今回は筆が乗りました。逆に乗りすぎてないといいのですが。
シャインポストのバッドエンドルートの動画を見て死にかけました…。流石、パワポケを作った会社ですね。
世界から色が消えた。
そう認識した瞬間、自分の思考が一拍だけ遅れた気がした。
意味が分からなかった。
もう一度、瞬きをする。
世界は何事もなかったかのように色を取り戻していた。
夜の冷たい空気。
焦げたアスファルトの匂い。
遠くで崩れる建物の軋み。
音も、風も、鼓動さえも――確かに、元に戻っている。
(……幻覚、か?)
この状況でそんなものを見るほど、疲労が溜まっているのだろうか。
いや、違う。
胸の奥に残っている“違和感”が、それを否定していた。
改めて現実を引き戻す。
目前にいるのは――トキ。
互いに銃口を向け合ったまま、膠着していたはずの状況。
……だが、おかしい。
誰も引き金を引いていなかった。
それどころじゃない。
アスナは銃を下ろしていた。
カリンもスコープから目を離している。
トキでさえ、ガトリングの銃身を微かに下げている。
アカネに至っては――
ハンドガンを地面に落としていた。
「……なん、ですか……これ……」
アカネの声は、絞り出すように震えていた。
あたしだけじゃない。
全員、同じものを見ていたらしい。
「モノクロだった……。白と、黒だけの……世界……」
カリンの言葉に、空気が張り詰める。
「いったい……何が……」
喉の奥が、妙に乾く。
あたしは視線をトキに投げた。
「……トキ。お前は何か知ってんのか?」
「……いえ」
トキは、小さく首を振る。
「私には、何も……分かりません……。」
……誰も理解できていない。
そのことが、逆に異常だった。
その時――
「ッ!?」
背骨をなぞるような感覚に襲われた。
皮膚の内側から、何かが這い上がってくる。
言葉にはできない。
だが、はっきりと分かった。
“何か”がいる。この、エリドゥに。
「……どこだ……?」
周囲を見回すが、答えは見つからない。
まるで――この空間そのものに“視線”が宿ったかのような感覚。
「……もしかして、アレじゃない?」
ふいに、アスナが呟いた。
指差す先にあるのは――
巨大な、無機質な“箱”。
「
トキが何かを呟いた……刹那。
あたしたちは“それ”を見た。
視界を裂くように走った、 赤黒い斬撃。
音はなかった。
一瞬だった。
本当に、一瞬。
だが――
次の瞬間。
バギィィィン――――!!!
空間を引き裂くような音と共に、箱が“両断”された。
宙を舞う、分厚い装甲片。
空に向かって伸びる、赤黒い雷。
遅れて――
爆発のような轟音が夜のエリドゥに響き渡る。
……あたしたちは息を呑んだ。
これが何を意味するのか。
「何か」の正体が何なのか。
もう、分からないフリなんてできなかった。
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「……これでもダメか。」
修復されていく壁を見やりながら小さく呟く。
払い、突き、連続斬り。
考えうる限りの手段で外へ出ようと試みるが、進展はなかった。
その名の通り、何度斬り裂こうとも即座に“元に戻る”その壁は、これまでに相対してきたどんな兵器よりも厄介だった。
刃が通らないわけじゃない。
だが――“通しても意味がない”のだ。
壁一面に貼られているジェルのように柔らかい素材が力を分散してしまう。本来なら容易く両断できるはずの壁も、まるで刃を拒むように歪み、逃げる。
トキの説明によれば、壁の厚さはおよそ6m。
数値だけ見れば決して“分厚い”わけではない。
だが俺の目には、それは“終わりの見えない距離”にしか映らなかった。
天井からの脱出も試みた。
だが跳躍力がわずかに足りない。
ならばと、壁を蹴って登る方法も考える。
しかし少しでも踏み込めば壁そのものが反発し、足をかける場所が消える。
押し返される。
落とされる。
登れそうで登れない。
通信も遮断されており、助けを呼ぶこともできない。
静かな空間でひとり歯噛みする。
そんな焦燥を抱えたままでも――時間というものだけは容赦なく前へ進み続けていた。
そんな時、不意に足が止まった。
呼吸が乱れているわけでもない。
身体が動かないわけでもない。
……ただ、踏み出す意味だけが見えなくなった。
(……俺が行く必要は、本当にあるのか?)
