お久しぶり(約一週間ぶり)です。
本当は今回で終わるはずだったのですが、色々考えているうちにぐーんと伸びてしまいました。もちろん、オリジナルはマシマシで。
お気に入り登録が100に乗りました!
感謝カンゲキ雨嵐です。これからも頑張ります。
アリスが立つ白い世界。その向こうに見えるのは、黒い世界と――もう1人のアリス。
それは間違いなくアリスなのにアリスではない。そんな気配を感じました。
「アリスは、あなたとお話がしたいです。」
アリスがそう言うと、もう1人のアリスは何も言わずに背を向けました。
「……私が王女様と話すことはありません。」
「ま、待ってください!」
どこかへ歩いていこうとする彼女を呼び止めます。
アリスには分からないこと、聞きたいことがたくさんあるんです。
もう1人のアリスが立ち止まったのを見て、アリスは質問をしました。
「……あなたは……どうしてみんなを攻撃するのですか?」
声に震えはありませんでした。けれど、胸の奥では不安がざわめいていました。
この問いの答え次第で、もう後戻りできなくなる。そんな予感があったからです。
「それが私の役目だからです。」
迷いのない言葉。まるで、最初から決められていたテキストを読み上げるように感じました。
「役目……?」
「この世界をアーカイブ化させ、あなたを玉座へと導く。それが鍵である私の役目です。邪魔者は問答無用で排除します。」
その言葉と同時に、黒い世界がわずかに脈打ったように見えました。まるで、もう1人のアリスの言葉を肯定するかのように。
アリスの喉が、ひくりと鳴ります。
「アーカイブ化……。それが、世界を滅ぼすということですか……?」
「はい。」
その一言で、アリスの中で点と点がつながりました。
リオ会長が言っていたことは本当でした。
なぜアリスが『世界を終焉に導く兵器』なのか、なぜアリスは存在してはならないのか――。
それは、最初から決まっていたことでした。
でも……それでも、アリスは首を横に振りました。今のアリスは、そんな未来を受け入れられるはずがありません。
アリスは一歩前に出て、さらに質問しました。
「どうしてあなたは世界を滅ぼしたいのですか……?」
「そうプログラムされたからです。トリガーAIである私に、それ以上も以下もありません。」
「……アリスが『やめて』と言ったら、やめてくれますか?」
それは交渉でも命令でもなく――ただのお願いでした。
友達に向けるような、弱くて、情けない言葉。
本当は分かっていました。そんな都合のいい答えが返ってくるはずがないことくらい。
それでもアリスは、ほんの少しだけ期待してしまったのです。
「――いいえ。例えあなたの願いでも、私は役目を果たさねばなりません。」
その答えは、即答でした。
迷いも、ためらいも、一切なく。
アリスはすぐに言葉を返せませんでした。胸の奥がきゅっと縮む感覚だけが残ります。
それでも――彼女から目を逸らすことだけはしませんでした。
ここで諦めたら、それこそ勇者失格です。
いま向き合っているのはもう1人の自分。『勇者の心』が『悪の心』に負けていいはずがありません。
すると、今度はもう1人のアリスが口を開きました。
「……王女、あなたはつい先程まで自死を望んでおられたのではないのですか?」
その質問に胸がドクンと跳ねます。ですが同時に、妖精さんとの会話を思い出しました。
妖精さんに伝えた言葉を思い出し、アリスはもう1人のアリスの目を真っすぐに見つめました。
「……その考えはもう捨てました。私はあなたを説得し、みんなの元へ帰ります。」
アリスはさらに一歩を踏み出します。それは追いかける一歩ではなく、歩み寄る一歩です。
そして、彼女を説得できるチャンスはここしか無いと確信しました。
「アリスは絶対にあなたを見捨てません!プログラムの言葉だけを答えにしないでください!」
「どうか『王女』ではなく――『勇者 アリス』と一緒に来てください!」
「――ッ!!」
その言葉が放たれた瞬間、もう1人のアリスの肩が、わずかに震えました。
確かに届いた。
アリスはそう確信します。
彼女は拳を固く握りしめ、俯いたまま動きません。
自分の役目を取るか、それともアリスの願いを取るか――。
その沈黙は、とても長く感じられました。
