、ハレさんたちがミレニアムの郊外で不思議なロボットを発見したみたいです。念の為共有しておきます。』

 

そんな文章と共に1枚の写真が送られてきた。それを見た瞬間、思わず顔を顰めた。それほどまでに不気味に感じたのだ。

白い球体の真ん中にはカメラのような目があり、後面からはオーキッドピンクの配線のような物がだらんと垂れ下がっている。その先端には羽のような物が取り付けられていて、球体の下部からは足が伸びていた。

 

それがただのロボットとは思えなかった。まるで、この世のものではないかのような――

 

「先生、どうしたのですか?」

 

俺の違和感に気づいたのか、ヒマリが俺に尋ねた。

わざわざ隠す必要もない。寧ろこの2人なら何か知っているかもしれない。そう思って送られてきた写真を見せた。

 

それを見たリオとヒマリは、一緒になって目を見開いた。

 

「これは……。」

 

「そんな、まさか……!」

 

この反応からして2人は明らかに何かを知っている。俺はすぐに説明するよう求めた。

 

「前に先生たちが廃墟で見つけたというコンピューター、『Divi:Sion System』を覚えているかしら?あれはまさしく『名もなき神々の王女』……つまりアリスを廃墟で管理するためのシステムだったの。」

 

「そして、その『王女』に追従するロボット――名を『Divi:Sion』。そのロボットの姿形が、黄泉先生が今見せてくれた写真のロボットと全く同じなのよ。」

 

「つまり、アリスがそれを目にすることで過去を思い出す可能性がある。」

 

「その通りよ。」

 

記憶喪失の者が記憶を取り戻す方法の1つに、よく目にしていた物や景色を見るという方法がある。アリスが過去にそのロボットたちと行動していたのなら、記憶を取り戻す可能性は十分にあり得る。

俺は即座にハルトへメールを送る。

 

『そこにはヴェリタスとお前以外に誰かいるか?』

 

万が一そこにアリスがいるのなら今すぐ向かわねばならない。もちろん何事も無く終わる可能性もあるが、対策しないに越したことはない。

ハルトからの返信は1分も経たずに送られてきた。

 

『ゲーム開発部の4人がいます。』

 

どうやら今すぐ向かわねばならないらしい。このことを2人に伝えようと顔を上げるが、やはり2人は対立していた。だが、今回はヒマリがかなり分が悪い。

 

「『可愛い後輩』なんて呑気なことを言っている暇はなくなった。そうでしょう、ヒマリ。」

 

「ですが、まだアリスちゃんが暴走すると決まったわけでは――」

 

「どうして分からないの?」

 

リオは机に手を置いてヒマリに詰め寄る。その表情はいつもの真顔ではなく、若干の困惑が見られた。

 

「敵は既に動き始めているのよ。向こうに先手を取られたらキヴォトスがどうなるか分からない。今がどんな状況にあるのかを、『全知』のあなたが理解できないわけないでしょう?」

 

「……っ。」

 

リオの勢いに押され、ヒマリは口を噤んだ。

もちろんヒマリの言うことも分かる。アリスは純真無垢で天真爛漫なヤツだ。先輩として可愛がりたいという気持ちもあるのだろう。

だが、事が起きてしまってからでは遅い。俺たちのように力を持つ者は、事が起きる前に対処に当たらなければならない。

 

「ヒマリ、残念だがここはリオが正しい。アリスが暴走することを視野に入れて動くのが最善だ。」

 

俺がそう声をかけると、ヒマリは観念したかのように肩を落とした。そして俺は刀を左腰に携えてカーテンを開け、会議室の窓を開ける。暗く閉ざされた部屋に眩しい太陽光が差し込んだ。

 

ここはミレニアムタワーの48階。地上を見下ろせば風が街を滑るのが見える。

 

「話の途中で悪いが、すぐにヴェリタスの拠点に行かせてもらう。どうやらその場にアリスがいるらしい。」

 

「分かったわ。」

 

事態は一刻を争う。もちろん何もなければそれが一番いい。そうして窓から身を乗りだそうとした、その時――

 

「先生!」

 

俺はその声に動きを止め、ヒマリの方へと振り返る。

彼女の瞳が不安に揺れていた。それは言葉よりも雄弁に、彼女の心を物語っていた。

 

「行かれる前に1つ教えてください。この先、あなたはアリスちゃんをどのように見るのですか?」

 

なぜ彼女がそんな目をするのか、俺はそれを何となく理解していた。だから、諭すように答える。

 

「……安心しろ。アリスはこれまでもこれからも、俺の大切な生徒だ。」

 