答えのない問いが胸の奥に落ちてくる。
思い出されたのは、リオの言葉だった。
『“黄泉先生が止めてくれるから問題ない”なんて、責任を彼1人に押しつけて、キヴォトス全体のリスクを放置しているだけよ。』
ハルトから聞いたアリスの部屋での出来事。
俺がいない場所で、俺の在り方を突きつけられていた。
俺はただ、願っただけだった。
アリスに笑っていてほしかった。
怯えなくていい場所を与えたかった。
……だが、それは本当に“守った”ことになるのだろうか?
「先生が助けてくれるから大丈夫」
その言葉がいつの間にか、“考えなくてもいい理由”になっていなかったか。
歩みを進めるたび、後ろに影のように付きまとってきていた問い。
俺がいるから、生徒たちは成長できないのではないか――
いつか向き合わなければならないと、ずっと思っていた。
分かっていながら、俺は目を逸らしてきた。
「力のある者が前に出なくてどうするんだ」と、言い訳のように繰り返しながら。
……ふと、あの声が脳裏をよぎる。
『黄泉くんはさ、強すぎるんだよね。』
アイツは……ナツキはあの時から気づいていたのだろう。
対して俺は……何年も遅れて、ようやくここに辿り着いた。
遅すぎた自覚が、胸の奥を締めつける。
外の状況が分からないのも相まって、ここは大人しく彼女たちに任せるべきだという考えが思考の半分以上を占め始めていた。
その時――
『……っ……!』
突如、インカムに走る砂嵐。
ザッ、ザッ……という雑音に混じって、誰かの声が割り込んでくる。
『……ょ……せん……!』
気のせいではない。
やはり、確かに……声だ。
『黄泉先生!!』
耳を裂くような悲鳴。
それは、マキの声だった。
『やっと繋がった! 聞こえてるよね!?』
その焦りようから、外では異常が起きていることがすぐに分かった。
『簡単に今の状況を説明するね! ハルト先生とゲーム開発部、便利屋はタワーに突入したよ!C&Cはトキと戦ってるんだけど……!』
『トキがパワードスーツを着ていてかなり追い詰められてる!このままじゃ4人がやられちゃう!』
「……っ!」
胸の奥が軋む。
俺がここに縛られている間にも、あいつらは前に出ている。
本来、トキと向き合うのは――俺の役目だった。
それなのに何もしていない。何もできていない。
……ああ、笑えるな。
結局、俺は変われないのか。
問題に向き合う代わりに、力でねじ伏せようとしているだけじゃないのか。
守ると言いながら前に立って、生徒たちから“考える機会”を奪っているだけなのではないか。
逃げたい気持ちはまだある。
彼女たちを信じて任せたいという気持ちも本心だ。
――いや、違う。
俺は小さく息を吐いた。
俺は変われていないのではない。
“変わろうとしていなかった”だけだ。
守るという言葉を盾に逃げていた。
力があるという事実に甘えていた。
今回も同じ選択をしようとしているのではない。
今回は――“選び直している”。
だからこそ、俺は考え方を変えることにした。
『今助けるから少しだけ待ってて! だから先生はC&Cの4人をお願い!』
「……その必要は無い。」
『えっ?』
ペンダントをそっと握りしめる。
掌の中で、冷たい金属が少し軋んだ。
斬られるそばから修復するのなら――“再生できないように斬ればいい”。
左腰に携えた刀――『無』。
俺は、静かに語りかける。
力を貸せ、と。
すると、返事をするかのように、空気が歪んだ。
刹那『無』から咆哮のような雷撃が噴き上がった。
己の真の力を誇示できることを喜ぶかのように。
白ではない、青でもない。
赤黒い雷。
