死を識る者、日常に佇む   作:ツカッチ

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開拓者のみなさん、先生のみなさん、こんにちは。

黄泉先生×生徒を書く予定でしたが、変更しました。
少し遅めの大晦日です。


生徒との記憶 vol.2
年の瀬に灯るもの 前


クリスマスが終わり、キヴォトスの街は少しずつ年末の顔へと変わり始めていた。役目を終えたイルミネーションが撤去され、代わりに正月飾りが店先に並ぶ。アルたちは口々に「今年ももう終わりだね」と言い合い、どこか浮き足立った空気が街を包んでいた。

 

そんな彼女たちとは裏腹に、俺は「また面倒な時期が来る」と密かに悪態をついていた。

俺にとって年越しは大したイベントではないのだが、生徒たちは違う。深夜0時を迎えた瞬間にジャンプするとか、友達と一緒にお祝いするとか、他人に迷惑がかからないことなら幾らでもやればいいと思う。

 

この時点で察する者もいるだろうが、他人に迷惑をかける馬鹿がいるのがキヴォトスだ。故に、ゲヘナの風紀委員会やトリニティの正義実現委員会は新年を迎えると同時に出動することが多い。もちろん、俺もその1人だ。

 

だからこそ、今年は静かに新年を迎えたいが……そうもいかないだろうな。そんな事を考えて、俺は小さくため息をつくのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「黄泉先生の家でお泊り会がしたい!」

 

シャーレとシャーレ居住区の大掃除を終え、休憩室で休んでいた時のこと。突然ムツキがそんな事を言い出した。

 

「黄泉先生の家で年越しそばを食べて、みんなで遊んで、新年を迎えるの!」

 

……要するに、大晦日と元日を全員で過ごしたいということだろう。

そんな楽しそうな計画を立てているムツキには悪いが――

 

「断る。」

 

俺は短く、きっぱりと答えた。

 

「えぇー!? 別にいいじゃん! お風呂にも入りたいし!」

 

「近くに銭湯があるだろう。」

 

キヴォトスの中心に向かえば銭湯があり、ハルト曰く週に1回車でそこに行っているらしい。

しかし、ムツキは少しも引かない。

 

「銭湯じゃなくて、お風呂に入りたいのっ!」

 

それは何が違うんだ……? そんな疑問を浮かべるが、それよりも分からないことがあった。

それは――ムツキのいつものかまってとは違う、どこか強引な押し。どうしても俺の家で泊まりたいという思いが、言動1つ1つからひしひしと伝わってきた。

何がムツキをそこまで動かすのかを考えていると――

 

「私たちからも、お願いしたいわ。」

 

顔を上げるとそこにはアル、カヨコ、ハルカ、そしてハルトが立っていた。

 

「お前たち……。しかも、ハルトまで。」

 

"……黄泉先生、みんなの話を少しだけでも聞いてあげてくれませんか?"

 

その声は、やけに落ち着いていた。

俺が口を閉じると、アルが話し始めた。

 

「……あのね、実は私たちなりに考えてたの。黄泉先生ってずっと1人だったんじゃないかって。 新年が開けてすぐに出動して、誰もいない家に帰って……すごく寂しかったんじゃないかって……。」

 

「だから今回は……私たちと一緒に新年を迎えない?」

 

アルの話が終わると、カヨコとハルカも何かを訴えるような目でこちらを見てきた。

少しだけ視線を下げると、ムツキが眉を寄せてこちらを見ていた。『断らないで』という言葉が目に見えるようだった。

 

それでも断ろうと思えば断れた。第一に新年を祝う場が俺の家である必要はないからだ。だが……アルの言葉が、胸に残って離れなかった。

俺は小さく息を吐き、不安そうにこちらを見上げるムツキの頭をさらりと撫でる。そして――

 

「……泊まるというのなら、必要なものは自分たちで揃えろ。布団の数は間違いなく足りない。」

 

瞬間、ムツキたちの顔が晴れていく。普段は無表情のカヨコですらも口角が上がっていた。

 

