クリスマスまでにどうあがいても間に合わないので吹っ切れました。
まぁ、オリジナル要素をマシマシにしたのが主な原因なのですが…。
それでも、絶対に楽しんでいただける、はず…。
薄暗い地下牢。冷たいコンクリートに囲まれたその場所に、彼女はいた。
私の声に気づいたヒマリは車椅子を動かし、こちらに体を向ける。静かに座っているその姿は、まるで電源を落とした人形のようだった。
「こんばんは、ウタハさん。このような形でお会いすることになろうとは。」
「……『全知』の君がこんな寂しい場所に閉じ込められるなんて。リオ会長と喧嘩でもしたのかい?」
「まぁ、そんなところですね。」
そう言ってヒマリは口元に手を当て、くすくすと笑った。捕まっていたのに笑うなんて、随分と不思議な人だ。
2人の関係があまり良くないことは知っていたけど……ここまでやる必要があったのだろうか?
……いや、逆だ。
リオ会長はヒマリの頭脳を恐れている。自分の計画を邪魔されないために彼女をここに閉じ込めたんだ。
「とにかく出してあげるよ。念のため、そこの毛布を被って離れていてくれ。」
私はポケットから小型の爆弾を取り出し、鉄格子の鍵穴部分に装着する。
ヒマリがベッドにあった毛布を頭から被ったのを確認し――点火。
ボンッ!
小さな爆発、されど威力は十分。
鍵穴は吹き飛び『キィー……』とゆっくりと出入り口が開いた。
私はすぐに中に入り、ヒマリの毛布を取り外す。
「おいで、ヒマリ。」
車椅子の移動の妨げにならないよう周りのものを少し移動させ、彼女を呼ぶ。
するとヒマリは再びくすくすと笑った。
「今のセリフ、まるで王子様のようでした。」
「そ、そうかな?」
その言い方にはからかいよりも――どこか懐かしむような響きがあった。
特に意識してたわけじゃないけど、そう言われるとちょっと恥ずかしいな……。
「リオ会長はハルト先生とゲーム開発部の皆に任せてある。私たちは一刻も早くこのタワーから脱出しよう。」
そう言ってヒマリを案内しようとしたけど、彼女はその場から動かなかった。
私もその場で立ち止まり、振り返る。
ヒマリは何かを決意したかのような顔をしていた。
「ウタハさん、申し訳ありません。私は最上階に向かわなければなりません。」
「……リオ会長のところへ行くのかい?」
「ええ。私の知るリオなら、また事件を引き起こすはずですから。」
仲が良いんだが悪いんだか。
それでも私は彼女を止めることはできなかった。
「分かった。私も一緒に行くよ。」
「ふふっ。お側に王子様がいてくれたら心配ありませんね。」
「……その呼び方は頼むからやめてくれないかな?」
そんな会話を交わしながら、私たちはみんなが待つ最上階へと向かった。
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「私の個体名は〈Key〉。王女を助ける無名の司祭たちが残した修行者であり、王女が載冠する玉座を継ぐ『鍵』Keyです。」
アリスさん……もとい、暴走したアリスさんは自らをそう説明した。
あの日私が感じていた『人が変わったような感覚』は決して間違いではなかったようだ。
暴走したアリスさんは、彼女の意識の奥深くで眠っていたKeyのこと。そして王座を継ぐということは、最終的にKeyがアリスさんに成り代わるということだろう。
……考えうる中で、最悪のパターンだ。
Keyはアリスさんを守る存在ではない。アリスさんという「王女」を完成させるための装置だ。アリスさんを王座に載せ、それを継ぐということは、最終的にアリスさんが消えるということを意味する。
それでも、力で止めることはできない。
力による停止=アリスさんの死。ここまで自由に喋っている以上、あの時のように気絶してアリスさんに戻る確証もない。
だから選択肢は1つしかない。
Key自身に止まってもらう。
彼女を説得し、意識をアリスさんへ返してもらうしかない。
だけど、それは単純な話じゃない。
「只今よりエラーを修正し、本来あるべき玉座に王女を導かせていただきます。」
Keyがそう言うと、部屋にある全電子パネルが紫色の光を放つ。それと同時に、地面から突き上げるかのような振動が私たちを襲った。
「な、なに!?」
「地震!?」
突然の揺れに恐怖し、モモイさん、ミドリさん、ユズさんは集まり、抱きしめ合う。
その間にもKeyは準備を進めていた。
「……リソース名、要塞都市『エリドゥ』の全体リソース――1万エクサバイトのデータを確認。」
その一言で彼女が何をしようとしているのかを理解した。悔しいけど、Keyの説得は後回しにせざるを得ない。
彼女を自由にさせないためにバリアを張ったのに、全く意味がない。 さすがに通信遮断の性能は無かったか……!
