今回はアスナと黄泉先生が絶叫マシンに乗りまくるお話です。
「あ、あった!」
ミレニアムのショッピングモールに遊びに来ていた私は、買い物でもらった福引券を握りしめてイベント会場に駆け込んだ。
そこに置いてあったのは、私と同じくらいの高さがある大きな箱。透明な壁の向こう側で、たくさんの紙がぐるぐる舞っている。
私は景品が書かれたパネルへ視線を向けた。
「えっと……3等がスイーツ詰め合わせ、2等が一万円分の商品券。で、1等が……」
ここまではふんふんと頷きながら読んでいたけど、次の文字を見た瞬間――
「えっ!?『スターフォール・パーク』のペアチケット!?」
思わず声が裏返った。
スターフォール・パーク。最近できたばかりの超人気遊園地で、絶叫マシンがすっごいって噂の場所だ。前から気になってはいたけど、なかなか行く機会がなかった。
欲しい、何としても欲しい。私は胸の前でぎゅっと福引券を握りしめた。
これはもう、運命。神様が私に引けって言ってる。
私は早速スタッフさんに福引券を渡して箱の前に立つ。手を入れる前に深呼吸。
絶対引ける。なんたって私には誰にも負けない直感力があるんだから。
私はゆっくりと手を伸ばし、かき混ぜるかのように手を動かす。吹き上がる風に乗った紙たちがバシバシと腕にぶつかる。
――その時だった。
(今だ!)
全身に電流が流れたかのような感覚。頭で考えるのと同時に体が動いた。手のひらにぶつかった1枚の紙を瞬時に握り、腕を引っこ抜く。
手を開くとそこには間違いなく1枚の紙が。それをスタッフさんに渡し、確認してもらう。すると――
「おめでとうございます! 1等です!」
鐘を振り回すかのようにガランガランと音を鳴らすスタッフさん。
さすがアスナちゃん、本当に引いちゃった!
「1等は『スターフォール・パーク』のペアチケットです!本当に、おめでとうございまーす!」
そう言ってスタッフさんはまた鐘を鳴らした。
その帰り道の足取りは本当に軽かった。トリニティの生徒みたいに、羽根が生えたんじゃないかって思えるくらい。
ルンルン気分で寮の自分の部屋に戻った私はベッドに飛び込み、スマホを開く。モモトークのチャット欄の上から4番目にその名前があった。
ペアチケットって知ってから、一緒に行く人はもう決めてた。何度考えても、思い浮かぶのはこの人しかいなかった。
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ミレニアムサイエンススクールすぐそばにある駅。休日ということもあって、駅前はけっこう賑わっていた。
私は丸い柱に寄りかかって待ち合わせ中。スマホカメラを鏡の代わりにして、最終確認をする。
「……変じゃないよね。」
今日はちょっとだけ本気。 いつもの制服でもメイド服でもなくて、お出かけ用の私。
上は薄い青のショート丈パーカーに、白のインナー。パーカーは少しだけ丈が短めで、動くとおヘソがちらっと見えるやつ。別に狙ったわけじゃない。最近はこういうのが流行りなんだもん。
そして、下は動きやすいようにショートパンツにしたけど、子供っぽくならないようにシルエットはちょっと大人っぽいやつを選んだ。足元は厚底スニーカー。いっぱい歩くだろうし。
髪も少しだけ巻いてきたし、リップもいつもよりちゃんと塗った。 ……でもこれは気合い入れたとかじゃなくて、ただの気分。そう、気分。
それにしても、なんかドキドキしてる。やっぱり私服を見られるのは初めてだからかな?
いったいどんな反応をしてくれるんだろう。びっくりして顔を赤くしちゃったりして!
なんてことを考えていると――
「待たせたな、アスナ。」
「あっ、やっと来――」
顔を上げた瞬間、心臓がドクンって大きく跳ねた。
そこに立っていたのは、黄泉先生。でも、いつもの白コート姿じゃなかった。
黒のシャツに、すっきりしたシルエットのジャケット。ボトムスも落ち着いた色で、全体的にシンプルなのにやたらと目を引く。 無駄な装飾なんて何もないのに、なんであんなにサマになってるんだろう。
黄泉先生の黒って何気に初めて見たけど、あんなに似合ってるんだ……。
いや、そんなことよりも……!