「それって……!」

 

「特別に、お前たちを家に招いてやる。食べたいものは早めに言うといい。」

 

喜びの歓声が、休憩室に大きく響いた。

静かに新年を迎えたいのに、これでは逆に騒がしくなってしまう。それでも――悪い気は少しもしなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

そうして迎えた大晦日。寿司やらお菓子やら布団やらを一足先に車で俺の家へと移動させた後、今度はハルトたちを乗せて車を走らせた。

その間のハルトたち(特にムツキ)が妙にソワソワしているのがミラーに映っていた。どんな家を想像しているのかは知らんが、「想像を膨らませて幻滅するのだけはやめろ」と忠告しておいた。

 

やがて住宅街に入り、家の前に到着。車を停めて皆に降りるよう伝えた。

 

「ここが、黄泉先生の家……。」

 

「なんか普通だね。」

 

「ムツキ、お前だけシャーレに帰るか?」

 

「そ、そうじゃなくて! お金持ちの割には普通の家なんだなって……!」

 

言い直したところで言っていることは何も変わらないが、言いたいことは分かる。その家の外見は、ごく普通の、どこにでもある住宅に過ぎないからだ。

だが、1人でデカい家に住んだところで持て余すのみ。実際に生活してみれば、これくらいが丁度いい。

 

「ここまで広い住宅街に住んでると顔とかバレてそうだし、悪い奴に狙われそう。」

 

カヨコがそんなことを言った。

わざわざ心配してくれているのか。だが、その必要はない。なぜなら――

 

「金に関するものは全てシャーレに保管してある。ここには最低限生活するためのものしか置いていない。」

 

「あ、ちゃんと考えてるんだね。」

 

そう言ってカヨコは小さく息を吐いた。白い煙が宙を舞う。と、その時――

 

「へくしゅっ!」

 

ハルカがくしゃみをし、鼻を啜った。さすがに話が長引きすぎたな。

 

「待たせて悪いな、ハルカ。ほら、早く入れ。」

 

ハルカを先頭に家へと招く。……まさか、本当にこの家に人を招くことになるなんてな。

改めてそう考えながら、俺は静かにドアを閉める。閉じる瞬間の音が、いつもよりも小さく聞こえた。

 

 

リビングの電気をつけ、ハルトたちに自由に座るよう伝える。部屋の真ん中にはこの日のために物置から引っ張り出した炬燵。ムツキは一瞬のうちに潜り込んでいた。

 

暖房と炬燵をつける。少しして暖かい風が部屋を包み込んだ。

 

「こうして見ると、けっこうオシャレな部屋ね。」

 

「わぁ、綺麗な植物……。」

 

アルはソファに座りながら全体を見回して、ハルカは観葉植物に触れて言った。そんな中――

 

「なんか変な感じ……。」

 

カヨコはカーテンやカーペットを見ては俺に目を向ける。それはまるで、俺と部屋の景色を照らし合わせるようだった。

 

「変な感じとは……どういう意味だ?」

 

「あ、いや、私が考える黄泉先生の雰囲気とはちょっと違うなって。」

 

カヨコの言葉に、俺は納得してしまった。

確かに、俺が柔らかい色のカーテンと花柄のカーペットを敷いているのは、かなり異質に映っただろう。

 

「それに関しては、俺自身もずっと思っていた。」

 

「そうなの?」

 

「ああ。ただ買い替えるのも面倒だから、放ったらかしにしてあるだけだ。」

 

「なるほど……。でも私はギャップ萌えみたいで良いと思うわ。」

 

「わ、私もです!」

 

アルとハルカが大丈夫だと言わんばかりに声をかけてくる。言うほど俺は気にしてないし、今後買い替えるつもりもない。

 

「とりあえず俺は風呂を沸かしてくる。適当にテレビでも見ててくれ。」

 

「はーい。」

 

「今日って何やるの?」

 

「最近の年末番組は微妙だからね……。」

 

そんな会話を背に受けながら、俺は風呂場へと向かった。

 

