死を識る者、日常に佇む   作:ツカッチ

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開拓者のみなさん、先生のみなさん、こんにちは。
今回はネルと黄泉先生が手合わせをするようです。




あたしにとっての強者

 

あたしは強いヤツが好きだ。

 

なぜかって理由を聞かれても、うまく答えられない。憧れとか、尊敬とか、そういう綺麗な言葉じゃ足りねぇ。

例えば……そいつがそこに立っているだけで、「まだ上に行ける」って思わせてくれる存在。あたしの性格かなんだか知らねぇけど、壁をみたら乗り越えずにはいられねぇんだ。

 

C&Cにはセミナーからいろんな依頼が届く。その大半は怪しい取引をしている組織の壊滅みたいな、世界の裏側に関する依頼。

依頼主であるリオたちセミナーの連中は喜び、讃えてくれるが、現場に向かうあたしはこれと言った感情が湧かねぇ。

 

理由は奴らが弱すぎるからだ。あたしの動きについて来られないような雑魚が多すぎるんだ。

取引を邪魔されたくないってんならもっと強くあれよ。秒でやられてんじゃねぇ。

 

このモヤモヤを解消できるのは、黄泉センかアスナ、トキだけだ。黄泉センは誰もが認める最強だし、アスナは未来予知のような直感力がある。そしてトキはノーマルでもやり手だし、武装も持っている。

アカネとカリンを言わなかったのは、あいつらはサシで真っ向からやるような役じゃねぇからだ。

 

ゲヘナの風紀委員長とかトリニティの正実委員長とかと手合わせしたい気持ちもあるが……お互いそんな暇もなさそうだしな。

 

……ああ、クソッ。そんなこと考えたら体がウズウズしてきた。確か、アスナとトキは授業があるって言ってたし……いつも暇そうなチビ(アリス)でもゲーセンに誘ってみるか。

 

ミレニアムサイエンススクールを囲む塀に寄りかかり、スカートのポケットからスマホを取り出す。

今は昼休みの時間だ。もしチビがこのあと授業があるってんなら――

 

「あ……。」

 

顔を上げた瞬間、あたしは思わず固まってしまった。

 

向こうの歩道に見覚えのある顔が見えた。それは、律儀に赤信号で立ち止まっている黄泉セン。

目に映るその姿が、やけに現実感を伴っていた。

 

キヴォトスの頂点に立つ存在。あたしがどれだけ全力で飛び掛っても絶対に倒れない、高すぎる壁。あたしが強くありたい理由みたいなヤツ。

そんなヤツが、この日常の中に溶け込んでいる。

 

胸の奥がじわりと熱くなる。よほど戦いたいのか、さらに体がウズいてきやがった。

あまりにも現れるタイミングが良すぎて、もはやあたしが引き寄せてしまったとさえ思えてくる。

 

でも……だからって迎えに行くか?

ねぇな、それは。

 

あくまでもあちらが先に気づいたテイでいこう。

そうしてあたしは塀に寄りかかったまま、何でもねぇ顔でスマホの画面を眺める。画面に映る情報がまるで頭に入ってこねぇ。

だけど、何が表示されてるかなんてどうでもよかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ネル。」

 

来た。

予想通り、あたしに気づいた黄泉センは真っすぐに来てくれた。黄泉センはまさか私に会えるとは思っていなかったのか、声色からして少し驚いていた。

 

「お、黄泉セン。こんなところで何してんだ?」

 

ミレニアムサイエンススクールの正門すぐ横だけど、それっぽいことを言って偶然を装った。実際、会えたのは偶然だし。

 

「いつも通りパトロールだ。」

 

「へぇ、お疲れさまだな。」

 

「ああ。……ところで、ネルは授業じゃないのか?」

 

「今日の授業は午前中だけなんだよ。だから、まぁ……暇してた。」

 

「そうか。」

 

挨拶もほどほどに、あたしは早速黄泉センに頼み込む。

 

「せっかく会えたんだ、久しぶりに手合わせしてくれよ。この後のパトロール手伝ってやるからさ。」

 

「いや、今まさにパトロール中なんだが……。」

 

「へぇ。他の生徒の頼みは聞くのに、あたしの頼みは聞いてくれねぇのか。」

 

明らかに自分らしくない言い方だった。

これじゃあまるで――あたしが他の生徒に嫉妬してるみたいじゃねぇか。

 

あたしに嫉妬心なんて一切無いと断言する。あたしがそう言った理由は、手合わせでこのモヤモヤを晴らしたいからだ。

 