「なんで、眼鏡なんかしてるの……!?」
一番気になったのが、それだった。
眼鏡が先生にとんでもないバフ効果を与えている。眼鏡無しでも十分カッコいいのに……!
「1ヶ月前……アルの眼鏡を借りて誰が一番似合うかをシャーレでやったところ、かなり高評価で、"伊達メガネ" とやらを勧められた。」
なんてことやってるのさアルちゃんたちは!
おかげで私の心臓が破裂しそうなんだけど!?
「シャーレ以外の生徒に見せるのはお前が初めてだったのだが……アスナから見て変だったか?」
「そ、そんなことない!むしろ、ヤバいんだけど……!」
私はもう一度先生の顔をみようと目を動かすけど、その顔が目に入った瞬間逸らしてしまう。
これは本当にヤバいやつ。このままじゃ戻れなくなっちゃう。
「その……できたら眼鏡は外しておいてほしい……。似合ってないとかじゃなくて……。」
「分かった。」
そう言って黄泉先生は眼鏡を外しシャツの胸ポケットに挿し込んだ。
ああ良かった、いつもの黄泉先生の顔に戻った。やっぱりこっちの方が安心するね。
「じゃあ、アスナちゃんはどうかな?」
次いで私は黄泉先生にそう尋ねた。
なんて答えてくれるのかな。せっかくなら「かわいい」って言ってほしい。
黄泉先生は私の服装を改めてよく見て、言った。
「とても魅力的だ。色も雰囲気もメイド服とは全く異なるが……特別目を引くな。」
「それってつまり?」
「……可愛いということだ。」
「えへへっ、ありがとう!」
可愛いなら最初からそう言ってくれればいいのに。それとも、先生なりに恥ずかしがってくれたのかな?
「それじゃあ行こう! エスコートよろしく!」
「それは構わないが、切符は自分で買え。」
そう言って私と黄泉先生は駅に入って行った。
でも、これはまだまだ序の口! 先生の知らない“アスナちゃん”をいっぱい見せてあげるんだから!
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電車を降りて改札を抜けた瞬間――視界が一気に開けた。
「うわぁ……っ」
思わず足が止まる。
目の前に広がっていたのは、まるで別世界みたいな景色だった。
青空を突き刺すみたいに伸びる巨大なレール。空中を滑るコースターの影。遠くから響いてくる歓声と悲鳴と、楽しそうな音楽。
スターフォール・パーク。
写真では何度も見てたけど、やっぱり本物は全然違う。
空気までワクワクしてるみたいで、胸の奥がそわそわして落ち着かない。
「先生見て見て! あのコースターめっちゃ高くない!? ていうかレール捻じれてない!? 絶対あれ乗ろうよ!!」
気づけば私は先生の腕を引っ張っていた。
自分でも笑っちゃうくらい、テンションが上がってるのが分かる。
「落ち着けアスナ、まだ入口も潜っていない。」
「そんなこと言われても無理だよ! ほら聞こえる!? あの悲鳴! 絶対楽しいやつじゃん!」
ゲートの向こうでは、キラキラした建物と色とりどりの旗が風に揺れている。
甘いポップコーンの匂いまで流れてきて、もう完全に心を掴まれてた。
胸が高鳴る。足が勝手に前へ出る。
今日1日、ここで遊べる。
しかも隣には先生がいる。
なんて贅沢な日なんだろう。嬉しくて、幸せで、気づいたら先生に頭を下げていた。
「今日は来てくれて、本当にありがとう!」
まだ入口にすら着いていない。だけど、今伝えないと破裂しそうなくらい、思いが膨らんでいた。
「……誘ったのはアスナだろう。」
黄泉先生はそう言って私の手をとった。皮膚の分厚い手が、私の手をすっぽりと覆う。そして――
「今日は俺がアスナをエスコートする約束だ。お前は大人しく、俺の隣にいればいい。」
「は……はい……。」
私は、そんな気の抜けた返事しかできなかった。
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「やっぱりジェットコースターは最高だね!」
一発目はやはり王道なジェットコースターということで、山の中を走るトロッコに見立てたジェットコースターに乗った。久しぶりに絶叫マシンに乗ったからか、乗り終えてもテンションは収まらなかった。
「黄泉先生はどうだった?」
「まさに、普通のジェットコースターって感じだったな。」
どうやら黄泉先生はまだまだ物足りないみたい。でも、この後に控えているコースターたちなら、必ず黄泉先生を楽しませてくれるはず!