空間に“傷”を刻むように、音もなく奔る稲妻。
刀を正面に構え、ゆっくりと引き抜く。
鞘の隙間から覗いた刃は、血のような、筋肉の内側のような赤に染まっていた。
そしてその赤は刀を握る俺の腕へ、液体でも光でもない“何か”が逆流するように広がっていく。
脈打つようにどろりと、肘のあたりまで赤が浸食していく。
皮膚の下を何かが這い回るような熱。
握る手はもはや自分のものではないかのように赤く染まり、刃と同じ色で脈動していた。
視界の右端がじわりと赤く滲む。
鼻の奥が熱を持ち、生暖かい感触が唇を濡らした。
だが。
そんなことは、どうでもいい。
俺は刃を完全に引き抜き、構えもなく一閃。
空気そのものが裂ける音も立てずに“断ち切られる”。
――俺は心の中で誓った。
守ることで、思考を止めさせない。
導くことで、依存させない。
あいつらが前に出る場所を、俺は奪わない。
……だが、あいつらの“可能性を潰す存在”は――俺がこの手で排除するのだと。
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ゴーグルの奥で、システムが赤色に染まり続ける。
警告音はもう意味をなしていない。ただ叫んでいた。
――対処不可能レベルの存在を感知――
――回避不能、逃走推奨――
そんなはず、ない。
そんな存在、キヴォトスには“いないはずだった”。
雷が消えた後の世界は不自然なほど静かで、まるで音そのものが死んだみたいだった。
私は震える指でスーツの出力を確認する。
アクチュエーターは反応しているのに、膝が動かなかった。
黄泉先生が再構結界から脱出した。
その事実だけで、勝てる未来が全て霧散した。
「まさか、アレを突破されるなんて……。」
声は震えていた。
自分の声が自分のものじゃないみたいだった。
「アレって?」
「……黄泉先生が斬った箱は、黄泉先生を戦闘不能にするためにリオ会長が造った結界です。データでは、突破確率0……“絶対に斬れない”はずでした。」
その時、背筋が急激に冷えた。
血の気が引く、なんて生易しい言葉じゃない。
“魂ごと握りつぶされる”ような圧が、こちらに近づいてくる。
空気の密度が上がる。呼吸が浅くなる。
そこに――
「よ、黄泉先生!?その出血はいったい……!?」
アカネ先輩の言葉に全員が息を呑んだ。
立っていたのは、“さっきまでの黄泉先生”ではなかった。
目の縁から、鼻腔から、真っ赤な血が流れ落ちている。
それなのに、その眼だけは異様に静かで冷たかった。
まるで――
あらゆる感情や痛みを“捨てた”人間の目だった。
「安心しろ、死にはしない。」
「そ、そうではくて……!」
いつもと変わらない声だ。
だからこそ、余計に怖い。
こんな出血で平然としているのが、おかしい。
だが、次の瞬間――
「……トキ。」
「ひ……ッ!?」
ただ名前を呼ばれただけなのに、
身体の奥から生理的な拒否反応が走った。
耳の奥でシステムの警告が跳ねる。
――危険度:最大――
――接触禁止――
――逃走推奨――
まるで機械が怯えて悲鳴をあげているみたいだった。
(違う……これ、私自身の恐怖じゃない……!)
アビ・エシェフの演算システムが、外部の情報を拾っている。
エリドゥ全域が“あの男を脅威として認識”していて、そのデータがそのままスーツへ送り込まれているのだ。
そのせいで機体が、脳が、“避けろ、逃げろ、死ぬぞ”と強制的に警告してくる。
「こ……来ないでください!」
意識と身体がちぐはぐで、自分の声なのに制御できていなかった。
(逃げないと……逃げないと殺される……!)