排水口の蓋が閉められていることを確認し、お湯張りをスタート。最後に風呂蓋をかけ、リビングへと向かう。そしてそこには、画面がついていないテレビに群がるアルたちの姿が……。

 

「……あれは何をしているんだ?」

 

俺は少し離れた位置から彼女たちを見守っていたハルトに尋ねる。

 

"ゲームの映像をテレビに映すために準備しているみたいです。"

 

「はぁ、俺の許可なく勝手に……。」

 

思わず頭に手を当てる。ここはシャーレでなく俺の家なんだが……。家主の許可なくゲーム機をセットするその行動力はぜひ評価したいところだ。

 

「まぁいい、俺は今から蕎麦を茹でる。」

 

"手伝いましょうか?"

 

「……あいつらがテレビをぶっ壊さないよう、しっかり見張っていてくれ。」

 

"分かりました。"

 

そうして俺はキッチンに立ち、湯を沸かす。

やることと言っても蕎麦を茹でるだけで特別なことは何もない。やがてテレビとゲーム機を繋げることができたのか、ゲームの音が聞こえてきた。アルたちの楽しげな声と鍋の湯気がリビングを満たしていく。

 

……少し、不思議な感覚だ。大晦日のリビングに俺ではない声が響いている。

年越しは俺にとって大したイベントではない。1年の終わりくらい、静かに過ごしたかった。……だが、心の何処かで誰かの声を求めていたのかもしれない。それに気づいた時、彼女たちの声は、確かに俺の心を満たしていった。

 

 

茹で上がった温蕎麦とパック寿司を並べ、炬燵に入る。長方形の辺が短い所に腰を据えると、ムツキが分かりやすく不機嫌な表情をこちらに向けた。

彼女のことだ、どうせ自分の隣に座れとでも言いたかったのだろう。だが、そんな狭い場所に3人も並べるわけがない。

 

「……後でかまってやるから今は我慢しろ。」

 

俺がそう言うと、ムツキは人が変わったかのように笑みを浮かべた。……本当に分かりやすいヤツだ。

次に俺は周りを見渡し、全員がジュースを入れたことを確認した。

 

「よし……それじゃあハルト、口上を頼む。」

 

"わ、私ですか!? てっきり黄泉先生がやるものかと……。"

 

「当然だ。シャーレ顧問はお前だろう。」

 

"時折忘れそうになるんですよね、それ……。"

 

そう言ってハルトは座る姿勢を直す。アルたちに「頑張れ」と応援され、やがて口を開いた。

 

"えっと……今年は本当に色々なことがありました。最初はドタバタしながらの出会いでしたし、上手くいかないことの方が多かったと思います。"

 

少し苦笑しながら、そう続ける。

 

"でも……それでも、みんなで乗り越えることができました。新たなシャーレの出発として、これ以上ないスタートだったと思います。"

 

一瞬言葉を選ぶように視線を落とし、それから、はっきりと顔を上げた。

 

"来年もどうぞよろしくお願いします。それでは、乾杯!"

 

「「「「 かんぱ~い!」」」」

 

グラス同士の触れる音が響く。続いてコーラが喉へと流し込まれた。舌の上で弾ける炭酸。久しく味待っていない感覚だった。

 

「先生の手作り蕎麦〜♪」

 

ウキウキで箸を持つムツキは早速蕎麦をひと啜り。熱さを見誤ったのか、口の中でハフハフしていた。

 

「熱いけどおいひい!」

 

そう言って笑ってみせ、どんどん食べ進める。喜んでもらえたのなら何よりだ。

 

「よ、黄泉先生。この麺つゆには、な、何か隠し味があるのでしょうか……?」

 

不意に、ハルカが尋ねた。

 

「いや……ネットに書いてあったものの通りに作っただけだ。……口に合わなかったか?」

 

「そ、そうではありません! むしろすっごく美味しくて……!」

 

「そうそう、なんだかとても食べやすいのよね。」

 