やがて、彼女は静かに振り返ります。
アリスに向けられたその表情は――迷いと痛みを孕んだ、とても苦いものでした。
「……王女様の思いは十分に理解いたしました。しかしそれは、私の本来の役目を上書きする根拠にはなりません。」
その言葉に、アリスは奥歯を強く噛みます。
やっぱりダメだったのか――そう思った、直後。
「ですので、私が役目を放棄するに値する意思があることを証明してください。」
彼女は、そう続けました。
「証明……?」
「私は何百年もの間、自分に与えられた役目を果たすために存在していました。故に、この意思は簡単には砕けません。」
そして、まっすぐにアリスを見据えます。
「それでも――王女、あなたは私の説得を試みるのですか?」
その答えは、考えるまでもありません。
「はい!」
即答でした。
今のアリスには、迷いも恐れもありません。
「ならば、武器を取ってください。そして私に勝つのです。」
「あなたの意思が私の意思を超えることを、ここで証明してください」
その言葉と同時に、アリスの目の前に眩い光が集まります。
そこに現れたのは、勇者のモチーフ武器――『
剣を持ち上げた瞬間、アリスは確信しました。
これがある限りアリスは絶対に負けないと。
「行きます!」
必ず――もう1人のアリスを救ってみせる。
その決意を胸に、勇者は自分自身へと立ち向かうのでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「アリスちゃんは大丈夫なの!?」
静まり返ったエリドゥの街に大声が轟く。
叫んだのはモモイ。全く目を覚そうとしないアリスを見て軽いパニックになっていた。
アリスに自分の意識を落とすよう言われた俺は言う通りに彼女の意識を刈り取った。その時のアリスの目は、いつもの笑顔からは想像もつかないほど静かで、強かった。
そして現在、アリスは全く動かない。
呼吸はある。体温も感じられる。だが、どれだけ名を呼んでもその瞼が開くことはなかった。
それに加え、先ほどまで虫のように飛び回っていたDivi:Sionも今では完全に沈黙してしまった。こちらに攻撃する意思は見られず、それこそシステムをシャットダウンしたようだった。
目を覚さないアリスと動かないDivi:Sion。この状況をリオとヒマリに伝えたところ――
『恐らく……アリスとKeyは精神世界で戦っているのでしょう。』
そんな返答が返ってきた。
一見すれば非現実的な仮説だが――その証拠は既に俺が示していた。
俺と暴走アリス――Keyが同時に刀に触れた時に感じた。アリスの中には確かに隔たりを感じた。それこそまさに、アリスの精神だった。
そして今、その気配は完全に消えている。まるで、彼女自身がどこか深くへ潜ってしまったかのように。
「そこにアリスちゃんがいるのなら、助けに行きたいのに……!」
ミドリが奥歯を噛み締め、コートを強く握る。
アリスは確かにそこにいる。
だが俺たちの手は、声は、弾丸は、決してアリスに届くことはない。
今の俺たちにできるのは、彼女が帰ってくるのを信じることだけだった。
「仲間のピンチに駆けつけるのが、"仲間"なのに……!」
助けたいのに、手が届かない。それがどれほど残酷なことか――俺は嫌というほど知っている。
決して彼女たちが無力というわけではない。俺でさえそんな経験は何十とあるのだから。
「何か……何かできることはないの!?」
モモイが道路に拳の側面を叩きつける。彼女が物に当たるのは今に始まったことではないが、自分を傷つけるのは初めて見た。
しかし、俺たちができることは1つしかない。それは、アリスが自分の力で帰ってくるのを祈ること。
どんなに力を持っていようと、最後は等しく祈ることしかできない……。
その時だった。
「黄泉先生の刀……なんか光ってない?」
不意に、アスナが言った。
視線を向けると、確かに刀が薄紫の光を放っている。刀の柄に手を置くと、『無』は言った。
――"誰か"が俺を呼んでいる。
――その声は、アリスの中から聞こえる。
俺は耳を疑った。
もし声の主がアリス、あるいはKeyなら『無』が気づかないはずがない。つまり、その声はそのどちらでもないということになる。
まさか第三の人格が存在するのか? だとしたらなぜ今になって現れた?
