今回でパヴァーヌ編は完結です。
そのせいかちょっと長めです。
「黄泉先生、こんにちは!」
「こんにちは!」
「ああ、こんにちは。」
前から歩いてきたトリニティ生徒の挨拶に、俺は挨拶を返す。通り過ぎた生徒たちはお嬢様とは思えない甲高い声を上げて何やら嬉しそうにはしゃいでいた。
そんな声を背に受け、俺はふと空を見上げる。そこには一面青色が広がっており、白い雲がゆっくりと進んでいる。そして、時間もいつも通りに流れていた。
3週間前……エリドゥでのアリスを巡る戦いは、未だ記憶に新しい。あの日アリスではなくKeyが復活していたら、この青空は見られなかった。もしくは1人の生徒と1人の大人がキヴォトスから姿を消していただろう。
それでもこうして街をのんびり歩くことができているのは、他でもないアリスのおかげだ。彼女がKeyに打ち勝ったおかげで大きな被害を出すことなく騒動を終わらせることができた。言ってしまえば、アリスは人知れず世界を救ったのだ
この件を知るものはごく僅か。だが、それでいい。
世界の終焉なんて誰かに知られる必要はない。関係者以外の生徒たちはいつも通りの日常を謳歌してくれるだけでいい。
そして、俺がなぜトリニティに足を運んでいるのかだが――それもアリスが関係している。
しばらく道を進み、目的地に到着した。その外観はトリニティらしい清楚な雰囲気に包まれている。
店の真ん中に構えられたオシャレなドアを開ける。チリンという鈴の音と共に、アロマの香りが鼻をくすぐった。
「いらっしゃいま――あら、黄泉先生!」
鈴の音を聞いて店主が現れる。その見た目は犬の人獣で、女性である。
「久しいな。早速だが、例のものを受け取りに来た。」
「ええ、少々お待ちください。」
そう言って店主は店の奥へと消えた。
改めて、ここは『仕立て屋』。ブランドものの服は一切扱っておらず、依頼のみを受けている。俺のコートもあの店主が作ってくれたものだ。
そして俺が今回彼女に依頼したのは――
「こちらが、ご依頼の品です。」
ビニールの大きな袋に厳重に保管されているのは、1枚の白いロングコート。外見だけでなく、素材も俺が普段着ているコートと同じ。唯一違うのはその大きさだ。
俺の身長よりも一回り小さなそれは、アリスへの贈り物として依頼した。理由は、アリスが過去に「俺の
今のアリスは十分このコートが似合う勇者になった。それを祝して彼女だけの新たなコートを贈ろうと密かに考えていた。
改めて白いコートに目を向ける。俺は、あの日とはまた別の視点でそれを見つめていた。
「……何か気になる点はございますか?」
店主が少し不安そうに尋ねる。どうやらじっと見つめていたことで誤解されてしまったようだ。
「そうじゃない。……ただ、ナツキにコートを渡された時の事を考えていた。」
俺が『先生』として認められたあの日。ナツキはお祝いとしてこのコートを俺に渡してくれた。白が合うかは不安だったが、袖を通してみれば思いの外似合っていて、少し胸が高鳴っていたのを覚えている。
思えばあの時、ナツキは俺以上に喜んでいた気がする。そして今、俺はナツキと同じ視点に立っているらしい。
「……感慨深いものがありますね。」
不意に、店主が言った。
「受け取る側だった先生が、今度は誰かに渡す側に立っているのですから。」
「……随分と年寄りのような事を言うんだな。」
「あら、私はもう立派なお年寄りですよ。この店もまもなく娘が継ぐ予定です。」
娘……か。俺は家族愛については疎いのだが、自分の仕事を我が子に任せるのはやはり嬉しいことなのだろうか。
「そうか。」
特に言うことも思いつかず、短く返す。
となると、俺がアリスにコートを渡すことも『受け継がせる』ということになるのだろうか?
