死を識る者、日常に佇む   作:ツカッチ

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開拓者のみなさん、先生のみなさん、こんにちは。

ゼンゼロをパソコンに移してプレイしたら全然カクカクしなくてすっごい楽しかったです。(つってもノートパソコンなんで、電池の減りはバカみたいに速いですが。)

よーするに、プレイできればいいんですよ。


救いの手は、届く

まだ朝の柔らかな陽射しが街を包んでいた。

この辺りの住宅街は静かで、少し寂れた雰囲気もある。

 

アビドス住宅街。私はその道を歩いていた。

 

”朝は結構涼しいんだな…。”

 

砂嵐による砂漠化が進むアビドス自治区は、日中の気温がかなり上昇する。

実際、私自身その暑さで倒れた経験もある。それもあってか、爽やかな風と暖かい光の心地よさに少し驚いていた。

 

私がこんな朝早くからここを歩いていた理由。それは、黒見さんを説得するためである。

 

『アビドス廃校対策委員会』と『シャーレ』が手を結ぶそとになった以上、私たちの間に(わだかま)りがあってはならない。

なんとしても手を握り返してもらわなければ。

 

街の様子を見ながら歩いていると、前方の角から見慣れた制服姿が現れる。

その正体は、黒見さんだった。

 

”あっ、黒見さんおはよう。”

 

何気ない挨拶に、彼女はピタリと足を止め、明らかに嫌そうな顔を向けてきた。

 

「なっ、何が『おはよう』よ! 馴れ馴れしくしないで! 私は先生のこと認めてないから!」

 

強い語気。だがそれは拒絶というより、どこか意地になっているようにも見える。

それはたぶん、まだ完全に壁を築ききれていない証拠だ。

 

”今から学校に行くの?”

 

「教えない。先生には関係ないでしょ。」

 

相変わらず黒見さんは冷たい反応を見せるが、それでも会話は続いている。

ほんの僅かな隙を見逃さないよう、私はさらに踏み込むタイミングを測る。

 

「朝からこんなところでうろちょろしてると、ダメな大人の見本に思われちゃうわよ。」

 

”もしかして、心配してくれてるの?”

 

「なっ…なんでそうなるのよ!?」

 

そう言って黒見さんは顔を真っ赤にする。

ほんのわずかに、警戒心の壁が揺れたように見えた。

 

”冗談は置いといて…。せっかく学校に行くなら、一緒に行かない?」”

 

私は少し強気の質問をしてみた。

 

「なんで私が一緒に行かなきゃいけないの?」

 

まぁ、当然の反発。

だけど、反発するということは完全に拒絶してはいないということでもある。

 

「それに今日は登校は自由の日だから、学校に行かなくてもいいの。」

 

おっと、以外にも彼女から話をしてくれた。

つまり彼女が現在向かっているのは、学校ではない別のどこかということだ。

 

”…ちなみに、どこに行くの?”

 

「お、教えないって言ってるでしょ! じゃあね!」

 

私が尋ねると黒見さんは言い捨てるように背を向け、走り出した。

 

”あっ、黒見さん!”

 

まだまだ心の壁は高い。

でも、諦めるわけにはいかない。

 

まだまだ心の壁は高い。

でも、諦めるわけにはいかない。

 

”(黄泉先生に頼まれたこの任務。必ず成し遂げてみせる!)”

 

そう胸に誓い、私は彼女の背中を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャーレの静かな部屋に、ペンの走る音だけが響いていた。机の上にはアビドスへ送るための補給品申請書類が整然と並び、その端には先日のヘルメット団アジト襲撃の報告書が伏せられている。

 

俺は黙々とペンを動かしつつ、ある思考を巡らせていた。

 

 

――ヘルメット団の問題はまだ終わっていない。

 

 

アジトを叩いてヘルメット団を追い払い、補給所や弾薬庫はホシノたちが爆破させた。だが、散った団員のすべてが捕らえられたわけではない。

ヘルメット団のような不良生徒は無駄にプライドが高い。してやられたままでは終わらないだろう。

 

俺の読みが正しければ…奴らは近い内にアビドスの生徒を襲う。復讐の手段も場所も、選ばずに。

 

「……俺ならどう動く?」

 