そうして俺は、会議室の窓から飛び出した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「それで……これってどんな状態なんですか?」

 

机の上に置かれた“ロボット”に視線を向けながら、ミドリさんが尋ねた。

ミレニアムの外で見つかったというそれは、白く、どこか深海魚のような形をしている。最初に見た瞬間――不気味、と思った。けれど、その言葉で片付けてはいけないような気がした。

見ているだけで胸の奥がざわつく。隣の机の上には同じものが五台並んでいて、その異様さをさらに強調していた。

 

「私たちもいろいろ試してみたんだけどね。」

 

ハレさんが困ったようにロボットを指でつついた。それに続くようにコタマさんが話す。

 

「調べた結果、電源ボタンはおろか接続ボードすらありませんでした。ましてや継ぎ目も無いので開けることも叶わず……。」

 

「開けられないから、起動しない理由がハードなのかソフトなのかも分からないんだよね。」

 

"つまり、何もわからないってこと……?"

 

「そーゆーこと。」

 

ハレさんはお手上げというように手のひらを上に向けた。しかも話によれば、これがミレニアム郊外に20体は転がっているらしい。果たして、いったい誰が何のために作ったんだろうか……。

 

"……エンジニア部には連絡してみたの?"

 

「もちろん真っ先に連絡したよ。でもウタハは『こんなロボットは知らない』ってさ。」

 

まぁ、そうだよね。

いろんな武器やロボットを作り出すエンジニア部にも分からなければ、それはもうお手上げするしかない。

 

「下手にいじったら爆発する危険物かもしれないから、シャーレと協力したくて先生を呼んだの。」

 

"……頼ってくれたところ申し訳ないけど、私もあんまり力になれなさそうだね……。一応、黄泉先生に写真を送っておこう。"

 

「あの人は顔が広いし、何か知っている人と繋がってるかもね。」

 

そうして私はタブレットを取り出し例のロボットの写真をパシャリ。軽く文章を添えて、画像を黄泉先生に送った。

 

すると、モモイさんが何やら呟いているのが聞こえた。しかもその表情はかなり不貞腐れている。

 

「面白いものが手に入ったって言うから来てみれば思ってた物と違うし正体は分からないし……。」

 

そう言えばゲーム開発部はインスピレーションを求めてここに来たんだっけ。

モモイさんの言いたいことはよく分かる。『面白いものがある』と言われて来てみたら、ホラー映画の小道具のようなものが置かれているなんてね……。

 

「あはは、ごめんね。でもこれに似たキャラをテイサガ新作に出してみたら? ボスの眷属みたいな役にしてさ。」

 

「あっ、それアリかも!」

 

「でしょ? 例えば、このピンクの配線みたいなのを触手にするとか――」

 

「それはなんか制限かかりそうだから却下。」

 

「え、なんで?」

 

ゲームの話になって、先ほどまで不機嫌だったモモイさんの表情もようやく和らぐ。

と、ここで黄泉先生から返信が来た。

 

『そこにはヴェリタスとお前以外に誰かいるか?』

 

……なんだろう、すごく意味深に感じる。

そこから少し考えてみたけど、結局何も思い浮かばなかったので『ゲーム開発部の4人がいます』と答えておいた。

 

そんな中、アリスさんが別の白いロボットを眺めていた。彼女はそれを見つめたままピクリとも動かない。

 

「アリスちゃん、どうしたの?」

 

「アリス……アリスは、これを見たことがあります。」

 

「……えっ?」

 

その一言で、空気が一変した。

研究室にいた全員が息を呑む音が、はっきりと聞こえた気がした

 

「これ、は――」

 

何かを言いかけたところでアリスさんは再び動かなくなる。それはまるで、システムがフリーズしたみたいで――

 

 

ピピピッ

 

 

「えっ、なに!?」

 

「もしかして電源がついた……!?」

 

「どうして急に……!?」

 

突如、短い電子音と共にロボットから薄ピンク色の光が点灯した。そしてロボットの足のようなものがうねうねと動き始める。

 

「きっ、気持ち悪い!」

 

「ちょっと、本当のホラーじゃん!やめてよ!」

 

モモイさんは勢いよく私に抱きついた。確かにこの状況はかなり異常だ。アリスさんはあれから少しも動かないし、逆にロボットは動き出すし……。

 

首筋を冷たい汗が流れる。1つのターニングポイントに辿り着いたかのような、重い緊張感があった。

 

 

ヴヴヴヴヴ………

 

 

続けて、謎の音が薄っすらと聞こえた。何かが振動しているような、ファンが排熱をしているような音だった。

 

「この音……お姉ちゃんから……?」

 

「えっ?」

 

ミドリさんに言われて、モモイさんがポケットからゲーム機を取り出す。

 

「あれ……?電源をつけた覚えはないけど――」

 

「み、みんな!アリスちゃんの様子がおかしい!」

 

モモイさんが不思議がっていると、ユズさんが叫んだ。見ればアリスさんは虚ろな目をしており、何かを呟いている。

 

"……アリスさん!"