「……もしかすると10年後、このコートを着た者が娘に依頼をすることになるかも知れんな。」
「ふふ、もしそうなったら嬉しいこと他ありません。」
俺の思いつきの仮説に、店主は笑顔で答えた。
「では、失礼する。残りの時間を大切にな。」
「はい。またお会いできる日を楽しみにしています。」
そうして俺は箱に包まれたコートを抱え、店を後にする。店主はわざわざ店の外に出て俺を見送ってくれた。
大通りに戻り、時計を見やる。……13時か。
少し急いで帰るとしよう。今日はゲーム開発部とC&Cがシャーレに遊びに来るからな。
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店を後にしてから10分後。
シャーレ居住区に戻ると既に楽しそうな声が休憩室から漏れていた。どうやら既にイベントが始まっていたらしい。
「すまない、遅くなった。」
そう言ってドアを開けた、次の瞬間――
「おいチビテメェ!」
いきなりの怒号。その声量から誰が叫んだのかは丸わかりだった。
「復帰の邪魔すんじゃねぇよ!」
「ふふん、チビネル先輩が弱いのが悪いです。」
「んだとォ〜〜ッ!?」
あのゲームはたしか……『スマブロ』だったか。会話の様子からしてネルがアリスにボコられているらしい。
「リーダーまた怒ってる〜。」
「戦闘と違って、怒ったところで強くなるわけじゃないよ。」
「いいですかトキちゃん、部長のように感情的になってはなりませんよ。」
「分かりました。」
「おいコラ!テメーらはあたしの応援しやがれッ!」
アスナたちがネルを応援するどころか、背後から煽り散らかしている。
相変わらずオフの日は仲間からの扱いが酷いネル。ミレニアム最高戦力の姿か?これが……。
ハルトたちシャーレ組とアリスを除くゲーム開発部の3人、そしてネルを除くC&Cの4人に迎えられた俺。ソファに座っていたムツキが「隣空いてるよ」と手招きしてきたので、彼女の隣に座らせてもらった。
「お帰り〜、どこ行ってたの?」
「トリニティだ。」
「ふぅん。ところでその小包ってさ、もしかしてムツキちゃんへの贈り物だったりしない?」
「……残念だが、しないな。」
「ぶー。」
何が不満なのか、ムツキは頬を膨らませて俺を見つめた。そんな顔されても困るんだが。
……いや、違う。これは『何か買って』と甘えているムツキだ。この場合はお菓子とジュースのセットを買ってやると収まることが分かっている。
「……分かった、いつものやつでいいな?」
「くふふ、やったぁ!」
ムツキは両手を挙げて無邪気に喜んだ。
時々ムツキに見られるこの現象。ムツキ曰く「俺に買ってもらうことが大事」らしいが……その辺りの心理はまだ理解しきれていない。
と、その時だった。
「クソがぁぁぁぁ!!!」
ネルの断末魔が響く。テレビ画面を見ると、『WIN』という文字と共に、アリスが使っていたキャラクターが決めポーズを取っていた。
「これで51戦51勝! 勇者が負けることは絶対にありません!」
「はぁ……。コンボの練習もしたってのに。」
負けじとポーズを取るアリス。対してネルは、今更冷静さを取り戻していた。
「あっ、黄泉先生!」
こちらに気づいたアリスが何とも嬉しそうな顔をしてトコトコと駆け寄ってきた。
「アリスは勝ちました! 褒めてください!」
そう言ってアリスは頭を下げた。考えずとも『頭を撫でろ』と言っているのが分かる。
俺は「よくやった」と声をかけ、そっとアリスの頭を撫でた。
「なんか、最近のアリスちゃんってよく黄泉先生に甘えてるよね。」
「そうですか?」
ムツキの話にアリスは首を傾げるが、他の仲間は揃って首を縦に振ったした。
甘えてばかりのお前がそれを言うのかというツッコミはさておき、確かに最近のアリスは何かを達成する度に「褒めてほしい」と言うようになった。
以前からそういうお願いはあったが、最近はそれがより素直になった気がする。
一瞬の静寂。それを破ったのは――アスナだった。
「分かった!アリスちゃんは黄泉先生のことが好きなんだ!」
刹那、休憩室の時が止まる。もちろん実際に止まったわけではないが、そう思える程に、全員微動だにしなかった。
アスナが状況を飲み込めずキョロキョロしていると、アカネが言った。
「ダ、ダメですよアスナ先輩! 本人がいる前でそんな事を聞いては……!」
「え、なんで?」
時々空気が読めなくなるアスナ。よりによってそれを聞くのかと俺は少し頭を押さえた。