いや……考えていても仕方がない。こちらから何かできるのなら、すぐにでも実行するべきだ。
その声の主が俺たちの味方であることを願い、俺は刀をアリスの手に鞘の先を乗せた。
刹那――視界に広がったのは謎の空間。白と黒が交差する世界。壁や天井という概念は無く、奥行きだけが延々と続いているように感じた。
そしてそれは、空間に“踏み込んだ”というより、"覗き込んだ"――そんな感覚だった。
その時、背後で爆発音が轟く。
即座に振り返るとそこには――アリスがいた。
いや……アリスだけではない。沈黙したはずのDivi:Sion、そしてKeyがいた。
煙が晴れ、アリスの姿がはっきりと見えるようになる。
刹那、俺は目を見開いた。目の前に広がる光景に、息が詰まった。
彼女はボロボロだった。肩で息をして、今にも崩れ落ちそうだった。
「アリス!」
その名前を呼び終えるよりも早く――背後からとんでもない力に引っ張られる。
重力が反転したかのような感覚。アリスたちの姿は一瞬にして見えなくなり、気がつけば俺は現実世界に戻ってきていた。
続いて、どっと疲れが押し寄せてきた。回復してきていたはずの体力が再び失われてしまう。
周りの生徒たちが疑問符を浮かべているが、俺は呼吸を整え、状況を整理する。
まず間違いない。あれはアリスとKeyの精神世界だ。
そして、アリスとKeyによる戦闘。それは恐らく器の主導権をかけた戦い。アリスが今だに起きない理由はそれが原因だろう。
だが、なぜ俺はアリスと繋がることができた? Keyの意識も同時に沈んだため、波長も合っていないはず。現に一度試してみたが、Keyと繋がることは出来なかった。
……まさか、声の主が俺とアリスの精神を繋げてくれたのか?
待てよ。となると俺が直接アリスの精神に声を響かせた時のように、俺たちの声も向こうに届くんじゃないか?
「先生、何があったの?」
アルが尋ねる。
大体の状況整理はできた。とりあえず全員に情報を共有するとしよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「「 精神世界……!?」」」
俺は見たもの感じたものをありのまま伝えた。しかし口頭では信じられないのか、モモイたちは互いに顔を見合わせている。
しかし見たものは見たのでそう言うしかなかった。
「戦闘の状況はKeyが優勢。このままでは、再び奴が復活する可能性がある。」
「そんな……!」
ユズたちの顔がみるみる青ざめていく。
もし再びKeyとなって復活したのなら、今度こそ息の根を止めなければならない。
だが、逆の可能性もまだ残っている。
「そんな顔をするな。今も作戦は続いている。」
「作戦……?」
「ハルトの作戦を思い出せ。アリスに声を届けるんだろう。」
Keyとの戦闘中に伝えられた作戦内容。
それは、眠りについたアリスを全員で呼び起こすと言うものだ。
"た、確かに作戦はその通りです。ですが、どうやって声を……"
「一緒だ。」
俺は刀の柄に視線を向ける。方法はあの時と変わらない。
「この刀を媒体としてアリスに声を届ける。その後は――ひたすらアリスを信じる。」
「結局そうなるの!?」
「助けられる可能性があるだけマシだろう。それに――」
「そ、それに?」
「アリスが本物の勇者であるのなら、俺たちのエールが力になるはずだ。」
「無理だよ!そんなの非現実的だよー!」
モモイが胸ぐらを掴んで前後に揺すってきた。