『ごめんなさい!ポンコツアロナでごめんなさい!』
謝る必要なんてない。これは仕方のないことだ。
すぐに私はシッテムの箱を操作し、"彼女"に連絡を飛ばす。
「現時刻をもって、プロトコルATRAHASISを稼働。コード名『アトラ・ハシースの箱舟』起動プロセスを開始します。」
長いロードが終わり、Keyはそう宣言した。
アトラハシース……。どこかで聞いたような気がしたけど、思い出すことはできなかった。
彼女はさらに続ける。
「プロセスサポートのため、
刹那、シッテムの箱から悲鳴に似た声がとんできた。
『先生! エリドゥのあちこちに新たな敵が現れました!』
"敵だって……!?"
『追従者……前に見た、白く丸いロボットです!』
画面に映し出されたのはエリドゥの地図とそこに出現した敵を示す赤い点。1つ、また1つと増えていき、とんでもない勢いで画面を埋め尽くしていく。
予想外。だけどこれは無視だ。
機械兵に構っている暇なんてない。
連絡は既に飛ばした。後は向こうからの連絡を待つのみ……!
「箱舟製作に必要なリソース、23%……。」
Keyによる終焉の読み上げが始まった。
しかもかなりロードが早い。頼む、間に合ってくれ!
その時、リオさんが黙って私の前に出た。
"……リオさん?"
「こうなってしまったのは私の責任。ハルト先生は3人を連れてここから逃げて。」
「恐らく彼女はエリドゥを終焉の発端にさせるつもりよ。私が全てを収めるから、早く逃げてちょうだい。」
リオさんの表情は変わっていた。
あれは恐怖じゃない。――決意だ。
"……1人犠牲にでもなるつもり?"
「ええ。」
彼女は静かに呟き、操作端末に手を伸ばす。
次の瞬間、警告音が鳴り、防衛ロボットの起動を示す表示が次々と立ち上がった。
ここでKeyを食い止める。
その代償として――自分が残る。
これが最も合理的な解だと彼女は本気で信じているのが分かった。
…………46%…………
彼女は何も理解していなかった。
さっき話をした時は分かってそうだったのに。
だから、私は少し強い口調で伝えた。
"……リオさんの考えって、かなり極端だよね。"
彼女がこちらを睨む。
それでも私は続けた。
"この世界に、犠牲になって死んでいい人なんていないんだよ?"
「……無理よ。」
一拍の沈黙のあと、吐き捨てるようにリオさんは言った。
「全員が助かる方法なんて、存在しない……!」
…………57%………………74%………
その言葉に、私は小さく息を吐く。時間がほんの一瞬だけ止まったように感じた。
怒りでも呆れでもない。ただ――決意が
何がどうしてそのような考えに囚われるようになったかは分からない。だからこそ、彼女を救ってあげたいと心の底から思った。
"それじゃあリオさん、私から君に宿題を出そう。"
「しゅ、宿題……?」
"それは――"
……………99%…………
"何のためにヒマリさんやユウカさんが近くにいたのかを――自分の言葉で説明できるようになること!"