生徒たちと会話をしていて、このような話題が上がるのは今に始まったことではない。しかし、ごくたまにいるのだ。本気にしてしまう生徒が。
俺の何が良いのかはさておき、アリスへ視線を向ける。正直、彼女が変なことを言わないか少し心配していた。
やがてアリスは少し考えるように首を傾げてから、パッと笑みを浮かべて答えた。
「……はい!アリスは黄泉先生が大好きです!」
それは恋愛の「れ」の字もない純粋な答えだった。
俺は安堵し、思わず口元を緩めてしまう。それが最悪の一手だった。
「何笑ってんのさ!」
モモイが叫んだ。その声音は明らかに怒気を含んでおり、明らかに勘違いをしていた。
「いや、これはアリスが」
「先生のエッチ!そんな目でアリスちゃんを見ていたなんて!」
「おい……。」
こちらの話を聞く耳を持たないモモイ。
そして、俺の隣には話を理解していない者が1人……。
「先生、アリスちゃんをそんな目で見るのはダメだよ。ムツキちゃんは別にいいけど――」
「お前はさらに混乱させるようなことを言うな。」
「あう。」
平常運転のムツキだが、それを言うのは絶対に今じゃない。ムツキの額に軽くチョップを食らわせた。
「はーいお姉ちゃん、どうどう。」
「ブルルル……!」
「馬かよ……。」
ネルの冷静なツッコミが落ちる。ミドリに宥められるモモイは足を後ろに振り上げるような仕草をした。……それは馬ではなく闘牛だ。
「……黄泉先生、その箱は何ですか?」
ふいにアリスが包を指さして言った。モモイの様子に驚いていた彼女だが、こちらの好奇心が勝ったらしい。
俺は包をアリスに渡し、伝えた。
「この世界でお前だけの装備だ。」
「アリスだけの……? それって――!」
言葉の意味を理解したのか、アリスは目を輝かせて包を開けた。
取り出されたのは、白いコート。
「アリスだけの装備……!」
「まぁ、形は俺の物と同じだが。」
「アリス、とっても嬉しいです!ありがとうございます!」
アリスはコートを抱きしめ、深く頭を下げた。クリスマスプレゼントをもらったかのように喜ぶ様子を見て、用意してよかったと心から思った。
「早速着てみたら?」
アルに言われ、アリスはハッとしたように口を開いた。
一度コートを広げて全体を見回し、ついに袖を通す。休憩室の壁に掛けられた鏡を見ながらアリスは1回転する。それはまるで、ファッションを楽しむ女の子だった。
「おお、似合ってるじゃん!」
「黄泉先生みたいでカッコイイですね。」
「よっ、キヴォトスの勇者!」
皆がアリスを持て囃しながら、その様子を見守っていた。恥ずかしいのか、アリスは少し頬を染める。
そして、改めて鏡に映る自分を眺め、俺へ向き直った。
「黄泉先生、どうですか?」
「ああ、勇者に相応しい姿だ。」
「えへへ……!」
笑顔を浮かべたアリスは、勢いよく飛びついてきた。俺の首に腕を巻きつけ、右肩に頬を乗せてくる。抱きしめる力はかなり強かった。
「黄泉先生、大好きです!」
やめてくれ、アリス。そんな事をしたらまたモモイが騒ぎ始めてしまう。
「黄泉先生……!アリスちゃんを誑かせるなんて許せない!」
ほらな……。
「アリスの保護者かお前は……。」
「お姉ちゃん落ち着いてってば!」
再びネルのツッコミとミドリの宥めようとする声が響く。いつもの日常とは少し違う光景だが、それでも確かに、俺たちはキヴォトスの日常に混ざっていた。
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――翌日。昨日に続き今日もまた俺は道を歩いていた。しかし昨日とは異なり、向かうのはミレニアム。その理由は、リオとヒマリの顔を見に行くためだ。
予算横領の件が露呈したリオはあの後、ユウカとノアからみっちり絞られていた。なぜ横領をしたのか、なぜアリスの存在を消そうとしたのか、そして――なぜ自分たちに相談してくれなかったのかを細かく聞き出していた。
中でもユウカたちは自分たちを信じてくれていなかったことが悲しかったのか、涙を流してリオを問い詰めていた。そこでようやくリオも自分が何をやってしまったのかを理解したようで、何度も謝っていた。俺も現場にいたが、リオの目に光る何かが見えた瞬間が脳裏に焼き付いている。
孤独に怯え、誰かとの繋がりを求めていたはずにも関わらず、自分の考えを信じ続け、差し出された手を自ら払い除け続けたリオ。今回の件でいかに自分の考えがおかしかったかを学べたはずだ。
彼女はとても賢い。同じ過ちは繰り返さないと信じている。