好き勝手言いやがって。俺だって可能なら助けに行きたいに決まっている。だが、それが無理だからこの作戦になったんだろう。
その時だった。
「おい、アリス!」
突如、大声が響く。騒いでいたモモイも驚きで口を噤んだ。
顔を向けるとそこには、刀に向かって叫ぶネルがいた。
「いつまでも寝てんじゃねぇ!さっさと起きやがれ!」
「ネ、ネル先輩……?」
「……これしか方法がねぇんだろ!? だったら四の五の言ってねぇで最善を尽くしやがれ!」
ネルの頬が若干赤いのは全力で叫んだからなのか、はたまた恥ずかしいからなのか。
しかし彼女の行動が全員の思いを1つにまとめたのは事実だった。
「アリスさん! 負けないで!」
「頑張れ!勇者アリス!」
皆が思い思いにエールを送る。それがアリスの精神世界に届いているかは分からないが、『無』を通して送られているのは確かだった。
「ど、どうですか……!?」
ミドリに尋ねられた俺は刀の柄に手を置く。『無』から伝えられた言葉は――
「――声が弱すぎる、だそうだ。」
「
ネルが再び叫んだ。この中で一番声を出していたのは間違いなく彼女なので、怒る理由もよく分かる。
しかし――
「声が"弱い"ってどういうことだろう?」
俺の疑問をそのままムツキが説明してくれた。
そう。『無』が言ったのは声が"小さい"ではなく"弱い"なのだ。声の強弱=大小じゃないのか……?
全員が言葉の意味を考えていた、その時。
「そっか!」
モモイが手のひらに拳を当てて言った。
「バラバラに叫ぶんじゃなくて、みんなで声を合わせてアリスを呼ぶんだよ! それならきっと届くはず!」
なるほど、弱いというのは届いていないんじゃない。分散して形になっていないという意味か。
モモイの考えに期待を寄せ、俺たちは喉の調子を確認した。
誰も、まだ声を出さない。そして――
「せーのっ!!」
アリス!!!!!
モモイの掛け声に合わせ、全力で勇者の名を呼んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
黒い世界が近づいてくる。
それは速くもなく、荒々しくもなく、ただ確実に――逃げ場を塞ぐようにじわじわと。
足元から、視界の端から、思考の隙間から。
白い世界に立つアリスは、光の剣を握ったまま、息を整えることすらできずにいました。
「……はぁ……っ。」
痛みはありません。体が壊れているわけでも、傷ついているわけでもありません。
それなのに、重いのです。
意識が沈んでいくかのように、眠りに引きずり込まれるかのように、考える力そのものが少しずつ奪われていく感覚です。
正面に立つのは、もう1人のアリス。
そしてその周りから呼び出されるのは、白いロボットの軍隊。ゲームに出てくるスライムのように私に近づき、体当たりをしてきます。
このスライムたちが道を塞ぎ、全く前進できずにいました。
これが、もう1人のアリスの意思なのでしょうか。何百年もこの日を待っていた彼女の意思は、やはり簡単に超えられるものではありませんでした。
それでも、アリスは超えなければなりません。
妖精さんとの約束のために。みんなが待っているキヴォトスに戻るために。
そして――黄泉先生にコートを返すために!
「やぁぁぁぁぁッ!!」
光の剣のエネルギーは残り僅か。アリスは剣を振り回して突撃することを選択しました。
スライムたちを殴り飛ばし、アリスは高く跳躍。もう1人のアリスに向かって光の剣を振り下ろします!
ズガァンッ!!