「……意外だな。ネルも嫉妬するのか。」

 

「はっ、ハァッ!? んなもん1ミリもしてねぇよ!」

 

この野郎、ピンポイントで当ててくんなよ。

まるで心を読まれたみたいで驚きと寒気がきた。

 

「黄泉センの腕が鈍ってねぇかあたしが確かめてやるって言ってんだよ!」

 

「……随分、食い下がるな。」

 

「ッ……!」

 

図星を突かれたみたいで言い返せなくなったあたしは、黄泉センの手首を勢いよく掴み、無理やり引っ張った。

 

「もう逃さねぇ!問答無用で付き合ってもらうからな!」

 

「ネル、俺はまだパトロールが。」

 

「うるせぇ!黙ってついてこい!」

 

掴まれた腕を勢いよく振り回されようが、その場で踏み止まられようが、ぜってぇ離してやるもんか。

そんな決意を固めたあたしは、黄泉センを訓練場へと連行した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あたしは強いヤツが嫌いだ。

 

正確に言えば、強さそのものじゃねぇ。それまで積み上げてきた経験や勘、駆け引き――そういう "勝つための引き出し" が一切通じない相手が嫌いだ。

 

どんな相手でも、撃ち合いの中で何かしらの答えは見えてくる。

動きの癖、間合い、呼吸の乱れ。そのほんの小さな隙を突いて、ねじ伏せる。それがあたしのやり方だった。

 

武装したトキとやり合った時でさえそうだ。

初めて戦った時は化け物みてぇな火力と装甲、完璧な未来予知で歯が立たなかったけど、何度か戦ううちに仕組みを理解し、ある程度互角に持っていくことができるようになった。

早い話、あいつはちゃんと「戦闘」って枠の中に収まっていた。

 

 

――でも、黄泉センは違う。

 

 

考えた作戦が、組み立てた読みが、触れる前から霧散していく。まるで最初から "勝負になっていない" みたいに。

これまでに何十何百と手合わせしてきたけど、未だに癖も呼吸も読み取れない。ロボットなんじゃないかと思えるほどに、全く変化しなかった。

 

それでも。

 

「喰らいやがれッ!!」

 

両手に構えられた二丁のサブマシンガンが火を噴いた。跳ねる銃口、途切れない連射。弾幕は一直線ではなく逃げ道を塞ぐように広がった。

 

撃ちながら、あたしは一気に距離を詰める。

黄泉センに銃撃は意味をなさない。ならば、決め手は体術のみ。

 

強く踏み込み、回し蹴り。

弾丸を避けるために動く距離を予測し、鳩尾辺りへ叩き込む。

 

(入った!!)

 

確信があった。いくら黄泉センと言えど、進行方向と反対側に重心を動かすことはできない。

 

だが――

 

「なっ……!?」

 

足先が、黄泉センの腹をすり抜けた。そこでようやく、それが残像だったことに気づく。

 

その瞬間、全身に悪寒が走った。

あたしの真後ろ。間違いなくそこに黄泉センの気配があった。

 

着地までの時間が長い。

早く。早く!早く――!!

 

足がついた瞬間、何も考えず前へ飛び込んだ。

刹那、背後で聞こえる鋭い風斬り音。

 

地面を転がり流れるように体を起こす。距離を置いて振り返るとそこには――鞘に収められた刀が、ただ真っすぐに振り下ろされていた。

 

あたしは思わず顔をしかめる。

あれはどう考えても刃による風斬り音だった。

 

クソが……。戦うたびにどんどん差が広がっているように感じる。

どんなに必死に食らいついても、あたしのことなんてどうでもいいかのように、壁がさらに迫り上がっていく。

 

攻めても、一向に触れられない。

考えた瞬間、その先を潰される。

 

呼吸が荒くなる。腕が重い。

対して黄泉センは何食わぬ顔でそこにいる。

 

足を踏み出そうとした時――ふっと膝の力が抜け、地面に倒れ込んだ。

それでも、負けを認めたくなくて。

 

「まだ、終わって……!」

 

声を絞り出した、そのとき。

視界の下、刀の鞘の先端が、静かにそこにあった。

 

「ここまでにしよう。」

 

その一言で、力が抜けた。

あたしはそのまま、仰向けに倒れる。

 

黄泉センと戦うと、武装したトキがとても可愛く見えてしまう。

ああ、やっぱり――

 