 

「アリス!しっかりして!」

 

「アリスちゃん!」

 

私たちがいくら声をかけても返事はない。代わりに動いたのは例の白いロボットたちだった。

ロボットたちは自立歩行を始め、アリスさんのもとに集合する。その様子が私には、『王に膝をつく兵士たち』に見えた。

 

やがてアリスさんは動き始めた。両手を握ったり開いたりして、ゆっくりとこちらへ振り向く。

彼女を見た瞬間、「違う」と思った。そこにいるのはアリスさんの皮を被った別の何かだった。

 

「……コードネーム『AL-1S』起動完了。」

 

「プロトコル『ATRHASIS』を実行します。」

 

それを聞いた瞬間、私は悟った。"彼女"はもう私たちの味方ではないと。

私は悔やんだ。しかし同時に覚悟した。これから"彼女"に銃口を向ける命令を自分が出さねばならないのだと。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ドガァァァン――ッ!!!

 

 

爆風が全身を貫いた。

鼓膜をつんざく轟音と、焼けた鉄と火薬の臭い。視界は真っ白に弾け、そのあとを黒煙が覆い尽くす。

 

"……っ、あ……!"

 

瓦礫の上でかすかに声が漏れた。背中に鈍い痛み。けれど、それ以上に――重い。胸の上に何かが乗っている。

 

"……モモイさん?"

 

金色の髪が灰の風に揺れていた。白とピンクのコート、猫耳のようなカチューシャ。間違いない、モモイさんだ。

 

"モモイさん! 聞こえる!? モモイさん!"

 

呼びかけても返事はない。

彼女のこめかみから血が流れ、頬を伝って地面に落ちていく。

 

 

 

「待って、アリスちゃん!!」

 

 

 

誰かの叫びが遠くで聞こえた。その声でようやく、先ほどの出来事が蘇る。アリスさんが構えたレールガンの光、そして――爆発。

 

"……っ、そんな……!"

 

私は震える手でハンカチを取り出し、モモイさんの傷口を強く押さえる。じわじわとハンカチに黒い赤色が広がっていく。煙の中ではまだ、何かが崩れる音がしていた。

 

"とにかく……みんなと合流しないと……!"

 

モモイさんの頭を押さえながら腕に抱え、私は瓦礫を踏み越えながら走り出した。

崩れた壁の向こう、灰色の空の下で、アリスさんのレールガンがまだ淡く光を放っていた。

 

煙が上がる場所へ向かうと、そこにはミドリさんとユズさん、ヴェリタスのみんな、そして――目から紫色の光を放つアリスさんがいた。

 

「お姉ちゃん……!? お姉ちゃん!!」

 

私の腕の中のモモイさんを見たミドリさんが、半ば叫ぶように駆け寄ってきた。

彼女の手が震えながらモモイさんの手を握る。

 

"大丈夫、気絶してるだけ。頭を打ってるからあまり揺らさないでね。"

 

必死に落ち着いた声でそう告げ、彼女にモモイさんを託した。そして私は立ち上がり、一度深呼吸をしてアリスさんを見据える。

 

ごめん、みんな。

ごめん、アリスさん。

私が今から要求することをどうか許してほしい。

心のどこかで震えながらも、その覚悟は決して揺らがなかった。

 

"みんな、攻撃用意。"

 

「こ、攻撃!? 先生本気で言ってるの!?」

 

"目的はアリスさんを気絶させるだけだ。 責任は私が持つ。"

 

私の覚悟が届いたのか、みんなはそれぞれの銃口をアリスさんへと向けた。しかし、その手が震えているのが見ずとも伝わって来る。

私もまた、指示するだけで自分は銃すら持たないのがとても苦しく感じた。

 

責任は自分が負うと言いながら、撃つのは生徒たち。それがどれほど酷なことか分かっている。

それでも、みんなを守るためには――命じなければならなかった。

 

「対象を排除します。」

 

アリスさんが再びチャージを開始する。もうこれ以上撃たせるわけにはいかない。みんなに攻撃を指示しようとした、その時だった。

 

「そこまでだ。」

 