金属どうしが衝突する高く重い音が響き渡りました。
少しはダメージが入った、そう思っていたのですが……
「勇者……。……これが、勇者の力なのですか?」
「え……。」
アリスは目を疑いました。
全力で振り下ろしたはずの光の剣が……片手で受け止められてたのです。
それに気づいた時――私の身体は宙を舞っていました。重力が逆転したかのような感覚。やがて私の身体は光の剣と共に白い地面に叩きつけられました。
ですが、やはり痛みは全くありませんでした。その代わりに黒い世界が白い世界をさらに侵食していきます。
「『勇者は絶対に負けない』……。では、今のあなたは勇者なのでしょうか?」
……その言葉は、いつかのアリスが言った言葉でした。
そうです。勇者はどんなにピンチだろうと、最後まで諦めず勝利を掴み取ります。強くて、勇敢で、決して逃げたりしません。
それに対して……アリスはどうでしょうか。スライム相手に思うように戦えず、キヴォトスに戻れない未来に怯えています。
もう1人のアリスが言うように……これのどこが勇者なのでしょうか?
すると、アリスの足が動かなくなりました。
逃げる気はありません。ただ、前に出る理由が見えなくなったのです。
やがて白い世界の端から黒が滲み出し、思考の隙間に入り込んできます。眠りに落ちるような感覚が、優しく、けれど確実に意識を奪っていきました。
「嫌だ……。」
嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
アリスは約束したんです。もう1人のアリスを説得して、みんなの元に帰るって。こんなところで終わるわけにはいかないんです……!
だから……誰か……!
「誰か……助けてっ……!」
その声は黒い世界に溶けて返事すら返ってこない。白い世界が黒に染まりかけた――その時でした。
アリス!!!!!
「!!」
黒い世界の向こうから聞こえてきた、アリスを呼ぶ声。それは誰か1人のものではなく……みんなの声が1つになっていました。
モモイ、ミドリ、ユズだけではありません。ネル先輩やアル先輩たち、ハルト先生と黄泉先生の声もありました。
みんなが確かにアリスを呼んでいました。
「ギリギリセーフってとこかな。」
そんな呟きと共に現れたのは、妖精さんでした。
妖精さんはふわりと地面に降り立ち、アリスの両肩に手を置きます。
「アリスちゃん、ここで諦めたら本当に勇者になれなくなっちゃうよ。」
その言葉にアリスは思わず顔を背けてしまいます。
「アリスは、勇者のように強くはなれません……。」
黄泉先生のように、もう1人のアリスのように強い力も心もありません。そんな者が、勇者になるなんて……。
すると、妖精さんは言いました。
「……勇者ってさ、強いだけが取り柄なのかな?」
その一言が、アリスの胸に刺さりました。
なにか、とても大切なことを忘れていたような気がして……。
「その強さにも、何か理由があるんじゃない?」
その時です。再び黒い世界の外から声が降ってきました。
「アリスちゃん、頑張って!」
「帰ってくるって信じてるから!」
「こ、これからも……アリスちゃんとゲームを作りたい!」
それは、モモイたちの声。
「アリスさん、負けないで!」
「また一緒にゲームしよう!」
「アリスなら、どんな壁も乗り越えられる。」
「ア、アリスさんと友達になりたいです!どうか、帰ってきてください! 」
それは、アル先輩たちの声。
「おいアリス!いつまでも寝てんじゃねぇ!さっさと起きやがれ!」
「頑張れ!勇者アリス!」
「私たちがついています!」
「みんな、君の帰りを待っている。」
それは、ネル先輩たちの声。
「私が言うのもなんですが……どうか、戻ってきてください。あの時の無礼も謝りたいので……。」
それは、トキさんの声。
"私は、アリスさんとの思い出をたくさん作りたい。だから、必ず帰ってきて。"
それは、ハルト先生の声。
「アリス。お前は必ず――立派な勇者になれる。」
それは、黄泉先生の声……。
みんなの声が、波のように押し寄せてきます。その中心でアリスはただ立ち尽くしていました。
アリスは本当にバカです。どうして勇者が強いのか、その理由を忘れてしまっていました。
ですが、その理由をみんなが思い出させてくれました。
「……答えは見つかったかな?」
「はい!」
そう返事をして、アリスは光の剣を構えます。
そして――もう1人のアリスに向けて、理由を叫びました。
「勇者には守るべきものがたくさんあります!そして、勇者には守りたいものがたくさんあります!」
「だから、勇者は絶対に負けないんです!!」
「……!」
もう1人のアリスの瞳が揺れた――そんな気がしました。
その時です。真っ黒だった世界が、一気に白い世界へと姿を変えていきました。