ペン先が一瞬止まる。

自分が敵の立場なら、今の対策委員会の隙をどう突くか。どこを狙うべきか。

ーーそれを先回りすることが、守る者の務めだ。

 

そんな時だった。

手元の端末が振動し、控えめな着信音が響く。

 

画面に映る名前は 「十六夜ノノミ」。

以外にもモモトークではなく、通話での着信だった。

 

通話のボタンを押すと、なんとも明るい声が聞こえてきた。

 

『もしもし!黄泉先生!今日、みんなとお昼一緒に食べませんか?』

 

…拍子抜けするような誘いに、俺は思わず目を細めた。だが、断る理由はない。

いや、それどころかーー今のような時だからこそ、顔を出しておくべきかもしれない。

 

「……どこに行けばいい?」

 

『アビドス高校で待ってます!』

 

「分かった。すぐに向かう。」

 

そう言って端末を閉じ、静かに立ち上がる。

外套の裾を整え、無造作に机の上の報告書に視線を落とした。

 

ーー復讐の影は、まだ消えていない。

だが今は、まず目の前の誘いに応えよう。

時に、何気ない場の中からこそ、見落としてはならぬ兆しが現れるものだ。

 

俺は静かに歩みを進め、シャーレの扉を開いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

アビドス高校でノノミやハルトたちと合流し、連れられて来たのは『柴関ラーメン』と呼ばれるラーメン店。

ゴーストタウンに混ざるこじんまりとしたその店からは、不思議と活気があふれているように感じた。

 

発案者のノノミを先頭に店を入ると―

 

「いらっしゃいませー!柴関ラーメンで…って、ええ!?」

 

そこには白いバンダナを巻き、『柴関』と書かれたサロンエプロンを身に着けたセリカがいた。

瞬間、セリカの瞳がこちらに気づき、ぴたりと固まる。

その目には驚きと、すぐさま湧き上がる動揺が浮かんでいた。

 

「あの〜☆ 6人なんですけど〜!」

 

「あはは…。セリカちゃん、お疲れ…。」

 

「お疲れ。」

 

ノノミがいつもの笑笑顔でセリカに伝えた。それに続くように、アヤネとシロコが彼女を労う言葉をかける。

だが、当の本人はそれどころではない。

 

「み、みんな…どうしてここを…!?」

 

「うへ〜、やっぱここだと思った。」

 

”黒見さん、お疲れ様。”

 

「黄泉先生に、桐山先生…!?…ていうか、やっぱストーカーじゃん!」

 

セリカがハルトを指さして言う。

言い放たれたその言葉に、俺は眉をわずかに動かした。

 

「……ストーカー、か。」

 

低く呟いたその一言に、ホシノが「先生は悪くないよ〜」とフォローした。

 

…まあ、真意は理解している。俺が『セリカの説得を頼む』とハルトに言ったがために、力を入れすぎたのだろう。

 

そんな風に考えていたところに、カウンター席の方から声が聞こえた。

 

「セリカちゃん。おしゃべりはそこまでにして、注文受けてくれな。」

 

目を向けるとそこには、ささらを使って中華鍋を洗っている柴犬がいた。さも当然かのように二足歩行をしている。

 

俺も初めて見た時は驚いたが、キヴォトス人には人獣やロボットなどの特殊な種族が多い。俺やハルトと似た特徴を持つのは生徒くらいだ。

 

「あ…うう…はい、大将。それでは…広い席にご案内します。こちらへどうぞ…。」

 

彼女は今にも消え入りそうな小さな声で接客する。どうやらあの柴犬が大将…つまり店主らしい。

席へと案内するセリカについていく中、俺に大将の声がかかった。

 

「なぁ、アンタ…”黄泉先生”か?」

 

俺は足を止め、大将の方を見る。

変に隠す必要もない。俺は淡々と答えた。

 

「…ああ。顔を合わせるのはこれが初めてだが、よく分かったな。」

 

「ははは、これでも街のラーメン屋だからな。客の噂話くらい耳に入るさ。狭い店だが、ゆっくりしていってくれ。それと―」

 

そう言って大将は刀に視線を向ける。

 

「その刀、カウンター席の端に立てかけといて構わないぜ。」

 