本来であれば、警察組織のヴァルキューレに引き渡されてもおかしくない事をしでかしたリオだが、ユウカとノアは事実を公表することなく彼女を赦した。ユウカ曰く「リオは確かに罪を犯したが、ミレニアムにはリオが必要」とのこと。
まったく……これだけ自分を信頼してくれている仲間をなぜ信じることができなかったのか、甚だ疑問である。
そんな事を話している間に、ミレニアムタワーに到着した。ここに来るのも久しぶりだ。
入口の自動ドアを通り抜けると、そこに彼女たちはいた。
「あら、黄泉先生。お待ちしておりました。」
「お久しぶりです、先生。」
リオとヒマリ。喧嘩してばかりだったはずの2人が、仲良く談笑しながら俺が来るのを待っていた。
「しばらく見ないうちに、随分と仲良くなったな。」
「あら、元々は仲が良かったんですよ? それなのに、どこかの身勝手さんが1人で走っていってしまうものですから。」
「ヒマリ……。まだ謝り足りなかった?」
「ふふっ、冗談ですよ♪ とっくの昔に許してます。」
くすくすと笑うヒマリに対し、苦笑いを浮かべるリオ。
ヒマリの笑顔は当時と比べて明らかに柔らかくなっており、そこに意地や対抗心は全く無かった。
その後、俺たちは揃って例の会議室へ向かった。カーテンは閉められておらず、太陽の優しい光が室内を照らしていた。心無しか会議室が爽やかに感じる。
「昨日、トキがシャーレでお世話になったそうね。あの子のことも認めてくれてありがとう。」
「計画したのはモモイたちだが……その思いはありがたく受け取っておこう。そして、少し対立したくらいで生徒を無視するような真似はしない。」
「……本当に、ありがとう。」
そう言ってリオは深々と頭を下げた。
その冷徹さから忘れられがちだが、リオはアルと同じで超がつくほど根の良い奴だ。2人の唯一の違いは、『正義』をとるか『道徳』をとるかだろう。
「さて……リオ、ハルトからの伝言だ。曰く『あの日の宿題はできた?』とのことだ。」
ある程度会話が落ち着いたところで、俺はメインとなる話題を出した。それは、ハルトがリオに出した『宿題』。『なんのためにヒマリやユウカが近くにいたのかを自分の言葉で説明する』というものだ。
実のところ、ハルトに伝言を頼まれた時は大変驚いた。なにせ俺はそんな話を一切聞かされていなかったからだ。
仲間を信じられなかったリオに「仲間は大切だ」と言わせるだけなら簡単だろう。だが、ハルトはそんな答えを求めていなかった。
――なぜ、ずっとヒマリやユウカが傍にいたのか。
――もし彼女たちを信じていたなら、どんな選択肢があったのか。
過去を否定させるのではなく、思考そのものを振り返らせる。「仲間がいるから何ができる」ではなく、「仲間がいたのに、なぜ自分は一人で決めてしまったのか」を言葉にさせる宿題だ。
自分の誤りに自分で辿り着かせる。それは説教でも叱責でもない、教育として最適解だった。
これを聞いた時、俺は思わず拍手してしまった。この短期間で凄まじい成長を見せてくれたことを嬉しく思った。
「………。」
リオは少し俯き、ちらりヒマリを見た。
ほんのりと赤くなる頬。ヒマリを前に話すのが少し恥ずかしいのだろうか? 一方のヒマリはいつものように微笑み、リオを見ている。
やがてリオは顔を上げ、口を開いた。
「……私は、自分の判断を一度も疑わなかった。」
リオはそう前置きし、静かに言葉を続けた。
「正確には……疑わないことが正しいと思い込んでいた。自分が導き出した答えが最短で、最善で、合理的だと信じていた。だから他人の意見を聞くことは、時間の浪費でしかないと考えていた。」
一瞬、言葉を切り――再びヒマリを見た。
「……でも、それは違った。」
「もしあの時、ヒマリやユウカ、ノアに相談できていたら。もし“自分1人で決める必要はない”と認めていたなら……私は別の方法を選べていたと思う。」
「成功するかどうかは分からない。けれど、少なくとも――あのような結論には辿り着かなかった。」
小さく息を吸い、リオは顔を上げた。
「"仲間"は完璧な正解をくれる存在ではなく――選択肢を増やし、自分の視野を疑わせてくれる存在だと、今は思う。」
「……それが、お前なりの答えなんだな。」
「はい。」
「分かった。今の話、しっかりハルトに伝えよう。」
俺からしても、その答えは十分な内容だと思った。その言葉を胸に、これからもミレニアムのため、引いてはキヴォトスのために頑張ってもらいたい。
話を切り上げ、帰ろうと思ったその時――ヒマリが何か言いたそうにしている様子が視界に入った。