――強いヤツ(黄泉セン)は、嫌いだ……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

手合わせの後、あたしと黄泉センは近くのベンチに座って休んでいた。

黄泉センが買ってくれたお気に入りのスポドリを体へ流し込む。冷たさの後にスポドリ特有の甘さが来て、さっきまでの疲れが解けていくようだった。

 

「ところで……俺の腕は鈍っていたか?」

 

不意に、黄泉センがそんなことを尋ねてきた。

そういや「あたしが鈍ったかどうかを確かめる」みたいなこと言ったっけ。

つっても、こっちは結局ボコされただけだからな……。

 

「鈍るもなにも、いつも通り最強だったよ。」

 

「そうか。」

 

「……なぁ。あたしはどうだった?」

 

気がつけば、口に出ていた。

黄泉センの腕を確認するとか、体がウズウズするとか言っていたが――あたしの本当の狙いはこれだったのかもしれない。

 

黄泉センは一呼吸置いて、口を開いた。

 

「前に比べて、反射速度が上がっていた。」

 

「まさか、背後から振り下ろされた刀を避けられるとは思わなかった。お前は鈍るどころかさらに成長している。」

 

「……っ。……あっそ。」

 

黄泉センの評価を聞いた瞬間、心臓が跳ね上がるような感覚。喉の奥が詰まったみたいで、スポドリをもう一口飲んだ。

 

「さて、俺はそろそろパトロールを再開するとしよう。またな。」

 

「! ま、待て!」

 

そのまま立ち去ろうとした黄泉センを慌てて止める。黄泉センは何か話があるのかと尋ねたそうにこちらをみた。

 

「さっきパトロールを手伝うって話だっただろ。」

 

「いや、無理に来なくても構わない。」

 

「だから、この後は暇なんだよ。それとも、あたしについて来られると迷惑なのか?」

 

強引だったかもしれないけど、初めからパトロールに付き合う約束だったからな。

それに、黄泉センと話したいことがいくつかあるし。

 

「今日のネルは、本当に食い下がらないな。」

 

黄泉センは笑うように、そして、どこか困惑しているかのように言った。

そう言われてようやく気づく。確かにここまでくると、しつこいと感じてしまうのも無理ない。ましてや普段は距離を置いているあたしが言うんだ。変に思われても仕方がない。だけど……

 

「……そんなに嫌かよ。」

 

少し、モヤッとした。

これは全力を出せないせいで生まれたモヤモヤじゃねぇ。黄泉センに一歩引かれたかのような感覚が嫌だったんだ。

言ってしまえば……寂しいって感情か。

 

やっぱり黄泉センは嫌いだ。コイツといると普段のあたしらしい言動、行動ができなくなる。

クソッ……通用しなくなるのは作戦だけじゃねぇのかよ。

 

「……ネル。」

 

黄泉センがあたしの名前を呼んだ。

その声はいつもの冷静なものじゃなくて、確かな暖かさがあった。

 

「早くしないと、ここに1人置いていくぞ?」

 

「っ……!」

 

その瞬間、胸に刺さっていた棘が外れたかのような、重い何かが取り払われた感覚があった。

 

ああ、最悪だ。今のあたしは喜んでいるんだ。

どんなに撃ち込んでも通じなかった相手が、言葉ひとつで撃ち抜くなんて反則だろ。まるで黄泉センの手のひらの上にいるみたいで……。こんなの、あたしじゃない。

 

「ついて行って良いなら初めから言えよ!」

 

それでも、やっぱり嬉しくて。キレているつもりで言ったその言葉さえも、どこか浮ついていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

パトロールを終え、ミレニアムサイエンススクールに戻ってきたあたしと黄泉セン。大きな事件もなく、ただ2人で散歩したみたいな感じだった。

 

「また手合わせしてくれよな。」

 

「それは構わないが……手合わせしたいなら前もって連絡してくれ。」

 

「わ、悪かったよ……。」

 

偶然出会ったとは言え、強引に連れ込んだのはさすがに良くなかった。次からはちゃんと連絡することを伝えると、黄泉センは「頼んだぞ」と小さく息を吐いた。

 

「黄泉センのおかげで暇な午後が楽しいものになったぜ。ありがとうな。」

 

「そうか。こちらこそ、パトロールを手伝ってくれたこと、感謝する。」

 

黄泉センはそう言うと、ペコリと頭を下げた。

パトロールを手伝ったのは手合わせをしてくれたお返しだったから、頭を下げる必要なんてねぇんだけどな。まぁ、そこは黄泉センらしいというか。

 