「…感謝する。」

 

どうやらこの大将、ユーモアがあるだけでなく、自然と他人を気遣うことができるようだ。

俺は小さく頷くと、静かに刀をカウンター横の柱へと立てかけた。すると―

 

「黄泉先生!私の隣、空いてますよ!」

 

振り返ると、ノノミが手を挙げて隣に座るよう促してきた。ハルトは既にシロコの隣に座っている。

俺は黙ってノノミの隣に座り、メニュー表に目を通した。

 

ホシノたちは既にメニューが決まっていたのか、セリカと楽しそうに話していた。

 

「セリカちゃんのバイトユニフォーム姿、とってもカワイイてす☆」

 

「なるほど、セリカちゃんはユニフォームでバイトを決めるタイプなんだね〜。」

 

「ちちち違うって!関係ない!ここは行きつけのお店だったし…!」

 

「バイトはいつから始めたの?」

 

「い、1週間ぐらい前から…。」

 

そんな会話を耳に入れながら、俺はメニュー表を静かに閉じた。

それを見て、セリカがハンディターミナルを開く。

 

「それで、ご注文は?」

 

「『ご注文はお決まりですか』でしょー?お客様には笑顔で親切に接客しなくちゃ〜?」

 

「あうう…。ご、ご注文は、お決まりですか…。」

 

ホシノに指摘され、再び顔を赤くするセリカ。そんな彼女を楽しむかのように、ホシノたちは笑みを浮かべた。

 

「私、チャーシュー麺をお願いします!」

 

「私は塩。」

 

「えっと…私は味噌で…。」

 

「私はねー、特製味噌ラーメン!炙りチャーシュートッピングで!」

 

”私は柴関ラーメンで。”

 

「…塩、二玉。」

 

セリカはこれらの注文を復唱し、ハンディターミナルに打ち込む。最後に打ち間違いがないかを確認し、それを閉じてポケットにしまった。

 

「…ところで、みんなお金は大丈夫なの?」

 

ふと、セリカがそんな質問をした。

 

借金に追われている彼女たちは、手持ちがそんなに多くないことは簡単に予想できる。

逆に普段はどうやって払っているのかは気になるところだが。

 

対するホシノの返答は―

 

「それなら大丈夫だよ。今日は2人も先生がいるし。」

 

…まぁ、始めからそのつもりだったがな。

 

子供と大人なら、勘定をするのは当然大人だ。その点に関しては何の文句もない。それで彼女たちが元気に、笑顔になってくれたのなら、お釣りが来るくらいだ。

そんな時…

 

「先生、これを使ってください。」

 

隣に座っていたノノミがこそこそと話しながら金色に光るカードを見せてきた。

それは、彼女のクレジットカードだった。

 

「限度額まではまだまだありますから。」

 

なるほど、ホシノたちはいつもノノミに払わせていたのか。ノノミは普段から優しいため、何でも引き受けそうだが…。

 

…ホシノたちには念の為、金のトラブルについて教えておいた方が良さそうだ。

 

それはそれとして、俺はノノミが差し出してきたカードを彼女の方へと押し戻す。

 

「…生徒に奢らせるほど、俺は落ちぶれてはいない。勘定のことは任せろ。」

 

そう言って椅子の背もたれに寄りかかり、腕を組む。それを聞いたホシノたちは「おお〜」と歓声を上げ、なぜか拍手をし始めた。

 

「さっすが先生、太っ腹〜。」

 

「ありがとうございます!」

 

やれやれ、ハナから俺たちに奢らせる予定だっただろうによく言う。

そんな彼女たちに、俺は1つ質問をした。

 

「…一応聞いておくが、他に頼まなくてもいいのか?」

 

刹那、彼女たちの動きが止まる。

しばらくお互いの顔を見合わせた後、静かにシロコが口を開いた。

 

「…餃子も食べたい。」

 

「いいね〜。せっかくだから、大きいの頼んでみんなで分けよう。」

 

「炒飯もみんなで分けませんか?」

 

「…食べられる分だけ頼め。」

 

出された料理を残されるのは困るので、注文される前に忠告をしておく。

しかし、俺が追加の許可を出すなりこの変わりよう…。やはり聞いておいて正解だった。

 