「……ヒマリ、何か言いたいことがあるのか?」
「よろしいのですか?では、1つだけ……。」
彼女はコホンと咳払いを1つ挟むと、リオに体を向けた。それに気づいたリオもヒマリに体を向ける。
「……昔から言ってたんでしょう。そんなやり方を続けてたら、いつか信用を失ってしまうって。」
「あなたは『それでも構わない』とか言って、いざ1人になったらずっと寂しがってて……。何をしたいのか、全く分かりませんでした。」
リオは少し俯いた。自分が何をしたのかを理解しているからこそ、ヒマリの言葉が深く突き刺さっている。
長年信じてきたものを改めるのはとても難しいことだと思う。それでもリオはやってみせた。だからこそヒマリの言葉が鋭く感じるのだろう。
「ですが……今回こうして自力で殻を破ってくれたことは素直に褒めたいと思います。もう1人でどこか行ったりしないでくださいね、リオっち?」
「うん……。……待って、今なんて?」
「何のことですか?」
「いや、間違いなく『リオっち』って……。」
「あ、気づきました? 仲直りの印としてこれからは互いにあだ名で呼び合おうと思いまして。私のことは『ヒマっち』で良いですよ♪」
そう言ってピースをするヒマリ。
リオはどう反応をすればいいのか分からないのか、ゆっくりとこちらに顔を向けた。
「……せ、先生、ヒマリをなんとかしてくれないかしら。」
「酷いですよリオっち。私はあなたと仲良くしたいだけなのに。」
「もちろん仲良くはするけど、あだ名で呼ぶのは慣れてないから……。」
そう言ってリオは苦い顔をした。
というか……俺は帰ってもいいだろうか? リオの宿題も回収できたし、後は2人だけでよろしくやってほしいのだが……。
「黄泉先生、リオっちを説得してください。」
今度はヒマリが俺にお願いしてきた。
俺は小さくため息をつきながら、適当に案を述べる。
「……リオがつけたあだ名なら呼べるんじゃないか?」
「えっ。」
「あら、それはいいですね。」
リオは驚き、ヒマリは『ナイスアイデア』と言わんばかりに手を叩いた。俺が提案した手前リオは断ることもできず、その場で長考する。そして――
「じゃ、じゃあ……『ヒマりん』とか……。」
顔を赤くしながらリオが言った。ヒマリはそのあだ名を復唱し、やがてニコッと笑う。
「とっても可愛いあだ名をありがとうございます♪」
「た、ただし、こう呼ぶのは2人きりの時だけよ。ヒマリも2人だけの時に呼んで。」
「え〜。」
「えーじゃないのよ……。呼んであげるだけ感謝しなさい。」
……俺はここで全てを聞いてしまっているんだが?
会議室を去るタイミングを逃した俺は、ヒマリにマイクを渡すべきじゃなかったと後悔するのだった。
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夕食を終え、シャーレの休憩室には穏やかな時間が流れていた。テレビの前にはアルたちが集まり、ゲームで盛り上がっている。俺が唯一知るスマブロではなく、パーティ用ゲームのようだった。
そんな姿を眺めながら、テーブルを挟んで向かい合う俺とハルトは、コーヒーを片手に静かに腰を下ろしていた。全てが終わった後の反省会……の前に、リオの宿題をハルトに話した。
「……これが、リオの纏めた答えだ。」
"そうですか……。"
特に大きな反応もせず、小さく息を吐く。生徒の答えをしっかり受け止めた、教育者らしい表情をしていた。
その横顔を見て、俺は少し頬を緩めた。
"……黄泉先生?"
不意にそう聞かれ、俺は小さく首を振る。
「いや。少し前までなら、もっと悩む顔をしていたと思ってな。」
ハルトは一瞬言葉に詰まり、視線を逸らした。
"自分では、あまり分からないんですが……。"
「そういうものだ。」
ここ最近、ハルトは目に見えて成長した。アビドスで培った生徒を導く者としての決意。それを迷いなく生徒に伝えられている。屋上で悩んでいたあの日が懐かしい。
その後、俺たちゲーム開発部との出会いから、今回のアリス救出までを振り返った。思い返してみるとなかなか派手なことをやったなと、互いに頬を緩ませた。
そして、話題はハルトたちがエリドゥタワーに突入した場面に移る。そこでハルトがこちらの顔色を伺うように目を向けた。
"その……ずっと聞きたかったことがあるんですけど……。"
「言ってみろ。」
"エリドゥタワーの最上階を目指していた時、世界がモノクロになった瞬間があったんです。リオさんは「黄泉先生が刀を使ったから」と言っていたのですが……本当なんですか?"