「では、失礼する。」

 

そう言って黄泉センは背を向けた。

あたしはその広い背中を黙って見送る。……それだけで、よかったはずだった。

 

背中を向けて歩いていく黄泉センを見ていると、胸の奥にさっきまでなかったはずの感情が、じわじわと広がっていく。

何度も手合わせして、何度も叩き潰されて。

それでも、追いかけるのをやめられなかった理由。

 

そんな未来は訪れないと分かっていても、伝えるべきだと思った。

 

「黄泉セン!」

 

そう思った頃には、名前を呼んでいた。

黄泉センが振り返る。あたしは一呼吸置いて、その思いを伝えた。

 

 

「頼むから……誰にも負けんなよ。」

 

 

その言葉に黄泉センは少しだけ首を傾げる。

全身が熱い。嫉妬心の話の時みたいに、あたしの感情くらい読み取ってくれよ。

だけど、一度言い出したなら全部言うしかない。あたしは黄泉センの顔を見て、伝えた。

 

「キヴォトス最強はこれまでもこれからも……黄泉センでいてほしいんだよ……。」

 

あたしは……黄泉セン(強いヤツ)が好きだ。キヴォトス最強が黄泉センだから、少しでも追いつきたいと思えた。

黄泉セン以外の誰かが最強になるのは……絶対にごめんだ。黄泉センが最強だから意味があるんだ。

 

「ネル……。」

 

ようやく話の意味を理解したのか、黄泉センは小さく笑ってあたしの方へ歩み寄った。

 

「俺は生徒からの頼みは断れない性分だ。お前がそれを望むなら、これからも最強で居続けよう。」

 

そう言って、あたしの頭に手を乗せる。

黄泉センの声はすげぇ柔らかく感じたけど、確かな覚悟がそこにあった。

 

頭に乗せられた手が動き、髪がさらりと撫でられる。

……ん?頭に……手? 手!?

 

「お、おいコラァ! どさくさに紛れて頭を撫でるんじゃねぇ!」

 

「それはすまなかった。」

 

クソが……!こっちはさっきから体が熱くて仕方ねぇってのに、涼しい顔で返事しやがって……!

いつかぜってぇボコしてやる……!

 

そうして今度こそ黄泉センを見送ろうとした、その時――

 

 

「あーっ!」

 

 

突如響き渡る大声。それを聞いた瞬間、あたしは嫌な予感がしてならなかった。

ドタドタと現れたのは――

 

「リーダー! それに黄泉先生も!」

 

C&Cのメンバー、アスナだった。その後ろにはカリンとアカネの姿もある。

考えうる限り、最悪のメンツに出会ってしまった……。

 

「リーダー、もしかして黄泉先生とデートしてたの?」

 

「し、してねぇよ! 久しぶりに手合わせしていただけだ!」

 

「そうなのか? 黄泉先生に頭を撫でられている部長が見えた気がしたんだけど。」

 

「カリン、見てッ……!!」

 

瞬間、やってしまったと後悔した。

その反応は答えを示しているようなもんじゃねぇか。

 

「どうやら頭を撫でてもらっていたみたいですね♪」

 

「は、はめやがったなカリン!!」

 

「何のことだろうか……?」

 

くすくすと笑うアカネとすっとぼけるカリン。そして……

 

「撫でてほしいなら私が幾らでも撫でてあげるのに!」

 

「やめろ近寄んな!」

 

意味もなく飛びついてくるアスナ。

ああ鬱陶しい。さっさと離れろ鬱陶しい。

 

「ダメですよアスナ。リーダーは黄泉先生の手しか受け付けないようですから。」

 

「えー、ざんねん。」

 

「今の言葉をどう解釈したらそうなるんだ!?」

 

アカネの無駄に広い解釈に頭を抱える。

このカオスすぎる状況を前に、あたしは黄泉センへと顔を向けた。

 

「おい黄泉セン、どうしてくれんだ! 責任取りやがれ!」

 

「え、それってまさかけっこ――」

 

「マジで黙ってろアスナァァァ!!!!」

 

そう全力で叫んだけど、胸の奥に残ったあの温もりだけは、どうしても消えてくれなかった。

 

 




いやぁ、ネルって便利ですよね。こちらが変なことを言えば確定でギャグ落ちになるんですから(もちろん、ある程度の信頼度が必要ではありますが)。
C&Cで一番好きなキャラです。

次回はアスナ編。お楽しみに。
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