『ノア、やって!』
『えいっ!』
ユウカさんとノアさんの声が聞こえた、次の瞬間。部屋全体が暗闇に包まれた。
……いや、それだけじゃない。
ほんの一瞬のうちにエリドゥ全体から“光”が消え――
闇が要塞都市を包み込んでいた。
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「リソース確保、失敗。システムシャットダウン。」
Keyの言葉を聞いて私は思わず胸を撫で下ろす。かなり……いや、間に合わなくてもおかしくなかった。
残り1%……。心臓に悪すぎるよ、2人とも……。
とは言え、Keyはエリドゥの乗っ取りを諦めてくれた。私はユウカさんとノアさんに連絡し、電力を復旧させる。
そして2人はすかさずリオさんに通信を繋げ、軽くお説教をするのだった。
――さて、ここからが勝負だ。
『全電力供給の停止』というカードを手にした私たち。Keyが再びエリドゥを乗っ取ろうとすることもないだろう。
もう成す術はないはず。しかし念のためバリアを彼女の周りに張る。
そしてようやく、アリスを返してもらうよう説得することができる。
「アリスちゃんを返して!」
「もう何もできないよ!」
そう強く出るのはモモイさんとミドリさん。
「お願い、アリスちゃんに会わせてよ……!」
ユズさんは目に涙を浮かべて懇願した。
しかし、Keyは反応を全く見せない。それどころか、何かを探すかのように辺りを見回している。
その時だった。
「――見つけました。」
その声に、喜びはなかった。
ただ“答えに辿り着いた”という確信だけがあった。
刹那、彼女はバリアに拳を叩きつける。
大砲か何かを受け止めたかのような轟音。
私たちは目を疑った。
バリアに少しずつヒビが広がっていく。そして――
バリィィン!!
バラバラに砕け散る。
ゴリアテの砲撃にも耐えたはずのバリアが、簡単に破壊されてしまった。
それはつまり、彼女の拳にはそれ相応のパワーがある。今のをモモイさんたちが食らえば、最悪――
「ひっ……!」
ユズさんが尻もちをつく。
かく言う私も、離れた位置から見ていたリオさんも、全く動けなかった。
Keyは――笑っていた。
戦いはまだ終わっていない、まだ勝機はあると確信したような、不気味な笑みだった。
次の瞬間、Keyの姿が――消えた。
それと同時に聞こえた、パリンという音。
振り返った先で、窓ガラスが割れていることに気づいた。
……まさか、ここから飛び降りたのか!?
"そんな……!"
「せ、先生!危ないよ!」
Keyの行方を追おうと、私は無意識に身を乗り出していた。このタワーの高さは200mを超えているが、恐怖は無かった。
モモイさんとミドリさんに引っ張られてようやく窓辺を離れる。飛び出したKeyを見つけることはできなかった。
「まさか、エリドゥから逃げるつもり!?」
「ま、まずいよ! あんなのが逃げ出したらキヴォトスは……!」
不安が一気に広がる。あれがキヴォトスに放たれると考えると、背筋が凍った。
その時、アロナからの報告が入った。
『ハルト先生! Keyさんが逃げた方向ですが――』
『黄泉先生がいます!』
"なっ!?"
「うわっ!ど、どうしたの!?」
思わず叫んでしまった。
アロナを感知できない周りからすれば、いきなり叫んだように見えるだろう。
だけど、そんなこと気にしている暇はなかった。
すぐに頭を回転させる。なぜKeyは黄泉先生の方へ向かった? 『玉座に王女を導く』と言っていたが、黄泉先生と何の関係がある? なにか勝つ算段があるということか?
Key………アリス………オーパーツ………。
瞬間、1つの答えが導き出された。
"まさか、Keyの狙いは黄泉先生の刀……!?"
だが、それを使って何をするつもりだ?
――まさか!?
瞬時に浮かんだ"それ"は、実現させるわけにはいかない最悪のシナリオ。
私は即座に黄泉先生に、通信を飛ばした。
"黄泉先生!聞こえますか!?"