……ああ、リオが作った
とりわけ隠す必要もない。知りたいのなら、答えてやろう。
「その通りだ。世界がモノクロになるのは……分かりやすく言えば"力を発揮したことによる副作用"だ。」
"おお……!副作用すら世界に干渉するなんて、「世界を書き換える刀」の力はスゴいですね。"
どこか子供のように目を輝かせるハルト。彼がロボットのプラモデルを買っているということは、ユウカから聞いていた。彼が持っている感情は――いわゆる男の性というものなのだろう。
だが……
「この力は……お前が思っているようにカッコいいものではない。」
ハルトの表情が薄れる。
俺の声は……自然と低くなっていた。
「力の使い方を誤ればすぐに死ぬ。お前が持つ"大人のカード"のようにな。」
"お……「大人のカード」……?"
そう言ってハルトはポケットから財布を取り出し、大人のカードを手に取った。
一見普通の黒いカード。だが、それに宿る力が持ち主を破滅に導くことを、俺は知っている。
"これが……私を……?"
"そ、そんなはずないですよ。これはただのクレジットカードで――"
その時、カードが微かに光を放った。ハルトの発言を否定するかのような、教えるような光。
それを目にした瞬間……ハルトはカードを落とした。
「俺のかつての仲間……先代のシャーレ顧問はカードの力を使い、己の願いと共にその炎を消した。」
「俺も、あくまで力を"使わせてもらっている"立場に過ぎない。その分の代償は借りる度に支払ってきた。……強大な力には、代価が必要なんだ。」
それっきり、ハルトは黙ってしまった。
こんな話をするつもりはなかったが……前に「全てが終わった後に話す」と約束していたこともあり、いずれは話すつもりだった。
怖がらせてしまったことは申し訳ないと思っている。だが、だからこそ――
「見てみろ、ハルト。」
そう言って俺は顔を"彼女たち"に向ける。そこには笑顔でゲームを楽しむアル、ムツキ、カヨコ、ハルカがいた。
「お前はあいつらを……これまでに出会った生徒たちを置いて、死ねるか?」
長考の後、ハルトは絞り出すように言った。
"……できません。"
「ああ、それでいい。」
俺がそう言うと、ハルトはぽかんと口を開いた。どうやら色々と勘違いしているらしい。
「いいか。力は振るうためにあるんじゃない。未来の選択肢を増やすためにあるんだ。」
俺は再び、彼女たちに視線を向ける。
「どうしようもない時、もしくはどうしても守りたいものがある時だ。その時だけカードのことを思い出せ。」
「そして……絶対に一人で抱えるな。俺に言え。仲間に言え。」
そして静かに、言葉を締める。
「死ぬ覚悟なんて、最後でいい。」
"……はい!"
ハルトは真っすぐに俺を見て答えた。
先生だからといって、真っ先に犠牲になる必要はどこにもない。全員助かればいいだけの話なのだから。
まぁ、アイツは最後まで行ってしまったがな……。
コーヒーを啜りながら、アルたちの様子を眺める。プレイヤーはいつの間にかハルカに変わっていた。
「あ、最後のパーツだ。」
「ななななな!? なんか、完成しちゃいました!」
「おお、"破壊神"じゃん!他のマシンたちをぶっ壊せー!」
「そんな……ってああっ!?ごごごごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ!!」
「ホント、とんでもないゲームね……。」
……相変わらず騒がしいヤツらだ。だが、そんな喧騒もたまには悪くない。そう思いながら、俺は再びコーヒーを啜るのだった。
再起動するセカイ 完
キャラ崩壊と思われても仕方ないと思ってます。すみません。
さて、スターレイルの終焉クエストをやったんですけど……途中から意味分かんなくなってホタル可愛い、黄泉可愛いって考えてました。
あと、当然のようにホタル刺すのやめてくれませんかね。あのシーンやっぱキツイんですよ。
ダリアは引く予定全くなかったんですが、色々と癖だったので引きました。
そして、ゼンゼロの瞬光ちゃん……。当然のようにすり抜けるのマジでやめてほしい。てか、年始早々運が悪い。
初夢もガチで意味分からん夢(進撃の巨人とエヴァンゲリオンが混ざったような夢)だったし、こりゃあ厄年ですかね。
次回からは黄泉先生✕生徒の物語を書いていきます。よろしーく。