「嫌だ……!やめて……!」
視界が波打つ。
逃げろという命令が頭の中で増殖して、正常な判断が押しつぶされていく。
これはただの恐怖じゃない。私の意志とは無関係に植えつけられた恐怖だ。
そのはずなのに――
「まだ、死にたくな『トキ!!』
突然、戦術用ゴーグルが外され、赤一色の視界から解放される。
「――っ!」
ゴーグルで遮断されていた“余計な情報”が途切れた瞬間、
頭の中の悲鳴が止んだ。
「ネ……ネル先輩……。」
敵のはずのネル先輩が目の前にいて、汗で濡れた顔で私の目を見つめていた。
その目は――怯える私を見捨てていなかった。
その温度が、機械によって上書きされていた恐怖を少しずつ溶かしていく。
「今すぐ武装を解除しろ。これは部長命令だ。」
「は、はい……。」
震える指でコンピュータを操作し、アビ・エシェフを解除する。
自分の足で地面に立った瞬間に膝から力が抜けたが――ネル先輩がすぐに抱きとめてくれた。
……申し訳ありません、リオ様。私にはもう、戦えるような気力は残っていません……。
「大丈夫か。」
「黄泉、先生……。」
地面にへたり込んでいると、黒いズボンが視界の端に映った。
顔を上げると、そこにいたのは黄泉先生。
さっきまでの恐ろしい気配は、もうどこにもない。
先生は静かにしゃがみ込み、右手でそっと私の頬に触れた。
なぜそんなことをしたのかは分からなかったけれど……その表情は、どこか微笑んでいるように見えた。
やがて先生は立ち上がり、中央のタワーへ視線を向ける。
「俺はこのままタワーに向かう。……トキのことは頼んだ。」
その声に、ネル先輩たちが強く頷く。
高く跳躍した先生の背中が見えなくなったところで、私の意識は暗闇へ沈んだ。
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エリドゥタワー最上階。
重い金属扉が開くと、冷たい空気が一気に流れ込んできた。
『アリスの反応は、すぐ奥の部屋だよ。』
ホログラムのチヒロさんがを端末を操作しながら、道案内をしてくれる。
私たちはその案内に従い、薄暗い通路を駆け抜けていく。
だが――
(……ん?)
一瞬、世界から色が消えたような錯覚に襲われた。
まるで視界が“白黒”になったような――そんな妙な感覚。
すぐに色は戻った。
疲れから来る錯覚だと自分に言い聞かせ、頭を振って走り続ける。
(今は気にしてる場合じゃない。アリスさんが危ないんだ。)
しかし、部屋までもう少しというところで。
「待って!何か来る!」
ミドリが叫んだ直後、前方の壁がガシャリと開き、複数のセキュリティロボットが姿を現した。
赤い警告灯が閃き、鋭いモーター音が通路に響く。
モモイが銃を構えながら言った。
「ここまで来たんだ、もう全員で戦お!一気に突破するよ!」
"ああ! 全員、戦闘準――"
そこまで言いかけたところで、アルさんが手を伸ばして制止した。
彼女は静かに私の前へ出る。
アルさんは銃を握り直し、言った。
「……ハルト先生、ここは私たちが食い止める。あなたたちは先生と一緒に先に進んで。」
「アルちゃん……?」
瞼を上げたアルの瞳は、迷いが一つもなかった。
「ネルさんとの約束したの。あなたたちを無傷でアリスさんの下へ届けるって。」
その言葉に続くように、ムツキさん、カヨコさん、ハルカさんも前に出た。
同時にロボットたちがこちらに銃口を向ける。
「行って!アリスさんのところへ!」
その力強い一言が、全員の背中を押す。
迷いのあったモモイさんたちの瞳には、雲1つなかった。
私はすぐにチヒロさんに通信を飛ばした。
"チヒロさん! 別のルートで案内してくれ!"
『そう来ると思ってたよ。いつでも行ける。』
チヒロさんは自信たっぷりに返事をする。
彼女と笑顔を合わせ、モモイさんたちに向けて鼓舞した。
"よし! みんな、行こう!"