低く鋭い声が耳に届いた。瓦礫の上を歩く音がどんどん近づいてくる。

振り返るとそこには、黄泉先生がいた。その表情に焦りは微塵も感じられない。いや……寧ろこうなる事が分かっていた(・・・・・・・・・・・・)かのように、とても落ち着いていた。

 

「……後は俺に任せろ。」

 

たった一言。たけど、その言葉にものすごく安堵している自分がいた。

 

「色々聞きたいことはあるが――アリス、俺の前でこれ以上暴れることは許さん。武器を置き、大人しくいつものアリスに戻れ。」

 

黄泉先生はそう言いながら、アリスさんとの間に静かに立ちはだかった。

風が吹き抜け、彼の刀身からは小さく雷光が散る。その後ろ姿はまるで、暴れる神話の怪物を鎮める"死神"のようだった。

 

しかしアリスさんは少しも臆することなくレールガンを構えた。

 

「妨害要素を排除し――」

 

「……暴れることは許さんと言ったはずだ。」

 

――瞬きする間の出来事だった。

黄泉先生の姿が掻き消え、気づけばアリスさんの背後に立っていた。そしてその手刀が、ためらいもなくアリスさんの意識を断ち切る。

倒れ込む彼女を、黄泉先生はそっと受け止める。まるで壊れ物を扱うように、優しく。

 

「とりあえず、アリスちゃんの暴走は止まった……。」

 

「よかった……!」

 

黄泉先生に抱えられるアリスさんを見て、みんなは安堵の息を漏らす。だけど私は彼らの背後に光る5つの薄ピンクの光を見た。

あの白いロボットたちはまだ動いていた。奴らはアリスさんを奪い返すために、黄泉先生に向けてエネルギー弾をチャージしていた!

 

"黄泉先生!後ろ――!"

 

私が叫んだ、次の瞬間!

 

 

ダダダダダダッ!!

 

 

何者かが颯爽と現れて、ロボットたちに弾丸の雨を浴びせた。その正確かつ高威力な射撃により、ロボットたちは成す術なく地に伏せる。

 

「さすがだな。」

 

黄泉先生は少しだけ背後を振り返る。その立ち姿に焦りは一切無いどころか、笑っているようにも見えた。

その視線の向こうに立つのはミレニアムの最高戦力を誇るC&Cのリーダー、ネルさん。彼女を目にするのはミレニアムタワーで会って以来だ。

 

「チッ……分かってたなら自分でやれよな。アンタならできただろ。」

 

「お前がやると分かっていたから任せた。」

 

「……そーかよ。」

 

素っ気ない返事をして、ネルさんは黄泉先生から視線を外した。心なしか彼女の頬が薄っすら赤くなっているように見える。

 

「あれっ、もしかしてリーダー照れてる?」

 

「遠回しではありますが、黄泉先生に『信頼している』と言ってもらえたのが嬉しかったのでしょう。」

 

「はァ!? 照れてねーよぶっ殺すぞ!!」

 

後から現れたアスナさんとアカネさんにイジられて、ネルさんは顔全体が赤くなる。それは怒りによるものか、はたまた……。

 

「嬉しかったことは否定しないのですね♪」

 

「アカネ、テメェ!!」

 

追い打ちをかけられたネルさんがさらに声を張り上げた、その時――

 

 

ギギギ……

 

 

金属が擦れる音と共に、ネルさんに撃たれたロボットたちが起き上がるのが見えた。それも6台全て。

 

「リーダーの攻撃をまともに食らってもまだ動くのか……。」

 

「ロボットにしては随分とタフだな。お前ら、さっさと終わらせるぞ。」

 

ネルさんの命に、全員が声を揃えた。

 

「「「 了解!」」」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……なかなか起きねぇな。」

 

"……そうだね。"

 

ベッドで眠るモモイさんとアリスさんを見て、ネルさんが呟いた。彼女の言葉に私も賛同する。

あの後、救援に来てくれたC&Cによって白いロボットたちは倒され、モモイさんとアリスさんはシャーレ居住区の救護室に運ばれた。ミレニアムではなくシャーレに運ばれたのは、黄泉先生が「信頼できるやつがそばにいる方がいい」と言ったからだ。シャーレなら常にアルさんたちがいるし、もし再びアリスさんが暴走しても必ず抑えてくれるという安心感があった。

ちなみに、その黄泉先生はアリスさんのレールガンを部室に運ぶため、一旦ミレニアムへ戻っている。

 

あれから3時間が経過したけど、2人は起きる気配が全くない。アリスさんに至っては何かにうなされるように額に汗を浮かべていた。

 

アリスさんが暴走した理由は、あの白いロボットと接触したことが関係しているという結論になった。あの時アリスさんは『このロボットを知っている』と言っていたので、それは間違いないだろう。