返事はすぐに返ってきた。
『そう叫ばずとも分かっている。』
"それって――"
『切るぞ。』
一瞬で通信は切られた。
"どうやら、既に会敵しているらしい……。"
私の言葉に、全員が言葉を詰まらせる。
「黄泉先生は勝つよ!」
「あの白黒世界も本気の黄泉先生がやったんでしょ? じゃあ負けるわけないじゃん!」
モモイさんとミドリさんが言う。
「……でも」
静かに、リオさんが呟いた。
「あれだけの力、何かしらの代償があるのでは……。」
……負けるはずがない。黄泉先生なら必ず勝つ。
そう信じたいのに、信じきれない自分がいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……面倒なことになった。
それは書類作業が滞ったとか、暴動が次から次に起こったとか、そんな生易しい話じゃない。
視界の中心にいるのは、アリス。
だが、あれはアリスじゃない。
彼女の中に眠っていた、別の人格。
そう表現するのが一番近いだろう。
奴は不敵な笑みを浮かべ、真っすぐこちらを見据えている。
何がそんなに可笑しいのか。こちらは少しも笑えないというのに。
「……あなたが持っているその刀。オーパーツですよね?」
その声が、やけに耳に障った。
ガワがアリスだからか――それとも、意図的なのか。
勇者ごっこをしていた頃の姿が嫌でも脳裏をよぎる。
「ああ。」
短く答えると、奴は満足そうに目を細めた。
……なるほど。狙いは最初からそれか。
ゲマトリアのクズ共といい、どうしてこう、ロクでもない連中ばかり寄ってくるんだろうか。
この刀は特殊だが、とてもお前たちに扱える代物ではないと言うのに。
「もしよろしければ、そちらを貸していただけないかと。」
俺は視線を落とし、『無』を見る。
鞘は静かに――だが、明確な拒絶を示すように雷を弾かせていた。
ここまで露骨なのは、初めてだな。
「生憎だが、こいつはお前に触れられるのを相当嫌がってる。」
刀から視線を戻し、告げる。
「大人しく諦めろ。そして――アリスに身体を返せ。」
言葉が届くとは思っていない。
だが、言わずに斬るほど俺は短気じゃない。
俺は静かに柄へ手を添える。
いつでも抜刀できるように。隙は一切見せない。
「では……仕方ありません。」
「――さっさと来い。」
刹那、視線を感じた。
建物の影に潜む何か。それは全方位に、俺を囲むようにしてこちらを見ている。
「攻撃、開始。」
その声と共に現れたのはDivi:Sionだった。それもおかしなことに、こちらに弾丸やビームは撃ってこず、ただ突撃してくるのみ。
「鬱陶しい……。」
虫のように飛び掛かってくるDivi:Sion共を次々に斬り刻む。真っ二つに別れた機体は爆発四散し、塵となって消える。
「この追従者たちは無限に召喚が可能です。諦めたほうが身のためだと忠告しておきます。」
「ならば、全て斬り伏せるまで。」
そう話す一方で、奴はその場を全く動こうとしない。ただ何かをじっと待っている。
Divi:Sionの軍勢を500ほど斬った後、隙を見て俺は勢いよく正面を薙ぎ払い、奴に向かって突っ込んだ。
今は斬るつもりはない。どうにかしてアクションを起こさせる。
一瞬にして近づき、刀を構えた。
避けるか、カウンターか。何でも来い。
だが、その反応は全く予想外のものだった。
「なるほど。あなたとその刀は波長が同じなのですね。」
「――ッ!?」
心臓を思い切り握られたかのような感覚を覚えた。
俺は刀を振り下ろすことなく、奴の横を通り過ぎる。
「その反応、どうやら正解のようです。」
「……どうやって気づいた?」
「簡単です。あなたが斬り刻んだ追従者たちを利用して、解析させていただきました。」
……なるほど、奴らがただの突撃しかしてこなかった理由はこれか。俺はまんまと罠にかかり、自ら情報を提供していたらしい。
「あなたは刀を"使っている"のではなく、"使うことを許されている"……。私がその刀の適正者になる未来が見えてきましたね。」
そう言って奴は笑った。
これは本当に、面倒なことになってきたな……。
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何かの冗談だと思っていた。何のためかは知らないが、奴に俺の刀を使えるわけが無かった。
体の波長を変化させるなど不可能。波長は生まれ持った性質であり、多種多様だ。
……だが、そもそも奴に波長が存在するのか?