「はい!」
「待っててアリスちゃん!」
「みなさん、行ってきます!」
足を一歩踏み出す度に、銃声が少しずつ小さくなっていく。
必ずやり遂げよう。
アリスさんを助けて、みんなでシャーレに帰る。
その思いを胸に、私たちはアリスのいる部屋へと急いだ。
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チヒロさんが探し当てた別ルートを使い、私たちは遂に目的の部屋に辿り着いた。
そこはオペレーションルームのようで、電子パネルの青い光が私たちを照らした。
「……本当に、ここにアリスがいるの?」
モモイさんが一歩踏み出す。その時――
「ええ、アリスはここにいるわ。」
暗闇から現れたのは、全身をスーツに包んだ1人の少女。
セミナーの長、そしてエリドゥの建造者であるリオが遂に姿を現した。
「リオ会長……!」
「アリスを返し――」
即座に攻撃態勢に入る3人。
しかし私は攻撃しないように指示した。
私は一歩前に出て、彼女に声を掛ける。
"……なんだか、元気がないね。"
タワー前で話した時の威勢はどこへやら。リオにあの時の気迫は無かった。
代わりにあるのは、全てを諦めたかのような暗い雰囲気。
リオは少し間を置いて話し始めた。
「……仕方がないでしょう。私たちは"負けた"んだもの。」
"「「 えっ……!?」」"
「会長が、負けを認めた……?」
私たちは揃って衝撃を受けた。
『ここは私の敷居』と言っていた彼女がそんなことを言うなんて。
リオは続ける。
「あなたたちも見たんじゃないの? 突然広がった、モノクロの世界を。」
再び、衝撃。
(……やっぱり、あれは“気のせい”じゃなかったんだ)
胸の奥がざわつく。
モモイさん、ミドリさん、ユズさん。
誰もが顔を強張らせている。
全員が、あの瞬間を“見た”――そう理解した。
リオは淡々と告げる。
「あれは――黄泉先生が力を発揮したから起きたのよ。」
黄泉先生……?力……?
もう何が何だか分からなくなってきた。後ろにいる3人も頭に「?」が浮かんでいるのが表情を見なくても感じ取れる。
その時、ふと先生の言葉を思い出した。
『一言で表すなら、この世界をひっくり返せるような力を持つ物たちのことだ。』
黄泉先生がそう説明していた「オーパーツ」。先ほどのモノクロ世界がオーパーツ……黄泉先生の刀の力によるものなら、納得がいく。
世界をひっくり返す……どうやらその力は言葉通りらしい。
「結果、黄泉先生はバリアから脱出。トキも戦意喪失してしまった。敗者以外の何者でもないわ。」
"そっか……。"
どうやらトキは黄泉先生が倒してくれたらしい。
いずれにせよ、先生が無事でよかった。私はそう胸を撫で下ろした。
「それで……アリスをどうするつもりなの?」
青い光に照らされながら、リオが私に問いかけてきた。
その声にはタワー前で見せた自信も気迫もなく――ただ、迷いだけが滲んでいた。
私はさらに一歩前へ出て、静かに言葉を紡ぐ。
"……リオ、タワー前の広場で伝えたよね。一緒に誰も傷つかない方法を考えようって。"
"君の言ってることはキヴォトスのことを考えたら正しいのかもしれないけど……自分の考えを他人に押し付けるのはよくないよ。"
「それは……。」
あの完璧主義のリオが、はっきりと目を逸らした。
自分が間違った可能性を認めたくない――そんな幼ささえ見える。
しかし、私は言わねばならない。自分が何をやったのかを心で理解させるために。
"――きっとヒマリさんも、自分を頼ってくれることを願っていたと思うよ。"
「っ!!」
リオの目が開かれる。
その反応が全てを物語っていた。
"君とヒマリさんの関係は黄泉先生に聞いた程度でしかないから細かく言うつもりはないけど……結論を急がず、話し合うことはでき――"
「違う!」
……あのリオが、声を荒げた。
きっと認めたくないのだろう。彼女は恐らく、これまでも自分を疑うことなく突き進んできたから。
考えを改めるのは難しいことだと思う。
それでも、私は先生として彼女を正しい道へと導かなければならない。
「それは違う、私は……!……私は……。」
その瞳がこちらを見る。
頼りなく揺れながら、必死に何かを求めている目だった。
私は彼女に歩み寄り、その震える肩にそっと手を置く。
"大事なのは自分の間違いを認めることだ。それは決して簡単なことじゃない。でも、リオさんはそれができている。"
"一緒にやり直そう。他の人が何と言おうと、私は君を見捨てたりしないから。"
「ハルト、先生……。」