アビドス高校を、引いてはアビドス全土を守ってもらうためにも、彼女たちにはたくさん食べて力をつけてもらわなければ。育ち盛りというなら尚更だ。

 

”あの、黄泉先生。私は…”

 

ふと、正面から小さく声が聞こえてきた。

ハルトの奴が『自分の分は払ってもらえるのか』と気になっているらしい…。

 

「…自分のは自分で払え。」

 

”えっ。”

 

俺がそう言い放つと、ハルトは目を丸くした。

間抜けな彼の表情に、つい口元が緩んでしまう。

 

「ふっ…冗談だ。お前の分も俺が出そう。」

 

”あ、ありがとうございます!”

 

シャーレとアビドスが手を組んだ今、彼にも頑張ってもらわねばならないからな。

この貸しは、その頑張りで返してもらおう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ごちそうさまでしたー!」

 

ノノミ先輩の明るい声が店内に響いた。それに続くようにホシノ先輩たちが声を揃える。

 

「(……ほんと、元気なんだから。)」

 

カウンターの奥で手早く食器を片付けながら、私は小さく溜息をついた。

ちらっと目を向ければ、テーブル席では先生たちが立ち上がろうとしている。

 

……見たくなかったわけじゃない。けど、なんだか胸がモヤモヤする。

 

「……行くぞ。」

 

あの人、ホントにぶれないよね。黄泉先生。

見てるだけでちょっと……いや、けっこう怖い。

 

黄泉先生が会計を済ませ、出口へ向かい始める。

 

「セリカちゃん、またね!」

 

突然ホシノ先輩の声が飛んできて、私はびくっと肩を揺らした。

 

「次は一緒に食べよー!」

 

ノノミ先輩も続けて笑顔を向けてくる。

シロコ先輩とアヤネちゃんも笑って手を振ってくれた。

 

「う、うん……またね。」

 

何やってんの、私……。

作り笑いなんかしちゃってさ。

 

カウンターの影に隠れるようにして、彼女たちの背中を見送っていた。

 

「桐山先生は何を奢ってくれるの〜?」

 

ホシノ先輩のだらけた声が聞こえた。

…あんなに食べたのに、まだ食べるつもりなの?

 

私がそう考えた時、アヤネちゃんも全く同じ質問をしていた。

 

「失礼だなぁアヤネちゃんは。黄泉先生がラーメンを奢ってくれたから、桐山先生は別の何かを奢ってくれるんじゃないかって。」

 

「…ハルト、ジュースでも奢ってやれ。」

 

”ははは…。分かりました。”

 

黄泉先生がため息を混ぜながら、桐山先生に言う。

それを聞いたホシノ先輩たちは「やったー!」と喜んでいた。

 

……ほんっとに、仲良しだなぁ。

バカみたいに、楽しそうで……。

 

気がつけば、心の中でそんな言葉が漏れていた。

 

「(……いいなぁ……。)」

 

はっ、としてすぐに首を振った。

 

「(な、何考えてんのよ、私っ!)」

 

ギュッと両手でお盆を握りしめる。

 

私はそう簡単に折れない。黄泉先生も桐山先生も絶対に認めない。

あんなの羨ましいなんて…思うわけ、ないじゃん。

 

「(……でも……。)」

 

ちらっと、もう一度扉の方を見る。

みんなは楽しそうに話しながら店を後にした。

 

その瞬間、また小さく胸がチクリと痛んだ。

まるで自分だけが置いていかれたような、そんな気がした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ…。」

 

バイト終わりの帰り道。

私は今日の出来事を思い出してはため息をついた。

 

どうしてみんなは、先生たちと仲良くしているんだろう。私たちが大人にどんな目に遭わされたか…忘れちゃったのかな。

 

「一緒に頑張ろう」って言う大人はたくさんいた。私たちの思いを理解してくれる人がいるんだと喜んだ。

…だけど、みんな何も言わずに消えた。

 

大人は口だけで、何の手助けもしてくれない。

大人は信用できない。信用してはならない。

 

みんなでその結論に至ったはずなのに…どうして?

 

「どうして…隣で笑っていられるの?」

 

『先生』が他の大人たちとは違うって言い切れるの?

 

『先生』が最後まで裏切らないって言い切れるの?