「ここからだよ先生! ほら、次はあれ乗ろっ!」
そう言って私は先生の腕を引っ張る。
なんかもうエスコートの話とかどっか行っちゃうくらいに、私は興奮していた。
ガタガタガタ……
コースターがゆっくりと上へ登っていく。さっきの山の中を走るトロッコとは違って、視界が開けたジェットコースター。
それにしても、何ていい天気なんだろう。青空が視界いっぱいに広がっている。
ふと隣を見ると、背もたれに体重を預ける黄泉先生がいた。それに気づいた黄泉先生がこちらに顔を向け、言った。
「先ほどとは雰囲気が異なるが、似たようなものだな。」
おっと、これはもしや、気づいていない感じだな?ふふっ、面白そうだからこのまま黙っておこっと!
「面白いのはここからだよ!」
私がそう言うと、黄泉先生は『期待しておく』と言いたげに前を向いた。
そして、てっぺんに到着すると、コースターは停止してしまった。
「ん……?」
黄泉先生がキョロキョロしていると、コースターはゆっくりと下がっていく。それに驚いたのか、黄泉先生は私を見た。
表情を一切変えず、ニコニコしている私を見て、黄泉先生は一言。
「そう来たか――」
諦めるかのように呟いた次の瞬間、背中がふわりと浮く。私たちは重力に引っ張られるように、後ろ向きに落下していった。
「ね?ひと味違ったでしょ?」
「ああ。後退するのは完全に盲点だった。」
そう話す黄泉先生の声はどこか抑揚があって、本当に楽しめたのが伝わってきた。
それにしても、後ろに下がった瞬間の黄泉先生の顔、面白かったなぁ。その後の全てを諦めた顔も良かった。あれは二度と見れないかもね。
そうしてしばらく歩くと、ついに見えてきた。
とんでもないものを見てしまったと思った。
レールが、空に向かってねじれ上がっている。
縦に、横に、ありえない方向へ曲がりながら、まるで空中に落書きでもしたみたいな軌道を描いている。
その全体像が見えた瞬間、私は思わず目を見開いた。
「……うそでしょ。」
さっきまで乗っていたやつが可愛く見えるレベルの化け物コースター。レールの頂点はさっきよりも高い。
そしてちょうどその時、コースターが頂上から落ちていった。悲鳴がワンテンポ遅れて空から降ってくる。
「………。」
「アスナ?」
「先生、あれ乗ろう。」
「今の反応でか?」
「今の反応だからこそだよ!」
正直怖い。めちゃくちゃ怖い。でも、それ以上にワクワクしてる自分がいる。
私は先生の腕を引っ張った。
怖いもの見たさって言うように、私の好奇心は恐怖を軽く超えていた。
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ようやく私たちの番になり、座席に座る。やがて安全バーが降ろされ、スタッフさんたちによる最終確認が始まった。
既に心臓がバクバク鳴ってる。今まで生きてきた中で一番大きな音。
あのスピードでの横回転……耐えられるかな。
うう、急に怖くなってきた。やっぱり変にカッコつけないほうが――
「アスナ。」
その時、私の右手が優しく包み込まれる。
黄泉先生が微笑んで私を見ていた。
「大丈夫だ。」
そう言って黄泉先生は少しだけ手に力を込めた。先生の温もりが、更に強く感じられる。
「……うんっ。」
私が頷くと同時に発射ベルがなる。
大丈夫、怖くない。先生とならどんな場所でも――
『座席シート上がりまーす!』
「え?」
突然シートがゆっくりと持ち上がり、視界が下へ傾いていく。
「え、え、え、ちょっと待って!? 思ってたよりヤバい!」
さっきまでの“先生とならどこでも”みたいな甘い気持ちは一瞬で吹き飛んだ。
体が前に倒れ、完全にうつ伏せの体勢になる。
「待って、どうしよう先生!」
私は慌てて黄泉先生に助けを求める。何とかしてこの怖い気持ちを消さないと――
「諦めろ。」
「そんなぁぁぁ!」
遂に動き出してしまい、どうしようもなくなった。
座席シートが上がるのは事前情報で知ってたけど、足がつかないことがこんなに怖いなんて知らなかった。
黄泉先生から手を繋いでくれたけど、今度は私がそれを離さまいと力を込めている。そうでもしないと落ち着けなかった。
いや、実際落ち着けてないけど。
あ、ヤバい。高い。落ちる。
そう感じた時、私は思わず目を瞑った。
そして――
……あれっ?