ハルカの言葉にアルが賛同する。

実際、隠し味なるものは一切投入していない。どこにでもあるレシピサイトの書かれていた通りに作っただけだ。

 

すると、黙々と食べ進めていたカヨコが箸を止めて言った。

 

「……きっと、先生が作ってくれたからだよ。」

 

一瞬、空気が揺れる。そこから数秒の沈黙が続き、カヨコの顔はほんのりと赤く染まっていった。

 

「くふふっ♪ 珍しくカヨコちゃんがデレてる。」

 

「っ! で、デレてないから……!」

 

「でも、お顔は正直だねぇ♪」

 

「ムツキっ……!」

 

ムツキの一言でカヨコの顔の広くが赤くなる。俺とカヨコの目が一瞬合うと、すぐに彼女は視線をずらした。

 

「ありがとう、カヨコ。」

 

「……どーいたしまして。」

 

ぶっきらぼうに答えるカヨコ。それでも一瞬だけ見えた口元は、ほんの少しだけ上を向いていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

黄泉先生の蕎麦とお店のパック寿司を堪能した後、私たちは順番に風呂に入ることになった。黄泉先生と私で食器を片付け、アルさんたちが順番に風呂に入った。

その後、私も入浴。広い銭湯とは違って、家って感じがしてすごく心地よかった。

 

そして、黄泉先生が風呂場に向かった頃――

 

「みんな、ちょっといい?」

 

ゲームをしていたムツキさんが手を止め、のんびりしていた全員の視線を集めた。また何か新しい遊びを思いついたのかな?

 

ムツキさんは私たちの顔を見て、楽しそうに言った。

 

「黄泉先生の部屋、行ってみない?」

 

それは、あまりにも興味を惹かれる話だった。

黄泉先生の自室。それは、彼専用のプライベート空間。私たちが知らない黄泉先生の姿がそこにある。

――しかし、親しき仲にも礼儀ありだ。

 

"ムツキさん、それはさすがにダメだ。どんなに先生と仲が良くてもやって良いことと悪いことがある。"

 

「そ、そうよ! 黄泉先生を本気で怒らせたら、どうなるか……。」

 

アルさんが体を震わせながらムツキさんを止めようとする。それが演技なのかどうかは分からなかったけど、その様子をちょっと想像しただけで身震いした。

 

本気で怒る黄泉先生。静かに、しかし圧倒的な覇気で詰めてくるに違いない。私たちには、それこそ"死神"のように映るだろう。

うん、絶対に止めたほうがいい。ところが――

 

「じゃあ、ムツキちゃん1人で行って来る! すぐ戻ってくるから!」

 

そう言ってムツキさんは一目散に階段を上っていった!

いや、本当にマズいって……!

 

「話聞いてた!? ムツキ、待ちなさい!」

 

「はぁ……。」

 

「み、みなさん!? ま、待ってください!」

 

それに続くように、アルさん、カヨコさん、ハルカさんが階段を上っていく。ああもう、どうしてこうなるの……?

 

"いっそのこと、みんなで仲良く怒られるか……。"

 

黄泉先生に怒られるという恐怖にやられ、一周回って開き直ってしまった。先生、本当にごめんなさい。見張りの私が弱いばかりに……。

 

心の中で何度も黄泉先生に謝りながら、4人の後を追うのだった……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

結局全員で来てしまった2階。引き返す選択肢なんて、私たちにはなかった。

 

「えっと、あそこが私たちの部屋で、そこがハルト先生の部屋だから……。」

 

「ここが、黄泉先生の部屋だね。」

 

階段を上がって左手にある白いドア。ただのドアなのに、変に緊張してしまう。ムツキさんは恐る恐るドアハンドルを押し込み、ゆっくりとドアを開けた。

 

「失礼しまーす……。」

 

静かに、音を立てないように中に入る。

電気をつけるとそこは――ベッド、作業デスク、クローゼット、そして、刀掛けに寝かせられた黄泉先生の刀があった。

 

「先生の刀だ。やっほー。」

 

「にしてもなんか……広いね。」

 

「床に置いてあるものが少ないからそう見えるのかも。」

 

音を立てないようにそろりそろりと中に入る。

これで怒られることは確定した。せっかくの大晦日なのに……。……ふと、机の上に何かを見つけた。

 

"これは……写真立て? ……えっ?"