 

『先生』こそが…本当の大人って言い切れるの?

 

「…ああ、もう!分かんない!」

 

どうすればいいのか分からず、私は頭抱える。

きっとホシノ先輩たちは昨日のことがあったから、先生たちを連れてきたに違いない。

 

だけど…今日のみんなは、すごく楽しそうに見えた。

 

私とみんなの間に、高い壁があるように感じた。

私を置いて先へ行ってしまう、そんな気がした。

 

「『1人』って、こんなに寂しいんだ…。」

 

そう呟いた、その時―

 

「黒見セリカ……だな?」

 

初めて聞く声に、私は瞬時に身構える。

声のした方向…暗闇の路地からヘルメットを被った生徒が現れた。

 

間違いない。カタカタヘルメット団だ。

 

「あんたたち…まだこの辺をうろついてんの?」

 

返答はない。

だけど、こいつらの目的はどうせ私たちの邪魔をすること。前にしてやられた復讐のつもりね。

 

「私たちの邪魔をするなら、タダじゃおかないから。」

 

そして私は銃口を敵に向ける。

相手は3人。何も問題はない。

 

「あの”死神”もアビドスの仲間もいない。無駄な抵抗はやめるんだな。」

 

「死神…?わけの分かんないこと言ってんじゃないわよ!来ないならこっちから行かせてもらう!」

 

そう言ってトリガーを引こうとした、その時。

 

カチリ――音が、後ろから。

 

「え…?」

 

振り返る前に耳に届いたのは、銃声。

背中に冷たい風が触れた気がして、心臓が一瞬止まった。

 

――撃たれる。そう思った瞬間。

 

カカカカァンッ!

 

甲高い金属音と一緒に、白い閃光が目の前を走った。

何が起きたのか分からなくて、体が固まったまま動けなかった。

 

振り返ると、そこには一人の男が立っていた。

白い外套を風に揺らして、静かに刀を構えてる。その背中は――

 

「……黄泉、先生……?」

 

言葉が漏れた。

私の声に、彼は少しだけ振り返って、ただ一言。

 

「後は、任せろ。」

 

低くて、静かな声。

でも、心臓に突き刺さるみたいに強かった。

 

「なんで…」

 

なんで、ここにいるの。

なんで、助けてくれたの。

あんな事を言ったのに、なんで―

 

「”死神”…!?どうしてここに!」

 

ヘルメット団の1人が叫ぶ。その声には、明らかに恐怖が混ざっていた。

 

「…お前たちの行動など、読むに容易い。」

 

振り返りもせず、先生は低く、静かに問いかけた。

 

「――他の仲間はどこにいる?」

 

私が困惑する横で、ヘルメット団の1人が一瞬たじろぐ。

でも次の瞬間、無理やり虚勢を張った声を張り上げた。

 

「…教えるわけねーだろ!!」

 

叫ぶと同時に、そいつはトリガーを引いた。

 

その瞬間――先生の姿が、消えた。

 

本当に、“消えた”って感じだった。

目の前からいなくなったと思ったら、次に鳴ったのは、真っ二つに斬られた武器が落ちる音と――風の音。

 

誰1人撃つことも、反応することもできず、連中は次々に地面に転がっていった。

怪我もしてない。ただ、完全に無力化されていた。

 

「く…クソッ…!」

 

残った1人が、腰を抜かして震えていた。

先生は一歩も近づかない。ただ、静かに、黙ってその生徒を見ていた。

 

「わ、わかった!言う!言うから!全部話すからぁっ!」

 

哀れなくらい必死な声が街に響く。

先生は静かに刀を収め、彼女の話に耳を傾けた。

 

「(……何もできなかった……。)」

 

さっきまで強がって「こっちから行かせてもらう」なんて言ってたのに。

でも、だからこそ今ははっきり分かる。

 

先生は、ずっと見ててくれた。

私のこと、アビドスのこと、全部――守るつもりで、ここに立ってくれたんだ。

 

私はその背中を見つめながら、初めて、心の奥から湧き上がるような気持ちを飲み込んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

連中の一人がアジトの場所を口にしたあとも、先生は一言も喋らなかった。

ただ頷いたあと、手にした端末で何かを打ち込み始める。

 