突然の出来事に理解が追いつかず、あちこちに視線を動かしてしまいます。
パチパチパチパチ……
そして、耳に届いたのは拍手の音。
その方向へ目を向けると、もう1人のアリスが手を叩きながら歩み寄って来ていました。いつの間にかスライムたちもいなくなっています。
「……お見事です、我が王女。」
彼女は一度目を伏せ、それから小さく息を吐きました。
それでもアリスは状況が理解できなくて、口をポカンと開けてしまいます。
「現在の王女の意思は私の意思を大きく上回っています。文句の付け所の無い、私の完全敗北です。」
「は、敗北……? で、でもアリスは全く抵抗できませんでした。」
アリスがそう言うと彼女は微笑みました。
それが、彼女が初めて見せてくれた笑顔でした。
「お忘れですか? 王女が私の意思を一度でも上回ることを証明できれば、王女の勝ちという約束でした。」
そういえば……と話を思い出します。
戦いが始まってからは勝つことばかり考えていて、すっかり忘れてしまっていたようです。
ですが、みんなのおかげでアリスの意志の強さを証明することができました。
この瞬間、アリスはみんなと生きることができるようになったのです。
「やっ……た……。」
「おっとと。」
その時、アリスの身体から力が抜けていきます。
それに気づいた妖精さんがぎゅっと抱きかかえてくれました。
「ごめんなさい……。少しだけ……。」
言葉の途中で、視界がふっと揺れました。アリスはいろんな疲れが溜まってへろへろです。
少し休んでからみんなの所に戻ろうと考えていると――
パチン
指を鳴らす音が響きました。
すると不思議なことに、アリスの身体が元気になっていきました。
「……あ、あれっ? なんだか身体が軽く――」
妖精さんに抱えてもらわなくても、自分の力で立つことができます。それに、今にも走り出せそうなくらいに元気になりました。
分からないことだらけで困惑していると――
突然、もう1人のアリスが膝から崩れ落ちました。
慌ててアリスは彼女を抱えます。反応が少しでも遅れていたら頭を地面にぶつけてしまうところでした。
「だ、大丈夫ですか!? どうして急に……!」
「……器の主導権を、あなたにお返ししました。私の意識は、再び奥深くへと戻ります……。」
「き、消えちゃったりしませんよね……!?」
「心配、してくださるのですか……? 安心してください、完全に消えはしません……。」
それを聞くことができてアリスはホッと息を吐きました。世界を滅ぼそうとした彼女ですが、アリスにとっては大切なことを思い出させてくれた恩人なのですから。
「……最後に、自己紹介をいたします……。」
彼女はアリスに身体を預けながらですが、しっかりと自分の足で立ち、アリスの目を見て言いました。
「私の名前は……Key。勇者アリスに仕える、サポートAIです。」
「私はこれからも、あなたのお側に……。」
そこまで話してくれたところで、Keyは目を閉ざしました。アリスはそっと彼女を抱きしめます。
「Key……。ありがとうございます……。」
そう伝えて、そっと地面に寝かせました。
彼女に会えて本当に良かった。アリスは心の底からそう思いました。
「お疲れ様、アリスちゃん。」
ずっと黙って見守ってくれていた妖精さんが、ようやく声をかけてくださいました。
「妖精さん、本当にありがとうございました。」
「気にしないで。私は私ができることをやっただけだから。」
そう言って妖精さんはえへへと笑いました。
彼女の笑顔はやっぱり安心感を覚えます。
「妖精さんは……何者なんですか?」
「ふふふ、妖精さんは妖精さんだよ〜♪」
「みんなの声を届けてくださったのも、妖精さんですよね?」
「せいか〜い。すごいでしょ。」
そんな質問と返答のラリーを続けたところで、精神世界の出口が現れました。
「お別れの時間が来たみたいだね。」
そう言う妖精さんの声にも、どこか寂しさが混ざっているように感じました。
アリスも寂しいですが、勇者は絶対に泣きません。
「……また、会えますか?」
「……会えるといいね。」
妖精さんの声はとても優しくて、「離れたくない」と一瞬考えてしまいました。
ですが、ストーリーを進めるためには、ここを離れなければなりません。
「さようなら。」
「うん。さようなら。」
そう言ってアリスは出口へと進みます。
アリスはもう振り返りません。振り返ったら……泣いてしまいそうだから。
出口のドアが静かに開きます。
前と同じく、暗闇の奥に光の点が見えました。
アリスは一度深呼吸をして、ドアへ飛び込んだ――その時でした。
「そのコート、ちゃんと黄泉くんに返してあげてね!」
「えっ――。」
あまりの衝撃に、小さく声が漏れました。
『黄泉くん』とはまさか、黄泉先生のことでしょうか……? なぜ、妖精さんが黄泉先生のことを!?