私……空、飛んでる?
身体がふわりと浮いたような、不思議な感覚。
落ちるんじゃなくて、風に乗ってるみたいで――
隣を見れば黄泉先生の姿がある。
いつも通り落ち着いた顔。手の温もりもちゃんとある。
なんだか、思ってたよりも怖くな――
その瞬間だった。
視界が突然、ぐるりと反転する。
青空が、真下に広がった。
地面がどこにもない。
支えてくれるものもない。
自分がどこに向かっているのかすら分からない。
「……え?」
理解が追いつくより先に、本能が叫んだ。
これ、落ちてるやつだ――!!
「せんせええええええええ!!!!!」
直角になったかと思えば、今度は頭から地面に向かっていく!
目の前には真っ暗なトンネルがぽっかりと口を開けていて、吸い込まれるみたいに突っ込んでいった。
視界が闇に包まれる。
風の音だけが耳元で唸って、どっちが上でどっちが下かも分からない。
そして――
光。
トンネルを抜けた瞬間、視界いっぱいに地面が広がった。
(お、終わった……?)
そう考えた瞬間、全身から一気に力が抜けた。
『座席シート下がりまーす!お疲れさまでしたー!』
アナウンスと共に座席がゆっくりと降ろされ、身体が起き上がる。
足が地面に着いたその瞬間、心の底から実感した。
ああ、地面だ。
ちゃんと地面だ……!
「し、死ぬかと思った……。」
声が震えてるのが自分でも分かった。
もう二度と空なんて飛びたくない。絶対に飛ばない。今日で卒業。そう強く誓った。
「アスナ、立てるか?」
「大丈夫……。」
そうして、私は何とか自分の足でアトラクションを後にしたのだった。
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ベンチに腰を下ろした瞬間、全身から力が抜けた。
「む、むり……ちょっと休憩……。」
足がまだふわふわしてる。地面の上にいるはずなのに、体が空中に置き去りにされたままみたいな感覚が残っていた。
「黄泉先生は……どうだった?」
私がそう尋ねて顔を上げると――そこで固まった。
「……え?」
黄泉先生の表情が、いつもと違う。
目がほんの少し見開かれていて、口元もわずかに緩んでいる。
何より雰囲気が違った。空気が軽い。分かりやすく言うと――キラキラしてた。
「さすがの俺も空は飛べないからな。あれは面白い体験だった。」
声もどこか弾んでいる。
「こんなに気持ちが高揚したのは久しぶりだ。」
「……えぇ……?」
私はまだ半分魂が抜けたまま、先生の横顔を見つめる。
「普段からアクロバティックな動きをしてるだけあるね……。」
「そうだな。だが、あそこまで長時間浮遊感が続くのは初めてだ。」
冷静に分析してるけど、目が輝いてる。完全に“楽しかった人”の顔してる。
「……楽しかったんだ。」
「ああ。」
即答だった。
そのあまりの迷いのなさに、私は思わず笑ってしまう。
「そっかぁ……よかった。喜んでくれたなら、連れてきた甲斐あったかも……。」
まだ心臓はバクバクしてるし、足も少し震えてる。
でも、先生がこんな顔をするなら――
ちょっとくらい怖い思いしたのも、悪くなかったかなって思えた。
それから休憩を終えた私たちは園内を走り回った。
映像に合わせて揺れるアトラクションや、上下に振り回されるエレベーターみたいなアトラクションに乗ったり、レストランで美味しいお昼ご飯を食べたり、とにかく興味があるものに乗りまくった。
そして気づけば、空の色が少しだけオレンジに染まり始めていた。
「……あれ?」
さっきまであんなに明るかったのに。 一日中走り回ってたせいで、時間の感覚がどこかへ吹き飛んでいたらしい。
「もうこんな時間か。」
黄泉先生の声に、胸がきゅっとなる。
楽しい時間って、どうしてこんなに早いんだろう。
「そろそろ帰らないとだね。」
「そうだな。閉園までいると、帰りの電車が混む。」
現実的な理由なのに、ちょっとだけ寂しく聞こえるのがずるい。
でも――まだ終わりじゃない。
「その前に、お土産見に行こうよ!最後のミッション!」