しばらくすると、こちらに走ってくる5人くらいの影が見えた。

 

「セリカちゃーん!」

 

聞き慣れた声が夜を裂く。

ホシノ先輩、ノノミ先輩、シロコ先輩、そして桐山先生だった。

 

「よかった、無事で……!」

 

ノノミ先輩が抱きついてきた。

その優しいぬくもりに、少しだけ体の力が抜けた。

 

「…ううん、平気。……先生が、助けてくれたから」

 

ぽつりとそう言うと、皆の視線が自然と黄泉先生に集まった。

でも、黄泉先生は何も言わず、アジトの位置が記された地図データを桐山先生に見せる。 

 

”ここが…”

 

「ああ、ヘルメット団の残党が潜伏している拠点だ。」

 

それだけ言って、また静かに口を閉ざした。

ホシノ先輩が地図を覗きながら、目を細める。

 

「ふーん……なるほどね。こういう“しつこいの”は、根っこから潰さないとダメってことか。」

 

ホシノ先輩の言葉に、シロコ先輩が静かに頷いた。

 

「このまま放っておいたら、また別の誰かが狙われる。ここで終わらせよう。」

 

「…ならば、夜のうちに動く。」

 

その言葉を合図に、空気が一気に変わった。

 

黄泉先生の目は、闇の奥――敵の潜む砂漠を射抜いている。

まるで、すでに次の戦場を見据えているかのように。

 

「…了解、準備はできてるよ。」

 

ホシノ先輩が短く答え、ショットガンを肩に担ぐ。いつもの眠たげな顔に、わずかに影が差している。

シロコ先輩やノノミ先輩、ホログラムのアヤネちゃんも、いつもとは違う。

 

黄泉先生が視線をこちらに向け、尋ねる。

 

「…セリカ、準備はいいか。」

 

黄泉先生の言葉を聞いた途端、胸の奥がぐっと締めつけられた。私の中で何かが、少しだけほぐれていく。

 

「ええ、いつでも行けるわ!」

 

「なら、いい。出発だ。」

 

黄泉先生の声に、皆が無言で頷いた。

そして、キヴォトスの夜の中へ走り出す。

 

柴関ラーメンで見た、ぬくもりのある輪。

そこに入りたいと願った私の手は――今、その輪の中に、しっかりとあった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

夜の砂漠に、ぼんやりと明かりが浮かぶ。

廃ビル。周囲を金網で囲まれた、半ば崩れかけた建物。

それが、ヘルメット団のアジトだった。

 

「……見えた。あそこだ」

 

先頭を走っていたホシノ先輩が低く声を落とした。

全員が足を止め、息を殺す。

 

『外に見張りは四人。…ですが、中の様子までは確認できません。』

 

アヤネちゃんがドローンに映った情報を元に、短く状況を伝える。

そして、すぐに作戦を説明した。

 

”挟み撃ちにしよう。私と小鳥遊さんたちが正面から突入、黄泉先生は裏から。”

 

「いいですね。先生なら気づかれずに動けるでしょうから。」

 

ノノミ先輩が頷く。

その言葉には、もはや迷いがなかった。

 

”私たちで陽動しながら中を制圧。その間に、黄泉先生が中枢を突いて混乱させる。乱戦は避けたいからね。”

 

桐山先生の声は相変わらず落ち着いていたけど、その目はしっかりと戦う覚悟を持っていた。

この作戦に黄泉先生は静かに頷き、ホシノ先輩が「いいね」と笑った。

 

”それじゃあ、作戦開始!”

 

桐山先生の声を合図に、皆が静かに走り出す。

夜風が頬を切る。緊張で胸が高鳴る。

 

でも――不思議と怖くなかった。

隣には仲間がいて、後ろには先生がいる。

 

私も走る。迷いなく、前を見て。

 

――私たちで、アビドスを守るために。

 

 

つづく




サフェル引きたいけど、次ファイノン来るからなぁ…。
スカーク引きたいけど、石が無いからなぁ…。

引く石は無いしお金も無い。
引く意思はあるんだけどね。

誤字脱字があったらぜひ教えてください。

次回 砂に埋もれた希望 第四話
    断罪の荒野、継がれる影
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