アリスとラベンダー畑に出かけたあの日、彼女はさも当然のように刀に触れていた。それについて『無』に尋ねてみたが、「気付かなかった」と答えた。
波長が無かったために触れることができた。しかし、波長が合わなかったために刀を抜けなかった。
こう捉えるのが正解だろう。
奴はロボットであり、オーパーツ。波長を生み出し、変化させることなど赤子の手をひねるようなものなのかもしれない。
加えてその自信。ハッタリをかましているようには見えなかった。
奴は着実に、俺に近づいてきている。
それに加えて――
「っ……。」
止まっていたはずの血がまた流れ出て、地面に赤い染みを作る。
息もいつもより上がっている。
力を使ったのは5秒程だが、ここまでとは……。
……いや、寧ろこの程度の代償で済んだことに感謝するべきだ。本来ならもっと奪われていてもおかしくない。
さて、ここからどうするべきか。
波長のことは、もうバレてしまった。
奴が刀の波長に合わせるために必要なデータは、恐らく十分すぎるほど取られているだろう。
――なら、次は何をしてくる?
無意識に、柄を握る手に力が入る。
だが、力任せに斬り伏せるという選択肢は最初から存在しなかった。
(生徒の成長を邪魔する存在を排除する……か。)
今しがた自分自身に言い聞かせた言葉を思い返す。
目の前にいるのは、確かにアリスの成長を妨げる存在だ。
だが同時に、奴はアリスの“もう一つの心”でもある。
ここで奴を斬れば、何が起こる?
その答えは分かりきっている。
人格を断てば器もまた壊れる。それはつまり――アリスの死だ。
……そんな結末、誰も望んでいない。
ハルトも、モモイたちも。
そして何よりアリス自身が。
選択肢は少ない。
いや、最初から一つしかないのかもしれない。
俺が今やるべきことは、敵を倒すことじゃない。
アリスを眠りから呼び覚ますことだ。
かつてアリスの心の奥から暴走形態が浮かび上がったように、本来ここにいるべき彼女の意識は心の奥へ押し込められている。
そこに、声が届いたなら。
俺の声でなくてもいい。“彼女を必要としている誰か”の声が、そこに届けば――
アリスは、きっと戻ってくる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エリドゥタワー最上階。
私たちは窓から離れ、この後の動きについて話し合っていた。
"アロナ、黄泉先生の状況は?"
『……なんとも言えません。ただ、Keyさんの目的が黄泉先生の刀ということは確定しました。』
"やっぱりか……。"
予想が当たった。Keyが「見つけた」と言っていたのは、彼女と同じオーパーツである黄泉先生の刀だった。
だけどあの刀は先生以外は使えないはず。にも関わらず飛び出したということは、何か策があると考えるべきだろう。
"黄泉先生が負けるとは思えない。ただ、Keyはアリスさんそのものだから――"
「黄泉先生は下手に攻撃できない。」
リオさんの言葉に私は小さく頷いた。
Keyが死ねば、アリスさんも死ぬ。黄泉先生が彼女を攻撃できるはずがなかった。
その時、鼻を啜る音がはっきりと聞こえた。それに続いてしゃくり上げるような、息を吸う音。
ミドリさんが――泣いていた。
「アリスちゃんは二度と帰ってこないんですか……?」
彼女の頭を、最悪の結末が過ったのだろう。
モモイさんとユズさんが声をかけるが、溢れ出した感情は止まらない。
私は一度深呼吸をする。そしてミドリさんの前にしゃがみ――彼女をそっと頭を撫でた。
"まだ諦めるのは早いよ。どんなに辛い状況でも、必ず希望は残っている。"
「希望って……。私たちだけじゃどうにも……」
ミドリさんが諦めの言葉を吐きかけた、その時――
「突撃ーっ!」
元気で明るい声が響いた。
その声に、全員が出入り口に視線を向ける。そこには――
「みんな! 助けに来たわよ!」