私を先生失格だと言っていた彼女が、ようやく『先生』と呼んでくれた。
その事実が、ただ嬉しかった。
その時、通信が入る。
『みんな、アリスの居場所が分かったよ。その施設の隣、電力が集中している場所に彼女はいる。』
チヒロさんがアリスさんの居場所を突き止めてくれた。
通信を聞いたモモイさんたちから歓声が上がる。
"良かった……。それじゃあリオさん、また後で話そう。"
「……はい。」
そして私たちは部屋の奥にある扉へと向かう。
扉を開けると――そこには確かに、アリスさんが静かに横たわっていた。
「「「 アリスちゃん!!」」」
3人はようやく会えたアリスの元に駆け寄る。
しかしアリスさんは目を覚さない。麻酔か何かで眠らされたのだろうか? となると起きるのには時間がかかりそうだ……。
そんな事を考えた、次の瞬間――。
ピピピッ
部屋に電子音が響いた。そしてそれは、アリスさんから聞こえた。
廃墟で出会った時のように目を覚ましてくれる――そう思っていた。
起き上がった彼女を見た瞬間、それはアリスさんではないことに気づいた。
深い理由なんてない。
ただ、彼女からは"心"が感じられなかった。
私は即座にアリスさんを包むようにバリアを張り、モモイさんたちが近づけないようにした。
「えっと……ハルト先生? 何してるの?」
当然、モモイさんたちは分からない。
しかし説明している暇もなかった。
今すぐに彼女たちを安全な距離へ避難させなければならない。
"……みんな、今すぐ部屋から出るんだ。"
「ど、どうして? せっかくアリスを助けたのに……。」
"そこにいるのは、アリスさんじゃない。"
「先生、いったいどうし――」
"言う通りにするんだ!"
突然声を荒げた私に驚き、3人は慌てて部屋を出る。最後に私も部屋を出たところで"彼女"が口を開いた。
「……まさか、私に気づくとは思いませんでした。」
その声を聞いた瞬間、背中に冷たいものが走った。
アリスさんの声帯を使っているはずなのに、温度が全く違う。
柔らかさがひと欠片もない。
ただ“冷たく正確な音声”がそこにある。
「ア、アリスちゃん……?」
「『アリス』……? それは、あなたたちが私たちの『王女』を呼ぶ際の名称……。」
「『王女』に名前は不要です。名前は存在の目的を乱します。」
恐らく彼女はアリスさんの暴走形態。しかし今回は運良く会話ができている。
私は喉の奥がひどく乾くのを感じながら、刺激しないように言葉を選んだ。
"君は、誰だ……?"
彼女はゆっくりと顔を上げる。
その瞳が、淡い紫光を帯びてきらめいた。
「私の個体名は〈Key〉。王女を助ける無名の司祭たちが残した修行者であり、王女が載冠する玉座を継ぐ『鍵』Keyです。」
その視線は機械的ではない。
しかし人間的でもない。
ただただ“目的に向けて研ぎ澄まされた刃”のように、
静かに、確実に、私を貫いていた。
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カツン、カツン――。
足音だけが、妙に大きく響いていた。
冷たいコンクリートに跳ね返った音は何度か反射したあと、吸い込まれるように消えていく。
エリドゥタワーの地下。
薄暗い通路の両側には鉄格子の部屋が並んでいた。
空気はひんやりしていて、誰も息をしていないみたいに静か。
考えるまでもない。ここは地下牢だね。
私はハルト先生たちとは別行動。
理由はただひとつ――ヴェリタスの部長さんを助けるため。
天才ハッカー、“全知”の称号所持者、ヴェリタスの創設者にして部長。
そしてなにより――リオ会長の、古くからの友人。
……肩書だけ並べると、改めてとんでもない人だ。
そんな人が、こんな所にひとり閉じ込められているなんて。
可哀想、なんて軽い言葉じゃ追いつかない。リオ会長の友人であるから尚更に。
私はヴェリタスから送られてきた座標を照らし合わせ、静かに歩みを進める。
目的の牢には確かに人影があった。
鉄格子に手を伸ばし、軽くコンと叩く。
「助けに来たよ。ヒマリ。」
車椅子の少女がゆっくりと顔を上げる。
白い髪が僅かに揺れ、冷たい光を受けて柔らかく光った。
そして――彼女は、静かに微笑んだ。
つづく
何気に作品初の並ラーメンです。
あ、でも詠唱してないからノーカンかな? 次はもっとカッコよく書きたい。
黄泉先生がどうやって刀と出会ったのかとかもいずれ書きたいですね。はたして何か月後になることやら…。
タイトル考えるのサボりすぎてごめんなさい。
次回 勇者救出作戦 その5