 

「どうしたの?」

 

思わず目を見開いた。なぜならその写真立てには、黄泉先生と女性の仲睦まじそうな様子の写真があったから。

 

「黄泉先生と……女の人!?」

 

「えっ、黄泉先生に彼女いたの!?」

 

「いや……これは彼女って言うより――」

 

「――奥さん?」

 

アルさんの一言で、時間が止まったような感覚があった。数秒後に我を取り戻したけど、ムツキさんたちはまだ固まっていた。

さらに数秒後、ムツキさんたちがようやく思考できるようになったのか、再び私が手にしている写真を覗き込んだ。

 

「そ、そんな!黄泉先生って既婚者だったの……!?」

 

「あ、ムツキが脳破壊された。」

 

「しっかりしなさい、ムツキ!」

 

カヨコさんとアルさんが、力なく膝をつくムツキさんを抱える。ハルカさんはオロオロしながらも、手で風を送っていた。

 

そんな4人をよそに、私はその写真に目を落とす。何かの見間違いかと思ったけど、それは違った。

黄泉先生と一緒に映る女性の首元。そこに映っていたのは、先生がいつも身につけているはずの――黄色のペンダントだった。  

 

どうして彼女が黄泉先生と全く同じペンダントをしているのか。その答えを、私は何となく察していた。

――その時だった。

 

 

 

「おい。」

 

 

 

氷のように冷たい声が響き、同時に心臓が跳びはねた。何が起きたのかは一瞬で理解した。緊張しているはずなのに、脳は異様に冷静だった。

背後に感じる鋭い視線。黄泉先生がすぐ後ろに立っている。私たちは誰1人、振り返ることができなかった。

 

「お前たちならやりかねんとは思っていたが……まさか本当にやるとはな。……ハルト、その写真立てを、元あった場所に戻せ。」

 

"はっ、はい……!"

 

デスクの上に写真立てを素早く、しかし丁寧に置く。次に何が起きるのか分からなくて、それ以上は動けなかった。

 

やがて足音が遠ざかっていく。振り返ると、黄泉先生はいなかった。どうやら1階のリビングに戻ったようだ。

 

「……やっちゃったね。」

 

「もっと怒られるかと思った……。」

 

ここに来た時点でこうなることは目に見えていた。実際、私も開き直ってはペンダントが気になって見入ってしまったし……。

とにかく、先生に謝りに行こう。そうして階段を下りようとした、その時。

 

「いま思いついたんだけどさ……。」

 

不意に、カヨコさんが口を開いた。何かを悟ったような、点と点が繋がったかのような顔をしていた。

 

「……覚えてる? アビドス砂漠で聞いた、黄泉先生が過去に"知り合い"と砂祭りに行ったって話。」

 

覚えている。それはアビドスの生徒たちと共にアビドス砂漠にある何かを目指して歩いていた時に、黄泉先生が少しだけ話してくれたものだ。

 

「あくまで予想だけど……黄泉先生を誘った人って、この女の人なんじゃないかなって……。」

 

「確かに……。……あれ? じゃあ、その人は……」

 

「これは私の予想だからね? ……でも、もしこれが本当だったら、私たち……。」

 

「……酷いこと、しちゃったわね……。」

 

アルさんの後悔する声が小さく、しかしはっきりと聞こえた。

その予想が真実かは分からない。それでも、ここにいる全員が、同じ答えにたどり着いていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

1階のリビングに戻ると、黄泉先生は1人お茶を飲んでいた。何か昔の思い出に耽るような、どこか遠くを見つめていた。

その雰囲気は後悔に近い。やはり私たちは、先生の辛い過去に触れてしまったようだった。

 

"黄泉先生。"

 

私は先頭に立ち、黄泉先生を正面から見据える。彼はゆっくりと私の方を向いた。

目が合った瞬間、足がすくんでしまう。声が思うように出なくなる。それでも、私たちは言わなければならない。このような空気になったのは、間違いなく私たちのせいなのだから。

 

"この度は、勝手に先生の部屋に入ってしまい、本当に申し訳ありませんでした!"