アルさん、ムツキさん、カヨコさん、ハルカさん。便利屋の4人がポーズを決めて登場した。
ああ本当に、この4人はなんていいタイミングで来てくれたんだろうか。
仲間の存在がミドリさんたちの背中を後押ししてくれるはずだ。
「あ……あれっ?」
「えっと……これはどういう状況なのかしら……?」
銃撃戦が行われていると思っていたのか、4人はポカンと口を開けて固まった。
まぁ確かに、さっきまで敵対していたリオさんが円の中に混ざっているのだから、驚くのも無理ないだろう。
その中に、一際異彩な雰囲気を放つ少女が1人いた。
「あらあら、もう終わっていたのですか?」
全身を白色に包み、車椅子に座る少女……。
無意識にこちらの視線を奪う……そんな魅力があった。
"えっと、君は……"
「ヒマリ……。」
私の問いに答えたのは、リオさんだった。
「初めまして、明星ヒマリと申します。リオがお世話になっています。」
"は、初めまして。シャーレの桐山ハルトです。"
両手を重ねて礼儀正しく頭を下げるその姿に、こちらも自己紹介をして頭を下げる。
すると、ヒマリさんはニコッと笑った。
そんな空気を切り裂くように、驚きの声が上がる。
「ミ、ミドリちゃん!? どうしたの!?」
ムツキさんが涙を流すミドリさんを見つけた。
そうだ、今はこんなことをしている暇はない。
"えっと、実は――"
私は簡潔に、大事な部分を切り取って説明をした。
「アリスさんが暴走して、黄泉先生と戦闘中……!?」
"うん……。Keyは黄泉先生の刀に目をつけたんだ。"
「だったら早く援護しに行かないと……!」
「でも、相手はアリスの体を使ってる。下手に撃てば苦しむのはアリスだよ。」
「あ……。」
焦るムツキさんに対して冷静に返すカヨコさん。
その時、ある言葉が頭に蘇った。
『アリスを生かすのであれば……いつかアリスが暴走した時に、躊躇うこと無く殺す覚悟が必要です。』
ああ、確かにその通りだ。
でも――そんな覚悟を持っている人はここにはいない。
私は信じたい。誰も死ぬことなく、笑顔でエンディングを迎えられるシナリオがあることを。
「少し、よろしいでしょうか。」
ふと、手を挙げる少女が1人。
それはヒマリさんだった。
「現在アリスさんの意識はKeyに乗っ取られ、暴走状態です。つまり、アリスさんが意識を保っていた頃からKeyは彼女の意識の奥底に潜んでいたと言えます。」
「アリスさんを救出するのなら、これと同じことをやればよろしいのではないでしょうか?」
瞬間、空気が震えたのが分かった。
「……まさか、アリスちゃんの意識を呼び起こすってこと?」
「そのまさかです。それが1番手っ取り早いかと。」
ヒマリさんの案は非常に単純であり、かなりハードなものだった。
ある意味神頼みと言ってもいい。
アリスさんが意識を取り戻すまで彼女を呼び続ける。それが、ヒマリさんの考えた作戦。
正直、意外だった。計算、演算能力が求められるミレニアムの生徒が不確定な方法で戦うということが。
「確かに、可能性はゼロではない……。」
「で、でも、そんなおとぎ話じみたこと……本当にできるの?」
「できますよ。」
即答。
ヒマリさんの目に嘘偽りはなかった。
「このエリドゥにいる者たちで力を合わせれば、たった1人の意識を呼び覚ますくらいわけないはずです。」
そこで私は目を見開く。
彼女は一切数字に頼っていない。私たちがこれまでに築き上げた絆を信頼してるんだ。
どんなデータよりも、どんな計算結果よりも確かなもの。
数字で表すことのできない、私たちの絆の深さが求められていた。
つづく
期末試験だるい〜。
勉強よりも小説書いてる方が楽しい〜。
というわけでこれから勉強行ってきます。
さて、伸びに伸びる本編ですが、あと3話くらいで終わる予定です。次回もお楽しみに。
追記
波長ってのは、神秘のことです。
次回 第九話 勇者救出作戦 その6