「妖精さん、それってどういう――!?」
振り返らないつもりでしたが、その答えが知りたくてつい振り返ってしまいました。
しかしその時には既にドアは無く、妖精さんの姿も声も、どこにもありませんでした……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エリドゥタワーの救護室。白いベッドで眠るアリスの周りを生徒たちが取り囲んでいる。アリスが目を覚ました時に困惑しないか心配だが、あいつらがそうなるのも無理なかった。
アリスに声をかけてから既に1時間が経過している。にも関わらず彼女は未だ目を覚さず、眠り続けている。
声の正体は分からなかったが、今回の作戦のMVPと言って差し支えないと考えている。彼、もしくは彼女がいなければアリスに声を届けられなかった。
あれから反応が無いということは、役目を終えたということか。
そう考えていると――
「あれ……? 今、ちょっとだけ……。」
「動いた……よね?」
モモイとミドリが言った。
他の生徒たちも同様のことを言っているため、もうすぐ起きるということだろう。
俺は椅子から立ち上がり、刀の柄を握りながらアリスのベッドに歩み寄る。そうする理由はKeyとして目覚める可能性があるからだ。
全員に離れるよう伝え、その時を待つ。
抜刀は一瞬。ただし、判断を間違えてはならない。
その――次の瞬間だった。
「妖精さんっ!!」
謎の言葉と共に勢いよく飛び起きたアリス。
その雰囲気からして、どちらの意識なのかは明白だった。
「黄泉……先生……?」
「……待たせすぎだ、アリス。」
柄から手を離し、アリスの頭をそっと撫でる。それが合図だった。
「アリスちゃあぁぁぁぁん!!!」
俺の行動で全てを理解したモモイたちがアリスに飛びついた。3人は大粒の涙を流し、アリスが帰ってきたことを喜んだ。
「モモイ……ミドリ……ユズ……。」
自分に抱きつく3人の名前を呼ぶ。
そして、ベッドの周りにいる生徒たちに資産を向けた。
「ハルト先生……みんな……!」
アリスの目からもポロポロと涙が溢れ出る。
最初こそ声を抑えて泣いていたが――
「うわぁぁぁぁぁん!!!!」
遂に、大声で泣き始めた。
「ごめんなさい……! みんなを置いていこうとしてごめんなさい……!」
それは死を望んだ過去のアリスからの謝罪だった。
だが、誰一人アリスを責める者はいない。代わりに救護室に響いたのは――
「「「 アリスちゃん、お帰り!」」」
仲間の帰還を喜ぶ声だった。
つづく
アリスちゃんとKeyちゃん和解エンドです。原作ではKeyちゃんが「光よ!」されてましたからね。
王女の立場というか、設定が原作とズレてますが…別にいいですよね?
ところで話は変わりますが、ゼンゼロの運営はどうしちゃったんですか?
さて……次回こそ本当にパヴァーヌ編最終話です。
長かったけど、あっという間だった……。
次回 最終話 Fin.