「ミッションなのか……。」
先生は呆れたように言いながらも、ちゃんと隣を歩いてくれる。
ショップの中は甘い匂いとカラフルなグッズでいっぱいで、私はあれこれ手に取っては悩みまくった。 キーホルダー、お菓子、限定ぬいぐるみ……。
気づけば袋はパンパンで、結構いい値段がした。
「買い過ぎじゃないか?」
「思い出は多い方がいいの!」
胸を張って言い切ると、先生は小さく笑った。
そして、出口の近くで立ち止まる。
「ねえ先生、最後に写真撮ろ!」
「写真か。」
「今日の証拠!ほら、並んで並んで!」
スマホを構えてぐいっと距離を詰める。
最初の一枚は、いつもの先生の顔。 少し硬いけど、ちゃんと隣にいてくれる安心感のある表情。
「じゃあ次は――」
私は先生の胸ポケットから、伊達メガネを取り出した。
「せっかくだし、これバージョンも残しとこ?」
「……必要か?」
「必要!」
半ば強引にかけ直してもらって撮った二枚目は―― さっきよりちょっとだけ距離が近い写真になった。
「よし、満足!」
スマホを胸にぎゅっと抱きしめる。
楽しかった時間が、ちゃんと形になった気がした。
「では、駅に向かうか。」
「うん!」
並んで歩き出す。 朝と同じはずなのに、少しだけ距離が近い気がする帰り道。
今日はここまで。 でも――また一緒に来たいなって思ってるのは、私だけじゃないといいな。
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電車の揺れが心地いい。
ガタン、ゴトンと一定のリズムが、まるで子守歌みたいに耳に残る。
今日はいっぱい遊んだ。走って、叫んで、笑って。
体の疲れよりも、胸の奥に残る幸せの方がずっと大きい。
「……ふぁ。」
小さなあくびが漏れる。視界がぼんやりしてきて、まぶたが重い。
隣を見ると、黄泉先生が静かに窓の外を眺めていた。
その姿を見ていると、安心がじんわり広がっていく。
少しだけ、寄りかかってもいいかな。
そう思った時にはもう、体が自然に傾いていた。
先生の肩に額が触れる。広くて、あったかい。
「………。」
何か言われるかなって少し思ったけど、先生は何も言わなかった。
ただ、静かにそのままでいてくれた。
……だめだ、もう限界。
揺れに身を任せるように、意識がゆっくり沈んでいった。
「……あれ?」
目を覚ますと、視界に広がっていたのは見慣れた天井だった。
ミレニアムの学生寮、自分の部屋。
一瞬、何が起きたのか分からなくて、ぼんやりと瞬きを繰り返す。
「えっ、私……いつの間に……?」
慌てて体を起こし、枕元のスマホを掴む。
画面に表示された時刻は20時を少し回ったところだった。
外はすっかり暗い。
部屋の中を見回すと、ベッドの横に見覚えのある袋が置いてあった。
スターフォール・パークのお土産袋。その隣に、白い紙が一枚。
ゆっくりと手に取る。
そこに書かれていたのは、見慣れた、整った文字。
『楽しかった。また2人で行こう。』
それが誰のものかなんて、考えるまでもなかった。
胸の奥がじんわり熱くなる。
嬉しいのか、照れくさいのか、自分でも分からない気持ちがこみ上げてきて、思わずその場でベッドに倒れ込んだ。
「もう……。ずるいよ、先生……。」
顔がにやけるのを止められないまま、スマホを操作する。
今日撮った写真のフォルダを開く。
一番上に表示されたのは、並んで写るツーショット。
楽しそうに笑ってる私と、眼鏡をかけて少しだけ穏やかな顔をした先生。
指先で画面をそっとなぞってから、スマホを抱きしめる。
「また行こうね。2人で。」
小さく呟いた声は、誰にも聞かれず部屋の中に溶けていった。
完
元ネタはビッグサンダー・マウンテン、ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド ~バックドロップ~、フライング・ダイナソーです。
フライング・ダイナソー、1回も乗ったことないから乗ってみたい。
眼鏡の黄泉先生の姿はみなさんの想像にお任せします。
次回はアカネ編。お楽しみに。