だけど、1つ引っかかっていることがある。

 

あの時のアリスさんは――アリスさんじゃなかった。

別の誰かが中にいたみたいに、冷たく、まるで感情のない瞳をしていた。

 

「無理に考えても意味ねーと思うぜ。」

 

ネルさんに言われてハッと顔を上げる。

悔しいけど、確かに彼女の言う通りだ。今の私たちは持ち得る情報が少なすぎる。

 

私は軽く息を吐き、ネルさんに顔を向けた。普通に丸椅子に座ってるけどやっぱり不思議な感じがする。

 

"……まさかネルさんが一緒に来てくれるなんてね。"

 

「なんだよ、あたしがここにいたらマズいことでもあんのか?」

 

わざと意地悪そうに笑うその顔が、どこか柔らかい。モモイさんたちが“怖い”と評していたイメージとは、ずいぶん違って見えた。

……そういえば、さっき黄泉先生の言葉に照れてたような? 案外素直な人なのかもしれない。

 

"そうじゃなくて、アリスさんと仲良くしててくれてたんだなって。"

 

私がそう言うと、ネルさんは分かりやすく目を見開いた。

 

「は……?」

 

"ここに来る時、アリスさんのことを詳しく聞いてきたからそうなのかなと思ってさ。"

 

「だっ、誰がこんな奴と仲良く――!」

 

ネルさんがいきなり大きな声を出したため、私は慌てて人差し指を口元に当て、『静かに』のジェスチャーを送った。それを見た彼女は慌てて口を塞ぎ、「悪い……」と一言謝った。やっぱり素直な子だった。

 

「……ゲーム開発部について調べているうちに、よく遊ぶようになったんだよ。ゲーセンで格ゲーやったり、ゲーム開発部の部室で遊んだりよ……。」

 

"ネルさんはゲームが好きなんだね。"

 

「……そうだよ、悪いかよ。」

 

"悪いだなんて、そんな。"

 

どうやらゲーム開発部のみんなは私が知らないところでネルさんと交流を深めていたみたい。ミレニアムの生徒会を襲撃した時はあんなにネルさんを怖がってたのに、何が起きるか分からないものだなぁ。

 

そこからしばらく沈黙が続いた。一応話すネタはあった。なんなら今だから聞くべきことだったんだけど、自分が望む答えと違っていたらどうしようと不安になっていた。

 

「……聞きたいことがあるなら聞けよ。」

 

"え……。"

 

「変にソワソワしやがって気持ち悪い。アンタも先生なら、少しは黄泉を見習ったらどうだ?」 

 

ぐさり、と胸に刺さる。

確かに黄泉先生なら、迷うことなく真っ直ぐ聞くんだろうなぁ。

 

"じゃあ……ネルさん、1つ聞いてもいいかな。"

 

ネルさんは返事をしない。

それでも私は、思い切って尋ねた。

 

"今回、アリスさんはどういうわけか暴走した。こちらの話も聞かないでレールガンを放った。そして、モモイさんはその攻撃で倒れてしまった……。"

 

"……これを聞いて、ネルさんはアリスさんをどう見る?"

 

もし……ネルさんがアリスさんのことを「キヴォトスの敵」として見たら、せっかく仲良くなった2人の間に亀裂が入ったらどうしようかと考えていた。だから聞くのが怖かった。

 

「くだらねー質問しやがって。」

 

呆れるかのような溜息をついて、そう言い放った。

 

「別に何とも思わねーよ。コイツがいきなり暴れたのは何か理由があるだろうし。」

 

"……!そっか、よかった……。"

 

彼女の言葉にホッと胸を撫でおろす。ネルさんはもう一度溜息をつき、視線をアリスさんの方へと向けた。

 

「チッ……さっさと起きろよな。前に格ゲーで負けた借りを返さなきゃなんねーんだ。」

 

"本当に仲がいいんだね。"

 

その瞬間、救護室の静けさが少しだけ柔らかくなった気がした。

 

……けれど、この時の私たちはまだ知らなかった。

まさかアリスさんを巡って争いが起きるなんて、誰も予想していなかった。

 

 

つづく




読み物の引き算ってホント難しいですね。足すことはいくらでもできるのに。これからも頑張ります。

さらっと黄泉先生の刀がオーパーツだと明言しましたが、詳しい話はまた今度……。

さて……もうすぐキュレネ(スタレ)、イドリー(ゼンゼロ)が来ますね。迎える準備は万端です。ネフェル(原神)は……引かなくてもいいやってことで。


      次回 第二話 不穏の序曲
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