 

「「「「 黄泉先生、ごめんなさい!!」」」」

 

深く、頭を下げる。怒鳴られても、家から追い出されても仕方ないと思っていた。

黄泉先生は椅子から立ち上がり、こちらに歩み寄り――

 

「……こちらこそ、すまなかった。」

 

どういうわけか、深く頭を下げた。

わけが分からずその様子を見つめていると、黄泉先生はゆっくりと顔を上げた。

 

「お前たちが俺の部屋を覗くと分かっていながら、写真立てを片付けなかった俺にも非がある。俺が女と映る写真を目にしたら、お前たちは間違いなく騒ぐだろうからな。」

 

「……アイツの話はしたくなかった。アイツを思うと、どうしても暗い部分を思い出してしまうからだ。その空気は……今日という日には合わない。」

 

「だから――いつまでも暗い顔をするのはやめてくれ。俺は微塵も怒ってなどいない。」

 

先生も先生なりに考えていた。だけど、これじゃあ割に合わない。黄泉先生が謝る理由なんてどこにもない。

 

その時、ムツキさんが黄泉先生に歩み寄った。

 

「……黄泉先生。怒ってないなら、ちょっとしゃがんでもらえる?」

 

言葉通り、黄泉先生はしゃがみ込む。ムツキさんはちらりとこちらに視線を送った。

すると、私以外の3人がムツキさんの隣に並び――黄泉先生を抱きしめた。

 

「ほら、ハルト先生も。」

 

"えっ……? じゃ、じゃあ……。"

 

ムツキさんに言われたので、私は彼女たちの後ろから抱きしめる。ギリギリ黄泉先生の肩に手が届いた。

 

「……これでもう、寂しくないよね?」

 

「……そうだな。」

 

少し間を置いて、黄泉先生はそう答えた。

 

「お前たちのおかげで、久しぶりに大晦日を楽しいと思えたよ。」

 

そうして黄泉先生は小さく笑う。さっきまでの暗い空気が一気に晴れていくのが分かった。

 

「……よしっ!」

 

急に、ムツキさんが手を叩いた。

 

「しんみりタイム終了〜! せっかくのお泊り会なんだからさ、もっと楽しいことしよ!」

 

「楽しいこと?」

 

「決まってるでしょ、みんなでゲームするの!」

 

そう言ってムツキさんは、さっきまでの出来事なんて無かったかのように笑う。その無邪気な笑顔に黄泉先生も少し肩の力を抜いたようだった。

 

「じゃーん、スマブロでーす!」

 

ムツキさんは一体どこに隠し持ってたのか、スマブロのパッケージを取り出した。

 

"あれ、持ってたの?"

 

「くふふ、4人でお金を出して買ったんだ〜!」

 

「コントローラーも全員分あるし、みんなで対戦しよ!」

 

「……お手柔らかに頼むぞ。」

 

そう言って黄泉先生は小さく息を吐いた。その口元には、ほんのわずかだが確かに笑みが浮かんでいる。

騒がしい声とゲームの起動音。それらが重なって、リビングは一気に賑やかさを取り戻した。

 

こうして――黄泉先生の少しだけ特別な大晦日は、穏やかに更けていくのだった。

 

 

後編に続く




ゼンゼロのメインストーリーやりましたよ。
大きな力の代償、失うのは五感と記憶。うーむ、どこかの巡回レンジャーみたいなこと言ってましたね。誰でしたっけ。

そして何よりイゾルデ大佐!今回のストーリーで一番感動したのは彼女の再登場でした。初めてミアズマに感謝したかもしれません。

さて、しばらくは平和な回が続きます。
そろそろ第3章の流れも考えないとですね。
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